電脳塵芥

四方山雑記

甘利明氏が医療用ガウンは100%中国依存というデマではないか

f:id:nou_yunyun:20210531190934p:plain

 医療用ガウンですがそのHSコードは「6210.10211」(ガウン(医療用、介護用その他の衛生管理用に供する種類のものに限る。) )になるかと思われます。

f:id:nou_yunyun:20210531191048p:plain
※出典:https://www.customs.go.jp/tariff/2021_4/data/j_62.htm

このHSコードを貿易統計で確認すると2021年の輸入国は以下の様になります。

f:id:nou_yunyun:20210531191441p:plain

Unit1「NO」は枚数でQuantity1の値を見ると中国からは約1900万枚輸入されておりその量は圧倒的ですが、インドネシアベトナムカンボジア、タイ併せて約1300万枚ほど輸入されています。中国からの輸入量は枚数単位で言えば過半数を超えていますが、とはいえ中国に100%依存と言えるほどの量では決してンありません*1。なお2020年の輸入量に限って言えばHSコード「6210.10211」が2021年に新設されたものであるために詳細は分かりませんが、上記の親番号(?)にあたるであろう「6210.10210」(人造繊維製のもの)を見る限りは2021年と同じような輸入国構成ですので中国以外からも輸入していたと考えるべきでしょう。ちなみに2021年には「防護服」というカテゴリーも出来ていますが、当然ながらこちらも中国以外からの輸入があります。
 また国産も存在していますし、去年には新型コロナウイルスの影響を受けて帝人がガウンの型紙をネット上で公開したこともニュースになり多少は話題になりました。

大手繊維メーカーの帝人は来月から国内の工場で月に5万着の生産を行うことになりました。帝人はほかの中小の事業者なども生産に参入できるよう、近くガウンの型紙をネット上で公開することにしています。
帝人が医療用ガウン 月5万着生産へ 2020年4月15日

東レにおいては以下の様に経済産業省から感謝状をもらっています。

東レはこのたび、日本政府の要請に基づく医療用ガウン納入に対して、12月21日に経済産業省から、「新型コロナウイルス感染症の流行に際し、医療物資の増産に取り組み、需要の改善を通じて国民生活の安定に大きく貢献した」として感謝状が授与されました。
アイソレーションガウン供給に対して経済産業省から感謝状が授与されました 2021年2月9日

上記の感謝状は三井化学ももらっており、国内でも生産している事が分かります。東レに関してはどこの工場で作ったのか書いておりませんが、三井化学に関しては国内工場での生産であることが分かります。これらの国内企業による供給は臨時的なもんであったり、実は海外からの輸入分が含まれている可能性*2は無きにしも非ずですが、しかしこれらの動きを見ても中国から100%依存というのは国内企業に対して酷薄な態度でしょう。
 なお国内で作るべしという声もあるのでしょうが、国内で作ったとしても中国産に価格で負けるので果たして国内に生産をシフトした場合にそれを維持できるかは不明。以下の様な報道もありましたが実際に「競争」したら価格面から勝つのは難しい。

価格が3分の1程度の中国産ガウンが安定して供給されるようになったことに加えて、当初は随意契約を結んでいた県が競争入札に切り替えたことが大きく影響しました。 「医療用ガウン」国内生産したのに“在庫11万枚”…安い中国製が選ばれ生産中止検討 2020年12月7日

 一国依存体制が持続的な意味で考え直した方が良いというのは理解できなくはないですが、しかしながら医療用ガウンは中国以外からも輸入されており甘利明氏の言っている中国に100%依存という数字がどこから来たのか謎で、とにもかくにも事実に反します。事実に反した事を言っている人間はそのデータの読み方、若しくは周辺ブレーンの知識の拙さ、若しくは単純な扇動なのかもしれませんが、はっきり言って信用に値しません。デマを吐くような人間の語る安全保障ほど国にとっての安全保障を脅かすものはない。

*1:Unit2のKGはキログラムなので重さ単位だとちゅごくの量は過半数以下を割ります。枚数と重さでなぜ結構な乖離があるのが何故だか不明です。それと金額でみると中国産がかなり安いことも分かります。

*2:例えば積水化学は中国の工場で生産したものらしい。https://jocr.jp/raditopi/2020/07/04/90997/