電脳塵芥

四方山雑記

ツイッターで出回っている「トランプ氏の実績」について

f:id:nou_yunyun:20201109230638p:plain

 上記の「トランプ氏の実績」というツイートと全く同じものがいくらか出回っています。よくやるものだと思うのですがそれはともかくこれらの事の真偽でも。

黒人達の失業率を過去最低に

 これは在任期間中に過去最低を記録したのは確かです。たとえば以下記事。

ニューヨーク(CNNMoney) 米労働省は7日までに、アフリカ系(黒人)米国人の失業率は昨年12月、6.8%となり、少なくとも1972年以降では最低水準を記録したと報告した。
ただ、他の人種と比べればはるかに高い水準に依然あるとも指摘。白人の昨年12月の失業率は3.7%、アジア系は2.5%、ヒスパニック系は4.9%だった。米国全体では4.1%と、過去17年間では最低水準に匹敵していた。
CNN.co.jp : 黒人の失業率が過去最低水準に、昨年12月は6.8% 米

ただし上記記事にもある様にその水準がほかの人種と比べればはるかに高いことは変わりません。またそもそも失業率の低下はずっと前から発生していたトレンドです。

f:id:nou_yunyun:20201109232126p:plain

米失業、黒人高止まり 経済格差が抗議デモ助長:時事ドットコム

上記の図の様にトランプ政権前から順調に下がってきたのであり、なにかしらのトランプの画期的政策があったから改善とは言いづらい。そもそもトランプ就任時には経済は回復して経済成長の段階ですので失業率が低くなるのはある意味当然です。それと「失業率」の問題以外にも賃金格差の問題や新型コロナの影響による失業者の多さを見れば雇用問題にはまだ根深い人種的な問題があるのは明白です。特にコロナ禍の影響からの回復では白人と黒人に大きな差が出ています。

大恐慌以来の最高水準である14.7%で失業率がピークに達した4月、黒人労働者の失業率はさらに高く、16.7%でした。9月までに、まだ仕事を見つけるのに苦労している失業者の黒人労働者の割合は、12.1パーセントにしか下がらなかった。
それに比べて、労働省によると、白人の失業率は4月に14.2%に達し、9月には7%に低下して以来、すでに半分以上になっています。
Fact check: Trump’s policies for Black Americans - POLITICO
※自動翻訳

児童誘拐組織を潰し子供救出

 これはQアノン系が流した話で「トランプ大統領が人身売買や悪魔崇拝を行う悪の支配層『カバール』と戦っている」というものの派生かなと。というかこのトランプ実績リストもQアノン系なんでしょうが。さて、これに対しては以下のような指摘があります。

QAnonの信奉者たちは長い間、ドナルド・トランプ大統領を性的に人身売買された子供たちの擁護者だと称賛してきました。
しかし、データによると、司法省によるこのような犯罪の起訴はトランプ大統領の政権時代には減少している。 今年5月に発表された人身売買研究所の2019年の報告書によると、事件は2017年の最盛期から3分の1に減少している。子どもだけの性の人身売買に関わる連邦刑事事件が昨年新たに着手されたのは73件で、2018年は87件、2017年は124件、2016年は115件だった。
トランプ氏が児童性犯罪に厳しいという認識は、極右の陰謀運動「QAnon」に端を発している。QAnonはインターネットのメッセージボード「4chan」に端を発し、FBIから国内の潜在的なテロ脅威のレッテルを貼られている。民主党がトランプ氏や他の保守派を倒すために密かに動いているという考えを中心に、一連の陰謀を推進しています。 www.insider.com
※自動翻訳

というように、トランプ就任以来、連邦政府からの児童の性的人身売買の訴追が少なくなってきています*1。数値を示しても「それはトランプの行動により犯罪数が減ったからだ」と返されるだけでしょうからちょっと困りものですが……。ただ上記記事にある件数を見る限り、またそういった「組織」や大規模な検挙が行われたニュースは少なくとも「陰謀論的な場所以外」には存在しないことから、人身売買組織が劇的に少なくなったからと考えるのはかなり難しい。上記インサイダーの記事でも性的人身売買の割合が実際に変わった可能性は低いとしていますし、恐らくそうでしょう。
 それとトランプがもし「児童誘拐組織」に対して、というよりも児童を誘拐、親と子の別離を極力阻止するような人間ならばトランプ政権による家族分離政策を行うのは矛盾に等しいでしょう。これによる影響で親子が実際に引き裂かれましたし、「Parents can’t be found for 545 of Trump’s kidnapped migrant children – People's World」という記事の中では「トランプは子供たちを誘拐した。」という表現を使用するまでに至っています。

一切戦争してない

 新しい戦争を仕掛けていないという意味ではそうでしょうが、依然として中東での作戦は実効しており、またBBCには以下のような指摘があります。

英国に本拠を置くシンクタンクである調査報道局によると、トランプ大統領の最初の2年間で2,243回のドローン攻撃があったのに対し、オバマ氏の8年間の在任期間では1,878回でした。
Trump revokes Obama rule on reporting drone strike deaths - BBC News ※自動翻訳

というようにトランプ最初の2年間でオバマの8年間を上回るドローン攻撃を行っているとされています。またTrump’s Drone War Is Less Accountable Than Everという記事では2020年5月18日の時点でトランプ政権は2020年だけでソマリアで40回の空爆をしていますし、最初の2年間以降もその活動は衰えていません。またこのソマリアでの空爆は2007年から2016年にかけて合計41回の空爆を行ったとあり、つまりは9年間の数を2020年の半年間に満たない期間でその数を上回るほどに戦闘行為をしています。また同記事には以下のような指摘があります。

戦場指定の使用方法を変更したことに加え、トランプ政権はオバマ時代のドローン政策のホストを巻き戻したという。それは、無人機とレーザー指定器の輸出制限の緩和、海外で販売される軍用無人機の監視の緩和、標的を攻撃するための選択における軍司令官とCIAの両方の権限の拡大、指定された戦場以外での死傷者の報告要件の撤廃を意味していた。
さらに、ストールとシャノン・ディックは、「政権が米国の無人機プログラムを指導する方針、原則、手順を公に公表していないため、これらの変更はそれぞれ秘密のベールの下で行われた」と書いている。
※自動翻訳

上記が戦争の抑止の方向に向かないことは明白ですし、ソマリアでの空爆の数の増加はその証左の様なものでしょう。それと「Grading DODs Annual Civilian Casualties Report: "Incomplete" - Just Security」にありますが、米国の軍事作戦における民間人死傷者に関する国防総省の議会への年次報告書はその数を過小評価している可能性が高いともされています。ドローン戦争ともいわれる時代であり、ドローン攻撃自体の増大はトランプ政権以後のドローン普及なども勘案しなければなりませんが、だがしかしトランプ政権が戦争/戦闘をしないきれいな政権というのはくだらない幻想にしか過ぎません。

黒人受刑者更正に巨額の予算

 これ、よくわかりません。刑事司法制度(ファーストステップ法)の改革があり、おそらくそれのことを言っているのではないかなとは思うのですが……。この項目に更正(リハビリテーション)についての話もあり、それに基づき予算もついています。

プログラミングの拡張も無料ではありません。それを知って、第一段階法は実施のために5年間年間7500万ドルを承認しました。しかし、承認は予算編成プロセスの始まりにすぎません。
(中略)
独立審査委員会のメンバーによると、完全な実装には3億ドル近くの費用がかかる可能性があります 。「トレーニング、人員配置、そして教室のようなものの構築」を考慮した後、彼は言います、7500万ドルは単に十分ではないかもしれません。しかし、これ以上の多額の資金が実現する可能性は低いようです。 最近の予算で は、ホワイトハウスは 法律に関連する改善に資金を提供するために3億ドル近くを求め ましたが、そのうち2300万ドルだけがプログラミングに割り当てられました。
What Is the First Step Act — And What’s Happening With It? | Brennan Center for Justice
※自動翻訳

黒人受刑者の多くから黒人が恩恵を受けるとも言えますが、何も「黒人」限定の話ではありません。そういう意味では「黒人」と強調するのは虚偽に等しいですが、更正への枠組みを考えればそれ自体は新しく作られているのですべてが虚偽ではありません。ただ記事にもある様に人員不足や資金不足も指摘されている状態です。
 それとこの司法改革案は超党派による提出であり、2015年にほぼ可決されようとしていましたが選挙年があるために引き下げられ、そしてトランプ政権が独自の刑事司法法案に取り組み始めたところ、これらの間で一連の妥協が働いて出来たというものなので、トランプによる動きはあるもののトランプでなくても類似の改革案は同時期にできていた可能性は高いのではないかなと。またバイデンがこれを覆すということもほぼほぼないでしょう。

拉致被害者家族に激励の手紙

 これは「トランプ氏、拉致被害者家族に手紙 「あなたは勝つ」」などを参照してください。事実です。

給料は全て教育機関等に寄付

 そもそもトランプは大統領の給料は受け取らないという公約をしています。なので受け取ったら公約違反です。ちなみに米大統領ではこの全給料寄付は時折あるらしく、トランプ大統領、公約通り給与寄付へ 年4600万円 写真1枚 国際ニュース:AFPBB Newsによるとハーバート・フーバー、ジョン・F・ケネディが同じような事をしています。個人的には資金を持っている人間だからこそできる行為であり、寄付による過度な賞揚はあまり好かないことはありますが……。

中東和平、国交正常化に功績

 これはjetroの「トランプ米大統領が中東諸国の平和協定締結に立ち会い、国内ではおおむね評価」などが参考になるかなと。平和協定締結は事実ですし、国内では評価を受けています。ただイランやパレスチナなどの問題はのこっていますが。大統領選間近での合意ですし、トランプはもはや大統領ではなくなるのでこれ以降どうなるかは不透明ですが、トランプ政権にとって最大の外交成果であることは間違いないかと。そしてバイデンもこの合意には好意的な意見を寄せているので、この合意がうまく軌道に乗れば今後大きな礎になる可能性は無きにしも非ずでしょう。

黒人300万人雇用創出計画

 これは2020年大統領選での公約「プラチナ・プラン・フォー・ブラック・アメリカ計画」のことですが、「公約」は「実績」ではないでしょう。ちなみにこの公約はこちらで確認可能ですが2ページに過ぎないもので、さらに300万人はそれに1行記されているだけです。これをもってして「実績」というには詐欺に等しい。これをトランプの実績というならばバイデンの「リフト・エブリ・ボイス計画」も同様に実績に扱わなければいけないでしょう。多分その公約を解説した記事だと2000万人を貧困から救う可能性があるような書き方をされています。
 「公約」ですが、前回の大統領選でオバマケアよりも良い制度を作ると公約としていいましたが、そのカッコつきの「実績」はどうなりましたか。

まとめ

・黒人達の失業率を過去最低に
 → 事実であるがトランプ政権独自の政策というよりも政権前からの経済成長トレンドにのっている(トレンドを超えるものではない)と見るほうが良し
・児童誘拐組織を潰し子供救出
 → そんな事実は見当たらない
・一切戦争してない
 → ドローン攻撃などは増加している
・黒人受刑者更正に巨額の予算
 → 刑事司法制度改革で受刑者更正に対して力を入れ始めたのは事実。しかし「黒人」と限定するのは言い過ぎ
拉致被害者家族に激励の手紙
 → 事実
・給料は全て教育機関等に寄付
 → 事実。そもそも公約なので寄付しなかった公約違反
・中東和平、国交正常化に功績
 → 事実ではあるが、イランやパレスチナの問題はまだ終わっていない。現状はまだ不透明な部分が多い
・黒人300万人雇用創出計画
 → 公約を「実績」とは言わない

 という様になるかなと。なお上記まとめにはないファクトチェックについてポリティコの「ファクトチェック:黒人アメリカ人のためのトランプの方針」やvoxの「いいえ、トランプはリンカーン以来、ブラックアメリカの最高の大統領ではありませんでした」(※ともに自動翻訳)が参考になるので興味があればどうぞ。
 部分的に本当の話も混じっていますが、とはいえ中には誇張されているものや事実とは言いがたいもの、トランプ個人でなくても恐らく実現していたものが入り混じっています。事実ではないもの以外はトランプの功績にするのはありですし、それでトランプを評価するのは自由です。ただし。その比較に挙げているバイデンの実績は彼の肩書だけを抜いたものであり、彼の成してきたものが一切入っておらず悪意ある比較でしかありません。バイデンの実績について私がつらつら上げる義理もないですからやりませんが、仮にも比較として称するにはフェアネスさが必要なのは言うまでもありません。Qアノン支持者にそれを求めるのは無理でしょうが。
 日本人がトランプの実績を羅列したり不正選挙と騒ぐのは滑稽この上ないですが、それはともかく。たとえここにある実績が本当だったとしても「それでもアメリカ国民はバイデンを選んだ」、というだけです。それが選挙であり、民主主義です。なおここでいう「民主主義」は選挙がすべてという意味ではないですので結果に文句を言うのは全然ありですが(日本人がそこまで肩入れしていう意味はわかりませんが)、結果を不確かな論拠*2で無しにしようとするのは民主主義への棄損でしょう。
 いくら言おうがトランプは負けたんです。

*1:若干脇道ですが、児童の性的人身売買に関する信頼できる統計が欠如しているという指摘があります。詳しくはThe Futile Quest for Hard Numbers on Child Sex Trafficking | HuffPostを参照。

*2:不正選挙にしても確たる証拠でもない限りは「陰謀論」にしか過ぎません。それと日本人がアメリカの不正選挙を訴える署名とかはどうかと思いますが。