電脳塵芥

四方山雑記

厚労省調査によるホームレス数の推移について

※減少率の話を少し書き変えました。書き換え前は安倍政権と民主党政権の期間の長短を考慮していなかった為、少し比較として不適切でしたのでその部分を修正。

 というツイートがあったのでホームレス数の話でも。ちなみに別のツイートやリンク先では下記のグラフを引用されておりその推移が示されています。

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なお、この「ホームレスの実態に関する全国調査」は調査月が各年の「1月」となっています。安倍政権は2012年12月26日発足となり、実質的には2013年からのその政権が始まっています。2013年1月時点での調査においては安倍政権による政策効果というよりも民主党政権の効果と考えた方が妥当であり、2013年を起点としますが2013年は前年からの削減率には入れないこととします。
 で、安倍政権におけるホームレス数推移は、

【安倍政権下でのホームレス数推移】
 2013年(0年目):8265人 累計削減率 0%
 2014年(1年目):7508人 累計削減率 9.16%
 2015年(2年目):6541人 累計削減率 20.86%
 2016年(3年目):6235人 累計削減率 24.56%
 2017年(4年目):4977人 累計削減率 39.78%
 2019年(5年目):4555人 累計削減率 44.89%
※1月6日に内容修正。2013年を0年目として追記

以上の様な推移です。2013年から3710人の減少、割合にして言えば約45%の減少です。なのでツイッター速報なるまとめサイトが言っている「安倍政権、全国のホームレスの人数を3分の1にまで減らしていた」はフェイクです。数字上で減っているのは確かですが、割合にして言えば半分も減ってませんので3分の1というのは盛り過ぎ、デマの域でしょう。そもそも該当記事の中でも3分の1という内容は見当たらず見出しのみに数字を使用している様なので記事として甚だ不誠実な内容です。ザ・まとめサイト
 付け加えて言えば民主党政権は以下の様になります。なお民主党政権は2012年に終わっていますが、先ほど書きましたよう2013年1月の調査は民主党政権による効果と考えるのだ妥当の為、2013年の調査を民主党政権の影響として表に加えています。また民主党政権は2009年9月発足となり、その年の大半は自民党政権となるため、起点を2009年にして良いのかという点はありますが2009年を一応の起点とします。

民主党政権(影響)下でのホームレス数推移】
 2009年(0年目):15759人 累計削減率 0%
 2010年(1年目):13124人 累計削減率 16.72%
 2011年(2年目):10890人 累計削減率 30.90%
 2012年(3年目): 9576人  累計削減率 39.23%
 2013年(4年目): 8265人  累計削減率 47.55%
※1月6日に内容修正。2009年を0年目として追記

4年間で7494人の減少、割合にしていえば約47%です。ちなみに各年の前年比をグラフに入れると以下のような感じ。

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 安倍政権が5年で45%、民主党政権は4年で47%と削減率は民主党政権の方が少し高めです。ただし既に記述した様に民主党政権の起点の2009年の大半は自民党政権であった事や、民主党政権時はリーマンショックからの復調、逆に安倍政権時の削減鈍化は全体の数の減少などの影響も考えた方が良いかと考えます。
 各年の減少に関しては対策と外的要因を考えねばですが、それは置いておいても全体としては減少傾向であることは間違いなしです。

◆ホームレス数減少と暗数の存在

 このグラフの出典はビッグイシューの「ホームレス問題の現状」だと思われます。なお、このページの解説において、

厚生労働省の2019年度調査によると、全国の路上で生活する人の数は4,555人。同調査の12年前の人数18,564人と比べると、8割ほど減少したことになります。しかし一方で、安定した住居がない状態でネットカフェ等を利用する人は、都内だけで一晩に4,000人いると推計されています(2018年 東京都調査)。いわゆる「ネットカフェ難民」をはじめとする、統計に現れない「見えないホームレス」の数を合わせると、甚大な数の人が、今も不安定な居所で夜を過ごしていると考えられます。

とあるようにこの統計には欠陥が指摘され、相当な暗数がある可能性があります。つまりは「ネットカフェ難民」の存在です。上記記事にある2018年の東京都調査「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」では、

(1)のオールナイト利用者概数約15,300人のうち、インターネットカフェ等をオールナイト利用する「住居喪失者」は東京都全体で1日あたり約4,000人(オールナイト利用者に占める構成比25.8%)、そのうち「住居喪失不安定就労者」は約3,000人(住居喪失者に占める構成比75.8%) と推計される
http://www.metro.tokyo.jp/tosei/hodohappyo/press/2018/01/26/documents/14_01.pdf

とあり、東京のみで約4000人ほどの住居喪失者がいると推定されています。なお調査においてはネットカフェ難民(住居喪失者)はいつもネットカフェにいるのではなく、「寝泊まりに路上を利用している者は「週に1~2日程度」が57.2%」とあります。この推定4000人という数の中には路上での寝泊まり者を含み、この路上寝泊まり者が厚労省の調査に入っている可能性があるのでネットカフェ難民の推定4000人が厚労省調査のホームレス調査にそのまま上乗せされるわけではありません。しかし、実際に調査すればそれなりの上乗せになるのは事実でしょう。
 それと大体4年間隔で行われている厚労省の2016年の「ホームレスの実態に関する全国調査(生活実態調査)」では、

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という様にホームレス生活者の高齢者層(65歳上)の増加とともにそれ以外の年齢層の低下が見受けられます。しかし東京都の調査によればネットカフェ難民の年齢層はこれらの低下した年代で占められています。つまりは路上にはいなくなったが、ネットカフェなどへの移行が見られると言ってもそこまで過言ではないと考えます。
 またこのネットカフェ利用による調査は対象が東京のみの数字であり、全国で見ればこの数が増えるのは確実です。ちにみに厚労省の調査ではホームレスの中で東京の占める割合は約2割。これを単純にネットカフェ難民にあて嵌めれば2万人程となります。実際にはネットカフェの数が多い東京の割合が多くなるとは思いますので2万という数字はないでしょうが、それでも4000人の倍以上には増えてもそこまでおかしくはないと考えます。なお2007年の厚労省の調査ではネットカフェ難民を全国で約5400人と推定していますが、東京都の4000人という推計を考えると増加傾向の可能性もあります。いかんせん定期的な調査がないので推測になってしまいますが。
 単純に厚労省の調査のみで減ったと言っても、そこには漏れている数は相当あるはずです。

厚労省における調査へのその他の指摘

 暗数以外にも調査の欠点が指摘されています。たとえば図録▽ホームレス人数」において、

調査方法については「昼間に街中を見回るだけで「テントや段ボール内の確認、本人への聞き取りはしていない」(都福祉保健局)という。ネットカフェなどで夜を過ごす人や昼間に働いている人は漏れてしまうという」(東京新聞2014.2.16)。

という指摘が存在します。これについては同様の継続的調査をしていればその数の動向は使えますので増減把握としては問題は無いかもしれませんが、とはいえ仮に夜のホームレス状態の方が増えた場合には厚労省の調査からはこぼれる事になります。またこの夜のホームレス数ですが、福祉新聞2016.2.9において、

3区内の路上生活者は渋谷区が189人、新宿区が366人、豊島区が116人と計671人という結果になった。
 一方、同様の調査は東京都でも毎年実施している。15年1月時点では、渋谷区が89人、新宿区が70人、豊島区が47人の計206人。ARCHによる調査の3分の1の水準となっている。この理由について、都福祉保健局は調査した時間帯の違いが大きいとみる。
深夜の路上生活者数、昼間の3倍 東京の学生らが独自調査

とあります。この指摘での比較対象は都の調査との比較ですが厚労省調査においても似た様な状況でしょう。
 また厚労省による調査は「目視調査*1」であり、調査場所は「都市公園、河川、道路、駅舎、その他の施設」となります。「その他の施設」があるのでそこまでの調査漏れが起きることはないでしょうが、目視調査の為に公園や河川などの場所からホームレスがいなくなればその数が少なくなる可能性は存在します。つまりは昨今時折話題になる「排除アート」や公園からの追い出しなどによってホームレスを物理的にその場所から昼の間だけでも排除すればその数が少なくなるかもという可能性です。
 こちらのNHK記事「【特集】東京“ホームレス” (1)東京2020の影で 明らかになる実態 - 記事 | NHK ハートネット」には写真とともに、

公園での寝泊まりを禁止する表示や、路上生活者の手荷物が置かれていた道路脇には、新たにコーンが設置されていました。

とある様に行政側は公園、路上からの追い出しをしようとしている意図が見受けられます。ここで追い出された方々が何処に行きつくのかまでは分かりませんが、こういった追い出しによって調査から漏れ、ホームレスの「調査上の数」は少なくなっている可能性も考えねばなりません。

◆政策について(簡単に)

 最後にさらっと政策の話について。厚労省の調査上ではホームレスの数は安倍政権以前からおしなべて減少傾向であり、安倍政権そのものの大きな対策によって減少していたというよりも政権以前からの政策が機能していたと考えるのが妥当でしょう。以下のような指摘も存在しますし。

厚生労働省の調査によると2003年の25,296人という野宿者数が(厚生労働省、2003)、2018年には4,977人にまで減少(厚生労働省、2018)した。野宿者数の減少は、2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(以下「ホームレス特措法」)に基づいた施策などの効果や社会経済などの環境の変化などの総合的な結果だと考えられる。
岡本 祥浩『日本のホームレス問題と総合的政策の必要性

安倍政権下において言えば「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針(平成30年7月31日厚生労働省・国土交通省告示第2号)」というのがあります。この方針自体はホームレス特措法に基づくものですから、やはり原点は2002年から連続している流れです。
 なお上記論文内では貧困ビジネス、脱法ハウスの存在が指摘されています。トランクルームで生活する方や車上暮らしという新しい形態のホームレス状態の方々がいます。彼らは今現在日本の調査上におけるホームレスではないのかもしれませんが、その居住状況は良いもとのは言えないでしょう。ホームレスの数そのものが減少したことは確かでしょうが、しかしその反面劣悪な住環境で暮らす人間が増えている可能性も存在する事には留意が必要ではないかなと。

 押し入れに詰め込めばキレイに見える部屋状態になってるかもですよ。

ルポ 若者ホームレス (ちくま新書)

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*1:「目視」なので対象が着込んでいる場合には性別が分かりません。なので厚労省の調査には性別「不明」がわりと多いです。年度によっては「女性」よりも「不明」が多い。また目視調査の為にネットカフェなどの場合は判断不能ということなのでしょう。