電脳塵芥

四方山雑記

韓国へのフッ化水素の輸出量が全然回復していない

news.mynavi.jp

 というニュースが少し話題で、このブログでも何回かフッ化水素についての話をしているので今回もちょこっと触れておきます。上記の記事については森田化学工業の利益が減った、韓国国内でほかの素材含めて作っているという兆候が見られるというようなものですが具体的な数値については書かれていなかったので、そこらへんについてでも。

フッ化水素の輸出量の推移

 具体的な数値については貿易統計のe-statから。品目コードは「281111000」。そして2018年からの日本からのフッ化水素の主な国への輸出量推移は以下の通り。

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御覧の様に2019年7月という韓国への実質的な輸出規制以降輸出は激減しており、その数値は現状においても一切回復しておらず輸出量が多い月でも50トンほど。2019年の多い月には350トンというのを考えればこれが如何に少ない輸出量は語るまでもありません。そして韓国以外の国はその激減した韓国の輸出量よりも低い値です。それほどまでに韓国は「大きな市場」だったわけです。森田化学工業の利益が減るのもむべなるかな。
 さて、これだけなで終わりにするのも何なんで。では韓国の貿易統計ではフッ化水素の輸入はどうなっているのか。韓国も当然ながら貿易統計が公開されています。ただ日本とは品目コードが異なり、韓国においてフッ化水素のコードは「2811-11-1000」(日本は9単位、韓国は10単位コード)。なおこのコードの違いによって詳細な区分けが異なっており(韓国は半導体フッ化水素のみを表す)、その影響によって韓国では日本に輸出したフッ化水素が消えた、その差分が北朝鮮に流れたのでは、というような話があったようですがそれはこの品目コードによる違いだそうです*1
 閑話休題。で、韓国のフッ化水素の輸入量はというと。

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以上の通り。詳細な内訳ルールの違いからか日本の輸出量の動きとは若干異なるが大筋では類似の動きを示していることが分かります。で、この流れを見ると日本が減った変わりに台湾の上昇がみられるものの、それは一時的なもので日本による輸出量が回復しないうちに台湾の輸出量が減少していることが見受けられます。中国に関しても日本をカバーするような動きは見受けられません。これは日本が輸出していたフッ化水素が高品質で中国では代替できなかった、若しくは中国や台湾側の生産量的にそこまで増やすことができなかったなどの理由が考えられると共に、韓国ではフッ化水素不足に困窮しているという記事がほぼほぼ見当たらないということを考えた場合、韓国国内での生産が根付き始めている可能性を指摘できます。統計データもないために憶測になってしまいますが。
 なんにせよ。日本の行った韓国への実質的な輸出規制は韓国における日本企業のシェアを殺す施策であり、そして現状を鑑みるにこのまま回復することは難しそうってことです。日本の技術力を妄信したのか、韓国の技術力を侮ったのか分かりませんが、その市場を当時の政府(主に経産省)の判断により失ったのだから大きな失策としか言えないでしょう。言い訳に韓国側の輸出管理を挙げていますが、実質的には徴用工判決の報復であったことを考えたとしても、理も益も長期的視点もない一時の感情的な判断でしたね。

おまけ 韓国への輸出額推移

 ちなみに韓国全体への輸出額だけを見れば大きな下落は見えないものの若干下降傾向に見えなくもありません。

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ただ今年などはコロナ禍という不買運動よりも大きな影響があるでしょうから一概に何が原因とまでは言えないと思いますが。とはいえ例えばフッ化水素と似たような話題で出た韓国へのビール輸出などを見てみると以下の様に顕著に不買運動の影響とともに日本のビール市場がほぼほぼ崩壊している事が見て取れます。

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ここまで失った市場を取り戻すのは難しいでしょうから、返す返すも重大な失策としか言いようがない。