電脳塵芥

四方山雑記

デマなどの検証コストとリターン

 おそらくこのブログの半数以上の記事はネットの胡乱情報の検証記事だったりするわけですが、それについての検証コストの話という名の愚痴でも。

 よく言われることですがデマなどの情報は低コストで検証は高コストです。当方のブログ記事でも当然ながらそれを免れ得ません。別に義務感もなく半ば趣味なのである意味で言えば趣味に費やす時間が増えたという超絶ポジティブ思考も可能と言えば可能で実際そういう探求を「楽しい」と思う自分もいたりしますが、その反面でゲームしたいし、本読みたいし、他に時間使いたいし……となるのも人の常。

 

2020年での主な検証記事

 まず今年現時点でうちのブログでの検証系記事は大体これくらいあります。

厚労省調査によるホームレス数の推移について
 ※発端:ツイッター速報
10代の身長が低下しているという話について
 ※発端:日経COMEMO記事
沖縄の豚熱(CSF、豚コレラ)で玉木デニー知事が予防接種を渋ったという話について
 ※発端:ツイッター
浴室保有率についての話
 ※発端:ツイッター
国民皆保険についての話
 ※発端:ツイッター
安倍首相の私邸での自由時間は多分たくさんあります
 ※発端:ツイッター
マスクの日本の生産量とか中国などからの輸入量について
 ※発端:政治知心
4月のマスク輸入量、むっちゃ増えたよ
 ※発端:菅官房長官発言
スイスでは過去の遺物である「スイス民間防衛」についての話
 ※発端:黒瀬深
日本以外にも無人販売所ってあるよ
 ※発端:ツイッター
生活保護批判と自民党について
 ※発端:安倍晋三首相(当時)の発言
電車内での痴漢の話について
 ※発端:ツイッター
エロい恰好をしてるから痴漢に会うというわけではない
 ※発端:ツイッター
2006年の潘基文の国連事務総長出馬で日本は反対したか
 ※発端:ツイッター
宇都宮陣営と小池陣営がつながっているという拡散画像について
 ※発端:ツイッター
2018年の子どもの貧困対策が1.5億円だったというツイートについて
 ※発端:ツイッター
元自衛官による熊本地震後に阿蘇市であったという「在日」に関するツイートについて
 ※発端:ツイッター
レバノン爆発に関する硝酸アンモニウムで流布される韓国関連の話について
 ※発端:シェアニュースジャパン
【デマ】「土井たか子、福島瑞穂が韓人、小沢一郎、菅直人は済州島出身」という話について
 ※発端:ツイッター
「シュン@ひろしまタイムライン」について出典元やその他の書籍との比較
 ※発端:NHK
名護市へ選挙の為に引っ越しした人がいるという話について
 ※発端:ツイッター
黒瀬深が民主党政権下で国葬ってデマ吐いてる
 ※発端:黒瀬深
【デマ】「北海道へ中国人500万人移住計画」について
 ※発端:ツイッター
レジ袋有料化の簡単な歴史的経緯について
 ※発端:アノニマスポストやツイッター速報&ネタ元は東京新聞記事
貯蓄ゼロ世帯、ワーキングプア、個人消費、エンゲル係数などの推移について
 ※発端:ツイッター
ツイッターで出回っている「トランプ氏の実績」について
 ※発端:ツイッター
終戦直後、共産主義者たちが御所に乱入して「自分達とそれほど変わらない」天皇の食材を見たという話について
 ※発端:ツイッター

 個人的興味からの検証記事みたいなのはまだあるんですが、何かしらの媒体での波紋をもとに検証したのはこんな感じ。きっかけの大半はツイッター。あと念のために書いときますが、すべてがデマ検証記事というわけでもありません。

  

大まかな検証コスト

・ネットの検証コスト

  まず大概の検証はネットで完結します。そうすると安楽椅子探偵的なものでPCの電気代以外はかからないものの、それでも時間というコストは大いに喰らう。記事によっては1000字近辺で終わるのもありますが、5000字近辺、時には1万字超えとかもあって当然字数が多いほど時間はかかる*1そしてネットの情報は特に玉石混交で、石どころか塵みたいな情報もあり……。1000字程度だと1時間程度で終わるものもありますが、体感的ではあるものの平均で一つの記事で5~6時間はかかっていると思います。なお、これが外国圏の検証が必要であったり、最早ネット上に現存せずにアーカイブを用いるなどとなると更に時間を食う羽目になることはしばしばあり、記事によってはネットだけで10時間以上かかっている案件も存在してると思います。それと大抵は1日で書き切るわけではなく複数日に渡ることもザラ、というより大体は「書こうと決める → 検証のためにプレ調べ → 一旦休止、日を跨ぎながらの頭の中で構成 → 後日に記事を書く(ここで数時間)」となるので複数日が普通です。そして複数日かかるということは、日常生活下でそれらに思考を割くという換算できない時間コストも存在します。

 

・新聞、書籍などの図書館利用によるコスト

 過去についての検証記事だと新聞データベースが役に立ったり、同じくクリティカルな内容が書かれている 書籍も存在することがあるのでこれらは図書館を用いて検証しています。図書館自体は近くにあるものの図書館までの移動時間コスト、まあこれは運よく近くに図書館があるので片道10分くらいで行けはするんですが、私が住んでいる市の図書館では読売新聞のデータベースの大体平成より前が検索できないので必要な場合は隣の市図書館に行く必要があり電車賃往復300円がチャリンチャリンと減っていく。そして新聞、書籍で参考になりそうな箇所があるとコピーして1枚10円チャリンチャリン。図書館を使用する場合、少額ながらも地味に金銭コストがかかることがあります*2なお例外的な事例と言えますが、このブログで今年それなりに反響のあった「シュン@ひろしまタイムライン」についての記事で使用した本は自費出版の希少本で蔵書している図書館は少なく、そして国会図書館においても当時は貸し出し中だったので神川県に出向き、広島県に出向きで、これだけは万単位で金銭が飛びました。調べたいという衝動が抑えられなかった。とはいえ財布は寂しくなった。

 

・直接問い合わせによるコスト

 ごくまれに真偽を判断できる立場に直接聞いてみることがあり、例えば「元自衛官による熊本地震後に阿蘇市であったという「在日」に関するツイートについて」などでは市役所に問い合わせをしています。問い合わせ自体はそこまでのコストではないんですが、返信を待つという時間的コストがかかるといえばかかります。返ってくるかもわからない時もあるのでやきもき。 

 

 まとめると例外的な事例を除けば金銭コストは少ないものの、時間的コストは結構かかり、全体では複数日、記事を書く段階では半日消費するのはザラ。流す側のコストを考えた場合、まとめブログ系が一記事にどれくらい時間をかけているのか分からないものの複数日をかけることや図書館に行ってというのはありえないだろうし、いわんや単発のツイッターによる情報発信コストは微々たるものでしょうから、情報発信と検証のコスト差はかなりのものとなるのかなと。

 

リターン

  ほぼない。極々たまにPVが万を行くこともありますが、このブログは収益化を目指していないのもあって申し訳程度で貼ってるアマゾンリンクによる収益は今年2000円ちょっとです*3。コピー代は賄えても交通費あたりで泡と消えた。デマ発信のまとめブログがどれくらい稼げているのかは知りませんが、多分それらに比べてたら吹けば吹き飛ぶ金額でしょうね。あ、あといくつかのアカウントからはブロックされました。健全なツイッターライフを送れるというリターンといえるかもしれない。

 

 所謂ファクトチェック、個人でやるにはコストとリターンが割に合わない。デマ検証系記事のあるまとめブログもあるとはいえ、そちらよりもデマ拡散系のまとめブログの方が多く見受けられるし、影響力もそちらの方が大きそう。昨今においては各新聞社がファクトチェックと称した記事も多くなってきたものの当然ながら基本は社会的には意義のある問題への検証が主。ネットメディア系だとバズフィード、InFactなどのネットメディアを目にすることもありますが、それでも世にそれらのメディアも検証しない胡乱な情報は流れ続けてて、今日もどこかで流れてるでしょうし。

  何が言いたいかというと別に何もないので、おわり。

*1:うちのブログの検証記事、若干文字が多すぎな気もします。サラっと述べていなくくどいことが多くとっつきにくいなと。丁寧に書くと長くなるとはいえ、きれいな文を書きたい……。あと誤字が多すぎるのどうにかしたい。

*2:新聞データベースがある図書館が近くにあるのとても重要で、これが少し場所を移すだけで新聞データベースどころか図書館すらないという場合もあり。もしそういう場所に私が住んでたら書けない記事は複数存在するわけで。図書館って大事。

*3:現在のPVだと収益化を目指してもそれによる出費が回収できればいい程度でしょうから、そういうのしません。

終戦直後、共産主義者たちが御所に乱入して「自分達とそれほど変わらない」天皇の食材を見たという話について

 というツイートがありました。現在、このツイート主はいったん鍵をかけて、その後にツイート削除したのでそこまで拡散はされていないでしょうが、今回はこのツイートについての真偽の話でも。

ツイートのネタ元

 まずこのツイート自体のネタ元ですが、杉森久英による小説『天皇の料理番』がでしょう。その後のツイート主のやり取りを見ると認めていますし。そして該当箇所は以下の通り。

(1946年)五月十一日の日曜日、世田谷区下馬の新生活集団内広場で「米よこせ区民大会」が開かれ、集まった労働組合員、太子堂町会有志、共産党機関紙「アカハタ」の人たち、ざっと千余名は、口々に食糧の不安を叫んだ。
(中略。共産党代議士野坂参三による訴え)
「この上は、天皇に直接会って、責任を問わねばならない。われわれの行く先は宮城である。」
(中略。皇宮警察の衛士に制止されたが、日曜で職員も少なく数の力でそのまま中まで押し入り、岩瀬事務官とやり取りをし)
そのうちデモ隊の中から
天皇の台所へ連れてゆけ! 米が山ほど積まれているという話だ。それをみんなに放出しろ!」
 という声が上がった。岩瀬事務官は
「そんなものはありません。配給毎が少しあるだけです」
 といったが、一同は納得しない。
「あるかないか、見ればわかるんだ。台所へ案内しろ」
 といって聞かない。そこで岩瀬が先に立って、台所へ連れてゆくことになったが、行った先は、大膳の厨房ではなくて、菊葉会という職員共済機関の食堂であった。
(中略。職員御食堂だと気づかずにデモ隊の一同は)
「そこの棚をあけろ!」
 とか
「その袋の中は何だ?」
 とか、われがちにのぞいたり、ひきずり出したりした。ちょうどそのころは、空襲で家を焼かれた職員が多数、行く先のないままに、宮内省に泊まり込んで、配給の米や野菜をひとまとめに食堂にあずけていたから、多少は一般家庭より多かったけれど、とてもそれは、山のように積み上げてあるなどといえたものではなかった。
 一同は拍子抜けした形
で、なおも
天皇に会わせろ」
 などといっていたが、当直の事務官ひとりが相手で、ラチがあかないとみると、
「こんど、また来るから、その時はきっと会わせろ」
 といって、みんな引揚げていった。

少し長い引用となりましたが該当箇所は以上の様なものとなります。
 さて、天皇の料理番』は小説です。これ自体には秋山徳蔵という実際の天皇の料理長にまでなった人間をモデルとしたものですが、当然ノンフィクションではなくフィクションを含むもので主人公の名前が「秋沢篤蔵」と微妙に変わっていたりと事実とは異なります。新聞記事などが伝える当時の状況については後々記述しますが、ただこの時点で一つだけ書くと『天皇の料理番』の底本の一つと思われる秋山徳蔵『味』には戦中の天皇の料理や戦後すぐの状況について語られてはいるものの、この乱入騒ぎについては私が確認した限り(少々雑に確認したので見落としていたらすみません)書かれていません。つまりは杉森久英によるフィクション的な部分と捉えたほうが宜しい。ついでにいえばデモ隊の描き方は当時の荒っぽい、若しくは切実な庶民を描いているとも取れますが、主役に対する悪役的な描き方で乱入する人々への嫌悪感を感じなくもありません。

米よこせ世田谷区民大会

 1946年当時の食糧不足については説明することはないと思うのでスルーしますが、今でも象徴的に語られているのは「朕はタラフク食ってるぞ ナンジ人民 飢えて死ね」が書かれたプラカード事件があった1946年5月19日の「飯米獲得人民大会(食糧メーデー)」かと思います。その一週間前の5月12日にあったのが「米よこせ世田谷区民大会」です。

 このころは隠匿物資が相当に存在しており*1NHKの戦争証言アーカイブスに当時の隠匿物資に関するニュース映像が見られます。その隠匿物資を一部住民が配給所や行政機関に集団で押しかけて半ば脅迫的に食糧の配給を強請する動きが存在しています*2。「米よこせ世田谷区民大会」もこういった流れの中で起こった出来事であり、この食糧デモ的な動き自体は珍しいものではありません。「米よこせ世田谷区民大会」が特筆すべき点は労働者が宮城に押しかけ、中にまで入った点です。なお、この区民大会では「宮城内隠匿米の放出、幣原内閣奏薦権拒否、社会・共産党政権の樹立の三項目の奏上とその回答を求め、宮城坂下門に八○○人の区民が詰め掛けた」*3とあるように食糧問題と共に幣原内閣末期から吉田内閣への移行期の出来事でもあり、それに対抗するように社会・共産党系がこのデモに深くかかわっていることは間違いありません*4
 ちなみに宮城に入った人間の数ですが、宮城坂下門に詰め寄ったデモ隊は三大紙によると毎日800人、朝日600人、読売2000人としています。読売新聞によるとそのうち113名が宮城に入ったとしています*5。なお当時の各地で行われた一連のデモはNHK 戦争証言アーカイブスの「ニュース映像 戦後編 第19号」で視聴可能ですが、この中で世田谷区のデモが14日正午、坂下門に集まり5名が宮城に入っていったとあり12日の113名と大きな齟齬がある状態となっていますが、これは12日に宮城に入った後の交渉で後日また話をするという流れになり、その後日が14日であり入るのが許された人数が5名ということです。この際の14日に渡した要求の一つに「天皇の台所の公開」というのがありましたが、それが叶うことはなかった模様。

デモ隊が宮城内で見た食材

 『天皇の料理番』においては中に入った一同が(天皇ではなく職員の食堂とはいえ)「拍子抜けした形」という程度の食材だっと記述されています。では、当時の新聞はどう伝えたか。それが以下の記事です。

白米の残飯がたらひに三つ
宮城内 皇族方の夕食献立拝見
天皇に飢えた民の声をきいてもらおう”と赤旗のもと都民はついに宮城の門をくぐった。十二日開かれた世田谷区民大会に参加した二千余の区民のうち百十三名を先頭に午後五時ころ坂下門から宮城へまっしぐら
(中略)
百十三人のうち半分は女子供、乳呑児も十三人まじっていた。
(中略)
天皇はどんなものを食べているのか炊事場を見せて下さい」と申し入れ抜打ち的に炊事場の人民点検が始まる。皇族高等官食堂(?)の炊事場である。台所とはいえ五十坪もある大きな室。冷蔵庫のなかや残飯入れのなかなど片っ端から手を入れると出るは出るは、残飯がたらいに三つ、残飯といっても昨今では勤労都民の口へはとてもはいらない真白な残飯が大部分、麦の混じったのが少し。次は冷蔵庫ー目の下一尺ぐらいもあるヒラメが三、四十尾、大ブリ五、六尾、牛肉五、六貫匁、平貝一山、そのほかまだ沢山ある。十三日の夕食として皇族十三人分の献立表が目につく、読み上げると
▽お通しもの…平貝、胡瓜、のりの酢の物 ◇おでんの□子もの、まぐろ、ハンペン、ツミレ、大根、わさび
▽まぐろの刺身
▽焼物とから揚
▽御煮(煮込みであろう)、竹の子、フキ、ミソおでん
このほか二品である。魚類の廃棄箱のなかにはまだ食へる”ぜいたくな魚のアラ”が五、六貫捨てられてあった。おかみさんたちはただ目をみはるばかり。ただしこの炊事場では天皇の御食事は賄われていないのである
読売新聞 1946.5.13
※一部自信のないところを(?)や□で記述しています。

上記の読売新聞の記事では「残飯がたらいに三つ」とありますが、これに関しては朝日新聞1946.5.18の読者の声において宮内省の職員が「”残飯”の真相」という投稿をしており、「職員120名分の配給米を洗って水を切るために置いていたもの、魚の数は記事より少なく肉も全然なかった」と書かれています、多分*6。またこれとは別に宮内省側の発表もあり、それによると

百二十人分の夕食用の麦飯(三つのタライ)
マグロ半身
カレイ十五匹
スズキ一匹
サケ四匹
イモ、大根
原色の戦後史(試し読み)

以上の様なものです。個々の言い分が違いますが少なくとも「残飯」というのはデモ側の誤解ではありましょう。ただそれでも「拍子抜けした形」と描写した『天皇の料理番』とは雲泥の差であることが分かると思います。皇族の献立に対しては宮内省からの指摘もないことから事実に即していると考えられますし、その皇族の食事は現代からの感覚から見ても豪華な部類であろうし、たとえ職員の食堂に小説や投稿にある様に罹災した職員が多数いてその配給米や野菜をひとまとめにしていたとしても少なくとも宮城内に入っていった人間には羨むレベルであることは想像に難くありません。当時の彼らの食糧事情では以下の様に空腹を凌いでいた人間もいるのですから。

同書(原色の戦後史)には、母子家庭で辛酸をなめた二十六歳の女性・有井タケの証言も紹介されている。戦災住宅のまわりには、「ヘビ一匹、カエル一匹いない」と言われた。みんな食べられてしまうのである。雑草であれば「セリ、ヨモギなどはもちろん、アカザ、カンゾウスベリヒユ、ヨナメなど手当たり次第に食用にされ」、「飢えにせっつかれる子どもたちが、他人の家のゴミ箱をひっかき回して残飯をあさったり、果ては、家庭菜園の種イモまで掘り出して盗み食いすることすらあった」という。
 「ビロウな話ですが、戦災者住宅の便所にはいったら、中の便が青い。みんな雑草ばかり食べていて、ひどい消化不良のため、便までそんあ色になっちゃってんたんですね」(同)
貴志謙介『戦後ゼロ年東京ブラックホール

両者の食事の質を比較するまでもありません。雑草を食べていたという事例は上記にリンクを張ったNHK戦争証言アーカイブスにありますし、殊更に特殊な例ではなかったと考えられます。もし職員の言う通り配給米だったとしても配給へのアクセスに格差があったことでしょう。ちなみにこの食事がどこから来たのかというと「ヤミ」である可能性が指摘されています。米よこせ区民大会から2年後となりますが、当時の人気雑誌「真相」においては小見出しに「やっぱりヤミ買いする現人神」とつく記事でその内幕が語られ、更にこの記事では秋山徳蔵氏に取材しており、以下の様な発言も。

「好物といえば、ヒロヒト氏は非常な食道楽で、とくにウナギのカバ焼、天プラ、などの脂っこいものにオソバ、果物ではバナナがお好き。
『戦後ゼロ年東京ブラックホール

上記は好物を答えただけであり戦後まもなく、そして日常的に食べられていたかは不明ですが、皇室予算では一日の食事は4170円(現在の10万円ほど)とも書かれており、ヤミ価格を考えても庶民とは異なる食事をしていた可能性の方が高いでしょう。

 最後に。ツイート主は「共産主義者たち」と書いており、確かに先導した人間は共産党員であり、また当時組閣間近だった吉田政権への反感や社会・共産党政権の樹立を掲げてもいました。赤旗も掲げていましたし。故に間違ってはいませんが、それは一面的でありデモ参加者が全員共産主義者であったとは言えません。NHK証言アーカイブスでの各デモ、25万人ともされる飯米獲得人民大会などからもこの時代には飢えが蔓延しており、隠匿などの不正も多くありました。「憲法よりまずメシだ」というプラカードを持つ人間もいたといいます。この状態に怒るのは共産主義者だけではないですし、また参加者の多くは主婦であり、彼女らの中には天皇陛下がなにかくださるのではないか、という「天皇」の権威性を信じて参加した人間もいたといいます。イデオロギーの漂白は問題ですが、イデオロギーありきで見るのも駄目でしょう。
 それと小説を根拠にそれを事実として語るのはいかがなものか。



■お布施用ページ

note.com

*1:農林省の官僚であった加藤修治と佐藤義弥という事務官によると1900万石の隠匿物資があったとしています。加藤は食糧管理局の局長に次ぐ技官ですので、その情報はかなり正確なものだったはずです。「食糧メーデーと天皇プラカード事件(2)

*2:小田義幸「占領初期の食糧管理をめぐる新聞報道

*3:川島高峰戦後民主化における秩序意識の形成」

*4:松島松太郎氏によればこの集会を企画したのは岩田英一、梅津四郎です。

*5:三大紙の中でこの運動に一番親和的なのは読売新聞であり、記事も一番多いです

*6:「多分」、とかくのは該当記事がかすれすぎてて読めないからです……。一応、該当記事へのリンク張っておきます

ツイッターで出回っている「トランプ氏の実績」について

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 上記の「トランプ氏の実績」というツイートと全く同じものがいくらか出回っています。よくやるものだと思うのですがそれはともかくこれらの事の真偽でも。

黒人達の失業率を過去最低に

 これは在任期間中に過去最低を記録したのは確かです。たとえば以下記事。

ニューヨーク(CNNMoney) 米労働省は7日までに、アフリカ系(黒人)米国人の失業率は昨年12月、6.8%となり、少なくとも1972年以降では最低水準を記録したと報告した。
ただ、他の人種と比べればはるかに高い水準に依然あるとも指摘。白人の昨年12月の失業率は3.7%、アジア系は2.5%、ヒスパニック系は4.9%だった。米国全体では4.1%と、過去17年間では最低水準に匹敵していた。
CNN.co.jp : 黒人の失業率が過去最低水準に、昨年12月は6.8% 米

ただし上記記事にもある様にその水準がほかの人種と比べればはるかに高いことは変わりません。またそもそも失業率の低下はずっと前から発生していたトレンドです。

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米失業、黒人高止まり 経済格差が抗議デモ助長:時事ドットコム

上記の図の様にトランプ政権前から順調に下がってきたのであり、なにかしらのトランプの画期的政策があったから改善とは言いづらい。そもそもトランプ就任時には経済は回復して経済成長の段階ですので失業率が低くなるのはある意味当然です。それと「失業率」の問題以外にも賃金格差の問題や新型コロナの影響による失業者の多さを見れば雇用問題にはまだ根深い人種的な問題があるのは明白です。特にコロナ禍の影響からの回復では白人と黒人に大きな差が出ています。

大恐慌以来の最高水準である14.7%で失業率がピークに達した4月、黒人労働者の失業率はさらに高く、16.7%でした。9月までに、まだ仕事を見つけるのに苦労している失業者の黒人労働者の割合は、12.1パーセントにしか下がらなかった。
それに比べて、労働省によると、白人の失業率は4月に14.2%に達し、9月には7%に低下して以来、すでに半分以上になっています。
Fact check: Trump’s policies for Black Americans - POLITICO
※自動翻訳

児童誘拐組織を潰し子供救出

 これはQアノン系が流した話で「トランプ大統領が人身売買や悪魔崇拝を行う悪の支配層『カバール』と戦っている」というものの派生かなと。というかこのトランプ実績リストもQアノン系なんでしょうが。さて、これに対しては以下のような指摘があります。

QAnonの信奉者たちは長い間、ドナルド・トランプ大統領を性的に人身売買された子供たちの擁護者だと称賛してきました。
しかし、データによると、司法省によるこのような犯罪の起訴はトランプ大統領の政権時代には減少している。 今年5月に発表された人身売買研究所の2019年の報告書によると、事件は2017年の最盛期から3分の1に減少している。子どもだけの性の人身売買に関わる連邦刑事事件が昨年新たに着手されたのは73件で、2018年は87件、2017年は124件、2016年は115件だった。
トランプ氏が児童性犯罪に厳しいという認識は、極右の陰謀運動「QAnon」に端を発している。QAnonはインターネットのメッセージボード「4chan」に端を発し、FBIから国内の潜在的なテロ脅威のレッテルを貼られている。民主党がトランプ氏や他の保守派を倒すために密かに動いているという考えを中心に、一連の陰謀を推進しています。 www.insider.com
※自動翻訳

というように、トランプ就任以来、連邦政府からの児童の性的人身売買の訴追が少なくなってきています*1。数値を示しても「それはトランプの行動により犯罪数が減ったからだ」と返されるだけでしょうからちょっと困りものですが……。ただ上記記事にある件数を見る限り、またそういった「組織」や大規模な検挙が行われたニュースは少なくとも「陰謀論的な場所以外」には存在しないことから、人身売買組織が劇的に少なくなったからと考えるのはかなり難しい。上記インサイダーの記事でも性的人身売買の割合が実際に変わった可能性は低いとしていますし、恐らくそうでしょう。
 それとトランプがもし「児童誘拐組織」に対して、というよりも児童を誘拐、親と子の別離を極力阻止するような人間ならばトランプ政権による家族分離政策を行うのは矛盾に等しいでしょう。これによる影響で親子が実際に引き裂かれましたし、「Parents can’t be found for 545 of Trump’s kidnapped migrant children – People's World」という記事の中では「トランプは子供たちを誘拐した。」という表現を使用するまでに至っています。

一切戦争してない

 新しい戦争を仕掛けていないという意味ではそうでしょうが、依然として中東での作戦は実効しており、またBBCには以下のような指摘があります。

英国に本拠を置くシンクタンクである調査報道局によると、トランプ大統領の最初の2年間で2,243回のドローン攻撃があったのに対し、オバマ氏の8年間の在任期間では1,878回でした。
Trump revokes Obama rule on reporting drone strike deaths - BBC News ※自動翻訳

というようにトランプ最初の2年間でオバマの8年間を上回るドローン攻撃を行っているとされています。またTrump’s Drone War Is Less Accountable Than Everという記事では2020年5月18日の時点でトランプ政権は2020年だけでソマリアで40回の空爆をしていますし、最初の2年間以降もその活動は衰えていません。またこのソマリアでの空爆は2007年から2016年にかけて合計41回の空爆を行ったとあり、つまりは9年間の数を2020年の半年間に満たない期間でその数を上回るほどに戦闘行為をしています。また同記事には以下のような指摘があります。

戦場指定の使用方法を変更したことに加え、トランプ政権はオバマ時代のドローン政策のホストを巻き戻したという。それは、無人機とレーザー指定器の輸出制限の緩和、海外で販売される軍用無人機の監視の緩和、標的を攻撃するための選択における軍司令官とCIAの両方の権限の拡大、指定された戦場以外での死傷者の報告要件の撤廃を意味していた。
さらに、ストールとシャノン・ディックは、「政権が米国の無人機プログラムを指導する方針、原則、手順を公に公表していないため、これらの変更はそれぞれ秘密のベールの下で行われた」と書いている。
※自動翻訳

上記が戦争の抑止の方向に向かないことは明白ですし、ソマリアでの空爆の数の増加はその証左の様なものでしょう。それと「Grading DODs Annual Civilian Casualties Report: "Incomplete" - Just Security」にありますが、米国の軍事作戦における民間人死傷者に関する国防総省の議会への年次報告書はその数を過小評価している可能性が高いともされています。ドローン戦争ともいわれる時代であり、ドローン攻撃自体の増大はトランプ政権以後のドローン普及なども勘案しなければなりませんが、だがしかしトランプ政権が戦争/戦闘をしないきれいな政権というのはくだらない幻想にしか過ぎません。

黒人受刑者更正に巨額の予算

 これ、よくわかりません。刑事司法制度(ファーストステップ法)の改革があり、おそらくそれのことを言っているのではないかなとは思うのですが……。この項目に更正(リハビリテーション)についての話もあり、それに基づき予算もついています。

プログラミングの拡張も無料ではありません。それを知って、第一段階法は実施のために5年間年間7500万ドルを承認しました。しかし、承認は予算編成プロセスの始まりにすぎません。
(中略)
独立審査委員会のメンバーによると、完全な実装には3億ドル近くの費用がかかる可能性があります 。「トレーニング、人員配置、そして教室のようなものの構築」を考慮した後、彼は言います、7500万ドルは単に十分ではないかもしれません。しかし、これ以上の多額の資金が実現する可能性は低いようです。 最近の予算で は、ホワイトハウスは 法律に関連する改善に資金を提供するために3億ドル近くを求め ましたが、そのうち2300万ドルだけがプログラミングに割り当てられました。
What Is the First Step Act — And What’s Happening With It? | Brennan Center for Justice
※自動翻訳

黒人受刑者の多くから黒人が恩恵を受けるとも言えますが、何も「黒人」限定の話ではありません。そういう意味では「黒人」と強調するのは虚偽に等しいですが、更正への枠組みを考えればそれ自体は新しく作られているのですべてが虚偽ではありません。ただ記事にもある様に人員不足や資金不足も指摘されている状態です。
 それとこの司法改革案は超党派による提出であり、2015年にほぼ可決されようとしていましたが選挙年があるために引き下げられ、そしてトランプ政権が独自の刑事司法法案に取り組み始めたところ、これらの間で一連の妥協が働いて出来たというものなので、トランプによる動きはあるもののトランプでなくても類似の改革案は同時期にできていた可能性は高いのではないかなと。またバイデンがこれを覆すということもほぼほぼないでしょう。

拉致被害者家族に激励の手紙

 これは「トランプ氏、拉致被害者家族に手紙 「あなたは勝つ」」などを参照してください。事実です。

給料は全て教育機関等に寄付

 そもそもトランプは大統領の給料は受け取らないという公約をしています。なので受け取ったら公約違反です。ちなみに米大統領ではこの全給料寄付は時折あるらしく、トランプ大統領、公約通り給与寄付へ 年4600万円 写真1枚 国際ニュース:AFPBB Newsによるとハーバート・フーバー、ジョン・F・ケネディが同じような事をしています。個人的には資金を持っている人間だからこそできる行為であり、寄付による過度な賞揚はあまり好かないことはありますが……。

中東和平、国交正常化に功績

 これはjetroの「トランプ米大統領が中東諸国の平和協定締結に立ち会い、国内ではおおむね評価」などが参考になるかなと。平和協定締結は事実ですし、国内では評価を受けています。ただイランやパレスチナなどの問題はのこっていますが。大統領選間近での合意ですし、トランプはもはや大統領ではなくなるのでこれ以降どうなるかは不透明ですが、トランプ政権にとって最大の外交成果であることは間違いないかと。そしてバイデンもこの合意には好意的な意見を寄せているので、この合意がうまく軌道に乗れば今後大きな礎になる可能性は無きにしも非ずでしょう。

黒人300万人雇用創出計画

 これは2020年大統領選での公約「プラチナ・プラン・フォー・ブラック・アメリカ計画」のことですが、「公約」は「実績」ではないでしょう。ちなみにこの公約はこちらで確認可能ですが2ページに過ぎないもので、さらに300万人はそれに1行記されているだけです。これをもってして「実績」というには詐欺に等しい。これをトランプの実績というならばバイデンの「リフト・エブリ・ボイス計画」も同様に実績に扱わなければいけないでしょう。多分その公約を解説した記事だと2000万人を貧困から救う可能性があるような書き方をされています。
 「公約」ですが、前回の大統領選でオバマケアよりも良い制度を作ると公約としていいましたが、そのカッコつきの「実績」はどうなりましたか。

まとめ

・黒人達の失業率を過去最低に
 → 事実であるがトランプ政権独自の政策というよりも政権前からの経済成長トレンドにのっている(トレンドを超えるものではない)と見るほうが良し
・児童誘拐組織を潰し子供救出
 → そんな事実は見当たらない
・一切戦争してない
 → ドローン攻撃などは増加している
・黒人受刑者更正に巨額の予算
 → 刑事司法制度改革で受刑者更正に対して力を入れ始めたのは事実。しかし「黒人」と限定するのは言い過ぎ
拉致被害者家族に激励の手紙
 → 事実
・給料は全て教育機関等に寄付
 → 事実。そもそも公約なので寄付しなかった公約違反
・中東和平、国交正常化に功績
 → 事実ではあるが、イランやパレスチナの問題はまだ終わっていない。現状はまだ不透明な部分が多い
・黒人300万人雇用創出計画
 → 公約を「実績」とは言わない

 という様になるかなと。なお上記まとめにはないファクトチェックについてポリティコの「ファクトチェック:黒人アメリカ人のためのトランプの方針」やvoxの「いいえ、トランプはリンカーン以来、ブラックアメリカの最高の大統領ではありませんでした」(※ともに自動翻訳)が参考になるので興味があればどうぞ。
 部分的に本当の話も混じっていますが、とはいえ中には誇張されているものや事実とは言いがたいもの、トランプ個人でなくても恐らく実現していたものが入り混じっています。事実ではないもの以外はトランプの功績にするのはありですし、それでトランプを評価するのは自由です。ただし。その比較に挙げているバイデンの実績は彼の肩書だけを抜いたものであり、彼の成してきたものが一切入っておらず悪意ある比較でしかありません。バイデンの実績について私がつらつら上げる義理もないですからやりませんが、仮にも比較として称するにはフェアネスさが必要なのは言うまでもありません。Qアノン支持者にそれを求めるのは無理でしょうが。
 日本人がトランプの実績を羅列したり不正選挙と騒ぐのは滑稽この上ないですが、それはともかく。たとえここにある実績が本当だったとしても「それでもアメリカ国民はバイデンを選んだ」、というだけです。それが選挙であり、民主主義です。なおここでいう「民主主義」は選挙がすべてという意味ではないですので結果に文句を言うのは全然ありですが(日本人がそこまで肩入れしていう意味はわかりませんが)、結果を不確かな論拠*2で無しにしようとするのは民主主義への棄損でしょう。
 いくら言おうがトランプは負けたんです。

*1:若干脇道ですが、児童の性的人身売買に関する信頼できる統計が欠如しているという指摘があります。詳しくはThe Futile Quest for Hard Numbers on Child Sex Trafficking | HuffPostを参照。

*2:不正選挙にしても確たる証拠でもない限りは「陰謀論」にしか過ぎません。それと日本人がアメリカの不正選挙を訴える署名とかはどうかと思いますが。

「純貯蓄階級100万円未満」の世帯が2018年くらいから増えている

少しだけ古い記事ですが、

www.asahi.com

麻生氏は講演で「(個人の)現金がなくなって大変だというのでこの夏、1人10万(円給付)というのがコロナ対策の一環としてなされた」と説明。その上で、給付金の効果について「当然、貯金が減るのかと思ったらとんでもない。その分だけ貯金が増えました」

という様な内容の記事がありました。この発言自体は多くの人が批判していましたので批判はその方々に任せといて……、その時に家計調査貯蓄・負債編という調査で貯蓄額の推移などを見ていたところ、ちょうど4~6月期のデータが近くで出ることが分かったので今回はそのデータを置いておきます。
 使用するデータは家計調査貯蓄・負債編(二人以上の世帯)の4~6月期のDB。この調査は四半期ごとの区分であり貯蓄額の階級も100万未満、100~300万円等々、10万円の特別定額給付金が貯蓄に及ぼした影響を直接その数値が見ることはできないですし、そもそも自治体によって給付金の時期が異なるという事実があるのでその影響を見ることは難しいですが、最近の貯蓄額の状況・推移を見るには使えるかなと。なお、使用するデータは単純な貯蓄ではなく「純貯蓄(貯蓄額ー負債額)」です。で、データをグラフ化したのが以下。

f:id:nou_yunyun:20201030192925j:plain
※データが2012年からなのはDBで使用できるデータが2011年の10~12月期からだったため、区切りの良い2012年からグラフを開始しています。

長期的な推移を見ると「純貯蓄階級100万円未満」と「純貯蓄階級2000万円以上」以外の階級はほぼほぼ似たような推移をたどっていることが分かりますが、100万円未満と2000万円以上は2018年の初頭あたりから顕著な変化が見受けられます。何が原因だったかは専門家の人宜しくですが……、とりあえず現状「2020年4~6月期」の数値を見る限りこの時点ではコロナ禍の影響はあまり受けてないように見受けられます。ただ緊急事態宣言が解除されたのは5月末ごろですので調査期間4~6月だけでは判断しないほうが良いですし、雇用や貯蓄への影響はやや遅れてやってくるでしょうから影響がなかったというにはまだ早計かなと。
 とりあえずコロナ禍抜きにして近年純貯蓄100万円未満が増加していて、昨今を考えればそれが減少する可能性は少なそう。反面、2000万円以上は減少したもののここ最近は回復(増加)傾向なのが見て取れます。またここでいう貯蓄額は「二人以上の世帯」であることを鑑みれば「単身世帯」はもっと酷い状況の可能性は高いかなと。

 それはともかく10万円欲しい。

家計調査のしくみと見方

家計調査のしくみと見方

  • メディア: 単行本

韓国へのフッ化水素の輸出量が全然回復していない

news.mynavi.jp

 というニュースが少し話題で、このブログでも何回かフッ化水素についての話をしているので今回もちょこっと触れておきます。上記の記事については森田化学工業の利益が減った、韓国国内でほかの素材含めて作っているという兆候が見られるというようなものですが具体的な数値については書かれていなかったので、そこらへんについてでも。

フッ化水素の輸出量の推移

 具体的な数値については貿易統計のe-statから。品目コードは「281111000」。そして2018年からの日本からのフッ化水素の主な国への輸出量推移は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20201026172435j:plain

御覧の様に2019年7月という韓国への実質的な輸出規制以降輸出は激減しており、その数値は現状においても一切回復しておらず輸出量が多い月でも50トンほど。2019年の多い月には350トンというのを考えればこれが如何に少ない輸出量は語るまでもありません。そして韓国以外の国はその激減した韓国の輸出量よりも低い値です。それほどまでに韓国は「大きな市場」だったわけです。森田化学工業の利益が減るのもむべなるかな。
 さて、これだけなで終わりにするのも何なんで。では韓国の貿易統計ではフッ化水素の輸入はどうなっているのか。韓国も当然ながら貿易統計が公開されています。ただ日本とは品目コードが異なり、韓国においてフッ化水素のコードは「2811-11-1000」(日本は9単位、韓国は10単位コード)。なおこのコードの違いによって詳細な区分けが異なっており(韓国は半導体フッ化水素のみを表す)、その影響によって韓国では日本に輸出したフッ化水素が消えた、その差分が北朝鮮に流れたのでは、というような話があったようですがそれはこの品目コードによる違いだそうです*1
 閑話休題。で、韓国のフッ化水素の輸入量はというと。

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以上の通り。詳細な内訳ルールの違いからか日本の輸出量の動きとは若干異なるが大筋では類似の動きを示していることが分かります。で、この流れを見ると日本が減った変わりに台湾の上昇がみられるものの、それは一時的なもので日本による輸出量が回復しないうちに台湾の輸出量が減少していることが見受けられます。中国に関しても日本をカバーするような動きは見受けられません。これは日本が輸出していたフッ化水素が高品質で中国では代替できなかった、若しくは中国や台湾側の生産量的にそこまで増やすことができなかったなどの理由が考えられると共に、韓国ではフッ化水素不足に困窮しているという記事がほぼほぼ見当たらないということを考えた場合、韓国国内での生産が根付き始めている可能性を指摘できます。統計データもないために憶測になってしまいますが。
 なんにせよ。日本の行った韓国への実質的な輸出規制は韓国における日本企業のシェアを殺す施策であり、そして現状を鑑みるにこのまま回復することは難しそうってことです。日本の技術力を妄信したのか、韓国の技術力を侮ったのか分かりませんが、その市場を当時の政府(主に経産省)の判断により失ったのだから大きな失策としか言えないでしょう。言い訳に韓国側の輸出管理を挙げていますが、実質的には徴用工判決の報復であったことを考えたとしても、理も益も長期的視点もない一時の感情的な判断でしたね。

おまけ 韓国への輸出額推移

 ちなみに韓国全体への輸出額だけを見れば大きな下落は見えないものの若干下降傾向に見えなくもありません。

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ただ今年などはコロナ禍という不買運動よりも大きな影響があるでしょうから一概に何が原因とまでは言えないと思いますが。とはいえ例えばフッ化水素と似たような話題で出た韓国へのビール輸出などを見てみると以下の様に顕著に不買運動の影響とともに日本のビール市場がほぼほぼ崩壊している事が見て取れます。

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ここまで失った市場を取り戻すのは難しいでしょうから、返す返すも重大な失策としか言いようがない。

OECD資料による日本の平均賃金は2015年に韓国に抜かれてます

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 というツイートが軽くバズってる感じなのですが……、「いずれ日本を超えるだろうと思っていたが……」とありますが……、それが2019年に抜かれたみたいな感じですが……、OECDのデータによれば2015年にすでに抜かれています

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Earnings and wages - Average wages - OECD Data

なぜ抜かれたかと言えば韓国の経済成長もありましょうが、そもそも日本の平均賃金が確認可能な1990年からずっと「安定」(婉曲)したままだからでしょう。

f:id:nou_yunyun:20201023214919p:plain

ただここでいうOECDの平均賃金は単純にもらっている金額ではなく「国民経済計算に基づく総賃金を経済全体の平均従業員数で割って計算。これに、フルタイムの従業員1人あたりの平均1週間の平均時間と通常1週間の平均時間の比率を掛け合わせる。 この指標は、2016年の基準年と同じ年の個人消費購買力平価(PPP)を使用して、米国ドルに合わせて測定されている。」(引用元)というものなので、そういった要素を排した単純な平均賃金を参考として置いておきます。

【平均賃金】
■日本の平均給与
2019年の日本の平均給与は「436万円」
出典:民間給与実態統計調査

■韓国の平均給与
2018年の平均給与「3,634万ウォン」
※上記数値の出た2018年の後半は1ウォン0.1円近辺なので日本円に直せば「約363万円」
※日本の2018年の平均給与は「441万円」
出典:韓国経済研究院

というように他の要素を考慮していない平均給与ではまだ日本の方が上ではあります。ただ賃金の伸びを考えれば日本の賃金が今のような推移ですとこの単純な給与額も「いずれ」抜かされる可能性はありますが。
 それと最後に平均賃金以外のほかで分かりやすそうな「男女賃金格差」や「賃金水準」を見てみると以下の通り。

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f:id:nou_yunyun:20201023215436p:plain

貯蓄ゼロ世帯、ワーキングプア、個人消費、エンゲル係数などの推移について

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 というツイートに対して貼られている画像が2016年や2017年だったので2020年現在でそのデータは古くないみたいな事を指摘したらブロックされてしまい。悲しい。私の悲しみは置いといて、指摘した手前では実際にはどうなのかのデータを貼っておきます。
 さてツイートには、

・貯蓄ゼロ世帯増加
ワーキングプア増加
・会社員の給料減少
個人消費減少
エンゲル係数上昇
・2度の消費増税

というのが挙げられています。一番下の二度の消費増税についてはその通りでしかないのでこれは無視、会社員の給料(手取り)現象についても行政の資料からは(多分)分かりませんのでスルーするとして、それ以外の4つについてみていきます。

貯蓄ゼロ世帯増加

 件のツイートには貯蓄ゼロ世帯の画像は貼られていませんが、これは以前私自身のブログで書いていたのでそこから情報を流用します。過去の自分に感謝。

nou-yunyun.hatenablog.com

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/n/nou_yunyun/20200414/20200414145726.jpg

https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/n/nou_yunyun/20200414/20200414145737.jpg

現在、2019年までの結果が出ており、そう遠くない時期に2020年の結果も公表されると思います。多分、今年はコロナ禍という状況を感が見えれば悪化する可能性の方が高いでしょう。それはひとまず置いてみて2019年までを見ると2017年から貯蓄ゼロ世帯は減少しています。民主党政権時などと比べた場合、単身世帯は増加しているといえる数値ではありましょうが、二人以上の世帯に限り見ると民主党政権時より「増加」として批判するかは微妙なところ。ただ、この17年から19年の減少については上記記事でも指摘しましたが設問の仕方が変更された影響で2017年以前と2018年以降でデータのとり方が変わり、データに連続性がなくなりました。なので貯蓄ゼロ世帯の減少を語る際には注意が必要な案件です。

ワーキングプア増加

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 これの出典は「民間給与実態統計調査」から。とりあえず2000年から最新のデータである2018年までの推移を載せておきます。

f:id:nou_yunyun:20201019111336j:plain
※小数点以下四捨五入

件のツイートのグラフと比較した場合、

ワーキングプア(全体)】
2012年:1090万人
2016年:1132万人
2018年:1097万人

ワーキングプア(女性)】
2012年:796万人
2016年:833万人
2018年:808万人

以上の通り。現状、民主党政権時よりも増えたままであることは言えますが、こう見るとツイートにある数字よりも改善されていることが分かります。

個人消費減少

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 これは内閣府の「国民経済計算(GDP統計)」の統計表一覧を参照すると現在までの流れを分かります。そして2008年からグラフ化したのは以下の通り*1

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以上の様に消費税の影響は顕著であり、消費税8%後からの上昇は鈍く、そこからの回復が十分になされないうちに消費税10%で減少、さらにコロナ禍による大幅減少というのがグラフからみても明らかです。民主党政権時よりも個人消費そのものは上がっているものの3.11を除けばその時期から回復&上昇傾向であったものが消費税8%によって大幅なブレーキを掛けられた後に消費は停滞、その状態で消費税10%が来たのが分かります。コロナ禍による下落は第3四半期が出れば多少の回復はするでしょうが、それ抜きにしても消費税8%からの回復までの時間の流れを考えれば消費税10%からの回復には時間が必要でしょう。何よりコロナ禍がいつ収束するかわからない現状においては先行きは当分暗そうではあります。

エンゲル係数上昇

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f:id:nou_yunyun:20201019184939j:plain

 こちらの出典は「家計調査」より。エンゲル係数については安倍政権から2016年ごろまでは上昇傾向にあり、その後は停滞傾向にあります。そしてついでに月ごとのエンゲル係数を見た場合、以下の様になります。

f:id:nou_yunyun:20201019191125j:plain

消費税10%後に全体的に上昇傾向に見えますが、3月以降の上昇はコロナ禍の影響もありエンゲル係数が30%超えている月も存在しており、深刻に考えるべき状況かもしれません。



 以上、件のツイートにあった個々の数値の現在はどんなものかと追ってきたわけですが、事程左様に2020年現在の今2016年あたりのデータを持ってくるのは現代の社会を見るうえで甚だ解像度を落とす仕草です。そしてその今現在のデータからエンゲル係数個人消費ワーキングプアなどの問題は未だに改善はされずむしろコロナ禍もあって状況は悪化しているのが類推できます。なので今現在を知るならば今現在に近い数値を提示したほうが良いかと。新聞やテレビなどの切り抜きを貼るのは楽ですし、分かりやすい権威(それを意識はしてないと思いますが)もあるとはいえ、時が過ぎれば情報は風化します。政権批判はどんどんすれば良いのですがいつまでも風化した情報で批判するのはわきが甘いと言わざる負えません。というか、もしその後にその数値が改善していればデマレベルとは言いませんがかなり不正確な情報という指摘は免れ得ません。画像を持ってきて批判するのは楽でしょうが、各数値は調べれば出てくるわけですしそこは横着せずにやってほしいと思う次第です。ブロックされたので伝わるかは分かりませんが。

*1:なお数値が異なりますが、季節調整は直近値までを対象に毎回かけ直すために新聞からの切り抜きと数値が異なるものと思われます。

レジ袋有料化の簡単な歴史的経緯について

 さて。

とか。

とか。

こんなのとか。

事程左様にレジ袋有料化は日本学術会議が発端とばかり(一番下のは「提言」にとどめているとはいえ、言いたいことは変わらないでしょう)にまとめサイトやネットの特定界隈が騒いでいます。そもそもこの話題の発端となったのは日本学術会議大西隆元会長が東京新聞に寄稿した下記の記事なのですが、その記事では

◆レジ袋有料化も学術会議の提唱がきっかけ
微細なプラスチック片が分解されずに海に滞留し、摂取した魚、さらに人に害を及ぼすから、プラスチックの利用を大幅に削減しようというキャンペーンが、レジバッグ有料化やマイバッグ携帯につながった。このきっかけの1つは学術会議が海外の学術会議と手を携えて行った提唱であった
「総理は多様性を認め、政策に生かして」 日本学術会議・大西隆元会長が本紙に寄稿:東京新聞 TOKYO Web

というものであり、大西元会長は確かにレジバック有料化の「きっかけの一つは学術会議」と書いてあります。そういう意味においてはまとめサイトらのいう事も間違いではない。ただ学術会議が「提唱」したとしてもそれを政策として実現するのは政治家であり、もっと言ってしまえば政権与党なので、学術会議はあくまでもきっかけの「一つ」で直接的な批判をするならばそれを最終的に実行した安倍政権を批判するのが筋というものです。ただそれはともかくひとまず置いといて。
 レジ袋の有料化の歴史が結構忘れられて語られているようなので、そこら辺を少しこの記事で掘ってみます。なお、wikipediaみればいいじゃんって思って見たところ……、

レジ袋有料化(日本)
2019年(令和元年)9月26日、国際的な潮流を受け、日本国政府有識者会議で、プラスチックごみの削減に向け、レジ袋の有料化を義務付ける制度案を示した。環境省は法案をまとめ、早ければ2020年4月に実施する予定となった。
これは日本学術会議の提唱がきっかけである。
レジ袋 - Wikipedia

という様に10月10日時点においてはその歴史的経緯は忘れ去られて日本学術会議が提唱のきっかけと書かれる様なので、wikipediaはこの件に関しては役に立ちません。

日本学術会議の提唱について

 まずは大西元会長が書いている提唱ですが、10月10日現在日本学術会議HPで「レジ袋」で検索してヒットするのは5件。その内訳は以下の通り。

日本学術会議HPにおける「レジ袋」の検索ヒット】
1)第20期 環境リスク分科会活動記録 ―リスク概念の普及と啓発―
 平成20年(2008年)8月28日
2)提言マイクロプラスチックによる水環境汚染の生態・健康影響研究の必要性とプラスチックのガバナンス
 令和2年(2020年)4月7日
3)上記提言の素案 4)提言 被服学分野の資格教育の現状と展望
 令和2年(2020年)9月7日
5)上記提言の素案
※素案についてはリンクなど省略

内閣府共通検索 - 内閣府 - レジ袋

検索に引っかかるのは5件ですが、提言の為の素案が二つなので実質的には3件ととらえていいでしょう。そして2020年のレジ袋の有料化は2020年7月1日ということは2020年9月の提言である「被服学分野~」は有料化には関係ない提言にあたり、またレジ袋有料化の前である2020年4月の提言「提言マイクロプラスチックによる~」は有料化の前に出された提言ではありますが、当然ながらこの時点でレジ袋の有料化は決定しています。それは経済産業省環境省による「プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン」でも明らかです。

プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン
令和元年12月
2019年5月に政府は「プラスチック資源循環戦略」を制定し、その重点戦略のひとつとしてリデュース等の徹底を位置づけ、その取組の一環として「レジ袋有料化義務化(無料配布禁止等)」を通じて消費者のライフスタイル変革を促すこととした。
(中略)
ラスチック製買物袋を有料で提供することにより、 プラスチック製買物袋の排出の抑制を促進するものとし、2020年7月1日から全国で一律に開始する。

2019年12月の時点で有料化のガイドラインがある様に2020年4月の提言もレジ袋有料化とは無関係です。というか、その2020年4月の提言には、

2019年6月に大阪で開催された主要20ケ国・地域(G20)首脳会議の議長国としての積極姿勢をアピールする必要に迫られていた。そこで、環境大臣(当時)がG20を前に、 レジ袋の無料配布を禁じる法令を制定すると発表し、2020年7月1日からレジ袋の有料化が義務化された。

とある様にこの提言はレジ袋有料化という政策には寄与していません。なお、2008年のものは「提言」ではありませんし、2020年のレジ袋有料化のきっかけになっているとはほぼほぼ思えませんのでこれはスルーします。それといずれも「海外の学術会議と手を携えて」はいなさそうですし。では、大西元会長が書いている提唱とは何なのかというと、それはG20サミットに対して共同で科学的提言を行うことを目的とするG20各国の科学アカデミーによる会議「サイエンス20(S20)Japan2019」における「海洋生態系への脅威と海洋環境の保全-特に気候変動及び海洋プラスチックごみについて-(仮訳)」でしょう。これは当時の安倍首相に渡されています。その中身ですが、レジ袋有料化という文言は一切使用はされていません(買い物バックならあるので、それがレジ袋にあたるとも言えますが有料化までは踏み込んでいません)。あえて言うならば以下の箇所がレジ袋有料化に関連するといえるでしょう。

2.海洋プラスチックごみ-新たな脅威の出現-
海洋プラスチックごみは、海洋環境の汚染において直面すべき課題となりつつある。プラスチック製のボトルや買物バックのような大型のプラスチックごみは、誤飲や 捨てられた漁網によるゴーストフィッシング等が原因となり海洋生物が死に至ることもある(以下略)
 
3.基礎研究の促進、科学と政策における協力の必要性
プラスチック汚染のない革新的な社会を実現するためには、研究者、技術者及び政策立案者の協力に基づいて、廃プラスチックを集荷、加工、再利用するシステムの能力強化が必要である。(中略)課題の進歩は、政府、企業、 科学者、市民の協力を通じ、市民、民間・公的機関の態度と行動の変化が求められる。これに関して、都市と地域における循環型経済社会の現実がプラスチックごみの追跡において重要な取組となる。ステークホルダーとの協力、科学的根拠に基づく目標設定とその追求を通じ、使い捨てプラスチック使用の削減、3R(リデュース、リユース、リサイクル)と適正な廃棄物管理が行えるよう、都市と地方自治体の能力を高めることが必要である

という様に海洋プラスチックごみの削減という観点から大局的に語ってはいますが、個別の政策提言までは語ってはおらず、この提言を受けて「そうだ、レジ袋を有料化しよう」という発想は有料化議論の素地がなければないといえるでしょう。だのにレジ袋有料化になったというのは元々議論の素地があり、そして安倍政権が実行したというだけのことです。大西元会長は「きっかけのひとつ」と言っていますが、正直なところこの提言が「きっかけ」になったのかは甚だ疑問です。2019年の問題意識を考えればさして目新しい話ではないですし。


【10/13追記】
 BuzzFeedの記事によると大西元会長のいう提言は2015年に行われたものだとインタビューに答えています。

寄稿の「学術会議が海外の学術会議と手を携えて行った提唱」について、大西名誉教授はBuzzFeed Newsの取材に対し、2015年のG7サミットに提出された「Gサイエンス」による共同声明のことである、と明らかにした。
学術会議が「レジ袋有料化を提言」は誤り。ネット上で拡散、実際の内容は?

その提言自体はこちらで確認可能(海洋の未来:人間の活動が海洋システムに及ぼす影響 )。記事にもある様にレジ袋ではなく海洋プラスチックなどについての話をしており、例えば「ゴミの投棄を止め、廃棄物や有害物質の排出を規制する。あらゆるものから発生するプラスチック片の海洋システムへの流入を削減するため、緊急行動を起こす。」という部分がそれにあるかと。いずれにしてもレジ袋有料化には直接的な影響はないです。大西元会長は海洋プラスチック問題のムーブメントへの寄与という文脈で語っているようです。


レジ袋有料化までの過程について

 長々と書きましたがここからが本題の日本におけるレジ袋有料化の過程の話です。個人的感覚ですが、そもそもレジ袋有料化って2000年代初め~中ごろあたりから話題になっていたはずで、マイバック運動もその後にやって来てという感覚があります。ただそれは感覚なので、書籍や新聞から大まかですがレジ袋有料化の流れを追っていきます。
 で、この歴史を振り返る際に大変に参考になるのが2006年に発行された舟木 賢徳『「レジ袋」の環境経済政策: ―ヨーロッパや韓国、日本のレジ袋削減の試み』です。2006年時点でレジ袋削減の話を政策的課題として扱い、そして基本的にここで語られている削減方法の大きな手法として挙げているのがレジ袋の有料化です。つまりは2006年段階で書籍にはなるほどにその手の話は既にあったわけです。
 まずレジ袋そのものですが、現在で言うレジ袋は1972年に四国の中山製袋、中川製袋化工が開発*1し、それが日本全国、やがては世界に広まったものです。それまでは各底紙袋(茶色の包装紙であるクラフト紙製の袋)が一般的だったようですが、その各底紙袋の製造機を数百台ストップするという事態を招いたと程といい、これによって買い物ではレジ袋が主流となったようです。

マイバック運動、生協での有料化方式など90年代までの動き

 舟木の調査によればマイバック運動が始めた例で最も早いのは(社)北海道消費者脅威会で、設立した1961年から買い物袋持参運動をしているといいます。レジ袋出現よりも早いですし、この件については資料がなくどのような論理で持参運動をしていたのかは不明です。証拠資料がある中で最も早いのは1974年の高山生活学校によるものであり、そのチラシには「買い物かご(袋・風呂敷)運動、二重三重のムダな放送は消費者である私たちから辞退しましょう(高山市婦連・生活学校提唱)」と書かれているそうで、現在の過剰包装批判と通じる論点で運動が展開されていることが分かります。これらは地域的な動きですが、もっと広範囲の動きでは1992年に「ごみ減量化推進国民会議」が設立され、1995(平成7年)年に同国民会議がマイバック運動を展開しています。また1998年(平成10年)には東京都が環境にやさしい買い物キャンペーンを呼び掛けており、90年代ころから徐々にマイバック運動に広がりが見受けられます。そして舟木が団体別(47都道府県、85の市町村、64の市民団体、5つの企業体)にマイバック運動を調査した例においては、以下のような結果が出ています。

表から見ても分かる通り1995年(平成7年)以降から多くの場所でレジ袋以外の選択肢としてマイバック運動が開始されていることが分かります。これらのマイバック運動はレジ袋有料化とは若干別個のものではありますが、これらはごみ削減という意識などがあったことは確かでしょうから、有料化にも繋がる動きと言えるでしょう*2
 上記のマイバック運動の広がりが分かる記事も存在として、読売新聞1998.8.26には「レジ袋減量化運動20年 買い物袋持参広がる」があります。これは1978年にコープこうべがスタンプ還元方式が紹介されながらダイエーイトーヨーカドーなどでもレジ袋の使用量減少について書かれています。
 そして全国的な動きではないでしょうが舟木の調査によれば90年代の時点でレジ袋の有料化方式をとっている店は存在し、特に生協は多くの店で早い段階でレジ袋有料化を実地しています。


※廃棄物学会の指摘によれば上記調査店以外にもトポスも有料化を実施していたとのこと

早い店では70年代から有料化に踏み切り、90年代にかけて生協のかなりの店でレジ袋有料化が行われていることが分かります。当時のダイエーイトーヨーカドーなどの大手のスーパーでは無料ではあったものの、生協などの一部店舗ではすでに有料化が始まっており、またレジ袋の使用量減少については読売記事を見る限り大手スーパーも実行したいものであることがうかがえ、その後のレジ袋有料化にも繋がる動きだといっても過言ではないかと。
 ちなみに90年代の消費者の意識ですが読売新聞1994.6.17には「簡易包装やレジ袋の有料化に消費者の9割が協力的 首都圏7都県市アンケート」という記事が存在し、レジ袋の有料化に対して商品の値引きや代金のリサイクルへの使用などの条件付き賛成派を合わせると9割ほどが賛成であったという記事があったりします。レジ袋有料化の賛否は調査によってかなりの差があるので素直に鵜呑みにはできない部分もありますが、90年代時点でも調査によってはそういう数字が出る下地があったのは分かります。

レジ袋有料化施策を行う自治体の登場

 2001年には豊田氏が「マイバックDAY」、狭山市では「ノーレジ袋デー」の設定など、自治体によるレジ袋減少運動が目立ち始めます。この語りの中で大きな動きのひとつといえるかもしれないのが2001年の杉並区によるレジ袋税の提案です。これはレジ袋1枚に5円の税金を課すというものであり、2002.1.29の読売新聞の記事によれば当時の杉並区長である山田宏(当時無所属、現自民党議員)が街頭で通勤客に訴えたという熱意がうかがえる記事も見受けられます。2000年代初頭の時点で自治体によっては実質的なレジ袋有料化への施策を訴える自治体も出てきたということであり、このレジ袋減少や有料化の動きは広がりを見せています。そこから少しだけ時を進めますが、環境省が行った「レジ袋に係る調査(2008度)」によれば、有料化を行う自治体が複数存在することが可視化されています。下図は「都道府県レベルでレジ袋有料化を全域一斉実施している又は実施予定の状況」というものですが、2008年時点で実施、もしくは実施予定の都道府県は8件存在しています。

これらは自主協定であり杉並区のような条例化ではないですが見逃せる動きではないでしょう。また市町村レベルで言えば23都道府県381市町村が実施、もしくは実施予定とありかなりの数の自治体が2008年時点で意識的に有料化への動きを始めていることが分かります。

上記のページには都道府県についてはその経緯が書かれており、市民団体や単純なレジ袋削減などの理由が記される中、地球温暖化防止を理由に挙げる県も存在しています。これは定量的な観測とは言えず感覚的な話ですが、温暖化の話は2000年代以降に強く言われるようになり、例えばアル・ゴアによる『不都合な真実』は日本でもヒットしたことを考えれば環境意識の芽生えによる動きが各自治体に影響があった可能性は否定できないかと。今で言えば海洋プラスチックによる汚染があそれに当たるでしょうし。それとこれらの動きのいくつかは以下の「容器包装リサイクル法」も関連してるでしょう。

容器包装リサイクル法による影響

 環境意識という意味ではリサイクルがありますが、朝日新聞2000.1.27の記事には以下のような記事があります。

タダの袋、レジからなくなる? リサイクル費、企業に負担感
「買い物袋はご持参を」と言われても、タダだからと、もらい続けてきたスーパーのレジ袋。「容器包装リサイクル法」が完全施行されて、レジ袋やトレーなど、小売店の買い物で出る紙やプラスチックなどのゴミをリサイクルしなければならなくなるからだ。
(中略)
しかし意識だけで、レジ袋なくすのは難しい。チェーンストア協会でも「有料化が最も効果的、とは言われている」とし、消費者団体も有料化推進の方向だ。
朝日新聞2000.1.27

2000年時点でチェーンストア協会(総合スーパー、スーパーマーケットなどのチェーンストアの業界団体)は有料化が効果的と言い、この時点では賛成の方向性すら見えます。これが2005年になるとチェーンストア協会は総会で法律で有料化するよう国に求める方針を決めています*3。また生協も同じく類似の提言を発しています。この動きは容器包装リサイクル法の改正に対する動きであり、そして改正案の中間取りまとめにおいてレジ袋の有料化があげられています。省庁、チェーンストア協会は有料化の方向に行きましたが、百貨店は有料の強制的な義務化への反対、コンビニ業界は有料化自体に異を唱え*4結局法改正で有料化の「義務化」は見送られ「努力義務」の方向性となり、実質的なレジ袋有料化は見送られます*5。つまりはこの時点で強制的なレジ袋有料化が行われていれば改正法が施行された2007年にはレジ袋が有料化されていた可能性があったわけです*6*7

プラスチック資源循環戦略からのレジ袋有料化への流れ

 上記の改正容器包装リサイクル法によってレジ袋の有料化は努力義務とされ、環境省による継続的なレジ袋に係る調査が定期的に行われて自治体によっては有料化に踏み切る場所もあるといった流れでしたが、それが今の一部素材などの例外を除けば完全有料化へとという流れは2018年ごろから見受けられます。それが「プラスチック資源循環戦略」。これは2018年6月19日に閣議決定された第4次循環型社会形成推進基本計画*8*9によって策定をすることが決められた戦略であり、その背景には海洋プラスチック問題*10、中国等によるプラスチック廃棄物の禁輸措置に対応した国内資源循環体制を構築するといったものがあります。
 このプラスチック資源循環戦略については環境省HPにある「プラスチック資源循環戦略小委員会」で議事録はすべて公開されており、委員名簿があります。委員名簿を見る限りは大学教授が多数ですが、そのほかの団体の人間も入っており必ずしも学者のみで議論されていたわけではありません。そして議事録を見る限り2018年8月17日の第一回からレジ袋有料化についての話の俎上に挙がっており、第三回の10月19日では有料義務化の話が具体的に行われ、この回で作成されている「プラスチック資源循環戦略(素案)」にはレジ袋の有料化義務化が案の中に入っています。つまり2018年10月19日の段階でほぼほぼレジ袋有料化が決定されていることが伺えます。また10月19日の少し前である10月4日ですが、この日には原田環境相が以下のような発言*11をしています。

原田環境大臣は、4日の記者会見で、日本でどのように減らしていくのか尋ねられると、「レジ袋は有料化も義務づけるべきではないかと個人的には考えている」と述べました。そのうえで、必要があればみずから産業界や関係省庁と意見を交わす考えを示しました。
「レジ袋 有料化も」ごみ削減へ 原田環境相 | 注目の発言集 | NHK政治マガジン

この発言がプラスチック資源循環戦略に対してどれほどのインパクトを及ぼしたかまでは分かりませんが、少なくとも環境相、省庁における議論の間で意志の祖語はそこまでなかったことだけは分かります。そして有料化の動きに関しては11月13日の経団連「プラスチック資源循環戦略」策定に関する意見では有料義務化へ賛意を示す意見が書かれていますし、当然ながらチェーンストア協会生協なども賛意を示しています。コンビニが加盟するフランチャイズチェーン協会、百貨店が加盟する日本百貨店協会についてはその態度が定かではありませんが、朝日新聞2018.11.19「(フォーラム)使い捨てプラスチック」において、

今後についてフランチャイズチェーン協会は「プラスチックが地球規模で問題になる中、国として法律で定めるなら反対しません」、百貨店協会は「審議中のことについてコメントはありません」としています。

という態度を示しています。コンビニ業界が2005年段階で反対していたことを考えれば、この時点でのコンビニ業界は強い反対の姿勢は見えないことが分かります。またプラスチック資源循環戦略案が了承後の2019年3月19日の日刊工業新聞において、

日本フランチャイズチェーン協会は「レジ袋有料化はコンビニにはなじまないが、プラスチック使用量削減のためにはやらざるを得ない」と認識する。今回の小委員会の決定を受け、セブン―イレブン・ジャパンは「日本フランチャイズチェーン協会の方針に従い、レジ袋有料化も検討している」、ローソンも「義務化の際には法律に基づいて実施する」という。

とある様にコンビニは実質的にレジ袋有料義務化を受け入れています。またこの戦略案策定前に行われたパブリックコメントでは有料義務の賛成/反対双方の意見が載っていますが、数は定かではないとはいえ賛成への意見のほうが取り上げられている意見が多く、パブリックコメントでも多くの賛成があったことが伺えます*12
 そして2019年。原田環境相が2月26日の記者会見で「全国一律のレジ袋有料化義務化を進める決意を固めたところでございます」と発言しています。その後プラスチック資源循環戦略の答申が出たのは2019年3月26日同年5月21日にプラスチック資源循環戦略が策定されます*13。そして6月15日に開かれたG20において世耕弘成経済産業相が早ければ2020年4月にレジ袋有料化を義務付けるとの方針を示します*14。この方針は海洋プラスチックごみによる新たな汚染を2050年までにゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」にねざしたものでしょう。ちなみにこの時期の毎日新聞における世論調査でレジ袋有料に対して7割が賛成を示しており、世の中の流れとしても有料化自体には賛成が多いことが分かります。
 上記の戦略やG20での発言に基づき同年9月26日からは「レジ袋有料化検討小委員会」が開始、11月1日の第三回委員会ではスケジュール案ができ2020年7月1日に有料化開始が盛り込まれ、同委員会の最後の12月25日にはパブリックコメントなどを受けてガイドラインや制度改正のイメージ資料が作られるにいたります*15。そして2019年12月27日に省令が改正されて、2020年7月1日のレジ袋有料義務化が決定されます。

国会における日本学術会議の提言について

 個々の議論を国会で見ていくのはかなり時間を消耗するので割愛しますが、ここでは日本学術会議の行った提言について国会でどのような議論が行われたかだけ紹介していきます。

第198回国会 参議院 予算委員会 平成31年3月18日
(S20の提言を受けてG20でどのように活用するのかという質問に対して)
安倍晋三「本年のS20提言にもありますが、例えば、海で分解される、先ほど申し上げましたような、バイオプラスチックのような素材が量産されれば問題解決に大きく寄与することになります。先般、S20に参加した各国の研究者にも申し上げましたが、革新的なイノベーションを起こすためには世界の英知を結集していく必要があります。G20の議長国として、S20のような世界の科学界と連携しながら、新たな汚染を生み出さない世界の実現を目指してリーダーシップを発揮していく考えであります。」

 

第198回国会 衆議院 環境委員会 平成31年4月2日
務台俊介環境大臣として、この科学者の知見であるS20の提言をG20の場でどのように生かしていくのか、お考えを伺いたいと思います。」
原田義昭「S20の提言においては、海洋プラスチックごみ問題の解決に向けて、科学的知見の集積や研究開発の推進、代替素材への転換等の対策など、おおむね六項目が指摘されたところであります。
 我が国としては、提言で指摘されている科学的基盤の強化も踏まえて、実効性のある取組の推進をG20の場で打ち出して、新興国を巻き込んだ国際的な議論をリードしていく必要がある、こういうふうに考えているところであります。また、今後策定する海岸漂着物等処理推進法の基本方針やプラスチック資源循環戦略においても、これらの対策をしっかり取り込み、積極的に取り組んでまいりたいと思っております。」

S20がらみの答弁はこのあたりで首相はS20のようは科学界との連携を、環境相はその提言による指摘されている部分を強化するという発言をしています。なおレジ袋有料義務化についての話には触れていませんが、これは提言には直接的にはないので不思議ではありません。影響を語ったのは事実ですが、しかし下記の時系列を見ればわかる様にレジ袋有料義務化については事実上の決定の流れの後の中で提言でしかありません。「きっかけ」のひとつというよりも進めたい政策の論拠となる一助といったほうが良いかもしれません。

レジ袋有料化への簡易的な流れのまとめ

 さて、以上のことから現在のレジ袋有料化への流れを簡単に記述します。


【レジ袋有料化への流れ】
2006年 容器包装リサイクル法改正(レジ袋有料化の「努力義務」の発生)
2015年 日本学術会議も携わったGサイエンスでの共同声明 ※(※レジ袋有料化の提言無し
2018年
 6月19日 第4次循環型社会形成推進基本計画の閣議決定
 8月17日 プラスチック資源循環戦略小委員会の開始
 10月19日 原田環境相がレジ袋有料化を検討すべきと発言
 10月19日 プラスチック資源循環戦略(素案)作成、レジ袋有料化が入る
2019年
 2月26日 原田環境相が「レジ袋有料義務化を進める決意を固めた」と発言
 3月6日 日本学術会議が関わるサイエンス20(S20)共同声明の安倍総理へ手交(※レジ袋有料化の提言無し
 3月26日 プラスチック資源循環戦略の答申(レジ袋有料化の提言有)
 6月15日 G20において当時の世耕経産相がレジ袋有料化義務化方針発表
 9月26日 レジ袋有料化検討小委員会開始
 11月1日 同委員会で2020年の7月1日に有料義務化のスケジュール案が示される
 12月27日 省令改正、レジ袋有料義務化決定
2020年
 7月1日 レジ袋有料義務化


という流れになるかと考えます。上の流れを見ればわかる通り、学術会議の提唱は既にレジ袋有料義務化は業界団体や市民の強い反対でもなければほぼほぼ決定していたであろう流れの中で発せられています。つまりは大西元会長は「きっかけのひとつ」と言っているものの、正直なところS20における提唱がなくてもレジ袋有料義務化は止まらなかったでしょう。原田環境相が有料義務化の決意を固めたのも提唱の前ですしね。
 大西元会長に関しても事実関係の軽視が見受けられますが、2015年の話なら時系列的には問題なしですが、とはしても今現在レジ袋有料化を日本学術会議が原因だとして批判するのはお門違いもいいところではないかなと。政府自身が海洋プラスチックなどの問題を受けて主体的に選択した流れでもありますし、歴史的に考えれば生協などや各小売店が対応してきた問題でもあり、そしてチェーンストア協会などもそこに加わり、さらに消費者自体もレジ袋有料化に対しては賛意の声が多いことから、「レジ袋有料化」といういつか来る避けられない変化が2020年に起こった、と考えるのが正しいかと。なお最後に言っておきますが、だから日本学術会議の提唱が無意味だったというものではありません。学者による提言は政策決定に対して参考にすべきものであり、またそこには例え政府にとって都合の悪いことが書かれていようとも一考の余地があるはずです。

現在のレジ袋有料化への賛否

 最後に最近の有料化に対する世論調査を置いておきます。2020年のレジ袋有料化施行前である2月の時事通信世論調査においては「レジ袋有料化、賛成約8割」、統計分析研究所の6月の調査では「レジ袋有料化となった経緯に「賛同する」 53.0%が 「賛同しない」 21.7%」、7月の朝日新聞では「「評価する」が67%で、「評価しない」は29%」などなど。ツイッターでは反対の声も目立ちますが、世論調査を見る限りはレジ袋有料化についての賛否は大抵賛成が反対を上回りますツイッターと実社会の違いか、もしくは観測範囲が歪んでるだけかなと。



■お布施用ページ

note.com

*1:舟木の書籍では「中山」と書かれていますが、「中川」と指摘を受けました。調べる限り「中川」のほうが正しい。

*2:ただ調査の欠点として市民団体や民間企業がどの様なものかは書籍からは分かりません。市民団体はごみ削減に関わっている団体が多いでしょうし、民間企業の5つというサンプルは数として少し寂しい……

*3:朝日新聞2005.5.21「レジ袋「法律で有料化」 チェーンストア協会が国に要望方針」

*4:読売新聞2005.11.28「レジ袋有料化 議論難航、割れる業界 コンビニは有料化自体反対」

*5:読売新聞2005.12.29「レジ袋有料、義務化せず 法改正案「削減努力」に経産省環境省が方針」

*6:強制義務されなかったひとつの理由として「営業の自由」の侵害などの理由もありました。

*7:2019年作成の「プラスチック製買物袋有料化実施ガイドライン」ではこの改正を「事業者による排出抑制促進の枠組みを活かしつつ、プラスチック製買物袋についてはその排出抑制の手段としての有料化を必須とする旨を規定した」とある様に2006年に義務化自体はされているとも受け取れるんですよね。努力義務であるし、大抵の場所での実質は伴ってなかったわけですが。

*8:循環型社会形成推進基本計画自体は「循環型社会形成推進基本法」に基づくものです。2000年に公布され、2003年に一番初めの計画が国会に報告、その後は法律に基づき5年ごとに見直しが行われています。

*9:第三次循環型社会形成推進基本計画においてもレジ袋の辞退率についての話をしていますし、基本的にはレジ袋は削減されるべきものとして扱われています。

*10:なお2018年6月に行われたG7シャルルボワサミットにおいて「海洋プラスチック憲章」が掲げられましたが日本は米国とともに署名せず、国際的に見れば積極性が疑われる行動をその当時しています。

*11:なお、この発言は国会において自民党務台俊介氏が賛意を示しています。自民党としてもこの方向性に大きな異論はなかったのでしょう。第197回国会 衆議院 環境委員会 平成30年11月20日

*12:それ自体を「印象操作」ととらえることも可能ではありますが、意見の多様さという意味では賛成派のほうが多かったのはおそらく事実かと考えます

*13:なお5月に策定された理由はG20が開催される前の6月までに策定するというスケジュールだったためです。

*14:ちなみに当時の世耕大臣は6月18日の大臣会見において「日本が率先をしてレジ袋の有料化をやることによって、人々の行動変容を進めていこうとしていることに関しても評価の声が聞こえたところであります」と発言していますが、どちらかというと日本のレジ袋有料化は遅れているために「率先」というのは少々言いすぎです。これはレジ袋有料化検討ワーキンググループにおける「レジ袋有料化に係る背景について」などの諸外国事例を見れば明らかです。

*15:詳しくは配布資料を参照のこと