電脳塵芥

四方山雑記

エロい恰好をしてるから痴漢に会うというわけではない

正直女性がエロイ服着て襲われたからそういう服きるの注意しようねで「襲う男性を何とかしろ」って吹き上がるフェミニストいるけどこれジェンダー問題じゃないんだ。
クッソ治安悪いスラムで大金見せびらかして歩くのはやめようねと同じ話で「襲う奴が悪いんだろう」ってのは当然の前提。

 いますよね、性的被害にあった方に対してエロい服が云々と言っている御仁。それと「クッソ治安悪いスラムで大金見せびらかして歩くのはやめようね」と同じ話になりますと日本はクッソ治安悪いスラムになってしまい……。いや、もしかしたら実際に(主に)「女性」にとってクッソ治安悪いスラムという認識なのかもしれません。それなら理解も出来ましょうし自衛の重要さを語るのも良いかもしれませんが、なら治安を良くするための話をすべきでしょう。「自衛」によって社会を変えようというのは甚だ当事者への負担が大きすぎます。

 さて本題。ツイート主がその性暴力の対象をどこまでの視野で語っているかは不明ですが、とりあえずここでは主に電車内の「痴漢」に限った話をします。で、結論から書きますが痴漢のターゲットになるのは別にエロい服を着てるから、という理由はそこまで大きくないです。ってことで、各種資料からどういう傾向があるのかダラダラと書いていきます。

2011年警察庁電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について
 この調査では被害者ではなく実際に痴漢行為をしたとされる被疑者にも話を聞いており、その中に「(5) なぜ、その被害者だったのか(複数回答可)」という設問があります。その回答は以下の通り。

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この回答で「エロい服装」に類似する質問はおそらく「服装が派手だったから」と思われますが、その割合は「1.8%」。個々人にとっての(エロい)欲を刺激するという意味では「好みの服装だったから」も類する質問と捉えられますが、そちらは「7.8%」となり、服装要因は1割ほどとなり痴漢に及ぶための主要要因とは言いずらいでしょう。1割を多いと捉えてそれすらも自衛すべきだという論もあり得ましょうが、痴漢にとっての「好みの服装」を避けることなど不可能です。大体、痴漢の為に自分のしたい服装が制限されるのは甚だナンセンスでありましょう。
 ちなみにこの調査では痴漢の動機も聞いており、その結果は以下の通り。

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極少数ですがインターネットや痴漢のビデオの影響を受けている人間がおり、フィクションが現実に多少なりとも影響しているのが分かります。

#WeToo Japan「公共空間におけるハラスメント行為の実態調査

 この調査では10代から40代までの女性に対して中学生時代のスカートの長さや制服、私服の有無によってのハラスメントの割合を聞いています。その調査は以下の通り。

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とある様に一般的にはエロいにあたるであろう「短いスカート」であった場合は「28.6%」、「長いスカート」は「22.3%」とあり、確かに短いスカートの方が被害にあいやすくはなる模様ですが、その差は6%ほど。誤差の範囲でしょうが「ふつう」より「長い」の方が被害経験が多くなっていますし、スカートの長短という自衛ではそこまで痴漢被害が抑制できるものではないと考えられます。そして制服、私服での違いですが、

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以上の様に「制服」である方が「私服」の時よりも被害にあいやすい傾向が見て取れます。「一般的」に制服というアイコンがエロい服装と捉える人は少ないでしょう。多分、としか言いようがありませんが。ここで制服を着ている人間が痴漢の対象となりやすいのは「制服」を纏う事によって学生という属性が明らかになっている為に年齢の類推の容易さ、訴えるなどの反撃される可能性が低いと思い行為に及んでいる可能性はあります。なんにせよ制服が制服である以上、自己コントロールが著しく難しい服装です。エロい服云々を言える事例ではないでしょう。そして警察庁資料では「首都圏における取締り強化」の計10日間の結果において被害者の属性も調べられており、「高校生」が一番多いです。

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高校生だから狙ったというのは大いに考えられますが、高校生がエロい恰好していたから被害にあっていた、では決してないでしょう。

大髙実奈、喜入暁、越智啓太「制服のスカート丈は痴漢被害を予測するか

制服のスカート丈が短いことが痴漢被害を予測することが示された。しかし高校での被害と制服のスカート丈に有意な関連が示されなかったため,スカート丈が短いことが痴漢被害の直接的な要因ではないことが考えられる。また, 大学の通学区間が長いほうが車両混雑型の痴漢被害の経験数が多いことが示された。大学から遠い場所に住む学生は首都圏の実家からの通学者が多い。首都圏のほうが地方より制服のスカートが短い傾向があり, 電車も混雑している。これらの媒介変数により制服のスカートが短いと痴漢に遭いやすいという結果が導かれた可能性が考えられるが,今後の検討が必要である。

 この調査によれば「スカート丈が短いことが痴漢被害を予測する」ことは示されていますが直接的な要因ではないとしています。それ以外の要因も多数あるわけで、スカート丈そのものを痴漢被害に直接的に結ぶのは早計です。

曹 陽、高木 修「女性の服装は痴漢被害の原因になるか

服装と痴漢被害の関係についての 「痴漢神話」が存在するのであろうか。本研究では、電車内の女性の服装が痴漢被害の原因になるとの認知が存在するのか、それが痴漢被害経験の有無によって、さらには被害者となりやすい女性の視点と、加害者となりやすい男性の視点とで異なるのかどうかを、探索的に検討することを目的とした。

 「痴漢神話」とは被害にあった服装など女性にも非があったというものであり、記事の発端にさせていただいたツイート主などはその典型例といえるでしょう。この調査では被害者の服装が地味であるか、派手であるかで各種行為の許容度を調査しています。あくまでも調査であり、実際の傾向ではないですが以下の様な結果が導かれています。

1)痴漢被害経験のない女性においては、ミニスカー トを含めて女性の服装が、痴漢被害の原因にならないと認知して いた。
2)痴漢被害経験のない女性と比べると、痴漢被害経験のある女性においては、女性の服装が痴漢被害の原因にならないと一層強く認知していた。ところが、ミニスカー トと痴漢被害の関係につ いて、同程度の否定的認知を持っていた。
3)痴漢被害経験のない男性においては、ミニスカー トを含めて女性の服装が、痴漢被害の原因になると認知していた。

この結果からも分かりますように女性と男性で見えている世界が違う。大抵の痴漢は男性であり、大抵の痴漢被害者は女性です。その構造下において男性側がエロい恰好だ何だと言って自衛論を振り上げるのは事実と異なる可能性が高いのもそうですが、何よりも被害者の恰好や心構えの不備の指摘の様な不当な批判、ひいては被害にあった人間への二次加害になりえます。

寝屋川市「レイプ(性暴力)の神話」ってなに?

加害者の 36.1%が、おとなしそうに見えたから襲ったと答えています。「被害者が挑発的な服装をしていた」とする性犯罪者は 5%にとどまります

 事程左様に「エロい服」云々は「神話」。5%にあたる人物にしても自身の好む服装、そもそも「挑発的な服装」は加害者の言う所の挑発的であり、それを推し量るのは無理。そして当然それを責めるべきではない。


 性によって見える世界やその認知、性への意識が異なるのは性犯罪そのものやその言説の非対称性から現実に存在するのは致し方ありません。だけど仕方ないもので済ませてたら待ってるのは現状維持のままでの停滞。その現状維持が良いのかもしれないのだろうけど、こっちはそんなの御免です。そして「痴漢神話」は典型的なジェンダー問題であろうし、大体お門違いの「ありがたいお説教」なんて望んじゃないでしょ。
 その口は誰を批判して、何を守ろうとしている。

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