電脳塵芥

四方山雑記

元自衛官による熊本地震後に阿蘇市であったという「在日」に関するツイートについて

記事の最後の方に答え合わせがあります。ざっくり見たい方は最後だけ見ても大丈夫。

 というツイートから始まるツイートツリーがありました。上記のツイートはその内容がツイッターの規約に違反したらしく削除済みですが、現在も文面をマイルドにした再投稿があります。さて、このツイートツリーの内容は長いので全てをここに貼れは出来ませんが内容を要約すると、

熊本地震時、在日朝鮮人と思われる人間が指定避難所には避難しなかった
・上記の在日朝鮮人避難所にやってきて支援物資を人数を偽って過大に要求した
・支援物資を届けに行くと教会には太極旗と民団の旗が掲げられていた
・教会周辺を聞いた市の職員がその場所を「朝鮮部落」だと言った
・支援物資を持ってきた自衛隊が帰る際に石を投げつけられた
阿蘇市の職員が自殺した痛ましい事件は在日朝鮮人のせいだと言っている

という様なものです。なお何故熊本地震時の「阿蘇市」と断言するかというと、

K県A市と匂わせつつ、その後に

という阿蘇市のニュース記事を持ってきているからです。さらにこれらへのツイートへの批判が高まるとこの「さくらパパ」を補足するかのような「阿蘇の神は山の神」というアカウントが現れます。そのツイート内容は以下の通り。

・火事場泥棒は教会にいたと言っている
・(自衛隊が)教会から日本人女性4人救出した
・帰りに石を投げられたのは女性を救出したから

ちなみにこの「阿蘇の神は山の神」という方は阿蘇市役所職員を自称しています。この自称「阿蘇市役所員」が言っている事が本当ならば許されべかざる事であり事件化していてもおかしくありません。というよりも事件化していなければおかしいレベルの事を言っています。
 さて、これらのツイートや貼られていた写真について。

在日朝鮮人が)避難したという「教会」

 これは在日朝鮮人が指定避難所ではない「教会」に避難しており、そこから指定避難所に支援物資を要求、そこは市の職員が「朝鮮部落」、そしてその場に行くと民団旗や韓国の国旗が掲揚台にあげられていたというエピソードです。
 まず添付された写真ですが、この写真は阿蘇市どころか熊本地震時の写真ではなく2018年4月の福岡県舞鶴公園における花見の写真と思われます。画像の出典はおそらくおーぷん2ちゃんねるのスレッド(その1その2)。そしてその写真を以下のツイッターユーザーが使用して少し拡散という経緯です。

この件についてさくらパパ氏が指摘を受けると「画像参照」でありイメージしやすい写真を持ってきたと言っています。そしてなぜこの写真を使用したかといえば、

画像は民団が桜のある公園を占拠して花見をしているニュースからの引用です。

と書いてありますが、この写真は当然ながら一般誌でニュースになってはいないですし、大手(?)まとめサイトの記事も見当たりません。「気になるツイート : 【花見独占】「民団旗と韓国旗を掲げてお花見、福岡市 誰も近くに寄り付かないから独占できます。」」というブログ記事はありますが、おそらくはその程度の拡散です。逆に言うと、これについては氏が普段どのような世界を見ているかの証明にはなっていると考えられます。
 そして「教会」ですが、「牧師」という文言がある事からこれらはキリスト教系と考えるのが妥当でしょう。そして阿蘇市にある教会は、

ゴスペルホーム・グローリー教会
(地図)

栄光の福音キリスト教
(地図)

一の宮キリスト教
(地図)

の3つになるかと思います。なお世界平和統一家庭連合による「熊本阿蘇家庭教会」もありますが、こちらの教会の住所は熊本市なので阿蘇市は関係ないでしょう。まず各々の教会の写真を見ると国旗が掲げられたという「掲揚台」が見当たりません。写真の角度的に見えないという可能性がありますが、少なくとも旗の件はこれから見ても怪しい。また氏の発言が真とすればこのうちの教会の一つは「朝鮮部落」の教会となり、その数は9家族30名と記述されています。ただし地図を見ればわかりますが、いずれの教会も周囲には9家族以上の家がある事は確実でしょうし、「朝鮮部落」なるものとつなげての在日の為の教会というのは地図上からも違和感しかありません。それと阿蘇市には「阿蘇市部落差別等撤廃・人権擁護に関する条例」があります。そもそも「朝鮮部落」の存在も真実とは思えませんが、市職員が軽率に「朝鮮部落」という発言をするのには違和感を覚えます。平成18年と情報は古いものの「阿蘇市人権教育・啓発基本計画」もあり、同和問題にも市として取り組んでおり、軽率な発言をする市職員がいる可能性もありますが、それにしても同和問題を考えた場合、あまりにもこの時点での発言が本当に行われているならば軽率すぎる*1。 また下記ツイートの様に「40名」くらいが該当教会には少なくともいるとのことですが、いずれの教会も写真からは40名を収容できるかは微妙なラインに見受けられます。あと、阿蘇市には民団の支部もないので民団の旗を揚げるのも謎。

阿蘇市における朝鮮・韓国籍の人数


 阿蘇市における朝鮮・韓国製の人数は法務省【在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表】から確認可能です。熊本地震が発生したのが2016年。その直前の調査である2015年末の韓国国籍の人数は「12人」となります。

また現在遡れる2006年の調査では「15人」となっており、ある程度長いスパンで見ても阿蘇市には10人中盤程度の人数しかいません。この人数で市職員が言ったという「9家族30人」は人数的に考えて矛盾しています。この件についてツイッターさくらパパ氏に指摘したところ、帰化二重国籍というワードを頂きました。だから実際の外国籍登録者よりも自分の見た在日の数は多いだろうという事でしょう。そのパターンは考えられなくもないですが、それについては調べようもありませんので言及は避けますが、あまりにもネット右派のテンプレ的な返しで辟易。

火事場泥棒、日本人女性4人救出話について

 正直、検証する必要あります? と思ってはしまうのですが、この件については内閣府防災の「平成 28 年(2016 年)熊本県熊本地方を震源とする 地震に係る被害状況等について」に震災後に起きた犯罪検挙状況が記述されています。

このうち阿蘇市の検挙は以下の2つ。

熊本県警察は、阿蘇市内の避難者宅から掃除機を窃取した空き巣事件の被疑者を通常逮捕(H28 6/21)。さらに、同市内において同じ避難者宅から現金6万円等を窃取した事実が判明したことから、同人を邸宅侵入・窃盗で追送致
熊本県警察は、阿蘇市内の避難者宅から金品を窃取しようとした窃盗未遂事件の被疑者として、別の事件で逮捕されていた被疑者を追送致

以上の窃盗案件二つです。この窃盗犯が「教会」関係者かは不明なのでその点についての言及は避けますが、もう一つの話である「自衛隊」が「日本人女性4人を救出」したという話は含まれておりません。もしもこの救出劇が真実であり、また「市職員」なる存在も知っている事ならばこの件はもっと大々的にニュースなり、こういった資料に書かれていなければおかしいでしょう。上記の資料は「避難所で少女にわいせつ動画を見せた」という案件についても記述されているものです。そのレベルのものが載っており、救出劇が書かれていないのは違和感しかありませんし、もしもこれが表立って語られて(報告されて)いなければ自衛隊、及び市職員らの職務怠慢に当たるレベルの出来事です。

阿蘇市に問い合わせてみた

 さて長々と書きましたが答え合わせの様なもの。阿蘇市にこの件について問い合わせてみました。メールで問い合わせた内容は「さくらパパ」、 「阿蘇の神は山の神」の両者のツイートをかいつまんで説明をし、その内容に妥当性があるかどうかの質問です(記事の最初にある要約は問い合わせの流用)。なお市職員の自殺、朝鮮部落なる存在はプライバシーや差別の再生産になる事から返答が難しい場合にはしていただかなくて大丈夫としています。で、その返信結果は以下の通り。

結論から申し上げますと、本市では(私の名前)からの投稿内容にあるような事実を把握しておりませんし、職員誰一人として耳にしておりません。 また、本市の地域では余り馴染みのない言葉もあり、作り話ではないかと思われます
熊本県阿蘇市
総務部総務課

職員誰一人として耳にしておりません
作り話ではないかと思われます

これが結論でしょう。



■お布施用ページ

note.com

*1:「部落」は「集落」という意味で使う地域もある為にここでいう「朝鮮部落」が差別的な意味での「部落」かはやや不明ではあります。また同和問題を考えた場合、朝鮮部落と同和問題は位相が少し異なる問題ではあるので「朝鮮部落」という言葉自体に違和感がありますし、「在日朝鮮人の集まる集落」という可能性もあります。かなり好意的にとらえた場合、ですが。