電脳塵芥

四方山雑記

トルコ国籍男性が準強姦未遂罪に問われた冤罪事件に対するメモ


https://twitter.com/ShinjukuSokai/status/1787352641842061387

 この「プナルバシ容疑者ら」の画像は外国人、特にクルド人による性犯罪が不起訴になり司法がおかしくなった、的な投稿でよく使用されるある意味でいえば「鉄板ネタ」ではあり、それがまたぞや拡散した格好となる。上記のインフルエンサー「Z李」にしてもそうだし、今回の話題の発端となったであろうはまとめサイト的なネットメディア「JAPAN NEWS NAVI」が火元となり、それがネット右派系のインフルエンサーらによって拡散する。


https://twitter.com/JapanNNavi/status/1787284600580161886


https://twitter.com/mattariver1/status/1787285158481301520


https://twitter.com/CRNK_HZ/status/1787416486069608790


https://twitter.com/CRNK_HZ/status/1787627180895420568

ただ今回が今までの拡散と異なるのはコミュニティノートが付いている様に事件の判決文を載せた大阪弁護士会奥村徹氏のブログが確認されたことで言説の状況がやや変わる。ただこの判決文について触れる前にこの「話題」、もっと言ってしまえばこの「ネタ」がどの様に扱われて来たかに触れる。
 まず事件が発生したのは2015年(平成27年)の12月27日。この事件が2016年2月22日に読売や産経で記事となる。

【読売】 難民申請中に女性乱暴容疑、トルコ人2人逮捕
難民申請中に女性を乱暴したとして、警視庁は22日、ともにトルコ人で埼玉県川口市前川、解体作業員プナルバシ・オンデル容疑者(22)と同市の無職少年(16)の2人を集団強姦と強盗の容疑で逮捕したと発表した。
 同庁幹部によると、2人は昨年12月27日午前0時半頃、東京都北区のJR赤羽駅構内で、酒に酔った30歳代女性に「大丈夫ですか」と声をかけて駅近くの公衆トイレに連れ込み、乱暴して財布から現金約9000円を奪った疑い。同庁は防犯カメラ映像などから2人を特定した。
 調べに対し、プナルバシ容疑者は「女性を乱暴して強盗をしたのは少年だ」と容疑を否認。少年は強盗容疑を認める一方、集団強姦容疑については「無理やりじゃない」と否認している。

 

【産経】 公衆トイレで女性乱暴し、金奪う 難民申請中のトルコ人2人逮捕 警視庁
 公衆トイレで集団で女性を乱暴して現金を奪ったとして、警視庁組織犯罪対策2課は集団強姦と強盗の疑いで、ともにトルコ国籍の埼玉県川口市前川の解体作業員、プナルバシ・オンデル容疑者(22)と、同市の無職の少年(16)を逮捕した。プナルバシ容疑者らは「無理矢理ではなかった」などと容疑を否認している。
 逮捕容疑は、平成27年12月27日午前0時半ごろ、東京都内に住む30代の日本人女性を東京都北区のJR赤羽駅近くの公衆トイレに連れ込み、乱暴したうえ、現金9千円を奪ったとしている。プナルバシ容疑者らと女性に面識はなかった。
 同課によると、プナルバシ容疑者らは昨年8月と10月に「親族間のトラブルがあり、トルコに戻れない」などとして難民申請をしており、審査中の期間に認められる「特定活動」の在留資格で日本に滞在していたという。
 周辺の防犯カメラの画像などから関与が浮上した。

当時の読売記事を読むとプナルバシ氏は当初から容疑を否認している。その一方で少年は強盗は認め、また「無理やりではない」という主張は性行為そのものは認めていると読める主張となる。産経に関してはプナルバシ氏の主張は一顧だにされず、プナルバシ氏と少年を一緒くたにしており「無理やりではない」という否認という表現となっており、未来の視点から見れば問題のある表現ともいえる。そして当時からすでに保守速報など、ネット右派系のサイトに「【衝撃事件】難民申請中のトルコ人、JR赤羽駅近くで女性を公衆トイレに連れ込み集団レイプ!!強盗強姦容疑で逮捕 容疑者「無理やりじゃない」」取り上げられており、今流布している報道画像も確認できる。この時点で「ネタ化」したと言える。そしてさらに拍車をかけてしまったのが2017年7月27日の朝日新聞による以下の無罪判決報道となる。

準強姦未遂罪に問われた被告に無罪判決 東京地裁
酒に酔った女性に乱暴しようとしたとして、準強姦(ごうかん)未遂罪に問われたトルコ国籍の解体作業員プナルバシ・オンデル被告(23)=埼玉県川口市=に対し、東京地裁は27日、無罪(求刑懲役3年)の判決を言い渡した。石井俊和裁判長は「被告も乱暴したとの共犯者の供述は変遷しており、多くの点で信用できない」と述べた。
 被告は2015年12月、知人でトルコ国籍の無職少年(当時16)=少年院送致=と共謀し、酒に酔った30代女性を東京都北区のJR赤羽駅近くの多目的トイレ内で暴行した、として逮捕された。逮捕時から一貫して否認し、準強姦未遂罪で起訴されていた。
 検察側は、女性の尻についた体液が被告のDNA型と一致したと主張したが、石井裁判長は「(性交とは無関係の)何らかの理由で付着した可能性があり、犯人の裏付けにはならない」と退けた。

この記事の最後にある検察側の主張した女性の尻についた被告の「体液」のDNAを裁判長が(性交とは無関係の)何らかの理由で付着した「体液」として犯人の裏付けにならないという判断が誤解を生む。例えば朝日報道後にぶんぐのぶろぐで「準強姦未遂罪に問われたプナルバシ・オンデル被告(23)に無罪判決 被害者に付着した体液は証拠にならず」という記事が書かれており、体液が注目されている事がわかる。これは性犯罪報道において「体液」が暗黙の裡に「精液」と解釈されること普通だからではあるが、そもそも判決文を読む限りはプナルバシ氏はそういった行動をしたとは言い難く、また記事には書かれていないが裁判上では女性の手助けをした際に裁判長が言う通りに性交とは無関係の体液が付いた、という解釈するのが適当だろう。ただし記事ではその様な事が非常にわかりづらい事もあって、それは冒頭の2024年や、下記の2023年にあった拡散の仕方を見ても「精液」文脈として解釈されていることは想像に難くない。


https://twitter.com/KojiHirai6/status/1661936306031849473


https://twitter.com/okada_2019/status/1662304373190586368

なお、少し話は遡るが2016年の産経には「プナルバシ容疑者らは昨年8月と10月(引用者注:2015年)に「親族間のトラブルがあり、トルコに戻れない」などとして難民申請」とあったが、現在流布している「JAPAN NEWS NAVI」には「2022年8月と同年10月に「親族間のトラブルがあり、トルコに戻れない」と主張して難民申請」となっており時系列が7年ほどいじられている。これはJAPAN NEWS NAVIが捏造したわけではなく、そもそも該当記事自体が「国家の不祥事」というブログが2023年5月28日にアップした「東京地裁が準強姦未遂罪で起訴されたトルコ国籍男性に無罪判決」からの丸パクリだからだろう。このブログ主(国家腐敗監視太郎)が何故2022年と判断したのかは不明だが、おそらくは単純に2023年5月末ごろにこの話題が流布し、スーパーに「去年12月」とあったから生じた勘違いと思われる。
 そして裁判の判決文だが、まずこの事件は当初の報道では「プナルバシ容疑者ら」と「ら」が付いているが、主犯は「ら」で括られている方の少年であり、少年の罪は認められて少年院に送致されている。この少年は酩酊した女性を多目的トイレに連れ込んで犯罪を犯したわけになるのだが、プラルバシ氏はこれを助けるために行動していたという主張であり、裁判ではそれが認めらた故に無罪という事となる。以下、いくつか重要と思われる点をピックアップしていく。

被告人が多目的トイレ内で性的行為に及んだことを示す客観的な証拠はなく,公訴事実を推測させる証拠としては,多目的トイレに入ってきた被告人が陰茎を露出させて,Aの頭を手でつかんだ旨の■■■の期日外尋問における供述があるのみである。他方,被告人は,多目的トイレ内で陰茎を露出させたことも,Aの頭をつかんだこともない旨を供述している。したがって,■■■の供述が,被告人の供述を踏まえてもなお十分に信用できる,と判断されない限りは,本件公訴事実については犯罪の証明がないことになる。
※被告人=プナルバシ、被害者女性=A、■■■=少年

 

(1) 供述の概要
多目的トイレ内でAとキスをし,床に横になった私の上に,下半身を露出させたAが,自分に背を向けてまたがるような体勢で性交した。被告人が,多目的トイレの外からドアを叩いて,[中で何をしているのか。」と言ったので,私がドアを開けると,被告人が中に入ってきた。被告人は,中に入るとすぐにズボンを少し下ろして陰茎を出した。被告人は,陰茎を出したまましゃがみ,四つんばいになっていたAの頭をつかんだ。また,被告人は,Aの腰の辺りを触ったこともあったが,そのときには,陰茎は出ていなかった。被告人がAの頭と腰の辺りのどちらを先に触ったかは覚えていない。

 

(2) 信用性の検討
ア(略)■■■は,被告人が陰茎を露出させた理由について,当初,セックスをしたいと思った(ように見えた)と述べながら,その後,尿意を催したのではないかという趣旨の発言をするなど,同一の尋問期日の中でその内容を変遷させている。さらに,■■■は,被告人が陰茎を露出させたのを本当に見た,と供述する一方で,陰茎をいつしまったのか,との質問に対して,自分がそれを見た時である旨を供述したり,陰茎の露出と,Aの頭をつかんだり,腰の辺りを触ったりしたとする被告人の行為との先後関係については全く覚えていない旨を供述するなど,露出の前後に関する供述は極めて不明確である。つまり,被告人による陰茎露出という出来事は,一連の事実の流れの中に位置付けることができないのであって,この意味でも,■■■の前記供述は,極めて唐突なものと評価せざるを得ない。
(イ、ウは省略)
エ なお,検察官は,Aを姦淫したことなどについては既に少年院送致の処分を受けていることなどから■■■には虚偽の証言をする理由がない旨を主張するが,■■■はAに対する姦淫について,供述時点においてもなお,同意があった旨を主張していることがうかがわれ,自身の言い分と整合性を取るために,その場に居合わせた被告人の行動についても虚偽の事実を述べるなど,虚偽供述をする動機が■■■にないとはいえない。
オ 以上の検討に鑑みると,被告人が陰茎を露出させて,Aの頭を手でつかんだとする■■■の供述は,それ自体,相当に怪しく,信用性が低いものと評価せざるを得ない。

 

4 被告人の公判供述について
(1) 供述の概要
多目的トイレの中から■■■の声が聞こえたのでドアを開けろと大声で言うと,■■■がドアを開けて私を多目的トイレに引きずり込んだ。そうすると,Aがお尻を露出した状態で床に四つんばいになっており,片手で下がった下着を上げようとしてできずにいたので,下着を上げるのを手伝ってあげた。

上記の被告人(プナルバシ)の供述についての信用性の検討部分は割愛するが、大きな矛盾はなく■■■の供述よりも信用が置けると判断されている。そして以下が「体液」に関する部分となる。

5 なお,Aの臀部の付着物から,一部を除いて被告人のDNA型と型が一致するDNA型が検出されているところ(甲28,37),被告人の供述によれば,Aが下着を引き上げようとしているのを手伝ったというのであり,その際に被告人に由来する何らかの体液がAの臀部に付着した可能性も否定できないことからすれば,この点は被告人による公訴事実記載の犯行を裏付けるものではない。

酩酊した故なのか被害女性側証言はないので何とも言えない部分があるのは拭えないが、「体液」に関しては■■■の証言を信じた場合においても、陰茎を露出させたことはあるがその陰茎を臀部に近づけたとはなく、腰のあたりを触ったこともあったという証言時には陰茎は出ていなかったという証言になっている。■■■の証言を単純に信じた場合でも「精液」が出る行動をしたかには少々疑問であるし、臀部につくと考えるのも疑問だ。プナルバシ氏の証言にある下着をあげるの手伝った時に汗などの何らかの体液が残ったと考えるのが妥当だろう。検察が第一審で終わらせている事からもこの事件は無罪で終わり、そして冤罪だったと判断できる。ただおそらくだけど、今後もまだこの画像はインターネット世界において使われる様な気はする。

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