電脳塵芥

四方山雑記

「貯蓄ゼロ世帯」の推移について

【更新】以下の記事の方が詳しいです。

nou-yunyun.hatenablog.com


 という画像がツイッターで出回っています。この出典は画像下部にある様に「2018年2月1日」の参院予算委員会における山本太郎氏が用いたものであり、データ出典は金融広報中央委員会における「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」>「金融資産の有無」となります。まずこのデータですが「単身世帯」限定であり「二人以上の世帯」ではない事に留意が必要です。ではこの2017年時点での「二人以上の世帯」ではどうであったか。

上記の「保有していない」という欄が「貯蓄ゼロ世帯」となる層です。グラフからもわかる通り「二人以上の世帯」では貯蓄ゼロ世帯が単身世帯よりも少なくなります。当然と言えば当然ではありますが。あとこれはなぜだかは分かりませんが、二入上の世帯には70歳以上がありますが単身世帯は60歳代のみで70歳以上は有りません。
 さて、山本太郎氏の使用した表ですが「単身者世帯」という出典は書かれているものの非常に見にくく、この表を見る人々に全世帯の貯蓄ゼロ世帯が増えたという誤謬を生みかねない危うい表であるという指摘は免れえないものではあると考えます。単身者世帯で貯蓄ゼロが増えているのは事実ですが、事実の提示の仕方が不味いです。

 で、ここからが本題。
 上記の表は「2017年」の貯蓄ゼロ世帯です。では最近はどうなっているのか。2018,2019年の単身者世帯、二人以上の世帯を見ていきます。

◆二人以上の世帯 2017~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

◆単身世帯 2017~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移


 以上の様に「2人以上世帯」の「70歳以上」以外は2017年の貯蓄ゼロ世帯よりも減少が見受けられます。2017年から2019年にかけて貯蓄ゼロ世帯が15%以上減少している年代も見受けられます。ついでに全世代でのグラフ推移を見てみると、

◆二人以上の世帯(全年代) 2007~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

◆単身世帯(全年代) 2007~2019年の貯蓄ゼロ世帯推移

という様にリーマンショック時の影響から貯蓄ゼロ世帯が増え始め、民主党政権の影響なのか2012年にやや減少、その後に安倍政権後の2013年から貯蓄ゼロ世帯が増加後に停滞、そして2017年から2018年にかけて一気に貯蓄ゼロ世帯の現象が確認できます。







 2017-2018の間で下がりすぎじゃない?

 貯蓄ゼロ世帯が一気に増えるのは不景気などの到来で理解できますが、貯蓄ゼロ世帯の一気の減少は相当な好景気が来なければ理解しにくい現象です。そして2017~2018年の間にそうなった記憶はほぼない。じゃあ、なぜこんな下がったのか。答えは簡単で、

上記は「預貯金口座または証券会社等の口座の有無」の有無の項目ですが、2017年と2018年の間に「一点鎖線」が存在しており、そして資料上部には「(※)一点鎖線は、データが不連続であることを示す。」とあります。つまりは2017年と2018年でデータのとり方が変わり、データに連続性がなくなりました。上記の口座有無でも2017年で「89.4」、2018年で「99.4」と到底連続性のあるデータとは思えない増加の仕方をしています。連続性がないから当然なのですが。これと同じことが貯蓄ゼロ世帯に関しても起こっており数値が大きく変わっています。具体的な変更点は、

(注1)金融資産の有無は、2017年までは、回答者が「保有している」と「保有していない」から選択。2018年からは、a.問1(b)で10(いずれも保有していない)を選択した世帯と、b.問1(b)で1(預貯金)のみを選択し、問2(a)で1(預貯金の合計残高)の「うち運用または将来の備え」がゼロないし無回答の世帯をそれぞれ「金融資産を保有していない世帯」(金融資産非保有世帯)としている。

 2017年まで「金融資産の有無」は回答者の「保有/非保有」という二択のみでの判断でした。しかし2018年からは、


・問1(b)あなたが、現在保有している金融商品(外貨建金融商品を含めます)について、その番号に○印をつけてください。
 ⇒ 10 いずれも保有していない

・問2(a)現在の金融商品別残高(現金を除き、外貨建金融商品を含めます)およびその合計額はどのくらいですか。
 ⇒ 無回答、もしくはゼロと回答


以上の二つを満たす世帯が金融資産ゼロ=貯蓄ゼロ世帯と算出されるようなりました。設問の仕方はより詳細に聞くようになっている為に精度は上がったと考えて良いかと思います。しかしながら、データの連続性は無くなりました
 このデータの不連続化は2003~2004、2006~2007でも発生しており、2017~2018だけで発生したことではありません。また精度が高くなった可能性がある為に否定する変更要素ではないとも考えます。でも何で変更したのかが良く分かりません。何で変わったんですかね。


 おまけ。
 この調査では貯蓄ゼロ世帯という括りの他に2016年から「口座は保有しているが、現在、残高はない」という調査もあります。それを最後に貼っておきます。
※当然、この設問も2017-2018年の間に設問が変更されてデータの不連続化が発生しています。なので、そこには留意をお願いします。変更内容は以下の通り。

(注2)口座の有無の選択肢は、2015年までと2018年からは、「保有している」と「保有していない」により行っている。2018年からの「口座を保有していて、現在、残高がある」と「口座は保有しているが、現在、残高はない」の振り分けは、問1(a)で1(口座を保有している)を選択した金融資産非保有世帯について、問2(a)1(預貯金の合計残高)の残高有無により行っている。

◆二人以上の世帯 2017~2019年の「口座は保有しているが、現在、残高はない」

◆単身世帯 2017~2019年の「口座は保有しているが、現在、残高はない」

 二人以上の世帯は2018~2019で増えている世代もありますが、2017年を基準にすれば減少していることは間違いありません。しかし単身世帯は基本的に上昇傾向である事が伺えます。
 データの不連続化のある2017~2018は置いといて、二人以上の世帯を見ると年代によっては一気に残高ゼロ割合が上下しすぎなような気もするデータではあったりして、それをどう考えればいいのかは私にはわかりませんがそれはともかく*1。昨今の外出自粛状況を考えればこの残高ゼロ世代は大きな影響を受けることは間違いありませんし、残高ゼロ世代の増加が発生する可能性の方が高い。この層を救う手立てがほしい。そしてそれは政治の役割。

*1:データの不連続化が発生しても大きく減少した年代がある一方、あまり変わらない年代もあったりとそもそもこの調査の信用性みたいなのを考えたりしちゃいます。ただ、この調査の正当性を調べられるほどの知識はないので、もしも暇ならだれかやってください……