電脳塵芥

四方山雑記

電車内での痴漢の話について

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 というツイート(現在は削除)があったので痴漢の話について。それと前もって言っておきますが伊藤詩織氏については本題ではないので特に触れません。
 まず現在の電車内の痴漢についての状況ですが、警察庁の「検挙/認知件数」は以下の通りです。

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データは以下の警察庁の資料から。
令和元年度警察白書
平成29年警察白書
平成24年電車内の痴漢防止対策の推進

迷惑防止条例違反の卑わい行為」とは痴漢、盗撮、のぞき見、その他の卑わいな言動の合計となります。ただしこのデータには「電車内における強制わいせつ」とは異なり、電車内の区分はなく総数のみですので迷惑防止条例違反=電車内の痴漢」ではなく注意が必要です。ただし、警察庁の「こんな時間、場所がねらわれる 警視庁」によれば痴漢(迷惑防止条例違反)の発生場所は「電車 45%」、「駅構内 19%」となり、上記グラフの迷惑防止条例違反行為の件数の過半数は電車関連の痴漢と捉えても大きな間違いではないでしょう。

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その推定に従えば2018年に限って言っても電車内の痴漢行為は1500件以上の件数があったと考えられます。また「認知件数」より実体の数が多いのは想像に難くなく、それを裏付けるかのように2011年に警察庁より出された「電車内の痴漢防止に係る研究会の報告書について (16歳以上~50代までの調査)※アーカイブ」では、警察に通報・相談した人間は10%ほどとなっています。

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また報告書では”「我慢した」、「その場から逃げた」のいずれか又は双方を選んだ方は、246人であり、痴漢被害に遭った方304人のうち、80.9%が「我慢した」、「その場から逃げた」と回答した”であったり、犯人を捕まえたという回答数が「12」という事から捕まった人間はごく少数であろう事が伺えます。

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通報・相談の少なさから単純に考えれば痴漢の件数は今出ている数の10倍近くあったとしてもさほど不思議ではありません。そうすると2018年では1万5千件ほどとなりますし、過去にさかのぼればその数は2万、3万となるでしょう。勿論これは至極単純に考えた場合の数字ですし、その後の痴漢減少傾向がありますので一概には言えませんが、とはいえ認知件数には現れない数倍レベルの暗数がある事は間違いないと考えます。
 次に痴漢にあった経験ですが、各種の調査では以下の様になっています。

■痴漢被害経験の有無
<ここ一年以内に痴漢にあった>※女性のみに限定しています。
・2003年 岡部千鶴「女性専用車両に関する一考察 ~痴漢被害の実態とともに~
 28.4%
※調査場所は「西鉄久留米駅構内福岡行きホーム」のみ
・2011年 警察庁報告書
 13.7%
・2019年 #WeToo Japan 「公共空間におけるハラスメント行為の実態調査
 17.2%

<痴漢にあったことがある>
・2015年
 ウートピ「電車内での痴漢被害、66%が経験あり 何が犯罪を助長させてきたのか
 66%
・2017年
 リビングくらしHOW研究所 「電車内の痴漢についてのアンケート
・2017年
 大髙 実奈「男女大学生における電車内痴漢被害の実態調査
 37%
 ※調査対象の平均年齢20.61歳
・2019年
 くりみな「痴漢被害についてのアンケート調査結果
 63%
 ※「電車内」という限定はない模様

ここ一年という期間を区切れば2003年というやや古いデータを除けば10%台中盤、今までの経験を含めれば60%台となっています。特に今までの被害体験は調査対象年齢が20代という調査を除けば、3つの調査で数字にぶれがほぼないことから、実態に近いかと考えます。なお、岡部による2003年調査の「ここ1年以内」は28%と高くなっていますが、これは駅を限定しての調査であり、また推移を見る限りは痴漢そのものは減少傾向である事には疑いがありませんので、その時期と場所による高さと見る方が妥当な気もします。逆に今の時期においても人の多い駅で聞けば割合は上昇する可能性もあると考えます。電車の込みぐらいなどの地域によるブレは存在するでしょうが、事程左様に全体を見れば過半数の女性は電車内で何らかの痴漢行為を受けていた可能性があります。
 それと痴漢被害者は複数回の被害を受ける方も存在し、岡部、大髙、くりみななどの調査でもそれが確認できます。大髙の平均20歳の調査によれば痴漢被害経験者の平均回数は「1.99回」、女性全体での平均は「0.7回」、くりみなのアンケートでは6回以上が11%となっており、複数回被害にあっているというのはそこまでおかしな話ではありません*1

 次に被害を受ける年代ですが、被害そのものは10~20代に多いです。そして #WeToo Japanによる以下の様な調査結果があります。

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上記の調査は「制服」か「私服」かでの痴漢被害の被害経験率の調査ですが、「制服」は明らかに何らかの被害経験率が上昇しており、制服が被害に関連している可能性が示唆されています。これは「学生」を狙っている人間がいるとも言えます。

 最後に精液を付着させる痴漢ですが……、これは表立ったデータはなく引用した資料では岡部のアンケートにその被害を告白している人間がいるのみ、その「数」自体はそうは多くないでしょう。とはいえ数だけでこの件を語るのは被害に遭遇した人間にはグロテスクでしかない言葉です。ノイズともいえる情報があるので精神衛生上検索そのものはオススメしませんが、ある単語で検索すれば100件以上に関与したという容疑者の記事が出てきますし、体験談も出てきます。「精液をかけた場合」という加害者側の事例を紹介している弁護士事務所サイトも複数存在しますし、そういった相談が書かれる程度にはポピュラーな問題ともいえるかもしれません。「女性に体液をかける行為に刑法のどの条文を適用するかは非常に難しい問題である」では35人もの女性に体液をかけた事例が紹介されていますし、決してない行為ではありません。

 件のツイートの人は個人に対するまなざしが下劣である事は言うに及ばず、内容も日本の痴漢そのものに対する認識が酷く、また現実に存在する犯罪に対しての言葉として倫理にもとります。そして電車内の痴漢は現在の日本でもまだそれなりの数が存在していますし、10年程度の過去に戻るだけで言わずもがな。痴漢の話、日本についてだと思うんだけどな。

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

痴漢とはなにか 被害と冤罪をめぐる社会学

*1:なお、大髙による調査では男性の痴漢被害経験者は5.97%ち少ないですが、痴漢被害経験者の平均は2.5回、全体の平均は0.15回となります。男性の痴漢被害経験者は複数回の被害に会いやすいようです。