電脳塵芥

四方山雑記

【デマ】「北海道へ中国人500万人移住計画」について

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という画像であったり、

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という画像であったりと、知らない人も多いでしょうがここ最近(でもないですが)ネット右派界隈で北海道に関する動きがやや活発化しているように見受けられるのでその話を。

北海道へ中国人500万人移住計画

 上記の画像の発端が何であるかは1つではなく複数あるのですが(アイヌ、中国人による土地売買など*1)、ここではこの動きの中核の一つである「北海道へ中国人が500万人移住」という話があります。まぁ、手っ取り早く言うとデマなんですが。
 この「中国人500万人移住計画」を危機感として広めたのは2016年から産経新聞で始まった連載「北海道が危ない」が発端の一つであると考えます。例えばこういう記事がまずあります。

2016.10.7
【北海道が危ない 第3部(下)】
10年後は「中国32番目の省」…「中国人に不動産を斡旋する最終目標は永住だ」
一部中国メディアの間では、北海道は10年後、中国の第32番目の省になると予想されているほどだ

上記の話にある「一部中国メディア」の記事については、上記の産経新聞の記事を受けての記事自体は見当たるのですが*2、どうにもこの産経新聞以前の話は見当たらない。そもそもこの件については良くあるつっこみですが中国は23の省、5つの自治区、4つの直轄市、2つの特別行政区という構成なので「32番目の省」って中国メディアが書くとは思えない。事程左様にこの産経新聞の記事は情報の信用性はかなり疑問符が付くものの、その後にも時折界隈でこの「北海道が32番目の省」と使われている様に後々に影響を残している連載です。そして移住については以下のような記事があります。

2017.2.25 12:00
【北海道が危ない 第4部(中)】
中国資本の影が忍び寄る「北海道人口1000万人戦略」のワナ “素性”不明の発電所が多数存在…跡地は誰も把握せず
平成17年5月9日、JR札幌駅近くの札幌第1合同庁舎で、国土交通省北海道開発局の主催で「夢未来懇談会」なる会合が開かれた。懇談会では通訳や中国語教室などを手がける北海道チャイナワーク(札幌市)の張相律社長が、「北海道人口1000万人戦略」と題して基調講演し、参加者を驚かせた。
(中略)
関係者によると、1千万人のうち200万人は移住者とすべきだと力説したとも言われる

2017年2月25日の記事ですが、ここでは国籍は限定されていませんが200万人の移住者が想定されています。なお、この記事内で講演をした張氏は「32番目の省の話は大陸でも言われている」との発言が書かれてますが、正直上記の省の数から考えてもかなり眉唾な発言でしょう。
 さて、この時点では移住者は200万人でこれがすべて中国人だとしても500万人には300万人足りません。それが2017年8月24日になると小野寺まさる氏が虎ノ門ニュースにて以下の様に発言しています。

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北海道の人口を倍増させると1000万人計画というのを国交省北海道開発局が出した。500万から1000万に増やすのにその差をどう埋めるのかと言ったら中国人で埋めるといったんですよ!

「関係者」が200万人と言っていた数字が「国交省北海道開発局」となり500万人となっています。この時点でどちらかが嘘をついているとしか思えませんし、どちらも嘘をついている可能性もあります。大体、日本は移民政策を頑なに認めていないのに500万人の移民を受け入れる計画を国交省が出すという時点でありえないレベルですし、そも国交省に移民の数をどうこうする権限もないでしょうし。ただそこらへんは置いとくとして、この産経~小野寺氏の影響によって今現在も(おなじみの)アカウントがこれ系統の話を流布し続けています。以下の様に。

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時には数千RTされる状態となっており、一部では「真実」として受け入れられているであろうことが観測できます。

「夢未来懇談会」について

 このデマは2005年に開かれた「夢未来懇談会」が発端で、じゃあその夢未来懇談会とは何かですが、それは以下のようなものです。

おおむね20~30年後の北海道の中核を担うであろう若手の経済人・研究者にお集まりいただき、様々な視点から北海道の将来像を検討するための「北海道夢未来懇談会」を開催
夢未来北海道・夢を実現する35の鍵 ~北海道夢未来懇談会の活動と提言~

で、その中に今回のデマの発端を発言した張相律氏がいます。さて、現在夢未来懇談会についてのページは消えていますが、アーカイブには残っています。その第6回において張氏の報告が以下の様にまとめられています。

資料3「北海道人口 1,000 万人戦略」説明
・ 北海道人口を 1,000 万人にという目標は、科学的根拠があるわけではないが、北 海道の面積、食料自給率から可能と考え掲げた。
・ 北海道の人口を 1,000 万人にする戦略は以下のとおり。
※一部略
外国人労働者を受け入れ、産業コストを下げることにより、安くて安心な衣食住を提供する。
③ 北海道独自の入国管理法を制定し、外国人が来道しやすくする。
外国人労働者の受け入れに伴う安い労働力と、広い土地を活かした企業誘 致を行う。
⑤ 災害対策を含め、北海道の長所を売りに国内からの移住者を増やす。
グローバル化に対応した国際都市を建設する(中華街など国際的な街づく り)。
第6回北海道 夢未来懇談会 議事概要

さらにその時の発表の資料では以下の様なスライドショーが用いられています。

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以上は今回の論旨に近いところのピックアップですが、まず張氏は外国人労働者や観光客を道民の予備軍としていますが中国人と限定しているわけではありません。あえて言えば中華街など国際的な街づくり程度が国籍に紐づく話ですが、それ以上の話はなされていません。また「移住者を200万人」とあり、現在流布している「500万人」ではありません。これは現在の北海道人口が500万人程度なので、1000万人にするためには国外移住者が500万人という雑な類推から生まれたのではないかなと。提言には「国内からの移住者を増やす」ともあり、すべてがすべて国外からの移住者を想定しているわけではありません。国内から300万人移住を想定していたら、それはそれであまりにも雑な計画ではありますが……。
 それとですが上記はあくまでも講演の一つです。残念ながら夢未来懇談会の35の提言はアーカイブにも残っていませんが、現在インターネット上で確認できる10項目35の「キーワード」には移民の話は入っていません。あえて言うなら、8つ目のキーワード「アンビシャスを集めよう!」の

北海道の夢未来について議論は尽きませんが、とどのつまり鍵は「人」 にあるのではないでしょうか。道内はもちろんのこと道外や海外から、こだわりや「アンビシャス」をもった人が集まり活躍できる場を創りましょう。海外とも対等に「コミュニケーション」を図ることができる彼らは「21世紀の開拓者」と言えるのではないでしょうか。

という部分がそれに該当するといえなくもないかも、ではありますが200万人というレベルの移民を受け入れる話として受け取るには拡大解釈しすぎでしょう。ちなみに小野寺氏は2020年1月にもまだこの話をしています。

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国で一千万人計画は策定しておらず、私はそんな事を言ってません。(中略)中国企業が出した「中国人を五百万人呼び北海道を一千万人にする」との案を絶賛

今まで見てきた様に件の会議では200万人ですし、提案企業も中国人社長というだけで北海道にある日本企業ですし、議事概要を見る限りは移民政策という意味での「絶賛」はされていません。大体、国交省という「国」の話を持ち出してきたのは小野寺氏なのですが、「国で一千万人計画は策定しておらず」というのもマッチポンプ的というか。
 ちなみにInFactの検証記事では北海道開発局に取材をしており、以下の様に開発計画課の課長補佐が小野寺氏の発言を否定しています。

北海道開発局も取材に対し「国交省北海道開発局が『北海道1000万人計画、中国人500万人移住計画』を発表したというのは、根も葉もない話」(開発計画課の横田課長補佐)と否定
[FactCheck] 「国交省、北海道に中国人500万人移住計画を発表」は誤り 3年前の動画が再拡散 | InFact / インファクト

北海道人口ビジョンなどからの情報

 北海道HPには地域創生局地域戦略課による「北海道人口ビジョン(改訂版)・第2期 北海道創生総合戦略」があります。まず、北海道は全国平均と比べて北海道の人口減少が激しいことが分かります。

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そしてその日本人の人口減少が進行中の今、外国人の人口が増えていること自体は確かです。

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ただこの外国人は人口割合でみれば2019年の平均が全国2.09%、北海道0.68%となっており、必ずしも北海道の人口において外国人の人口割合が多いというわけではありません。また必ずしも移住目的の中国人であるかというとかなり疑問であり、上記資料には以下のような理由が記述されています。

【外国人の転入理由】
・農業、水産業、建設業、製造業等の外国人技能実習生受入による転入
・観光業・宿泊業の雇用増加による外国人従業者の転入
・近隣市町村で従事する外国人労働者の居住のための転入

という様にいずれにおいても外国人労働者の受入れという側面が強いものとなっています。特に技能実習生ですが、北海道経済部労働政策局による「外国人技能実習制度に係る受入状況調査2019年調査結果報告書」の「年間受入数の推移」では以下の様な増加が見受けられます。

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人口ビジョンにおける外国人人口は2014年から2019年で約1万4千人の増加ですが、技能実習生はその間に6千人近くの増加。「受入数」ではなく「年末の在籍数」を採用したとしても5000人近くの増加となっており、いずれにおいても増加した外国人人口の大半は技能実習生です。そして技能実習生の大半はベトナム人です。

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技能実習生自体の是非はここでは置いておきますが、まず彼らは数年したら日本から帰国する方々であり、移民ではありません。またその内訳もベトナム人が過半。ちなみに「北海道における在留外国人の在留資格別状況」という資料もありますが、そこでは以下のような内訳になっています。

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多く増えたのは技能実習生、留学生、人文知識・国際業務といったものであり、永住者の増加は1000人以下。なおこの表では国籍内訳は出ていませんが、法務省の「在留外国人統計(旧登録外国人統計) 在留外国人統計」のDBを弄って中国の内訳を見ると以下の様になります。

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※中国人の数が少ない項目は表から除外しています。

中国国籍の北海道在留者は1万人ほどとなり、そのうち技能実習生が3割ほど、留学生が2割5分となり、過半を技能実習生と留学生で占めています。永住者にあたるのは2000人程度。また北海道に限定することはできませんが、「帰化許可申請者数,帰化許可者数及び帰化不許可者数の推移」では帰化数の推移が記されていますが、以下の様に中国からの帰化数はここ最近はむしろ減少傾向です。

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これらの資料から「現状」において中国人の移民が進んでいる事は確認できません
 また北海道人口ビジョンの「目指すべき将来の方向」には国内(東京)からの調査を基にした「移住」という文言はありますが「移民」という文言は見受けられません。 そして「人口の将来展望」には以下の様にあります。

今後、札幌市における少子化対策の充実強化はもとより、北海道全体として、自然減、社会減対策を効果的かつ一体的に行うことにより、本道の人口は2040(令和22)年に約460~450万人を維持することが可能となる。

という様に北海道自身は人口減少を前提にしているのが分かります。また「北海道創生総合戦略」のほうでは「① 移住・定住の促進」という項目がありますが、これは下記の様に「国内からの移住」を前提とした書きぶりであり、移民政策というには苦しいのが現状でしょう。

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※上記以外の政策も書かれていますが、長くなるので省きます。

ちなみにこのすぐ下に「外国人人材」の受入れという項目があり、これが「移民」にあたるという考えもあるでしょうし、国連による「通常の居住地以外の国に移動し、少なくとも12か月間当該国に居住する人のこと(長期の移民)」という意味では移民ではあるでしょうが、北海道行政的には労働者の受入れという思惑であり数年したら帰るという意味では「移民」ではないというロジックを用いるでしょう。甚だ宜しくないロジックではありますが。ただ、この外国人人材の受入れにしても数百万人の受入れという想定で書かれたものは到底ないことは読んでいただければ分かると思います。
 それと現北海道知事鈴木氏の選挙公約に「移住・定住の推進」があり、それについての「基本評価調書」も公開されていますが、そこで書かれていることも「外国からの移民」ではなく「国内からの移住」です。ほかの点は精査していないので言及は控えますが、この点で鈴木知事を批判するのは意味の分からない妄言を吐いているのと同義です。

結論としてはデマ

 長々と、そして冒頭にも書きましたが、北海道に中国から500万人の移民という話も北海道1000万人計画なるものもデマです。あくまでも懇談会の中で発表された報告に過ぎず、この報告は提言には反映されていません。所詮は一民間人の発想であり、なんらかの政治的影響力を持つ大物であるとも見受けられません。また現状の数字推移を見る限りでも実態としてそのようなものはなく、むしろ中国ネットではそのようなネット右派界隈の動きを奇異な目で紹介されているような様相さえ見受けられます。
 実態としては危機を煽る産経新聞と情報精査も出来ないこれまた先導者の小野寺氏による連携によるデマであり、そこに事実はありません。あるのは危機を叫んで排外感情を煽るだけ。愛国心を煽るにゃ嘘を繰り返すに限る、というくらいに嘘を吐くことが常態化してるんですよね、あの界隈。


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*1:言うまでもないですが、これらに関しては正当性を持つ批判点はなく人種差別や事実誤認を含むものが多いです。ここでは深入りしませんし、そして深入りしないほうがいいかと

*2:例えば「中资“爆买”北海道房产 外媒:或成中国第32个省-搜狐财经」。2018年の記事になると日本の右派界隈ツイッターアカウントの動きをピックアップしているネット記事まで存在してる「日本网民很焦急:“北海道快成中国第32个省了!” - 知乎」。記事を見るに嘲笑されてる?