電脳塵芥

四方山雑記

甘利明氏が医療用ガウンは100%中国依存というデマではないか

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 医療用ガウンですがそのHSコードは「6210.10211」(ガウン(医療用、介護用その他の衛生管理用に供する種類のものに限る。) )になるかと思われます。

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※出典:https://www.customs.go.jp/tariff/2021_4/data/j_62.htm

このHSコードを貿易統計で確認すると2021年の輸入国は以下の様になります。

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Unit1「NO」は枚数でQuantity1の値を見ると中国からは約1900万枚輸入されておりその量は圧倒的ですが、インドネシアベトナムカンボジア、タイ併せて約1300万枚ほど輸入されています。中国からの輸入量は枚数単位で言えば過半数を超えていますが、とはいえ中国に100%依存と言えるほどの量では決してンありません*1。なお2020年の輸入量に限って言えばHSコード「6210.10211」が2021年に新設されたものであるために詳細は分かりませんが、上記の親番号(?)にあたるであろう「6210.10210」(人造繊維製のもの)を見る限りは2021年と同じような輸入国構成ですので中国以外からも輸入していたと考えるべきでしょう。ちなみに2021年には「防護服」というカテゴリーも出来ていますが、当然ながらこちらも中国以外からの輸入があります。
 また国産も存在していますし、去年には新型コロナウイルスの影響を受けて帝人がガウンの型紙をネット上で公開したこともニュースになり多少は話題になりました。

大手繊維メーカーの帝人は来月から国内の工場で月に5万着の生産を行うことになりました。帝人はほかの中小の事業者なども生産に参入できるよう、近くガウンの型紙をネット上で公開することにしています。
帝人が医療用ガウン 月5万着生産へ 2020年4月15日

東レにおいては以下の様に経済産業省から感謝状をもらっています。

東レはこのたび、日本政府の要請に基づく医療用ガウン納入に対して、12月21日に経済産業省から、「新型コロナウイルス感染症の流行に際し、医療物資の増産に取り組み、需要の改善を通じて国民生活の安定に大きく貢献した」として感謝状が授与されました。
アイソレーションガウン供給に対して経済産業省から感謝状が授与されました 2021年2月9日

上記の感謝状は三井化学ももらっており、国内でも生産している事が分かります。東レに関してはどこの工場で作ったのか書いておりませんが、三井化学に関しては国内工場での生産であることが分かります。これらの国内企業による供給は臨時的なもんであったり、実は海外からの輸入分が含まれている可能性*2は無きにしも非ずですが、しかしこれらの動きを見ても中国から100%依存というのは国内企業に対して酷薄な態度でしょう。
 なお国内で作るべしという声もあるのでしょうが、国内で作ったとしても中国産に価格で負けるので果たして国内に生産をシフトした場合にそれを維持できるかは不明。以下の様な報道もありましたが実際に「競争」したら価格面から勝つのは難しい。

価格が3分の1程度の中国産ガウンが安定して供給されるようになったことに加えて、当初は随意契約を結んでいた県が競争入札に切り替えたことが大きく影響しました。 「医療用ガウン」国内生産したのに“在庫11万枚”…安い中国製が選ばれ生産中止検討 2020年12月7日

 一国依存体制が持続的な意味で考え直した方が良いというのは理解できなくはないですが、しかしながら医療用ガウンは中国以外からも輸入されており甘利明氏の言っている中国に100%依存という数字がどこから来たのか謎で、とにもかくにも事実に反します。事実に反した事を言っている人間はそのデータの読み方、若しくは周辺ブレーンの知識の拙さ、若しくは単純な扇動なのかもしれませんが、はっきり言って信用に値しません。デマを吐くような人間の語る安全保障ほど国にとっての安全保障を脅かすものはない。

*1:Unit2のKGはキログラムなので重さ単位だとちゅごくの量は過半数以下を割ります。枚数と重さでなぜ結構な乖離があるのが何故だか不明です。それと金額でみると中国産がかなり安いことも分かります。

*2:例えば積水化学は中国の工場で生産したものらしい。https://jocr.jp/raditopi/2020/07/04/90997/

自民党が規制改革を阻む要因として「弱者への過剰な配慮」と書いてた

 メモ的なもの。    2021年5月11日に自由民主党行政改革推進本部の規制改革等に関するプロジェクトチームが「デジタル化社会からデータ利用型社会へ(中間報告)」という資料を自民党HPにアップロードしてたので、読んでたんですが気になることが書いてあったので忘備録的に記事としてあげておきます。
 まずこの資料の提言の内容は以下の5つです。

1.データ利用型社会への改革
2.規制改革推進のための論点整理
3.データ利用の阻害要因
4.各論①:カーボンニュートラルの推進
5.各論②:自治体における計画策定の負担軽減

各々については各自が気になる部分を読んでもらうとして、個人的に気になったのが「2.規制改革推進のための論点整理」での以下の記述。

(1) 改革を阻む諸要因
規制改革を阻む諸要因は「縦割りの弊害」「既得権益の保護」「弱者への過剰な配慮」「改革アプローチの間違い」など多様である。現状の取り組みではこれらの要因を含む改革は敬遠されがちで整理が進まない。規制そのものに合理性があるものを除いて、各要因の体系的な整理を進めた上で規制改革を推進すべきである。

この項目は規制改革を推進するためにどのような仕組みを構築するかという様な内容ですが、その中に規制改革阻害要因として「弱者への過剰な配慮」という概念が自民党にある事が吐露されています。その他の阻害要因として書かれている「縦割弊害、既得権益保護、アプローチの間違い」というある種のテンプレ群と比べても異質です。素直にこれを読めば弱者を守るための規制を改革によって打破すると読み取れるもの。弱者への「過剰な」配慮が駄目という話はある種の人には受けが良いとは考えられますが、資料には具体例が一つも示されておらず何を念頭に置いているかはわかりません。しかし、自民党は過去に生活保護バッシングを仕掛けたりヘイトスピーチLGBT法案における「差別」に対する姿勢などを見ると自民党内における「弱者への過剰な配慮」のレベルは本当に「過剰」であるかどうか、疑念を抱かざるを得ません。自民党がそういった価値観を持っている事はネット右派、新自由主義冷笑系の支持者を見てると不思議ではないですが、提言内容に書かれたことは一線を越えたかもしれません。中間提言とはいえ、これがこのまま削除されず完成したら政府へこの文言が入った提言を渡すことにもなるわけですから。

 以下からは脇道ですが、こんなことも中間提言には書かれています。

一方、個人情報を保護するあまり、まずはデータ利活用の抑制的なガイドラインによって規制するなど段階的な改革手法がとられ、データの利活用がそこで止まってしまうようでは問題である。むしろ、公益に資するデータは精査の上、積極的にオープンにして利用を進めていくべきである。

個人情報保護についても規制改革の対象になっているのでしょう。「デジタル改革関連法」でも個人情報が問題の焦点の一つになっていますし。

チャヴ 弱者を敵視する社会

チャヴ 弱者を敵視する社会

4月30日時点での新型コロナ用ワクチンは輸出【承認】5230万回、日本【到着】2800万回分

河野太郎行政改革担当相(ワクチン担当相)は数字には誤りがあるとツイッターで指摘。同相のオフィスは30日に電子メールで、日本に届いているファイザー製ワクチンは約2800万回分だと説明した。
日本のワクチン接種遅れに批判強まる-大量のEU製が承認済みと発覚 - Bloomberg

この情報から現在4月30日時点で日本に到着しているファイザー製ワクチンが2800万回*1であることが分かります。3月までのワクチン輸入量が纏まっているFlyteamの情報によれば3月末には550万回分のワクチンが到着しており、4月だけで2250万回分のワクチンが到着していることになります。

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また4月以降の予定を見ると週に300万回分ずつ積みあがっていく、5月1週には1000万回分で2800万回分が来るという予定。河野大臣側の説明にある2800万回という数字は予定よりも1週間ほど早い達成と考えていいのかもしれません。なお表の輸送日が3月22日までは日付のみ、3月29日から末尾に「~の週」とつくようになったのはこの週から週一回の空輸便が複数回*2になったからです。
 しかし情報の透明性という意味では4月中にどれくらいのワクチンが来たかという情報は一切報道されず、それは翻って行政側が何万回分到着するというアナウンスをしてなかったからだと考えられますし、まずそこが問題。それはさておき。

EUからのワクチン承認5230万回分について

 さて、それでもまだEU情報からするとワクチン2430万回分以上の差があり、とてつもなく大きな乖離が存在します。ちなみにこの5000万回報道がある前からブルームバーグでは定期的にこの報道をしており、

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3月9日時点だと約300万回
3月24日時点だと約540万回
4月6日時点だと約1700万回
4月19日時点だと約5200万回

以上のような結果になっています。見ればわかるように3月24日時点では540万回。日本の報道では3月末に550万回なので日付の差を考えても3月時点ではEUの承認と日本の到着数に差がないことが分かります。差が出てきた、というか日本への輸出承認量が大幅に増えたのは4月。ちなみに実はEUの公式情報でも幾度かワクチン承認情報が流れていて、例えば3月11日の「欧州委員会、新型コロナワクチンの輸出透明性・承認メカニズムを延長」を読むと「日本(270万回分)」と書かれていたりして、5000万回というインパクトのある数字だから今回話題になったものの、この件は以前からちょくちょくと公的な情報は出ていました。
 で、幾度か書いていますがEU側の情報は「承認」であって「輸出」ではありません。現在EUは6月末*3まで「ワクチン輸出承認制度」を設けており、例外を除きEU域外への輸出は承認が必要になっています。そしてこの輸出が承認された回数が5230万回となります。そして実際の手引きが書かれている「EXPORT REQUIREMENTS FOR COVID-19 VACCINES FREQUENTLY ASKED QUESTIONS」にはこの承認手続きに関してのQ&Aが記述されています。それによると承認は基本は1営業日、延びても2営業日程度でOKが出るものです。そして承認数ですが最後に申請書のテンプレートが記載されており、そこには数を記入する欄が存在。

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つまりは上記の申請書で書かれた数がそのまま承認された数、今回で言えば幾度もの申請が積もり積もって5230万回となります。承認されてから「出荷」となります。そして出荷を請け負うのは当然製薬会社側です。

Q5. EU域外、特に日本へのワクチン輸出の状況を教えてください
EUは日本に対して、4月27日までに約5,230万回分のワクチンの輸出を承認しています(欧州委員会の情報。出荷は各製薬会社の責任で行われる)。日本は現在、EU域内で製造されたワクチンの主要輸出先の一つです。
EU MAG EUの新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する取り組みを教えてください

上記の様に駐日欧州連合も記述しています。なのでここら辺を整理します。

ファイザー製ワクチン輸出フロー

1)製薬会社が欧州委員会に輸出許可を申請(この時に輸出数記入)
 ↓
2)欧州委員会が輸出を「承認」(4月30日時点で5230万回。1~2営業日)
 ↓
3)製薬会社が「出荷」
 ↓
4)輸送会社のベルギー内での配送
 ↓
5)日本への空輸
 ↓
6)日本への「到着」(4月30日時点で約2800万回

となるかと考えます。現状、ファイザーが承認から出荷までどれくらいかかるか不明であるためこの時点での出荷が滞っている可能性は考えられなくはないですが、それよりも可能性が高いのが日本の輸送能力による目詰まりです。Flyteamにある輸送予定表を信じれば4月中は1週300万回程度の輸送能力、方やEUでの承認数は4月6日で1700万回、4月19日が5200万回とたった2週足らずで3500万回以上の増加となっています。事前の予定表で輸送能力を組んでいた場合はどう考えても対処できず、対処できなかった場合は出荷を控える、若しくは出荷したものをどこかで保管の二択のはずで、日本に届くことはなく塩漬け状態の様になっている可能性が高いです。フローで言え(3)、(4)の時点がうまく機能してない。

4月19日の会談後に増えない承認数

 上記の輸送能力による目詰まりは憶測になりますし、そもそもこのファイザー製ワクチンの急激な承認数増加が何故発生したのかがよくわかりません。3月8日の記事「ファイザー「首相と交渉を」 返答に関係者絶句、政府主導権取れず難航」において、ファイザーが先行による独占的な利益の確定を急ぐ必要が出た、そこに日本が乗って高値をつかまされたという考えも提示されていますが、どこまで信じて良いかも微妙。ところで菅首相がファイザーの会長と電話会談したのは4月19日で今回の増加の件とは別なのですが、この19日の会談で日本の対象者に対して確実にワクチンを供給できるよう追加供給を要請したとあります。ただ19日時点で5230万回の承認を得てましたが、27日時点でも5230万回承認*4。会談から8日経過してあれほど増加していた承認数が一切増加してないの若干皮肉だなと思いますが、それとは別にこの承認数の増えなさは輸送能力キャパオーバーによる輸出数との乖離が激しすぎてまずは承認数と輸出数を埋めることを優先して一旦承認をやめたのかもしれません。承認から出荷まで果たして期限があるのかもよくわからないし、完全な憶測ですが。

事実誤認の批判

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 上記がバズッてたので一応指摘しときます。まずワクチンが6か月ほどの保存期間というのが前提にあり、8月末までに2月に来たワクチンを使い切らないと廃棄しなくてはならない、というツイートです。何故か2月に5000万回来たような書きぶりですが、3月11日時点でのEUによるワクチン承認数は270万です。で、実際に日本に来てたのもその時期はそれくらい。もう日本の摂取量は4月末時点で約350万なので2月に来た分は使い切ってるはずです。今使ってるのは3月分だろうし、大量に来たのは4月。なんで使い切れずに廃棄となる場合は10月末ですね。確かに使い切れずに大量廃棄になったら大問題ですが、時系列が乱れてて批判が批判として機能していません。批判は大事ですが誤った批判は誤認を広め、時にデマ、陰謀論になりえますのでご用心を*5

上記とは別の批判点

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 ワクチン担当相なら数字が違うのではなく、どう違うのか言いましょう。ツイッターで「違いますね」と引用することがワクチン担当相の仕事じゃないでしょ。何が「違う」のか。もしかしてだけど、EUの承認と日本の到着数の違いをワクチン担当相ともあろうお方が認識していなかったのか。もしもそうならば大臣として現状の認識に問題があります。そしてEUの公的情報に対して大臣がさも喧嘩を売ってると捉えかねないツイートも問題。いらんところで摩擦を起こしてどうするのか。
 大体問題の少なからずは日本のワクチン確保数がよくわからないことにあります。3月までは報道ベースではありましたが4月以降は第11便を除いてほぼ報道皆無状態。これは行政が報道に情報を提供しているからこそ成り立つ報道の類であり、そう考えれば行政側が情報の提供を止めたことに起因するはずです。そしてワクチンの到着数は何故か厚労省首相官邸いずれのコロナ用ページに記載されていません。情報公開、透明性が死んでる。承認数までは書く必要はないでしょうけど到着数は書けたはずで、それを書いていれば多少は違った。あとブルームバーグン記事に同相のオフィスの電子メールで答えたとあるけど、同相のオフィスが河野事務所的な話ならばその電子メールは公的情報開示じゃないのでは。はっきり言ってふざけた話。
 それと5000万回がすでに日本に入ってて廃棄云々の話にはあまり与しませんが、ただ4月30日時点で約2800万回のワクチンが日本に届いており、しかし接種は約350万回って届いたワクチンに対して摂取回数がかなり低い。これは接種の為のロジティクスを構築しきれなかったという証左。ワクチンがコロナ禍の解決策の様に扱っていたはずなのに、そのための摂取に関する仕組みがグダグダな感じなのは行政能力が低いと思わざるを得ない。利権が絡まないと能力が発揮できないのかな。ある意味で今回の件はワクチン獲得競争に勝ったともいえるのにそれを思わせない体たらくではないかと、現状。
 そして承認回数と到着回数の乖離も輸送能力の問題ならば輸送システムの構築に失敗したことになる。ファイザーが予想を大幅に超える輸出承認数を取ってきてくれたならばともかく(そんなことあるのか疑問だけど)。ワクチン到着数と事前の予定表を考えればやや前倒しで事は進み、ある意味順調とも言えるけれど承認数と到着数の乖離はいずれかの場所で何らかの問題が起こっている事はありえるかなと。

 現状、来る前にも来た後もグダグダ、日本。大臣の説明も下手。これもまた危機管理能力、というか一昔前は政権担当能力って言われてたんだろうけど、お世辞にもあるとは思えず、欠如してる。

武器としての情報公開 (ちくま新書)

武器としての情報公開 (ちくま新書)

*1:これが1瓶5回計算なのか、6回計算なのかは不明。

*2:何回か不明、ただ第7便が3/22、第11便が3/29であることを考えれば1週間に4便程度、4月のワクチン増加量を考えたらも少し多い可能性もあり

*3:当初は3月末までだったが期間が延長されました。

*4:ともにhttps://eeas.europa.eu/delegations/japan/96795/node/96795_ja による。同ページで数字部分だけを更新するというあまり宜しくない方法で更新してる。

*5:陰謀論的にはこの余ったワクチンをどこかの市場に流して~、と考えられなくもないけど、流石にそこには行きつきたくない。

バリアフリー化費用で運賃値上げは数年前からの既定路線です

 であったり*1

などなど。テレビ朝日による「鉄道バリアフリー化費用 運賃に上乗せ検討 国交省」を受けての反応がありました。なお記事は今現在削除されているのでアーカイブから記事を引っ張てきます。概要は以下の通り。

国土交通省が、鉄道のバリアフリー化にかかる費用を運賃に上乗せする仕組みを導入する方向で検討していることが分かりました。
 
 今後5年間の交通政策の方向性を示す第2次交通政策基本計画の素案には、「都市部において、利用者の薄く広い負担によりバリアフリー化を進める枠組みを構築する」とあります。
鉄道バリアフリー化費用 運賃に上乗せ検討 国交省|テレ朝news-テレビ朝日のニュースサイト

 私自身は伊是名氏の話を全然追っていませんし、そもそもこの運賃値上げに関しては伊是名氏も社民党も一切関係ないので言及はしません。さてもう結論は書きましたが、この運賃の値上げにはサヨクも車椅子クレーマーなる人物も社民党も関係なく、自民党政権下において以前からの既定路線です。

第2次交通政策基本計画の素案

 まず記事を読めばわかるようにこれは「第2次交通政策基本計画の素案」です。この素案自体が出たのが「第10回交通政策基本計画小委員会」で開催日は2021年3月29日。伊是名氏のブログで波紋を読んだ記事は4月4日です。そしてそこには以下のような記述があります*2

○ 高齢者、障害者を含む全ての利用者が安全かつ円滑に鉄道施設を利用し得るよう、都市部において利用者の薄く広い負担によりバリアフリー化を進める枠組みを構築するとともに、地方部において既存の支援措置を重点化することにより、従来を大幅に上回るペースで全国の鉄道施設のバリアフリー化を加速化する。
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001397812.pdf

以上の様に3月時点の、それも議論の遡上ではなく「素案」の時点で利用者負担は明記されています。この時点で伊是名氏や社民党がこの運賃値上げに関して一切関係ないことがわかります。ちなみに案の概要でも以下のように記述。

出典:https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001397811.pdf

また2021年2月1日の第9回の議事録では以下のような記述もあります。

バリアフリー化というのは、年齢や障害の有無にかかわらず、全ての利用者が安全・安心かつ円滑に移動できる環境の整備に資するものでありまして、先送りすることなく着実に進めていく必要があると認識してございます。そのための財源をどのように確保していくかについては、さきの臨時国会で赤羽大臣からも答弁を申し上げておりますとおり、利用者負担を含めた、聖域なく検討を進めていく必要があるということでございまして、(以下略)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001387772.pdf

以上の様に大臣の答弁でも利用者負担を含めた検討を進めていく必要があると記述されており、そして当の赤羽国交大臣は国会で今年3月に以下の様な答弁してます*3

赤羽一嘉
バリアフリーを幅広く展開してほしいという強い要望もありますので、こうした財源についても、利用者負担も含めてちょっと幅広く検討も始めなければいけないのではないかというふうに思っております。
第204回国会 参議院 国土交通委員会 第2号 令和3年3月16日

以上の様に伊是名氏の話が話題になる前のここ最近の動きでさえ利用者負担 (運賃の値上げ)についての話は出ており、伊是名氏の行動が利用者負担に影響を与えた可能性は過大評価も良い所であり、影響は微塵もありません。なお念のために書いておきますが伊是名氏の様な行動が無駄だったという意見に与するものではありません。世界は粛々と変わる時もあるけれど、しかしキッカケとしてはある種の行為や意思表明の胎動による表面化がなされない限り変わらないので。だがしかし、この話については時系列的な因果関係はありません。

「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」

 そして運賃の値上げに関してはここ最近の第2次交通政策基本計画からの話ではなく以前からの議論においてもされています。例を挙げれば2017年から開催されている「都市鉄道における利用者ニーズの高度化等に対応した施設整備促進に関する検討会」。この検討会の2018年9月の報告書(概要)には以下のようにあります。

利用者負担制度の検討において「更なるバリアフリー加速化料金(仮称)(案)」とある様に今回の件とドンピシャ。そしてこの報告書は9月ですが、中間とりまとめは2月。そしておそらくこの動きを受けて3月に日経新聞で以下のような記事が出ています。

駅のバリアフリー化にかかる費用の一部を鉄道会社が運賃に上乗せできる制度の導入を検討
駅のバリアフリー整備費、運賃に上乗せへ 国交省検討 - 日本経済新聞

つまりは2018年時点でこのバリアフリー化の利用者負担という名の運賃値上げについてはほぼほぼ既定路線になっていることがわかります*4。またこれらの動きについてはバリアフリー改正法やユニバーサルデザイン 2020 行動計画 なども関わってくるものでしょう。特にユニバーサルデザイン2020行動計画については東京五輪の影響が指摘できます。

東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部の下、2020年東京オリンピックパラリンピック競技大会開催に向け、全国展開を見据えつつ、世界に誇れる水準でユニバーサルデザイン化された公共施設・交通インフラを整備するとともに、心のバリアフリーを推進することにより、共生社会を実現する必要があります。
ユニバーサルデザイン2020関係閣僚会議

運賃値上げは(額にもよるけど)賛同の方が多い

 最後に運賃値上げですが基本、賛成派の方が多いです。調査は「高度なバリアフリーに係る新たな利用者負担制度に関するアンケート調査結果について」から。

まずバリアフリーそのものについては当然ながら賛成派の方が圧倒的に多いです。

そして利用者負担については一部・全額にかかわらず賛成の方が多く、また反対派かなりの少数派であることがわかります。

ちなみに10円程度の上乗せなら妥当とする回答が過半数以上であり、現実的に導入するならここら辺になりそう?  なお「仮想的市場評価法(CVM)の調査概要」というのもあり、そちらではもうちょっとだけ高い支払意思額が示されています。

また別の調査「鉄道バリアフリー施設設備の効果と費用負担のあり方」においても運賃上乗せへの賛成は多く、仮に運賃上乗せが現実化した場合には額にもよるでしょうがツイッターでは今回のような声の大きい反対者が散見される可能性はあるでしょうが、実際には賛成の方が多いという事態にはなりそう。


 事程左様にバリアフリーの為の運賃値上げについては数年前から議論されてきた話であり何も突飛の話ではありません。反対するならするで良いけれど、事実を弁えましょう。今の彼らはデマ拡散屋。



■お布施用ページ

note.com

*1:どうでもいい話ですが、黒瀬氏、シェアニュースジャパンから私はブロックされてるのでこういう時に動きを察知できない。

*2:第10回における「素案」とパブコメサイトにおける素案がありますが、今回は第10回にリンクされている素案を使用。

*3:ホームドアについての質問に対しての答えであり車いすの件についてとは若干異なりますが、バリアフリーという枠組みでは同様であり、鉄道会社の認識においてもホームドアはアフリーの範疇ですので赤羽大臣の言う「バリアフリー」には今回の件も含まれていると考えていいかと考えます。

*4:議論自体は2017年11月の第5回で利用者負担に異論はないとなっています。それについての資料はこちら。事業者は当然ですが消費者団体も賛意を示しています。

ベトナムは日本に賠償を求めたし、韓国から「最貧国」呼ばわりされた時の反論は限りなく創作

 という画像を含むツイートがあり、そしてこの画像の元ネタは以下の書き込み。

ベトナムが韓国から「最貧国」呼ばわりされた時、その反論が「我々はフランス、アメリカ、中国と戦い独立したが賠償を要求した事はない。多額の賠償金と援助でぬくぬくと成長した韓国に言われる筋合いはない。 ベトナム人と韓国人の民度と国家自尊心の差だ」

この一連の言い回しは日本のインターネットでは韓国への嫌悪を募らせる人々が時折使用するテンプレ文言です。2020年現在のツイッターにおいても使用され、時折バズることもある。さて、この発言の出所ですが2012年のそれを検証したブログ記事として「★ベトナムが、韓国から「最貧国」呼ばわりされて…←創作話です。 | ☆杉野洋明 極東亜細亜研究所」があります。まずはこちらを参照にしてこの発言の出所自体をば。

発言の出所

 上記の発言の出所はENJOYKOREA翻訳掲示板であり、そこにlhylhy1234氏というユーザーが書いたベトナム人と韓国人の対話形式的な投稿であり、つまりは著名なベトナム人の発言でもなく、ネット上のベトナム人の発言でもありません。それと現在拡散されている発言はごく一部で全文はもっとあります。以下は転載サイトからの引用です。

ベトナム人「なぜ , 日本人を , 憎みますか?」
韓国人「それは , 日本人が韓国を侵略したからです.」
ベトナム人「私たちも , 55年間 , フランスに占領されました.」
韓国人「36年の日製支配は , 世界思想 , 最悪だったことです.」
ベトナム人「なぜ?」
韓国人 「日本は , 韓国の文字・ハングルを奪って , 日本語を強要しました.」
ベトナム人「私たちは , フランス支配後 , フランス文字を , 国語にしました.」
韓国人「韓国人は , ベトナム人と違い , 独自の文化を持っていました.」
ベトナム人ベトナム人も , 漢字を使った独自の文化を持っていました. 韓国も漢字を使って損傷されて糸口?」
韓国人「韓国人も , 漢字を使ったが , 韓国の文化は , ベトナムより , ずっと , 高かった.」
ベトナム人ベトナム人は , フランス , アメリカと 30年間争って , 自力で独立しました.経済は , 遅れたが , 自力で独立しなかった韓国人に日本とアメリカの助けで成長した韓国人が , 偉いように一ものを言うのを願わない.」
韓国人 「韓国人は , 日本人と争って , 自力で独立した. 嘘を言わないでね!」
ベトナム人「テロは , あった. しかし , 韓国人は , アメリカのおかげで独立した.フランス , アメリカと 30年間読者に争って勝って来たベトナム人と完全に違う.」
韓国人「韓国人は , 現在 , GDPで , 世界 11位だ. 最貧国のベトナムと言う(のは) , 違う.」
ベトナム人ベトナムは , 現在 , 最貧国だ. しかし , 私たちと戦ったフランスや , アメリカに ,お詫びや賠償を要求した時はない. 日本にお金を強要して米軍の駐屯で成長した韓国と違う.ベトナムは韓国のように日本アメリカにお金を強請してごきぶりみたいに成長するより自ら起きる.付け加えて韓国はアメリカの属国でベトナムを侵略したがベトナムが韓国がお詫びと賠償を要求しなかった.
これがまさにベトナム人と韓国人の民度と国家自尊心の差であることだ. 列強に支配されたアフリカの多くの国々とアメリカに原爆を受けた日本人も韓国のように減らず口を使わない.」

韓国人 「死んで! 代弁! ベトナムである !!!!! 君たち殺す!!!!!!!!!!!!!!ベトナムは最貧国!乞食国家!貧しいベトナムである!乞食だ! 私と争うか?私の super kickは強い.ハハハハウンハハハハ」
ベトナム人「................................................................論議で結果を イクルオネルスオブヌン韓国人が暴力に頼って花瓶をし始めた.......可哀想だから承諾しよう.」
引用元:【本家blog】棒太郎の備暴録 Radical memo by boutarou (1)[韓国]ベトナム人と韓国人の会話 (少し長文)ところがおもしろいから. (ENJOY Korea,現在削除)

エンジョイコリアは翻訳掲示板ですので、後半の日本語がおかしい場所などはそういうものとして捉えてください。見ればわかる様に多分にネタくさい。特に後半の発狂した韓国人というのは嫌韓ネタではよくあるパターンであり、この時点でそういう類の人間によるネタと考えられます。
 そして時系列ですが投稿の詳細な時期は分かりませんが上記の転載サイトでは2005年12月26日、2chの「ENJOY Korea 翻訳掲示板 part224」では

491 :マンセー名無しさん:2005/12/25(日) 17:50:41 id:i5mOlg5D
ベトナム人と韓国人の会話 (少し長文)ところがおもしろいから.
http://bbs.enjoykorea.jp/tbbs/read.php?board_id=thistory&nid=1542910
※上記URLはインターネットアーカイブでも残ってません。誠に残念

12月25日時点では投稿記事は読める状態で、26日には該当記事が削除されたという時系列でしょう。なお2chの「ようこそ、ニダーハウスへ」の12月27日の書き込みでは上記引用サイトと同じ書き込みがされており、この時点で韓国を嫌悪、馬鹿にする層からこの投稿がインターネットミーム的な扱いが既になされている事が分かります。ちなみにlhylhy1234氏の投稿属性は韓国となっていますが、彼自身が韓国人なのか、それとも韓国に住む日本人なのか(要は自虐的な韓国人か、日本人による釣りなのか)は不明です。当時の2chでは日本人のなりすましと言ってる方もいますが。
 さて以上が検証をしてくれたブログ記事の方を参照にしつつの情報ですが、それだけではただのネタパクリ記事なので以下からはオリジナル。

韓国やベトナムネット界隈で同様の話はあるのか

 この発言が有名なベトナム人、若しくは無名のベトナム人であっても同様の発言が韓国でなされていれば当然韓国でも同様の話はあるはずです。なので該当発言を自動翻訳となりますが韓国語に翻訳して検索しましたが類似の発言は目につく範囲では見つかりません。仮に存在したとしてもごく一部に存在するものであって日本の一部ネット界隈で膾炙してるような状態でもないでしょう。
 またそもそも「ベトナムが韓国から「最貧国」呼ばわりされた」とありますが、ベトナムが最貧国にカテゴライズされていたのは事実であり、そういった意味では日本もベトナムを最貧国呼ばわりしています。

ベトナム「国別援助計画」改定に向けて
2002年9月13日報告
(a)途上国ベトナムの特徴(他国と比較して)
●最貧国。民間部門が弱く、市場の未発達、現地企業の脆弱、国際競争の無理解などが一般的。ただし他最貧国と比べ社会的指標は優れている。1990年比貧困半減もすでに達成。
外務省 ベトナム「国別援助計画」改定に向けて

 それとベトナムでのネット界隈ですがこちらも似た文言で幾つか検索した限り、少なくともすぐに見つかるレベルでは存在しません。韓国、ベトナムでの検索では言語能力的に隅々までカバーできない部分があるのは事実ですが、ただ少なくとも現在流布されている文言は日本のネット界隈だけで流布されている可能性が高いです。


6月5日追記&記事改造

そもそも南ベトナムとの間で賠償協定は締結されている

 ふと韓国のナムウィキを見ていたら賠償についての話が目に入り、そこで南ベトナムが日本に対して賠償交渉をしていたという話が見ました。正直、南ベトナムによる賠償については私の意識外だったというほかなく、確かにその方面からの記述が皆無だったので記述しておきます。というかベトナムとの賠償については閉じの調べ方が悪かったので記事を改造。
 まず南ベトナムとの賠償についての資料は参議院HPにある『立法と調査 2007.9 .272』「国会から見た経済協力・ODA(4) ~ ベトナム賠償協定を中心に(その1) ~」を参照します。

南ベトナム政府との賠償交渉の過程】
1951年
対日賠償請求をバオダイ政権のトラン・ヴァン・フー首相が表明要求額は20億ドル(1945年価格)
1952年
ベトナムが対日平和条約を批准。正式な外交関係へ
1954年
ゴ・ジン・ジエム政権(南ベトナム)との間にに公使レベルの外交関係樹立
この際に日本は南ベトナムベトナム唯一の政権して戦後賠償交渉開始
1955年
交渉開始。日本政府は400万ドルの賠償を提示
1956年
1月 南ベトナム側は2億5000万ドルを要求
7月 ゴ・ジン・ジエム政権は、対日賠償要求額を2億ドルと言明
8月 北ベトナムからも賠償の権利があると主張されるが日本は正式な政権と認めず交渉に入らず
9月 日本の純賠償800万ドル、借款1200万ドル、ベトナム要望の沈船引揚げを賠償の対象しないの条件を提示
ベトナムは提案に対して戦争損害額を20億ドルと算定、再度2億5000万ドルを要求 1959年
ベトナムへの賠償として3900万ドル(140億4000万円)の役務及び生産物の提供を約束した「日本国とヴィエトナム共和国との間の賠償協定」を締結し、政府借款750万ドルの「借款協定」と民間ベースの経済開発借款910万ドルの「交換公文」に署名

 以上の様な流れで南ベトナムとの間に賠償は成立しています。これは現在のベトナム社会主義共和国の主体である北ベトナムとの賠償協定ではないとはいえ、日本は南ベトナムとの間に賠償協定は締結されており、また北ベトナムからの賠償主張もなされています。つまりはこのミーム化した「(ベトナムは)賠償を要求した事はない」は単純に嘘です。仮にベトナム人がそれを言っていたとしても歴史的に無知な人間が言った戯言です。ちなみにですが、南ベトナムに対してだけの賠償は当時の国会でも批判されており、必ずしもこの賠償が日本の道義的な責任を果たしたものかと言えばかなり疑問はあるでしょう*1

北ベトナムからも賠償請求されています

 また北ベトナムとの国交樹立は1973年9月ですが、その際に国会に置いて以下の様なやり取りがなされています。

田英夫「いま来日しておりますいわゆる北ベトナム——ベトナム民主共和国のホアン・コク・ベト団長が昨日日本記者クラブでの記者会見の中で、日本の賠償問題が解決しない限り、またいわゆる日本の戦争責任というものがはっきりしない限り、大使館を置いてもしかたがないではないか。」
第71回国会 参議院 外務委員会 昭和48年11月8日

読めばわかるように北べトナムは賠償について言及しています。そして「日越外交関係樹立45周年記念プロジェクト」では以下の様にこの交渉が紹介されています。

北ベトナム政府は、戦争賠償に代わる無償経済協力の基準として、「少なくとも南ベトナムに対する賠償額の3倍以上でなければならない」と主張します。20回以上にわたる公式・非公式の会談の後、1975年10月6日、日本からの無償経済協力135億円で合意に至りました

なお南ベトナムにしても北ベトナムにしてもこの○○億円の支援は「経済協力」でありその金銭がそのままベトナムにいったわけではありません。南ベトナムの賠償ではダニム・ダムの設計契約に日本工営があたったり、北ベトナムの賠償でも農地開墾などに必要な重機などの購入は日本国民が運営する法人からの購入に限られるなどの制約が存在しています。あと再度強調しますが日本の建前は「賠償」ではなく「経済協力」なのにも注意が必要です。実質的には賠償的性格を持つものの名目は「経済協力」。それは以下の文書を読むと「賠償」の字がないことからも明らかです。

 以上の様に日本とベトナムの国家間の賠償(という名の経済協力)は済んでいます。ただそれを反故にするかのような歴史修正主義的な言説も蔓延ってはいない。飢餓や被害への無頓着、植民地解放史観言説でも声高に叫べば話は別でしょうが、現状で太平洋戦争期の賠償についての話が出てくる可能性は低いです。

 少なくとも現在流布されている文言はネットの創作やりとりが元ネタと言って良いでしょうし、流布されているのはおそらく日本のみ。そしてそれを作り出したのは日本人である可能性が高く、これが仮に韓国人であったとしてもまるでベトナム人が言ったかのように言うのはデマといって差し支えないでしょうし、おそらくは単純に無知な日本人がネットに書き込んだジョーク発のデマ。あと少なくとも仮にこれが本当のやり取りだとしても韓国人とベトナム人の間の話であり、それを日本人が用いて嘲笑しているのは品位がない。あえてこのミームに乗るとしたら民度が低いし、民族の自尊心としてどうなんですかね。


おまけ
 ベトナムという国と韓国間における謝罪、賠償の話は以下のような記事を書いているのでご興味があればご参考にどうぞ。

nou-yunyun.hatenablog.com

nou-yunyun.hatenablog.com

nou-yunyun.hatenablog.com



■お布施用ページ

note.com

*1:さらに脇道ですがこれらの賠償による金銭の動きが南ベトナムの腐敗を加速させたという指摘も存在しているようです。

「子どもの貧困対策予算」は6億5000万円じゃない

子どもの貧困対策予算の6億5000万円も拡充すべき

ってのがあって。他にも。

とかもある。他にも似たようなツイートはあるけれどそこらは無視して、この6億5000万円の拡散元はおそらくは以下の2019年のツイート。

で、このネタのもとは多分ここら辺。

子供の貧困対策予算を倍増 内閣府の20年度概算要求
2019年8月30日
▽子供の貧困対策の推進 6億5000万円

まあ、とりあえず6億5千万円というのは2020年度の概算要求での額。

「子供の貧困対策の推進」について

 さてこの6億5000万円は「子供の貧困対策の推進」のための予算であり、「子供の貧困対策」の予算ではありません。また令和二年度の概算要求においては6.5憶円でありますが、実は令和二年度の概算のつかない「子供の貧困対策の推進」の予算額は3億円です。6億5000万円も計上されていません。

令和元年8月内閣府 令和2年度 予算概算要求の概要

令和元年12月内閣府 令和2年度予算(案)の概要

ちなみに令和三年度の予算案においても「子供の貧困対策の推進」は3億円です*1。で、「子供の貧困対策の推進」ですが、これについての説明は予算案には以下の様にあります。

官公民連携プロジェクトである「子供の未来応援国民運動」の推進、子どもの貧困対策会議の開催、子供の貧困に関する調査研究、地方における連携体制支援事業、子供の未来応援地域ネットワーク形成支援事業(地域子供の未来応援交付金)など、子供の貧困対策を推進する。

つまりはこの「子供の貧困対策の推進」とは運動推進、会議開催、調査研究、地方における支援事業への予算であり、所謂一般にイメージされるような子どもの貧困対策の推進とは少し異なるといっていいかもしれません。

 そして「推進」ではない「子どもの貧困対策」への予算ですが、全体像を把握するならば資料「子供の貧困対策に関する主な施策について(令和2年度政府予算案)」を参照するのが早いかと思われます。

一応概要を貼っておきましたが、見ればわかる様に6憶5000万円は軽く超えてます。なお3枚目の右下にある調査研究や対策会議、地域事業支援が「子供の貧困対策の推進」にあたるものかなと。
 まとめ的にざっくりいうと「子供の貧困対策の推進」が6億5000万円というのは正しいけど正しくない。時系列的にはもはや過去の額であるし、さらに言えば概算要求であり実際の予算額でもない、またこの予算は実際の貧困対策への予算とは言えない予算であってミスリード。 あとそういえば以前に似たような記事を書いたことあるので、ご興味があれば。

nou-yunyun.hatenablog.com

おまけ

令和元年度子供の貧困の状況と子供の貧困対策の実施の状況という資料があり、こちらでは貧困状況がどの様に推移しているのかが少し前から分かります。個々の妥当性を考えた場合にはまたいろいろあるかもしれませんが、基本的には大抵の項目で微々たる改善が見られます。ただそれら改善項目は置いといて、多分現大綱策定時から調べられるようになった数値がありましたのでそちらを置いておきます。

コロナ禍を考えればこの数値から悪化している可能性の方が高いのかなと。



■お布施用ページ

note.com

*1:さらに言うと概算要求は6.1憶円。2019年の時と同じく概算要求からは半減

東日本大震災の時における韓国の支援について

救助隊もわずか5人で何もせずにさっさと帰ったし、援助金も台湾に比べたらごくわずかでした。違います?

 違います。

救助隊について

わかる!国際情勢 外務省 2011年6月6日
世界が日本に差し伸べた支援の手~東日本大震災での各国・地域支援チームの活躍

震災後3日間の間に,6つの国(韓国,米国,シンガポール,中国,スイス,ドイツ)が被災地に入りました。その中でも,震災翌日にいち早く消防防災庁職員などで構成されるレスキューチームを派遣したのは,お隣の韓国でした。3月12日に救助犬チーム(人員5名と救助犬2匹),さらに3月14日には追加支援隊員102名が派遣され,総勢107名という大規模な救助隊宮城県仙台市などで活動。警察とともに,救助犬や機器類を利用して,被害が大きかった宮城野区蒲生地区などで行方不明者の救助・捜索活動を展開しました。

 加藤氏やそこらの十把一絡げの事実軽視のネット右派系のいう救助隊に5人はあくまでも3月12日という翌日の先遣隊的人員に過ぎず、追加支援隊員として102名が派遣されています。大体、辺氏の記事には102人についての話書いてるんですけど加藤氏は記事読んでるんですかね。この人員数は中国(15人派遣)、台湾(28人派遣)と比較してかなり大規模だったことがわかります。またもっと詳しい各国の支援人員については外務省にある下記画像が参考になります。


出典:https://www.mofa.go.jp/mofaj/saigai/pdfs/katudouitizu.pdf

援助金ついて

 援助金(義援金)についてはここら辺の表が出回ることが良くありますが、これはグラフに書いてある様に「海外から日赤への義援金」です*1。その他にも海外救援金というものがあり、そちらでは29億円となります*2義援金の額は確かに低いですが、海外救援金はアメリカ(230億)、台湾(70億)、カナダ(40億)、ドイツ(33億)に次ぐ5番目に来ていることからも決して低い金額とは言えません。

ちなみに上記は日赤経由の救援金、義援金ですが、日赤を含めての寄付は韓国報道によれば2011年4月時点で556億ウォン(2011年の為替レート1ウォン=0.07円で計算すると約39億円)といわれています。そして金額明記はないものの、外務省の「「がんばれ日本! 世界は日本と共にある」(世界各地でのエピソード集)アジア(韓国)」では以下の様な記述。

・3月21日までに,企業及び個人の55万人を超える人々から,大韓赤十字社に対する,銀行での募金,ARS(電話),インターネット,ポータルサイトNAVER」での募金が集まりました。
・企業及び個人から,社会福祉共同募金会(国が1998年に設立した非営利団体)に対して,数日で多くの募金が集まりました。

上記韓国記事やナムウィキを見れば竹島(独島)の教科書問題などを含めた問題がある事から必ずしも韓国国民の大多数(というかネチズン)が賛意を持って寄付したとは言えない面がある事もあります*3。実際、ギクシャクした二国間関係が寄付に影響しているのは確実でしょう。またこの額でも台湾に比べれば低いという論法も成り立ちます。ただし「ごくわずか」とは言えませんし、この額の支援に対して低いというのはあまりにもさもしい。
 おまけに韓国からの物資支援一覧はこちら


出典:https://www.mofa.go.jp/mofaj/saigai/pdfs/bussisien.pdf

 もひとつおまけ。


出典:https://www.idcj.jp/pdf/idcjr201402.pdf

金銭的支援の合計は約1640億円(最大600億円程度上方修正の必要可能性あり)で、金額ベースだと中東・北アフリカが圧倒的。これはクウェート政府の400億円の支援とカタール政府による1 億ドル(約82億円)という要因が大きい模様。

お祝い写真について

 韓国の悪意の例として挙げられる写真ですが、この行為をした男性は以下の様な罰則を受けています。

このサポーターに今後10年間、全州のワールドカップ(W杯)競技場での試合観戦禁止処分を科した。全北は再発防止のため、競技場に入る観客の所持品チェックを強化する方針という。
「大地震お祝い」で全北サポーター謝罪…10年間観戦禁止処分― スポニチ Sponichi Annex サッカー

彼のしたことは甚だしく問題のあるものですが、それに対する処罰もされています。にも拘らずこの行動を韓国民一般に当てはめるのはフェアではない。汚い言葉で言えばどの国にもクソみたいな行為をする人間はおり、それに憤るまでなら良いが、そこからそのクソみたいな行動を雑な一般化して全体に当て嵌めて語ろうとするなら、そのクソみたいな輩と似たり寄ったり。というか未だに事実に反するデマみたいな文言吐いてる時点で日本におけるクソみたいな輩。



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*1:脇道ですが、赤十字側の資料が見当たらず、朝日記事マイナビ記事しか見当たらない……。

*2:義援金は被災者に分配され、救援金は赤十字の被災者支援活動に充てられる

*3:あちらの記事などを読むと辺真一氏の記事は「親日」という側面を捉えすぎているきらいがなくもないです。

最近の選択的夫婦別姓制度への世論調査を見ると賛成の方が断然多い

 タイトル通り。
 まず少し遡って内閣府2017年 内閣府 家族の法制に関する世論調査では賛成42.5%、反対29.3%、通称使用24.4%となっています。内閣府の調査では賛成、反対の是か非かではなく第三の道的に「通称使用」が盛り込まれているのがミソですが、少なくともこの3つの選択肢の中でも賛成派が最も多いことになります。なお「通称使用派」は他の調査を見る限り必ずしも選択的夫婦別姓制度反対派ではなく、むしろ賛成反対の二者択一の場合は賛成を選ぶ方が多い可能性があります。それと内閣府の調査によれば賛成反対通称使用の推移は以下の通り。

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内閣府調査は調査感覚からすればおそらく来年に類似の調査をすることになると思います。少なくとも昨今の状況を鑑みれば反対派が賛成派を上回ることはなく、また賛成派が50%を超えてもおかしくないかも。
 で、ここらからここ1年位に行われた世論調査の結果を見ていきます。

2021年01月 時事世論調査

選択的夫婦別姓の導入について尋ねたところ、「賛成」が50.7%となり、「反対」の25.5%を大きく上回った。
選択的別姓「賛成」5割超 自民支持層は評価割れる―時事世論調査:時事ドットコム

 現段階での最新の調査となり、反対の倍近い賛成があります。この調査の面白いところは政党支持層ごとの結果も載っていてそれによると、

自民党支持層  :賛成41.5% 反対36.9%
公明党支持層  :賛成57.7% 反対27.7%
立憲民主党支持層:賛成65.8% 反対不明
共産党支持層  :賛成60.0% 反対不明
維新の会支持層 :賛成26.3% 反対36.8%
※そのほかの政党、および立憲、共産の反対は記事に記述がなく不明

以上の様になり自民党支持層ですら賛成派が反対派を上回ります。この傾向は後述する2020年1月の朝日新聞調査でも同様の傾向なの現状は自民党支持層でも賛成派が多い状況と言えるでしょう。そんな中でも反対が賛成を上回る維新は異彩を放ってると言えるかなと。

2020年10月 「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」による合同調査

60歳未満の成人男女7000人を対象に選択的夫婦別姓について意識調査を行ったところ、「賛成」の割合が70.6%にのぼった。「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦も同姓であるべきだ」とする「反対」の回答の割合は14.4%にとどまった。
選択的夫婦別姓「賛成」70.6%:「反対]は14.4%にとどまる | nippon.com
20〜50代の7割が賛成!47都道府県「選択的夫婦別姓」全国意識調査の概要 | 選択的夫婦別姓・全国陳情アクション

 賛成の内訳は「自分は夫婦同姓がよい。他の夫婦は同性でも別姓でも構わない」が35.9%、「自分は夫婦別姓が選べるとよい。他の夫婦は~」が34.7%。こう見ると選択的夫婦別姓制度が導入された場合、少なくない数の夫婦が別姓を選択する可能性があり需要はそれなりにある事もうかがえます。それと「別姓が選べないために結婚を諦めたことや、事実婚にしたことがあるか」という問いがあり、これは全体で1.3%が「ある」と答えています。1%という数は決して少なくない数と言えるかなと。
 ちなみにこの調査に対しては自民党赤池まさあき議員が以下の様な記事を書いています。

おいおい、早稲田大学の教授の名前を出して、あたかも研究者などの最新調査であるかのように誤認を誘導していますが、よくよく聞けば夫婦別氏を推進する活動家団体の調査ではないですか。それも、反対が多くなる70歳以上の高齢者を除き、さらに、報道機関や研究者が公正を期すために行う無作為抽出調査ではなく、インターネット調査ではないですか。当然、その結果は調査に協力する人、つまり賛成者が増える可能性があります。
NHKの世論操作か…夫婦別氏制度賛成が「7割」???

高年齢者ほどに反対派が増えやすいので確かに70歳以上の高齢者を除けば賛成派が増えるのは当然なのですが、インターネット調査=ツイッターでやっている党派性による賛成反対アンケートではないので後半の方は正直いちゃもんに近いと思う。調査をした株式会社インテージ自体のインターネットモニター自体にケチをつけるならどうぞお好きに、ですが。それと赤池氏はブログで、

我が国が夫婦同氏制度を導入したのは明治時代からであり、男女平等、女性の権利保護、夫婦や家族の法的保護が近代化にとって重要だったからです。それによって、我が国は夫婦や家族が保護され、維持発展してきたのではないかと思います。

とあるけど、夫婦同氏制度導入と男女平等、女性の権利保護云々を繋げるのは意味が分からないよ。

2020年11月 QOM総研「選択的夫婦別姓」に関するアンケート調査

選択的夫婦別姓制度、20~30代未婚男女の54.6%が「賛成」「反対」はわずか13.1%
20代~30代独身男女、「夫婦別姓」賛成5割、実際に「別姓にしたい」は2割~女性の5人に1人は夫婦同姓に憧れないと回答~|タメニー株式会社のプレスリリース

この調査は20~30代の男女に限定した調査であり、賛成は先ほどの調査の70%よりも落ちますが、反対派13.1%と近い数字。

2020年1月 朝日新聞調査

選択的夫婦別姓について尋ねると、69%が「賛成」と答え、「反対」24%を大きく上回った。自民支持層でも63%が賛成し、反対は31%だった。
選択的夫婦別姓、賛成69% 50代以下の女性は8割超:朝日新聞デジタル

ここでも賛成が大幅にリード。そして記事にある様に自民支持層でも賛成派が多いことが分かります。


 2020年から賛成反対が簡単に確認できる世論調査では以上のような感じです*1。これらの調査を見ればわかる様に一部政党の支持層を除けば反対が賛成を上回ることはなく、というよりも賛成は反対の最低でも倍以上。最近の傾向を見るに反対は多く見積もっても3割程度、かたや賛成は少なく見積もっても5割程度、現実として今後反対派が賛成を上回る事はないでしょう。故に自民党政権としての折れ方として通称使用の普及を図っているわけですが。ちなみに丸川珠代氏をはじめとした自民党議員が連名で地方議会に選択的夫婦別姓への反対を求める文書を送った問題ですが、それは以下の様に「選択的夫婦別姓」制度を政府に導入や議論を求める地方議会の意見書の数が近年増加傾向であることが背景にあります。

f:id:nou_yunyun:20210308133744p:plain
出典:夫婦別姓の導入・議論を求める意見書が地方議会で増加:東京新聞 TOKYO Web

 それと下記記事では自民党内の動きで面白かった記述があります。

党内は制度導入への慎重派が優勢だった情勢から拮抗へと変化しており、夫婦別姓に慎重だった安倍晋三政権の退陣に伴い容認論が増えたとの見方がある。
(中略)
風向きが変わりつつあるのは、夫婦別姓に慎重だった安倍政権の退陣も一因だ。慎重派の党ベテランは「今回はなんとか踏ん張ったが、新たな案をまとめる5年後は危ないかもしれない」と語る。安倍氏は今回、推進派に誰が名を連ね、どのような活動を展開したかに関心を示していたという。
選択的夫婦別姓の是非、慎重派が巻き返し 自民党内は容認論拡大 - 産経ニュース

近年議論が進まなかったのは安倍政権の長期政権の影響だということは間違いなく、未だに歯止め役になっている事は確かそう。ただ現状の傾向を見るに自民党政権下でも選択的夫婦別姓論議の盛んさと世論の賛成の割合から制度導入は時間の問題の様にも感じます。それよりも手っ取り早いのは公約として掲げもした立憲民主党が政権を獲得することになるでしょうが。

*1:実は毎日新聞の調査はあるものの有料記事なので参照してません