電脳塵芥

四方山雑記

4月30日時点での新型コロナ用ワクチンは輸出【承認】5230万回、日本【到着】2800万回分

河野太郎行政改革担当相(ワクチン担当相)は数字には誤りがあるとツイッターで指摘。同相のオフィスは30日に電子メールで、日本に届いているファイザー製ワクチンは約2800万回分だと説明した。
日本のワクチン接種遅れに批判強まる-大量のEU製が承認済みと発覚 - Bloomberg

この情報から現在4月30日時点で日本に到着しているファイザー製ワクチンが2800万回*1であることが分かります。3月までのワクチン輸入量が纏まっているFlyteamの情報によれば3月末には550万回分のワクチンが到着しており、4月だけで2250万回分のワクチンが到着していることになります。

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また4月以降の予定を見ると週に300万回分ずつ積みあがっていく、5月1週には1000万回分で2800万回分が来るという予定。河野大臣側の説明にある2800万回という数字は予定よりも1週間ほど早い達成と考えていいのかもしれません。なお表の輸送日が3月22日までは日付のみ、3月29日から末尾に「~の週」とつくようになったのはこの週から週一回の空輸便が複数回*2になったからです。
 しかし情報の透明性という意味では4月中にどれくらいのワクチンが来たかという情報は一切報道されず、それは翻って行政側が何万回分到着するというアナウンスをしてなかったからだと考えられますし、まずそこが問題。それはさておき。

EUからのワクチン承認5230万回分について

 さて、それでもまだEU情報からするとワクチン2430万回分以上の差があり、とてつもなく大きな乖離が存在します。ちなみにこの5000万回報道がある前からブルームバーグでは定期的にこの報道をしており、

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3月9日時点だと約300万回
3月24日時点だと約540万回
4月6日時点だと約1700万回
4月19日時点だと約5200万回

以上のような結果になっています。見ればわかるように3月24日時点では540万回。日本の報道では3月末に550万回なので日付の差を考えても3月時点ではEUの承認と日本の到着数に差がないことが分かります。差が出てきた、というか日本への輸出承認量が大幅に増えたのは4月。ちなみに実はEUの公式情報でも幾度かワクチン承認情報が流れていて、例えば3月11日の「欧州委員会、新型コロナワクチンの輸出透明性・承認メカニズムを延長」を読むと「日本(270万回分)」と書かれていたりして、5000万回というインパクトのある数字だから今回話題になったものの、この件は以前からちょくちょくと公的な情報は出ていました。
 で、幾度か書いていますがEU側の情報は「承認」であって「輸出」ではありません。現在EUは6月末*3まで「ワクチン輸出承認制度」を設けており、例外を除きEU域外への輸出は承認が必要になっています。そしてこの輸出が承認された回数が5230万回となります。そして実際の手引きが書かれている「EXPORT REQUIREMENTS FOR COVID-19 VACCINES FREQUENTLY ASKED QUESTIONS」にはこの承認手続きに関してのQ&Aが記述されています。それによると承認は基本は1営業日、延びても2営業日程度でOKが出るものです。そして承認数ですが最後に申請書のテンプレートが記載されており、そこには数を記入する欄が存在。

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つまりは上記の申請書で書かれた数がそのまま承認された数、今回で言えば幾度もの申請が積もり積もって5230万回となります。承認されてから「出荷」となります。そして出荷を請け負うのは当然製薬会社側です。

Q5. EU域外、特に日本へのワクチン輸出の状況を教えてください
EUは日本に対して、4月27日までに約5,230万回分のワクチンの輸出を承認しています(欧州委員会の情報。出荷は各製薬会社の責任で行われる)。日本は現在、EU域内で製造されたワクチンの主要輸出先の一つです。
EU MAG EUの新型コロナウイルス感染症ワクチンに関する取り組みを教えてください

上記の様に駐日欧州連合も記述しています。なのでここら辺を整理します。

ファイザー製ワクチン輸出フロー

1)製薬会社が欧州委員会に輸出許可を申請(この時に輸出数記入)
 ↓
2)欧州委員会が輸出を「承認」(4月30日時点で5230万回。1~2営業日)
 ↓
3)製薬会社が「出荷」
 ↓
4)輸送会社のベルギー内での配送
 ↓
5)日本への空輸
 ↓
6)日本への「到着」(4月30日時点で約2800万回

となるかと考えます。現状、ファイザーが承認から出荷までどれくらいかかるか不明であるためこの時点での出荷が滞っている可能性は考えられなくはないですが、それよりも可能性が高いのが日本の輸送能力による目詰まりです。Flyteamにある輸送予定表を信じれば4月中は1週300万回程度の輸送能力、方やEUでの承認数は4月6日で1700万回、4月19日が5200万回とたった2週足らずで3500万回以上の増加となっています。事前の予定表で輸送能力を組んでいた場合はどう考えても対処できず、対処できなかった場合は出荷を控える、若しくは出荷したものをどこかで保管の二択のはずで、日本に届くことはなく塩漬け状態の様になっている可能性が高いです。フローで言え(3)、(4)の時点がうまく機能してない。

4月19日の会談後に増えない承認数

 上記の輸送能力による目詰まりは憶測になりますし、そもそもこのファイザー製ワクチンの急激な承認数増加が何故発生したのかがよくわかりません。3月8日の記事「ファイザー「首相と交渉を」 返答に関係者絶句、政府主導権取れず難航」において、ファイザーが先行による独占的な利益の確定を急ぐ必要が出た、そこに日本が乗って高値をつかまされたという考えも提示されていますが、どこまで信じて良いかも微妙。ところで菅首相がファイザーの会長と電話会談したのは4月19日で今回の増加の件とは別なのですが、この19日の会談で日本の対象者に対して確実にワクチンを供給できるよう追加供給を要請したとあります。ただ19日時点で5230万回の承認を得てましたが、27日時点でも5230万回承認*4。会談から8日経過してあれほど増加していた承認数が一切増加してないの若干皮肉だなと思いますが、それとは別にこの承認数の増えなさは輸送能力キャパオーバーによる輸出数との乖離が激しすぎてまずは承認数と輸出数を埋めることを優先して一旦承認をやめたのかもしれません。承認から出荷まで果たして期限があるのかもよくわからないし、完全な憶測ですが。

事実誤認の批判

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 上記がバズッてたので一応指摘しときます。まずワクチンが6か月ほどの保存期間というのが前提にあり、8月末までに2月に来たワクチンを使い切らないと廃棄しなくてはならない、というツイートです。何故か2月に5000万回来たような書きぶりですが、3月11日時点でのEUによるワクチン承認数は270万です。で、実際に日本に来てたのもその時期はそれくらい。もう日本の摂取量は4月末時点で約350万なので2月に来た分は使い切ってるはずです。今使ってるのは3月分だろうし、大量に来たのは4月。なんで使い切れずに廃棄となる場合は10月末ですね。確かに使い切れずに大量廃棄になったら大問題ですが、時系列が乱れてて批判が批判として機能していません。批判は大事ですが誤った批判は誤認を広め、時にデマ、陰謀論になりえますのでご用心を*5

上記とは別の批判点

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 ワクチン担当相なら数字が違うのではなく、どう違うのか言いましょう。ツイッターで「違いますね」と引用することがワクチン担当相の仕事じゃないでしょ。何が「違う」のか。もしかしてだけど、EUの承認と日本の到着数の違いをワクチン担当相ともあろうお方が認識していなかったのか。もしもそうならば大臣として現状の認識に問題があります。そしてEUの公的情報に対して大臣がさも喧嘩を売ってると捉えかねないツイートも問題。いらんところで摩擦を起こしてどうするのか。
 大体問題の少なからずは日本のワクチン確保数がよくわからないことにあります。3月までは報道ベースではありましたが4月以降は第11便を除いてほぼ報道皆無状態。これは行政が報道に情報を提供しているからこそ成り立つ報道の類であり、そう考えれば行政側が情報の提供を止めたことに起因するはずです。そしてワクチンの到着数は何故か厚労省首相官邸いずれのコロナ用ページに記載されていません。情報公開、透明性が死んでる。承認数までは書く必要はないでしょうけど到着数は書けたはずで、それを書いていれば多少は違った。あとブルームバーグン記事に同相のオフィスの電子メールで答えたとあるけど、同相のオフィスが河野事務所的な話ならばその電子メールは公的情報開示じゃないのでは。はっきり言ってふざけた話。
 それと5000万回がすでに日本に入ってて廃棄云々の話にはあまり与しませんが、ただ4月30日時点で約2800万回のワクチンが日本に届いており、しかし接種は約350万回って届いたワクチンに対して摂取回数がかなり低い。これは接種の為のロジティクスを構築しきれなかったという証左。ワクチンがコロナ禍の解決策の様に扱っていたはずなのに、そのための摂取に関する仕組みがグダグダな感じなのは行政能力が低いと思わざるを得ない。利権が絡まないと能力が発揮できないのかな。ある意味で今回の件はワクチン獲得競争に勝ったともいえるのにそれを思わせない体たらくではないかと、現状。
 そして承認回数と到着回数の乖離も輸送能力の問題ならば輸送システムの構築に失敗したことになる。ファイザーが予想を大幅に超える輸出承認数を取ってきてくれたならばともかく(そんなことあるのか疑問だけど)。ワクチン到着数と事前の予定表を考えればやや前倒しで事は進み、ある意味順調とも言えるけれど承認数と到着数の乖離はいずれかの場所で何らかの問題が起こっている事はありえるかなと。

 現状、来る前にも来た後もグダグダ、日本。大臣の説明も下手。これもまた危機管理能力、というか一昔前は政権担当能力って言われてたんだろうけど、お世辞にもあるとは思えず、欠如してる。

武器としての情報公開 (ちくま新書)

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*1:これが1瓶5回計算なのか、6回計算なのかは不明。

*2:何回か不明、ただ第7便が3/22、第11便が3/29であることを考えれば1週間に4便程度、4月のワクチン増加量を考えたらも少し多い可能性もあり

*3:当初は3月末までだったが期間が延長されました。

*4:ともにhttps://eeas.europa.eu/delegations/japan/96795/node/96795_ja による。同ページで数字部分だけを更新するというあまり宜しくない方法で更新してる。

*5:陰謀論的にはこの余ったワクチンをどこかの市場に流して~、と考えられなくもないけど、流石にそこには行きつきたくない。