電脳塵芥

四方山雑記

名護市へ選挙の為に引っ越しした人がいるという話について

 こういった「選挙の為によそから引っ越してきた」話は古くからある話ですが、この辺野古(名護市)についての話をば。ちなみにこのキャプチャ画像は2015年3月9日放送の番組で2014年の名護市市長選の話を受けてのもの。2020年の今使うのは如何なものかであるし、そもそも根拠のない個人の感想レベルの話がされてるだけなんですけどね。さて、この件については

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以上のページに人口の推移などから選挙時に転入が増えていないというデータを示し上記の話はデマという話が為されているので、ここで説明しなくても良いかなーと思ったのですが、付け加えられそうな部分があったので記事化しておきます。 

 まず、上記の既存の検証の簡易振り返りですが以下の様な人口推移が示されています*1

以上の事から名護市への人口増加は緩やかな増加傾向であり、2014年の名護市市長選に合わせての特異な上昇は見受けられません。たとえ「選挙の為によそから引っ越してきた」が本当にいたとしても数十人レベル、どんなに多くても4桁には絶対にいかないことはグラフから明らかです。

名護市への転入者の転入元

 ここからは上記の検証にはない要素。国が提供している「地域経済分析システム(RESAS)」(※参照データの出典は「住民基本台帳人口移動報告」)というものがあります。これを使うと便利なことに市町村毎の転入者が何処からきたのかの情報が参照可能です。さて、名護市への転入者は何処から転入してきたのか。デマでは内地から来た多数きたというパターンが多くありますが……。

【名護市への転入数上位5地域(2010~2019年)】
※グラフの年数がおかしいのRESASの表示が元からおかしいからです。

以上の様に上位5地域はすべて沖縄となります。さらに転入元地域全体で言うと(名護市市長選のあった2014年をここでは表示)。

【名護市への転入者数内訳(2014年)】

「その他」が沖縄県外からの転入者。一目瞭然ですが、名護市への転入の過半数は県内からとなります。バリエーションの一つに「内地から2000世帯が引っ越し」というデマもありますが少なくとも数字上、その数はあり得ません。また2010年から2019年までの名護市への転入人口と沖縄県外からの転入人口は以下の通り。

上記の表でもわかる様に選挙に合わせた人口増加(引っ越し)は見受けられません。ちなみにどの県からどれくらい転入してきたのかは地域経済分析システムだとわからないのですが(多分)、手っ取り早く調べる方法として今度は埼玉県が作った「全国の市区町村別移動人口見える化ツール」が活用可能です。これは国勢調査がデータ元で5年毎の調査ですので上記の地域経済分析システムとはデータ間隔などが異なり数字の規模も若干異なりますが、それでも傾向は同様だと思いますので参照に用います。それによると、沖縄県以外からの転入者の傾向は次の通り(上位30位)。

以上の様に鹿児島、大分などの九州、そして東京都市圏が上位にいるというものであり、人口規模や沖縄との距離などを考えればほぼほぼ妥当なものな様に見受けられます。少なくともどこかの集団が一気に引っ越したと考えるのは5年間という間隔があれど考えにくいかなと。それと名護市が製作した「第5次名護市総合計画策定に向けての基礎調査報告書」のアンケートによると名護市への転入理由は以下の様になります。

「就職・転勤・就学」という妥当な理由が一番であり、他も大体妥当なものと見受けられます。まぁ「選挙の為に引っ越した」と答える人はいないでしょうが……。
 とはいえ。少なくとも県外からの転入者数推移を見る限りは内地から大勢選挙の為に転入してきたとは言えないでしょうし、選挙に合わせた引っ越しも見受けられません。それと本当にそれだけの転入により選挙結果が影響が生じた可能性があるならばバレないのは難しく、市議会等でも議題に取り上げられても不思議はないでしょうが、名護市市議会の議事録にはその様な触れ方は管見の限りされておりません。
 既に指摘されている通り、デマじゃないですかね。大体、思想が異なる候補が勝ったから内地から人が~、というならば2018年名護市長選挙で国政与党側(反オール沖縄)が勝ったのは同じく選挙の為に内地から人が~といえてしまうわけですが。それとデマに迷惑している辺野古住民もいれば、デモをする辺野古住民もいる。民主主義に限らず市民の思想とその方向性が皆同じなわけがない。デモしている人間が辺野古(沖縄)の人でないというならば、思想が民主主義に向いてない。


1月25日追記

 ツイッターでまた同じ話題をしている人がいたのでこの記事を示したらそれでもまだ説得力がなかったらしかったので、名護市に直接問い合わせてみました

まず第一に聞いたことはそもそも不正選挙があったという認識やその調査をしたことがあるか。それについては以下の様な回答。

名護市選挙管理委員会に置きましては、過去に市長選前後での転入・転出に係る不正があったという認識はなく、そのためそれに関する調査を行ったこともございません
投票権を得るためには選挙人名簿に登録される必要があり、登録の要件として、住民票が作成されてからその市町村で引き続き3ヶ月住民基本台帳に登録されていること、というものがあります。上記の要件により、選挙の直前に引っ越しをしてきてすぐに投票できるというものではありません。

という様に名護市の選管においてそのような不正があったという認識はありません。そしてもう一つはデータとして立証したいので月ごとの転入・転出数はないのかという質問。それに関して一定程度の過去分はもう廃棄したものの参考になりそうなデータがあるHPとして「[https://www.pref.okinawa.jp/toukeika/estimates/estimates_suikei.html」を提示されましたので、自力で調べてみました。

■名護市転入・転出推移

■名護市人口推移

 以上の二つのグラフを見ればわかる様に選挙の三か月以前に明らかな転入数や人口増加は起こっておらず、また選挙後の転出数は年度末絡みで増加してはいるものの選挙の年が他の年と比べて大きく転出しているようには見受けられません。以上のことから少なくとも例え選挙目的で引っ越しをした人間が仮にいたとしてもそれは選挙の数を左右できるほどの数ではありません。あと2010、2014、2018年の選挙結果の得票数は以下の様なものです。

<2010年名護市市長選>
稲嶺進 64 無所属 新 17,950票 52.31%
島袋吉和 63 無所属 現 16,362票 47.69%

<2014年名護市市長選>
稲嶺進 68 無所属 現 19,839票 55.85%
末松文信 65 無所属 新 15,684票 44.15%

<2018年名護市市長選>
渡具知武豊 56 無所属 新 20,389票 54.6%
稲嶺進 72 無所属 現 16,931票 45.4%

名護市に選挙を云々のデマは2014年あたりから出ており、その発火点は櫻井よしこ根拠薄弱な話*2あたりだとは思うのだけれど、2014年(稲嶺勝利)と2018年(稲嶺敗北)の選挙結果を見るとどこ行ったんですかね、その引っ越してきた人たち。地元市民が目覚めた! という解釈も出来なくもないですが、ただ2018年は維新、公明が支持に回ったこと、渡具知氏が辺野古の争点化を曖昧にして政権との繋がりが功を奏したのではないかなど言われてますしね。
 やっぱりデマだと思いますよ、選挙目的で引っ越してきた人。ゼロであることは立証できないですが、ただ少なくとも選挙を多少なりとも影響のある人間の移動は見受けられません。何より名護市選管もそういった不正はないものと思ってますし。



■お布施用ページ

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*1:記事の中のリンクにあるトゥギャッター内の画像

*2:沖縄の人口は増加傾向という稀有な地域にも拘わらず有権者増加に疑念を抱くという意味の分からない陰謀論。それと若者は減って大人を減っている事をいぶかしんでいるが、若者は大学進学などを考えれば減っても不思議はない。ミクロの視点(名護市)だけを持ちマクロの視点(沖縄県)を持たないのはジャーナリストとしてあまりにも致命的。なお、関係者が”「本土から基地反対勢力が住民票を移してきたと思います。一軒の家に10人単位で住民票が移されたりして、選挙管理委員会に調査を要請しても取り合ってもらえなかったのです」”という証言もあるが、「一軒の家に10人単位で住民票が移された」というの、「関係者」はどうやって知ったんですかね。これがデマかどうかを判断するのは市役所の住民票を調べない限り無理だと思うのですが、正直この手の話にありがちなデマとしか思えない。それと「しかも、彼らは住民票を移して何年間もずっと選挙権を保有し続けているのだ。」という記述もあるが、どのような信条を持っていようが何年間も選挙権を保有するためにそこに住んでいる(住民票をもっている)ならそれはもはやただの名護市の住民としか言えない。