電脳塵芥

四方山雑記

宇都宮陣営と小池陣営がつながっているという拡散画像について

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 という画像がありました。では、ちゃっちゃと話を進めていきましょう。
 まずこの画像自体の出典は2017年。

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この方が拡散元かはわかりませんが、拡散したのはこれきっかけでしょう。今拡散してるのはここに対して宇都宮氏の公約や和田政宗氏の発言を付加した写真となります。あと、「東京・生活者ネットワーク」と画像下部にありますがこの写真とはおそらく無関係でしょう。で、元画像ですがまず左。

というように「都政監視傍聴ツアー」の写真でとなります。次に右の写真ですがこれはおそらくですが、「小池都知事追っかけ隊グリーン軍団」という集団の写真です。

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なにぶん非公開アカウントの為に確証は持てませんが、写真自体はここが出典でしょう。ちなみに小池都知事追っかけ隊グリーン軍団とは当時の記事によれば、

東京都の小池百合子知事が出席する都議会の本会議や行事には、いつも「百合子コール」を送る応援団がいる。小池氏公認の「小池百合子“追っかけ隊”グリーン軍団」だ。
(中略) グリーン軍団が結成されたのは知事就任直後の8月上旬。都知事選で小池氏のイメージカラーの緑を身につけて演説を追いかけていた支持者が顔なじみになり意気投合。フェイスブック(FB)のグループを作成することになり、小池氏に関連した情報を日々共有するようになった。中心メンバーは6、7人という。
 浅野親子は小池氏の退庁時を狙って“出待ち”をすることもしばしば。都議会本会議には午前5時から並ぶ。
小池知事“追っかけ隊”はなぜ“百合子グリーン”に染まったのか― スポニチ Sponichi Annex 芸能

 

 「一番乗り」と話すのは午前5時前に都庁に到着したという中野区の浅野浩子さん(54)と長女の牧子さん(23)。浩子さんは小池知事のイメージカラー、緑色のTシャツ、牧子さんは緑のカーディガンを着ていた。「午前3時に起きて、始発で来た。小池知事の大ファン。
小池百合子知事、就任後初の都議会で傍聴券求め長蛇の列 午前5時から並んだ人も… - 産経ニュース

というものであり、要は小池百合子の追っかけで小池陣営などとは決して呼べないものです。ちなみにFBは探し方が悪いのか見つからず、ツイッターも非公開で、かつ0ツイートなので活動実態はよくわかりません。今活動してるかさえ。
 というようにそもそも該当の写真は「陣営」と呼べるほどのものではありません。ただの一般人ととらえるのが妥当。さらに言えば都政監視ツアーのツイートに、

毎日最前列で一日中傍聴を続ける「グリーン軍団」も一緒に、参加メンバーと宇都宮けんじさんと記念撮影。

とあるように都政監視ツアーとグリーン軍団が別のものである事がツイート内容からもうかがえます。これがつながりを隠すための云々と言われたらもはや反論のしようがありませんが……。

 そもそも

デマ写真を拡散、RTしているアカウントが見受けられます。2年半以上傍聴を広く一般に呼びかけてきた当方の一般参加者と、前列で傍聴されていた小池支持者との記念写真の悪意ある加工、二次使用はお控えください

 当事者の一方がデマ写真と発言し、またその経緯を述べています。悪意ある加工とも。事程左様に今回の写真も言わずもがなのデマ写真と判断していいでしょう。それと都政監視委員会のツイートのように一般の人間を悪意ある拡散は倫理にもとります。2020都知事選挙期間中だからこそやるのでしょうが、デマで行う選挙は論外です。選挙期間外でも論外ですが。騙されて投票して、いいんですか。

※私自身がデマ写真を拡散しているともいえるので、何かあればこの記事も消すかもしれません。悪しからず。

消費者金融―実態と救済 (岩波新書)

消費者金融―実態と救済 (岩波新書)

2006年の潘基文の国連事務総長出馬で日本は反対したか

ボルトン回顧録によると、潘基文が出馬した国連事務総長選挙で、無記名で1カ国だけ潘基文に反対票を出す国があった。みんなどこ?と疑問だったが、ボルトンはそれが日本だとわかった。ボルトンは日本代表を訪れ、潘基文に反対しないことを要求した。その後の投票では、反対票は棄権に変わった。

 ってツイートがありました。まぁ、昨今の日本外交から考えると不思議ではないわけですが。というわけで調べてみました!

 まずそもそもですが、この「ボルトン回顧録」は2020年現在で各地で話題になっているボルトン回顧録ではなく2008年に出版された「Surrender Is Not an Option」という過去の回顧録ですので注意が必要です。また脇道ですが、韓国圏のツイッターを見る限りこの話題をしている人は片手で数えるほどですし、拡散もしていません。最近のネット記事もなく上記の日本語ツイートのみが少し拡散されている、という現状です。ではなぜ2008年の話題がなぜ今出ているのかというと、ツイート主の情報源はおそらく韓国の左派系掲示板「ppomppu」*1で投稿されたスレッドかなと。憶測なので間違っていたらごめんなさい。
 で、2007年*2に出た記事は以下の通り。

彼(ボルトン)は特に、自分は韓国と日本の間の外交的緊張関係を考慮すると、「個人的に反対票が日本で出てきたことがあると推測した」とし「だから(国連駐在日本大使である)大島大使に会って(潘候補を)支持するように、日本政府の立場を変えること説得することに決めた」と明らかにした。
http://m.hani.co.kr/arti/international/international_general/248275.html#cb
※自動翻訳

まず前提として潘基文には賛成13、棄権1、反対1という投票がなされ、この反対1票がどこの国かとなりました。そしてこの反対国をボルトンは日本だと「推測」します。また大島大使に対しての忠告も為されて結果的に反対票は消えていますので、状況証拠的にはほぼほぼ日本といっても良いでしょう。記事の最初には「常任理事国ではない島国*3」が反対したという話も流れていたらしく、そこにボルトンの推測と合わせれば信ぴょう性は高い。大島大使も否定はしませんでしたし。ただナムウィキの潘基文の項目には以下のようにもある。

ただし、正確な物証はない脾臓ひたすら日本が反対票を投じたと思うのは難しい。実際に当時潘基文選挙陣営の外交官と側近たちは、別の候補だった、インドのシャーシクリスタル専任事務総長のコフィ・アナンとの個人的な親交のある状況であった脾臓ガーナを疑っていたし、日本はないだろうと、この本を疑っている視線もている模様。
https://namu.wiki/w/%EB%B0%98%EA%B8%B0%EB%AC%B8#s-3
※自動翻訳

というように日本の可能性は高いが、ガーナの可能性も指摘されています。当時はインドの対立候補者もおり、そこからの反対の可能性も存在します。なお、当時の非常任理事国は以下の通り。

カタール
日本
ガーナ
コンゴ共和国
タンザニア
ペルー
アルゼンチン
ギリシャ
デンマーク
スロバキア

 さて、というように日本ではない可能性を書きつつも、当時の読売オンラインの記述を見るとやはり日本かなーと思うような記述がみられます。

麻生外相は3日午前の閣議後の記者会見で、「アジアから(次期事務総長を)出すことをずっと言い続けてきた。予定通りで良かったと思う」と述べ、潘外相を支持する方針を表明した。
 そのうえで、9日に予定されているソウルでの日韓首脳会談で、安倍首相が正式に潘外相支持を表明することを明らかにした。
 次期事務総長について、日本政府内では当初、韓国が日本の国連安全保障理事会常任理事国入りに反対してきたことから、「潘氏が事務総長になれば、日本の常任理事国入りは一層遠のく」との懸念が強かった。
(中略)
2日の4回目の非公式投票で米国を含む5常任理事国が韓国の潘外相を支持していることが判明したため、日本としても「潘外相を支持し、日韓関係修復の一助とするべきだ」(外務省幹部)との判断に傾いた
(2006年10月3日14時23分 読売新聞)
アーカイブでも確認不可のよう。ネットで転がっている記事ですが右派系ブログなのでリンクは控えます。

 あ、反対してたの十中八九日本だ。反対したとまでは書いてませんが、ほぼほぼ反対していたと類推可能な内容……。日本、変わってないな。ただ麻生氏にしても安倍氏にしても昔のほうが大人な対応はできていたような受け答えなのが時の流れを感じなくもない。

余談。

 ボルトン回顧録に書いてある内容は日本が反対していたというだけと思えるので「日本は潘基文国連事務総長出馬の時も妨害しまくった」というのは本人が原本を読んで確認したなら話は別ですが、高確率で誤謬というかフェイク的なものでしょう。ネット記事にはそんなことは書いてありませんし、「反対票」が「妨害しまくった」に当たるならば他の負けた候補者はもっと妨害にあったという批判が成り立つほどの穴しかない論理です。またこの方は「妨害しまくった」ツイートの後にしれっと記事内容に即したツイートに修正しています。それが過ちに気づいた自己反省なのか、うざいうざい私が指摘したからの修正なのかは知りませんが。別に批判をするのは良いです。それが事実に即したものならば。ただし批判の仕方にフェイク的な要素が入ってるなら、それ、あなたが嫌ってる人間の手法ではないのではと思うんですよね。ミイラ狩りのつもりでミイラになりたくはない。

努力の証―第八代国連事務総長 潘基文物語

努力の証―第八代国連事務総長 潘基文物語

  • 作者:辛 雄鎭
  • 発売日: 2008/10/10
  • メディア: 単行本

*1:ナムウィキによると極左掲示板とされ、かなりアクの強い政治性を持つ掲示板といえるかもしれません。

*2:本は2008年発売だけど2007年には話は出てたっぽい。

*3:英語のウィキペディアにないのでどこまで信じてよい噂かは微妙

エロい恰好をしてるから痴漢に会うというわけではない

正直女性がエロイ服着て襲われたからそういう服きるの注意しようねで「襲う男性を何とかしろ」って吹き上がるフェミニストいるけどこれジェンダー問題じゃないんだ。
クッソ治安悪いスラムで大金見せびらかして歩くのはやめようねと同じ話で「襲う奴が悪いんだろう」ってのは当然の前提。

 いますよね、性的被害にあった方に対してエロい服が云々と言っている御仁。それと「クッソ治安悪いスラムで大金見せびらかして歩くのはやめようね」と同じ話になりますと日本はクッソ治安悪いスラムになってしまい……。いや、もしかしたら実際に(主に)「女性」にとってクッソ治安悪いスラムという認識なのかもしれません。それなら理解も出来ましょうし自衛の重要さを語るのも良いかもしれませんが、なら治安を良くするための話をすべきでしょう。「自衛」によって社会を変えようというのは甚だ当事者への負担が大きすぎます。

 さて本題。ツイート主がその性暴力の対象をどこまでの視野で語っているかは不明ですが、とりあえずここでは主に電車内の「痴漢」に限った話をします。で、結論から書きますが痴漢のターゲットになるのは別にエロい服を着てるから、という理由はそこまで大きくないです。ってことで、各種資料からどういう傾向があるのかダラダラと書いていきます。

■2011年警察庁電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について
 この調査では被害者ではなく実際に痴漢行為をしたとされる被疑者にも話を聞いており、その中に「(5) なぜ、その被害者だったのか(複数回答可)」という設問があります。その回答は以下の通り。

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この回答で「エロい服装」に類似する質問はおそらく「服装が派手だったから」と思われますが、その割合は「1.8%」。個々人にとっての(エロい)欲を刺激するという意味では「好みの服装だったから」も類する質問と捉えられますが、そちらは「7.8%」となり、服装要因は1割ほどとなり痴漢に及ぶための主要要因とは言いずらいでしょう。1割を多いと捉えてそれすらも自衛すべきだという論もあり得ましょうが、痴漢にとっての「好みの服装」を避けることなど不可能です。大体、痴漢の為に自分のしたい服装が制限されるのは甚だナンセンスでありましょう。
 ちなみにこの調査では痴漢の動機も聞いており、その結果は以下の通り。

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極少数ですがインターネットや痴漢のビデオの影響を受けている人間がおり、フィクションが現実に多少なりとも影響しているのが分かります。

■#WeToo Japan「公共空間におけるハラスメント行為の実態調査

 この調査では10代から40代までの女性に対して中学生時代のスカートの長さや制服、私服の有無によってのハラスメントの割合を聞いています。その調査は以下の通り。

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とある様に一般的にはエロいにあたるであろう「短いスカート」であった場合は「28.6%」、「長いスカート」は「22.3%」とあり、確かに短いスカートの方が被害にあいやすくはなる模様ですが、その差は6%ほど。誤差の範囲でしょうが「ふつう」より「長い」の方が被害経験が多くなっていますし、スカートの長短という自衛ではそこまで痴漢被害が抑制できるものではないと考えられます。そして制服、私服での違いですが、

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以上の様に「制服」である方が「私服」の時よりも被害にあいやすい傾向が見て取れます。「一般的」に制服というアイコンがエロい服装と捉える人は少ないでしょう。多分、としか言いようがありませんが。ここで制服を着ている人間が痴漢の対象となりやすいのは「制服」を纏う事によって学生という属性が明らかになっている為に年齢の類推の容易さ、訴えるなどの反撃される可能性が低いと思い行為に及んでいる可能性はあります。なんにせよ制服が制服である以上、自己コントロールが著しく難しい服装です。エロい服云々を言える事例ではないでしょう。そして警察庁資料では「首都圏における取締り強化」の計10日間の結果において被害者の属性も調べられており、「高校生」が一番多いです。

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高校生だから狙ったというのは大いに考えられますが、高校生がエロい恰好していたから被害にあっていた、では決してないでしょう。

■大髙実奈、喜入暁、越智啓太「制服のスカート丈は痴漢被害を予測するか

制服のスカート丈が短いことが痴漢被害を予測することが示された。しかし高校での被害と制服のスカート丈に有意な関連が示されなかったため,スカート丈が短いことが痴漢被害の直接的な要因ではないことが考えられる。また, 大学の通学区間が長いほうが車両混雑型の痴漢被害の経験数が多いことが示された。大学から遠い場所に住む学生は首都圏の実家からの通学者が多い。首都圏のほうが地方より制服のスカートが短い傾向があり, 電車も混雑している。これらの媒介変数により制服のスカートが短いと痴漢に遭いやすいという結果が導かれた可能性が考えられるが,今後の検討が必要である。

 この調査によれば「スカート丈が短いことが痴漢被害を予測する」ことは示されていますが直接的な要因ではないとしています。それ以外の要因も多数あるわけで、スカート丈そのものを痴漢被害に直接的に結ぶのは早計です。

■曹 陽、高木 修「女性の服装は痴漢被害の原因になるか

服装と痴漢被害の関係についての 「痴漢神話」が存在するのであろうか。本研究では、電車内の女性の服装が痴漢被害の原因になるとの認知が存在するのか、それが痴漢被害経験の有無によって、さらには被害者となりやすい女性の視点と、加害者となりやすい男性の視点とで異なるのかどうかを、探索的に検討することを目的とした。

 「痴漢神話」とは被害にあった服装など女性にも非があったというものであり、記事の発端にさせていただいたツイート主などはその典型例といえるでしょう。この調査では被害者の服装が地味であるか、派手であるかで各種行為の許容度を調査しています。あくまでも調査であり、実際の傾向ではないですが以下の様な結果が導かれています。

1)痴漢被害経験のない女性においては、ミニスカー トを含めて女性の服装が、痴漢被害の原因にならないと認知して いた。
2)痴漢被害経験のない女性と比べると、痴漢被害経験のある女性においては、女性の服装が痴漢被害の原因にならないと一層強く認知していた。ところが、ミニスカー トと痴漢被害の関係につ いて、同程度の否定的認知を持っていた。
3)痴漢被害経験のない男性においては、ミニスカー トを含めて女性の服装が、痴漢被害の原因になると認知していた。

この結果からも分かりますように女性と男性で見えている世界が違う。大抵の痴漢は男性であり、大抵の痴漢被害者は女性です。その構造下において男性側がエロい恰好だ何だと言って自衛論を振り上げるのは事実と異なる可能性が高いのもそうですが、何よりも被害者の恰好や心構えの不備の指摘の様な不当な批判、ひいては被害にあった人間への二次加害になりえます。

寝屋川市「レイプ(性暴力)の神話」ってなに?

加害者の 36.1%が、おとなしそうに見えたから襲ったと答えています。「被害者が挑発的な服装をしていた」とする性犯罪者は 5%にとどまります

 事程左様に「エロい服」云々は「神話」。5%にあたる人物にしても自身の好む服装、そもそも「挑発的な服装」は加害者の言う所の挑発的であり、それを推し量るのは無理。そして当然それを責めるべきではない。


 性によって見える世界やその認知、性への意識が異なるのは性犯罪そのものやその言説の非対称性から現実に存在するのは致し方ありません。だけど仕方ないもので済ませてたら待ってるのは現状維持のままでの停滞。その現状維持が良いのかもしれないのだろうけど、こっちはそんなの御免です。そして「痴漢神話」は典型的なジェンダー問題であろうし、大体お門違いの「ありがたいお説教」なんて望んじゃないでしょ。
 その口は誰を批判して、何を守ろうとしている。

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電車内での痴漢の話について

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 というツイート(現在は削除)があったので痴漢の話について。それと前もって言っておきますが伊藤詩織氏については本題ではないので特に触れません。
 まず現在の電車内の痴漢についての状況ですが、警察庁の「検挙/認知件数」は以下の通りです。

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データは以下の警察庁の資料から。
令和元年度警察白書
平成29年警察白書
平成24年電車内の痴漢防止対策の推進

迷惑防止条例違反の卑わい行為」とは痴漢、盗撮、のぞき見、その他の卑わいな言動の合計となります。ただしこのデータには「電車内における強制わいせつ」とは異なり、電車内の区分はなく総数のみですので迷惑防止条例違反=電車内の痴漢」ではなく注意が必要です。ただし、警察庁の「こんな時間、場所がねらわれる 警視庁」によれば痴漢(迷惑防止条例違反)の発生場所は「電車 45%」、「駅構内 19%」となり、上記グラフの迷惑防止条例違反行為の件数の過半数は電車関連の痴漢と捉えても大きな間違いではないでしょう。

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その推定に従えば2018年に限って言っても電車内の痴漢行為は1600件以上の件数があったと考えられます。また「認知件数」より実体の数が多いのは想像に難くなく、それを裏付けるかのように2011年に警察庁より出された「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について (16歳以上~50代までの調査)※アーカイブ」では、警察に通報・相談した人間は10%ほどとなっています。

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また報告書では”「我慢した」、「その場から逃げた」のいずれか又は双方を選んだ方は、246人であり、痴漢被害に遭った方304人のうち、80.9%が「我慢した」、「その場から逃げた」と回答した”であったり、犯人を捕まえたという回答数が「12」という事から捕まった人間はごく少数であろう事が伺えます。

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通報・相談の少なさから単純に考えれば痴漢の件数は今出ている数の10倍近くあったとしてもさほど不思議ではありません。そうすると2018年では1万6千件ほどとなりますし、過去にさかのぼればその数は2万、3万となるでしょう。勿論これは至極単純に考えた場合の数字ですし、その後の痴漢減少傾向がありますので一概には言えませんが、とはいえ認知件数には現れない数倍レベルの暗数がある事は間違いないと考えます。
 次に痴漢にあった経験ですが、各種の調査では以下の様になっています。

■痴漢被害経験の有無
<ここ一年以内に痴漢にあった>※女性のみに限定しています。
・2003年 岡部千鶴「女性専用車両に関する一考察 ~痴漢被害の実態とともに~
 28.4%
※調査場所は「西鉄久留米駅構内福岡行きホーム」のみ
・2011年 警察庁報告書
 13.7%
・2019年 #WeToo Japan 「公共空間におけるハラスメント行為の実態調査
 17.2%

<痴漢にあったことがある>
・2015年
 ウートピ「電車内での痴漢被害、66%が経験あり 何が犯罪を助長させてきたのか
 66%
・2017年
 リビングくらしHOW研究所 「電車内の痴漢についてのアンケート
・2017年
 大髙 実奈「男女大学生における電車内痴漢被害の実態調査
 37%
 ※調査対象の平均年齢20.61歳
・2019年
 くりみな「痴漢被害についてのアンケート調査結果
 63%
 ※「電車内」という限定はない模様

ここ一年という期間を区切れば2003年というやや古いデータを除けば10%台中盤、今までの経験を含めれば60%台となっています。特に今までの被害体験は調査対象年齢が20代という調査を除けば、3つの調査で数字にぶれがほぼないことから、実態に近いかと考えます。なお、岡部による2003年調査の「ここ1年以内」は28%と高くなっていますが、これは駅を限定しての調査であり、また推移を見る限りは痴漢そのものは減少傾向である事には疑いがありませんので、その時期と場所による高さと見る方が妥当な気もします。逆に今の時期においても人の多い駅で聞けば割合は上昇する可能性もあると考えます。電車の込みぐらいなどの地域によるブレは存在するでしょうが、事程左様に全体を見れば過半数の女性は電車内で何らかの痴漢行為を受けていた可能性があります。
 それと痴漢被害者は複数回の被害を受ける方も存在し、岡部、大髙、くりみななどの調査でもそれが確認できます。大髙の平均20歳の調査によれば痴漢被害経験者の平均回数は「1.99回」、女性全体での平均は「0.7回」、くりみなのアンケートでは6回以上が11%となっており、複数回被害にあっているというのはそこまでおかしな話ではありません*1

 次に被害を受ける年代ですが、被害そのものは10~20代に多いです。そして #WeToo Japanによる以下の様な調査結果があります。

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上記の調査は「制服」か「私服」かでの痴漢被害の被害経験率の調査ですが、「制服」は明らかに何らかの被害経験率が上昇しており、制服が被害に関連している可能性が示唆されています。これは「学生」を狙っている人間がいるとも言えます。

 最後に精液を付着させる痴漢ですが……、これは表立ったデータはなく引用した資料では岡部のアンケートにその被害を告白している人間がいるのみ、その「数」自体はそうは多くないでしょう。とはいえ数だけでこの件を語るのは被害に遭遇した人間にはグロテスクでしかない言葉です。ノイズともいえる情報があるので精神衛生上検索そのものはオススメしませんが、ある単語で検索すれば100件以上に関与したという容疑者の記事が出てきますし、体験談も出てきます。「精液をかけた場合」という加害者側の事例を紹介している弁護士事務所サイトも複数存在しますし、そういった相談が書かれる程度にはポピュラーな問題ともいえるかもしれません。「女性に体液をかける行為に刑法のどの条文を適用するかは非常に難しい問題である」では35人もの女性に体液をかけた事例が紹介されていますし、決してない行為ではありません。

 件のツイートの人は個人に対するまなざしが下劣である事は言うに及ばず、内容も日本の痴漢そのものに対する認識が酷く、また現実に存在する犯罪に対しての言葉として倫理にもとります。そして電車内の痴漢は現在の日本でもまだそれなりの数が存在していますし、10年程度の過去に戻るだけで言わずもがな。痴漢の話、日本についてだと思うんだけどな。

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

*1:なお、大髙による調査では男性の痴漢被害経験者は5.97%ち少ないですが、痴漢被害経験者の平均は2.5回、全体の平均は0.15回となります。男性の痴漢被害経験者は複数回の被害に会いやすいようです。

生活保護批判と自民党について

6月15日の参議院決算委員会で以下の様な安倍首相の発言がありました。

安倍首相「先ほど田村委員は一部の政党が生活保護に対して、攻撃的な言質を弄しているという主旨のお話をされましたが、それは勿論、自民党ではないということは確認しておきたいと思いますが…」
安倍首相「生活保護バッシングをしたのは自民党ではないと思います」 いえいえ完全に自民党です(藤田孝典) - 個人 - Yahoo!ニュース

これは引用先の指摘にある様に端的に言って嘘です。自民党は一時期に世間に存在した生活保護バッシングに同調しており政治的な行動・発言をしています。ただし、それに対する指摘が上記のページでは薄かった、というよりも議員個人に関する情報が多かったのでそれへの補足的なものを紹介しておきます。

 そもそも生活保護バッシングですが、もともとネット上の一部で生活保護を揶揄するネタやバッシングの対象として扱われていたという下地が存在します。これが何時頃から「ネタ」として扱われていたのかは分かりませんが、少なくとも00年代には既に揶揄としてのある用語が使われています。ちなみに2012年4月の生活保護バッシングは芸人の親の不正受給(実際は不正受給とはいえず、あっても道義的な問題)が話題になりましたが、自民党はその話題になる前から民主党政権生活保護を批判しています。
 まずわかりやすい起点で言えば2012年3月1日には「生活保護PT」が自民党内に発足しています(茂木敏充政務調査会長 記者会見 | 記者会見 | ニュース | 自由民主党)。そしてJimin NEWSなどの情報を見れば幾たびか話題にしており、例えば、

民主党政権下で、生活保護費は25%以上膨らんでいます。
民主党のように「自助」を飛び越えて、いきなり「公助」を前面に「誰でも助けますよ」と言っていたら、どんな社会になるのでしょうか
(中略)子ども手当や最低保障年金と同様に、民主党社会保障政策は、全て公助からスタートするので費用だけが一方的に増幅していきます。自民党は、自助を基本に、共助、そして公助を組み合わせていきます。日本の本来の姿である勤勉な国に戻すのか、全て他力本願で自助努力を怠る国にしてしまうのか。今、私たちは、その岐路に立っています。 f:id:nou_yunyun:20200619231916p:plain 2012年3月28日The Fax NEWS

であるとか、

日本の再起のための7つの柱(原案
4.自助を基本とし、共助・公助が補う安心の社会づくり
民主党政権のように「自助」を飛び越えて、いきなり「公助」を前面に出し「誰でも助けますよ」という社会では、早晩、国は立ち行かなくなってしまいます。現に民主党政権になってからの3年間で、生活保護費は実に25%以上も膨らんでしまっています。
私たちの考え方は、まず「自助」が基本です。個々人が国に支えてもらうのではなく、自立した個人が国を構成するという考え方です。私たちの社会保障政策、年金・医療・介護・少子化・若者対策など全ての政策にこの考え方をあてはめていきます
2012年4月13日The Jimin NEWS

であるとか、

「手当より仕事」を基本とした生活保護の見直し
そもそも民主党社会保障の考え方は、国民を自立させるのではなく、「公助」を前面に出して「誰でも助ける」というものです。その顕著な例が、政府が出した生活保護の通達です。
(中略)生活保護政策についても、自助・自立を基本に共助・公助を付加するという視点から、生活保護の見直しを実現します。そして、生活保護を最後の安全網として真に必要な人に行きわたる制度として機能させ、国民の信頼を取り戻します。
2012年4月16日The Jimin NEWS

などなど。いずれも自民党の価値観が良くわかる内容であるかと。民主党政権下における生活保護、というよりも自民党はそこにあった「公助」という性格を否定していると捉えても言い過ぎではないでしょう。ちなみに自民党が言うところの「真に必要な人に行きわたる」はお金を渋りたいという言い換えと捉えて良いと考えます。そして「自助」を「社会保障政策、年金・医療・介護・少子化・若者対策など全ての政策にこの考え方をあてはめて」という下りは偽らざる自民党の本音でしょう。少子化に「自助」を当てはめるのとかは少子化を解決する意思がないとしか思えませんが。
 こういった生活保護への批判が結実して、2012年5月31日「日本の再起のための政策」という政策集に以下の「生活保護の見直し」に関する項目が入ります。

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そしてさらには2012年12月の選挙の自民党公約集「J-ファイル」において以下の様に「生活保護制度について」という公約が盛り込まれます。

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Jimin NEWSの様な過激と言ってもよい文章はなりを潜めていますが、提案される内容は叩き台から受け継がれたものです。ちなみに自民党が政権を取ってからの2013年に生活保護法は改正されて、公約は達成したと言えるのかもですが、こういった背景を考えればこの生活保護法改正の思想は「公助」ではなく「自助」への転換を狙ったものと捉えてもあながち間違いじゃないでしょう。民主党政権下での批判で生活保護費の支出が増えている、Jimin NEWSの方では政策が達成されれば生活保護費を3.7兆円削減できると喧伝していますし、とにかく支出を控えたいという思想も多分にあるのでしょうが。
 ちなみに安倍政権下含め、長期的な年次推移は以下の通り。

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安倍政権下で被保護人員の伸びは止まり、減少に転じています。この要因については調べてないので生活保護を受けなくても良い人間が増えたのか、水際作戦による申請拒否が増えたのかなどは分かりません。他にも要因はあるでしょう。ただ一つの事実として積極的な「公助」を否定して「自助」を訴えた政党が長く政権についている間に法改正も行われ、被保護人員は減った。「自助」で助かった、なら良いのだけれど。

生活保護リアル

生活保護リアル

日本以外にも無人販売所ってあるよ

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 というツイートがなされ、それに対して無人販売所は日本以外にもあるという突っ込みがなされていました。そういった突っ込みは以下のまとめにありますので、世界の無人販売所について知りたい方はどうぞ。

togetter.com

また、以下の様な記事もあります。

人の誠実さを前提とした無人販売所はスイスで何年も続いており、農家はファーマーズマーケットに出品するよりも、無人販売所という手段を選びます。日本やアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、ノルウェーといった国において無人販売所は珍しくありませんが、世界的に見ると非常に特殊です。
野菜だけでなくチーズや手作りクッキーまであらゆるものが無人販売できる理由とは? - GIGAZINE

引用には無い韓国、台湾、中国の事例もありますので記事にある様にどこまで「非常に特殊」と言ってよいのかは分かりませんが、少なくとも「信頼を前提とする無人販売所」は日本以外にもいくらかの国で存在する事は確かです。

 さて無人販売所は日本に限らず世界にあって、なんら日本の特殊性を喧伝するようなものではなさそうな存在といえそうですが、何故かたまに日本人の道徳性や治安の良さを喧伝する為に使用される傾向があります。「無人販売所で盗まない日本スゴイ」という様なやつ。分かりやすい所でいえばyoutube。絶対数は多くありませんがいくらか散見されるネタでありますし、再生回数をみると50万回超えもあったりして影響力はそうそう馬鹿にできません。

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WEB記事に目を転じると、

2013年11月28日
日本にある『野菜の無人販売所』に外国人が驚愕「日本人の正直さは世界トップレベル」「ここまでくると感動」 | ロケットニュース24

2014年6月10日
野菜の無人販売所に驚き :日本経済新聞

2016年4月19日
なぜだ!野菜の無人販売が成立する日本社会は恐ろしすぎる=中国 (2016年4月19日) - エキサイトニュース

2018年3月6日
田舎の普通の光景に外国人が熱狂 田園風景や野菜の無人販売 - ライブドアニュース

という様にたまに記事になるレベルでのある意味で鉄板の「ネタ」なのでしょう。日経の会員でないので全部は読めないので読める範囲での引用となりますが、

日本人の礼儀正しさや社会の安全はよく知られているが、地方でもこれは変わらない。ある牧場を訪れた時に目にした、野菜の無人販売所には衝撃を受

と、日経ですらそれ系と思われる記事を書いているのですから。ちなみに記事そのものの主旨とはずれますが、2011年のデイリーポータルZの記事の序文において、

無人販売所は日本では珍しくもなんともないが、外国人から見たら信じられない光景なのだと聞いたことがある。治安がいい日本ならではのものらしい。
日本の美徳・無人販売所 :: デイリーポータルZ

といった記述がなされていることから少なくとも2011年にはこういった言説が一部で定着化していることが伺えます。個人ブログをさかのぼれば2008年頃にも確認可能。何処かで起点となる初出の様な情報はあるのかもしれませんが、無人販売所系の持ち上げ方と似ている「日本の自販機が多いのは治安が良くて盗まれないからだ」という話からの派生かもしれません。いずれにせよネット上を少し検索しただけでは出所は分からないものの、少なくとも利用のされ方はyoutubeやWEB記事などを見ると日本スゴイに利用されるネタであり、今回のツイ―トの様に「他者」を排除するための言説として利用される「錯誤」と「排外」を呼び込む危ういネタといって良いかなと。

 ちなみに無人販売所は信頼の上で成り立っていると言えますが、それでもやはり盗む人はいる訳で。勿論、日本で。「無人販売所での窃盗犯罪対策に役立つ防犯カメラ・監視カメラ」という様に無人販売所用の防犯カメラは存在しますし、以下の様な記事も存在します。

「実は、年間で計算すると、全体の商品の1割弱は盗難にあっています……。一番悲しかったのは、妻の友人が野菜を持っていっていたこと。それも、ご近所さんにおすそわけしていたことで発覚しました……。そのため、盗難対策として、監視カメラを設置しています。取り付けてから、盗まれることはだいぶ減りましたね」(馬場さん)
畑で無人で売ってる野菜は盗まれないの? 仕組みを農家の人に聞いてみた! | 進路のミカタニュース

上記の記事では1割弱の盗難とありますが、2010年の記事では売り上げの半分ほどしかお金が入っていなかった例もあります(2月1日放送 「無人販売所で相次ぐ窃盗」 | SBSイブニングeye | SBSテレビ)。それこそ「無人販売所 盗難」などで検索すれば対策はしっかりする様にという情報はかなり出て来るので、日本において無人販売所がただ信頼のみで成り立っているというのは幻想と言ってもいいかもしれません。
 ちなみに外国においてですが、アメリカの社会実験においては9割がお金を払い( 「あなたは正直者?」ちょっといじわるな質問ではじまる無人販売所のゲリラ社会実験、あっと驚く結果とは? | greenz.jp グリーンズ)、中国の無人販売でも1年の収益率は90%に達している( 无人菜摊帮贫困户卖菜 90%顾客自觉付钱_网易新闻)とあります。中国の収益率が回収率なのかが良く分からない面もありますが、「日本の1割弱が盗難にあっている」という事例を考えると世界的に9割くらいの人は払うのではないだろうかなと。売り上げの半分がなかった事例を考えれば、その地域の人口やコミュニティの在り方でかなり変動はあるのでしょうが。
 とりあえず無人販売所に対する日本人の道徳性は他国とそこまで変わらないであろうし、特筆すべき事例では別にないと思いますよ。ただの勘違いした井の中の蛙では。


【余談】
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ツイートした方が貼ったこの写真、霧島市隼人町にある無人販売所で初出は2015年(霧島市隼人町内「かわいい野菜の無人販売所」 | 姶良霧島 aira&kirishima)。何故かこの写真、日本だけで使われているのではなく韓国、ベトナム、タイなどの外国にも少し拡散してる模様で。 f:id:nou_yunyun:20200614215135p:plain

中には今回の様な日本の特殊性をアピールする様な言説もある様なのですが……。にしてもこの画像があんなに拡散するとは撮った人は思わなかったろうなあ。

スイスでは過去の遺物である「スイス民間防衛」についての話

 日本でのある界隈では「スイス民間防衛」が持ち上げられることがあるのを時たま見ます。例えばこういう時に。

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これの元ネタは中身が読めてないので推測となってしまいますが、以下の本かもしくはその類似の本が元ネタでしょう。ちなみに下の画像については現在遡れるところで言えば2013年ごろから右派系論壇のネットで出回っているのが確認できますし、本自体の話題は2005年頃にこれまたネット右派系HPで取り上げられていることも確認できます。基本的には日本の平和ボケ云々の話を受けて右派が援用する本、という感じでしょう。本自体はアマゾンをみると2003年発売(新装版であり、後述しますが元々は1970年に発売された模様)ですので、それに端を発するであろう画像が2020年に使われている事を考えれば息の長い類の話題です。

民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

民間防衛ーあらゆる危険から身をまもる

  • 発売日: 2003/07/07
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 さて、なんでこんな話題をしたかというと、SWIというスイス公共放送協会(SBC)の国際部のサイトでこういう記事を見つけたから。

「スイス民間防衛」日本で売れ続ける理由
冷戦期、スイス連邦政府は有事の際の備えを説いたハンドブック「民間防衛」を各家庭に配った。今や歴史の遺物と化し、存在すら忘れられたこの冊子が、意外な場所で売れ続けている。それは日本だ。
「スイス民間防衛」日本で売れ続ける理由 - SWI swissinfo.ch

というように「スイス民間防衛」はスイスでは歴史の遺物となっている代物とあります。さらに記事ではこう続いています。

「Zivilverteidigung(民間防衛)」は1969年9月、連邦内閣の委託を受け、司法警察省がスイス国内の全世帯に無料配布した。その目的は主に2つ。国民に武力攻撃から身を守る備えをさせること。そしてもう1つは、国内に潜む共産勢力への警戒を高めることだった。
しかし、そのころ冷戦は緊張緩和、いわゆるデタントの時代に突入していた。このためハンドブックは強い反発を食らう。抗議活動が起き、軍事パレードにハンドブックが投げ込まれ、果ては路上で焼かれた。
暴動が起きた理由は、政治的に敵対する勢力を「民主主義の破壊分子」とした描写にあった。ハンドブックは平和主義者を含むあらゆる批判勢力を、ソビエト軍の侵入を許す赤じゅうたんだと決めつけた。

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色々とこの件をもってスイスを持ち上げている方々がネットでは散見されますが、スイス国内においては配布当時に抗議活動が行われています。その後に小冊子が笑いものにされたともあり、

「民間防衛」はスイス国内では、冷戦への風刺文学として扱われるようになった。だが日本では異なる地位を確立させた。
(中略)
1970年に日本語版
ハンドブックにも挟まれていた政府発行の雑誌「Zivilschutz他のサイトへ(民間救護)」は1971年、侮蔑と誇りが入り混じったこんな報告を載せている。笑いものになったハンドブックが「極東から予期せぬ支援」を受けたという内容だ。

とある様に、政府雑誌にすら「笑いものになったハンドブック」と書かれる辺り、スイス国内で「民間防衛」の本としての価値は低いものとみても間違いではなさそうです。SWIの記事では日本でも発売当初はそこまでではなかったものの、阪神大震災の際にジャーナリストの木村太郎氏の紹介により重版が行われ、2003年にイラク戦争の際に新装版が出たとあります。
 ちなみにSWIの民間防衛に関する記事は他にもこんなのがあります。

フィクションの想定だが、国家の「内敵」が指し示すものは容易に特定できた。平和主義者、左翼運動家、組合、反核運動、そして知識人たちだ。
怒りの波
ハンドブックを作ったのが公権力である政府だったことも、大きな怒りを買った。「内敵」呼ばわりされた人たち、そして自由民主主義の支持者は「民間防衛」を痛烈に批判した。
国内では抗議デモが起こり、連邦議事堂前のではうずたかく積まれたハンドブックに火がつけられた。一部の書店では、スイスの作家の本とハンドブックを無償交換するサービスまで登場した。その本も、政府の政治に不満を持っていた作家たちの作品だ。
「民間防衛」時代を間違えた危機管理マニュアル - SWI swissinfo.ch

先ほどの記事でも触れられた抗議運動がより詳細に書いてあります。これを見るやはりこの「民間防衛」自体はスイス社会で発表当初から受け入れられなかったものとして良さそうです。しかしながら、その「思想(反共)*1」の様なものはその後のスイス社会の中では生き続けた様で記事の最後には以下の様な記述があります。

「民間防衛」が想定した「脅威」に対する国家的監視活動はその後も続いた。1989年、スイス最大のスキャンダルといわれるフィシュ・スキャンダルが起こるまで、国家安全保障という名目の下、明確な法的根拠もなく左派主義者らが警察の監視下に置かれていた。

※フィッシュスキャンダル=法的根拠なく90万人の個人ファイルを作成していた事件。左派主義者、労働組合活動家、軍に批判的な人たち、核の反対派が主な監視下。詳しくは「スイスの諜報機関にまつわる10の疑問 - SWI swissinfo.ch

 なおドイツのwikipediaZivilverteidigungsbuch – Wikipediaでも反対運動があった事を記してありますし、以下の様な風刺画も存在していたようです。

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※下の文は自動翻訳による

この風刺画の背景は別のweb記事を見ると以下の様にあります。

「市民防衛」の思想が、多くの若者や学生を左翼政党への入党に駆り立てた。
(中略)
何がきっかけで左翼からの反発が出てきたのか?320ページに及ぶこの文書には、非常用物資の備蓄、応急処置、消火方法などが書かれているだけでなく、スイスがどのようにして主要な敵国に侵入され、攻撃され、占領されたかという架空の物語が書かれていた。
(中略)
架空の語り口にもかかわらず、平和主義者、知識人、左翼政党、労働組合反核活動家、同性愛者など、どの内部の潮流がこの国にとって致命的な危険をもたらすのか、疑う余地はなかった。
(中略)
このようなセリフが世間の非難の嵐を巻き起こした。"深くリベラルな牧師であった父は、これほど多くの社会的グループが一般的な疑惑の下に置かれていることに愕然としました」と、当時14歳だった元地区管理者のルエディ・ブラッセル氏は振り返る。
(中略)
やがて「市民防衛」は「赤いスイス毛沢東聖書」と広く揶揄されるようになった。
https://www.bzbasel.ch/basel/basel-stadt/als-in-basel-die-schweizer-mao-bibel-verteilt-wurde-135766204
※自動翻訳


 事程左様になぜネット右派系が「民間防衛」を好意的に引用するかは平和主義者、左翼政党などを揶揄できるからでしょう。排撃の為の道具。ただその道具、スイスでは世に出た当初から反対を呼ぶものであり、もはやスイスでは負の側面が強いであろう遺物なハンドブックといえます。それと「赤いスイス毛沢東聖書」と嘲りの対象であった本を日本のネット右派がありがたっているのは面白い現象だなーっと。

*1:著者のアルベルト・バッハマン大佐は共産主義者から反共主義者への転向を果たした人物とのこと。

4月のマスク輸入量、むっちゃ増えたよ

マスクの日本の生産量とか中国などからの輸入量について - 電脳塵芥

 って記事の4月版。この記事を書いた後でも

菅義偉官房長官は20日の記者会見で、政府が配布している布マスクについて、18日時点で13都道府県において約1450万枚の配布が完了したことを明らかにした。その上で、「(布マスクが)東京などに届き始めてから、店頭での品薄状況も徐々に改善され、価格も反転したので非常に効果があった」と強調した。 布マスク、1450万枚配布完了 菅官房長官:時事ドットコム

という様に全世帯配布マスクの影響によって店頭での品薄状況も改善されたという政府見解がありますが、とりあえずじゃあ4月の不織布マスクの輸入量はどうだったのか。データはおなじみ貿易統計のe-statから。

■4月の不織布マスク等繊維製製品輸入量
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1月 1万5157トン
2月 4732トン
3月 8697トン
4月 2万5873トン

上記すべてが不織布マスクではありませんが、4月の輸入量はおよそ2万5873トン。3月の輸入量の3倍近くの輸入量となっています。なお、そのうち中国からの輸入量は2万3906トンとなり、中国からの輸入量は圧倒的です。輸入量2位のベトナムが1048トンほどなので、その差は歴然です。ちなみに中国からの輸入量推移は以下の通り。

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グラフを見れば一目瞭然ですが中国からの輸入量は4月で大幅増加しています。価格もそれに伴い大幅上昇してはいるものの、マスク不足の解消は輸入量の大幅増加である事は揺るぎはないでしょう。2019年の中国からの輸入量は10万8724トン。となると4月だけで通常年の3か月分くらいの輸入があった事になります。不織布マスク以外も含む2019年のマスク輸入量は約50億枚。2019年全体で不織布マスクの輸入量の8割ほどは中国からというのを鑑みれば、何億枚かまでは分かりませんがこの輸入量が相当な量である事は想像に難くありません。輸入単価は増加している為にこれ直結でマスクが値崩れしたとまでは言えませんが、輸入量増加で供給過剰に陥って値下がりが起こってもおかしくない量の増加と捉えても過ちではないでしょう。国内生産体制も整ってきていますし。
 全世帯布マスク配布の効果はあったとしても微々たるものであろうで、それを喧伝するようになったらデータに基づいて政策をしているのではなく、ただ単に失敗を認めない類の政府運営ではないのかなと。因果と相関関係の過誤。

マスクの品格

マスクの品格

  • 作者:大西 一成
  • 発売日: 2019/11/28
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)