電脳塵芥

四方山雑記

生活保護批判と自民党について

6月15日の参議院決算委員会で以下の様な安倍首相の発言がありました。

安倍首相「先ほど田村委員は一部の政党が生活保護に対して、攻撃的な言質を弄しているという主旨のお話をされましたが、それは勿論、自民党ではないということは確認しておきたいと思いますが…」
安倍首相「生活保護バッシングをしたのは自民党ではないと思います」 いえいえ完全に自民党です(藤田孝典) - 個人 - Yahoo!ニュース

これは引用先の指摘にある様に端的に言って嘘です。自民党は一時期に世間に存在した生活保護バッシングに同調しており政治的な行動・発言をしています。ただし、それに対する指摘が上記のページでは薄かった、というよりも議員個人に関する情報が多かったのでそれへの補足的なものを紹介しておきます。

 そもそも生活保護バッシングですが、もともとネット上の一部で生活保護を揶揄するネタやバッシングの対象として扱われていたという下地が存在します。これが何時頃から「ネタ」として扱われていたのかは分かりませんが、少なくとも00年代には既に揶揄としてのある用語が使われています。ちなみに2012年4月の生活保護バッシングは芸人の親の不正受給(実際は不正受給とはいえず、あっても道義的な問題)が話題になりましたが、自民党はその話題になる前から民主党政権生活保護を批判しています。
 まずわかりやすい起点で言えば2012年3月1日には「生活保護PT」が自民党内に発足しています(茂木敏充政務調査会長 記者会見 | 記者会見 | ニュース | 自由民主党)。そしてJimin NEWSなどの情報を見れば幾たびか話題にしており、例えば、

民主党政権下で、生活保護費は25%以上膨らんでいます。
民主党のように「自助」を飛び越えて、いきなり「公助」を前面に「誰でも助けますよ」と言っていたら、どんな社会になるのでしょうか
(中略)子ども手当や最低保障年金と同様に、民主党社会保障政策は、全て公助からスタートするので費用だけが一方的に増幅していきます。自民党は、自助を基本に、共助、そして公助を組み合わせていきます。日本の本来の姿である勤勉な国に戻すのか、全て他力本願で自助努力を怠る国にしてしまうのか。今、私たちは、その岐路に立っています。 f:id:nou_yunyun:20200619231916p:plain 2012年3月28日The Fax NEWS

であるとか、

日本の再起のための7つの柱(原案
4.自助を基本とし、共助・公助が補う安心の社会づくり
民主党政権のように「自助」を飛び越えて、いきなり「公助」を前面に出し「誰でも助けますよ」という社会では、早晩、国は立ち行かなくなってしまいます。現に民主党政権になってからの3年間で、生活保護費は実に25%以上も膨らんでしまっています。
私たちの考え方は、まず「自助」が基本です。個々人が国に支えてもらうのではなく、自立した個人が国を構成するという考え方です。私たちの社会保障政策、年金・医療・介護・少子化・若者対策など全ての政策にこの考え方をあてはめていきます
2012年4月13日The Jimin NEWS

であるとか、

「手当より仕事」を基本とした生活保護の見直し
そもそも民主党社会保障の考え方は、国民を自立させるのではなく、「公助」を前面に出して「誰でも助ける」というものです。その顕著な例が、政府が出した生活保護の通達です。
(中略)生活保護政策についても、自助・自立を基本に共助・公助を付加するという視点から、生活保護の見直しを実現します。そして、生活保護を最後の安全網として真に必要な人に行きわたる制度として機能させ、国民の信頼を取り戻します。
2012年4月16日The Jimin NEWS

などなど。いずれも自民党の価値観が良くわかる内容であるかと。民主党政権下における生活保護、というよりも自民党はそこにあった「公助」という性格を否定していると捉えても言い過ぎではないでしょう。ちなみに自民党が言うところの「真に必要な人に行きわたる」はお金を渋りたいという言い換えと捉えて良いと考えます。そして「自助」を「社会保障政策、年金・医療・介護・少子化・若者対策など全ての政策にこの考え方をあてはめて」という下りは偽らざる自民党の本音でしょう。少子化に「自助」を当てはめるのとかは少子化を解決する意思がないとしか思えませんが。
 こういった生活保護への批判が結実して、2012年5月31日「日本の再起のための政策」という政策集に以下の「生活保護の見直し」に関する項目が入ります。

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そしてさらには2012年12月の選挙の自民党公約集「J-ファイル」において以下の様に「生活保護制度について」という公約が盛り込まれます。

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Jimin NEWSの様な過激と言ってもよい文章はなりを潜めていますが、提案される内容は叩き台から受け継がれたものです。ちなみに自民党が政権を取ってからの2013年に生活保護法は改正されて、公約は達成したと言えるのかもですが、こういった背景を考えればこの生活保護法改正の思想は「公助」ではなく「自助」への転換を狙ったものと捉えてもあながち間違いじゃないでしょう。民主党政権下での批判で生活保護費の支出が増えている、Jimin NEWSの方では政策が達成されれば生活保護費を3.7兆円削減できると喧伝していますし、とにかく支出を控えたいという思想も多分にあるのでしょうが。
 ちなみに安倍政権下含め、長期的な年次推移は以下の通り。

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安倍政権下で被保護人員の伸びは止まり、減少に転じています。この要因については調べてないので生活保護を受けなくても良い人間が増えたのか、水際作戦による申請拒否が増えたのかなどは分かりません。他にも要因はあるでしょう。ただ一つの事実として積極的な「公助」を否定して「自助」を訴えた政党が長く政権についている間に法改正も行われ、被保護人員は減った。「自助」で助かった、なら良いのだけれど。

生活保護リアル

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