電脳塵芥

四方山雑記

民主党政権時の自殺数について

 ツイッターであまり拡散されてはいなかったものの民主党政権時は自殺数が多かったというツイートを見て、中には「毎日人身事故で電車が止まっていた日々を覚えていないのか」みたいなことまで書いてあったので、民主党政権時やその前の時分の自殺数についての話を。ただ細かい話に入る前にですが、毎日人身事故で電車が止まっていた記憶までは流石にない*1

自殺数の推移について

 自殺者数については警察庁HPから確認可能です。そして1978年から2019年までの自殺者数の推移は以下の通り。

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民主党政権は2009年(H21)の9月から。グラフを見ればわかる様に民主党政権とその後の自民党安倍政権とを比較すれば民主党政権は自殺者数が相対的に高いものの民主党政権前の自民党政権時の方から数値は安定しており、多さで言うならば2003年が一番高い数字になります。そして民主党政権の2009年から自殺数が減少に転じます。民主党政権時における自殺者数が安倍政権時より高かったのは事実ですが、あたかも民主党政権時に自殺者数が増えていたかのような論旨は的外れです。

自殺原因の推移について

 厚労省の出している自殺対策白書には「自殺の原因・動機別の自殺者数の推移」というものがあり、それによれば動機の推移は次の通り。

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出典:https://www.mhlw.go.jp/content/r2h-1-5.pdf

2007年に原因上位二つとなる「健康問題」、「経済・生活問題」*2が2009年から目に見えて減少に転じていることが分かり、経済・生活問題に関しては色々と言われてはいるものの安倍政権下における経済状況が反映されていると考えて良いでしょう。ただこれは安倍政権になって経済状況が好転して減少に転じたわけではなく、これまた民主党政権時から減少傾向です。それをもう少し分かりやすくグラフにしてみると次の通り。

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安倍政権後にも健康問題は順調に減少していることは分かりますが、経済・生活問題はそれに比べれば緩やかであり、減少幅だけで言えば民主党政権期の方が多いといえます。もちろんある程度減少すればやがて減少幅は鈍るでしょうが、とはいえ殊更に経済問題で民主党政権時に自殺者が多かったというのは批判としては筋が悪い。

国の自殺対策について

 経済が良ければ自殺者数が減少するというのも要因としてあると考えもしますが、当然ながら経済対策そのものは自殺対策ではありませんし、国としての自殺対策は別個に存在します。それらについては厚労省自殺対策HP自殺対策白書を参考にすると良いかと。直近の自殺対策については令和2年度自殺対策白書の「令和元年度の自殺対策の実施状況」を参考にすると良いかと思いますが、少し見ればわかる様に幅広く対策を立てていることが分かります。
 これらの情報見ると現今の自殺対策は2006年の自殺対策基本法が公布が大きな転換点となっていることが分かり、そして大綱も存在して2007年第一次大綱、2012年第二次大綱、2017年第三次大綱と継続的に大綱も見直されています。また、平成28年(2016年)自殺対策白書の「自殺対策の10年とこれから」には以下の様な記述が存在します。

ウ いのちを守る自殺対策緊急プラン
平成21年11月27日、年間の自殺者数が12年連続で3万人を超えることが判明したことから、自殺対策を担当する内閣府政務三役と内閣府本府参与からなる「自殺対策緊急戦略チーム」は、「自殺対策100日プラン」を取りまとめ、その中で、政府として取り組むべき「中期的な視点に立った施策」に関する提言を行った。
(中略)
政府全体の意識を改革し、一丸となって自殺対策の緊急的な強化を図るため、平成22年2月5日、自殺総合対策会議において、「いのちを守る自殺対策緊急プラン」が決定された。
(中略)
「いのちを守る自殺対策緊急プラン」の策定を受け、各府省において具体的な取組が推進されたが、中でも、プラン策定翌月の3月には、内閣府が中心となって、初めての自殺対策強化月間が実施され、集中的な広報啓発活動が展開された。具体的には、「睡眠キャンペーン」の実施、「自殺対策強化のための基礎資料」の公表、ハローワーク等での対面型相談支援(総合相談会)の実施等が行われた。

上記は平成21年11月、つまりは2009年の民主党政権以降の話です。12年連続3万人越えという数字に対して対策を行ってそれらを行動に移したわけですが、2010年から自殺者数が減少したことを鑑みれば一定の効果はあった施策と捉えられます。2012年の第二次大綱改定に関しても民主党政権時でありますし、その後の方向性を3年という期間の中である程度形として残したといっても過ちではないでしょう。またこれは自民党(麻生)政権の話ではありますが、同資料では「地域における自殺対策力」として

平成21年度補正予算において100億円の予算を計上し、都道府県に当面3年間の対策に係る「地域自殺対策緊急強化基金」を造成*3

と紹介がある様にかなりの予算規模を自殺対策費として計上している事が分かります。いずれにしても2009年は種々の対策が行われ、その後に減少に転じているわけです。なお、地域自殺対策緊急強化基金については森山花鈴「地域自殺対策緊急強化基金の成立過程」でその過程が描かれていますが、森山はこの基金の影響で自殺者数が減少に転じたとしています。
 安倍政権になってからは割愛しますが、自殺対策白書に記載されてる各年度予算が増えてます。民主党政権時の6倍以上に*4。予算の内訳を調べるのまでは控えたいのでその予算増がどこまで適切かの検証とかはやめときますが、予算額だけ見ると普通は効果があってもそこまでおかしくない。

 以上見てきたように民主党政権時とその後の安倍政権を比較して自殺者数が高かったことは確かであり揺るぎない事実です。しかしながらその自殺者数の減少は民主党政権時から減少しており、そしてその減少原因は自民党麻生政権による「地域自殺対策緊急強化基金」とそのすぐ後の民主党政権の双方による影響が考えられます。こういった事象を考えると悪夢の民主党政権的な言い回しとして自殺者数の多さを語るのは的外れの批判であり、数字は見ても実態は見ていない批判と言わざるを得ません。少なくとも民主党政権は自殺者数を増やしたという事実がありませんし、それでも民主党政権は自殺数が~というのはただ自身のイデオロギーを事実より優先する輩といっても言い過ぎではないかと。

余談

 一部で自殺者数が減ったのは自殺者を変死体(非自殺者)と数えているからだという指摘があります。たとえば以下の様なグラフ。

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まずこのグラフを見ればわかる様にこの陰謀説の主な論点は2006年の変死体数と自殺者数の合計と2015年の合計がほぼほぼ同じ、自殺者数が減ったのは変死体としてカウントしているからだ、というものです*5。ただし比べているのはこの2年のみ。では他の年はどうだったのか。

f:id:nou_yunyun:20210122200432p:plain ※自殺者数は警察庁より
※2015年までの変死体数は公安委員会説明資料平成28年2月25日資料より
※2016年以降は警察庁への問い合わせによって得た資料から記述

変死体(犯罪による死亡の疑いがあるもの)の数値はネット上では公開されていない様なので2016年の数値が確認できずに若干痛し痒しなところはありますが、グラフを見てもわかる様に自殺者数と変死体数の合計は一定ではなく変動しています。つまりはこの時点で自殺者を変死体に計上して少なくなっているという論旨は成立しづらい。

■自殺者における遺書有りの割合
 この変死体云々の話の中には遺書がない自殺は変死体とカウントしているというものもありますが、自殺対策白書の自殺者の原因・動機判断資料で遺書などの割合は見ることが可能で、以下の様な割合になっています。

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※平成30年の白書まではこの割合が書かれていましたが、令和元年から未記載となっているため2017年までの記述になります。

以上の様に自殺者数における遺書の割合は30%中盤で推移しており、自殺者数に占める割合はほぼほぼ一定です。遺書などの資料無しとなるであろう「該当なし」についても2008年以降は25%近辺で安定していますし、遺書がない自殺を変死体とカウントという話は割合変化からは見受けられません。

■変死体数の増加について
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 2013年あたりから数値は安定しているものの、一時期に変死体が増加したことは事実です。ではこれはどのような事が起因しているのか。おそらくとなりますが上記の公安資料にヒントがあります。

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「2 検視官の臨場率」と「3 解剖数」をみると分かりますが、H18年(2006年)を見ると検視官が臨場しない率が11.2%と著しく低く、司法解剖数も少ないことが分かります。死体取扱総数増加と共にこれらの数値が2007年以降に上昇に転じるとともに変死体数も増加を見せています。途中から検視官の臨場率と変死体数の増加の関係は崩れますが、この検視体制の強化は2007年の相撲力士の暴行死の見逃しを契機として全国の検視官の数を増員したものとなり*6、変死体は「犯罪による死亡の疑いがあるもの」というものですから、この検視体制強化が変死体数増加につながったとしても何らおかしくはありません。
 自殺者数減少は変死体数に置き換えているからだ、というのはデマの類、陰謀論の類といっても差し支えないかと。流布されているグラフは合わせて同数に見えるところを提示しただけの最低な部類の比較グラフですし*7変死体数が増える理由も存在しています。変死体の中に自殺者がいる可能性はあるとは思いますが、それは自殺者数を少なく見せるためではなく遺書などがなくて判断がつきかねるものとかでしょう。

 適当な事、言いふらさないで。

*1:令和2年 自殺対策白書によれば鉄道線路内で自殺した人間は2009年に622人、2019年に489名。単純に考えれば現在でも1日に1人以上は鉄道線路内で亡くなっており毎日人身事故で電車が止まっているといえる。

*2:なおこれらの要因はさらに細分化されたものが上記警察庁サイトの各年の資料から確認可能です。

*3:詳細については「 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/saimu/kondankai/dai01/siryou06_3.pdf] を参照のこと

*4:2010年124億円、2018年798億円。共に各年の自殺対策白書より。2019年以降の白書には予算額が書いてないので白書からは予算不明

*5:ネットを見ていくと元々はWHOが変死体に自殺者も含まれているのではという指摘がもとで、そこからこの話へと派生、日刊ゲンダイや上記のグラフ(このグラフ自体が日刊ゲンダイの記事を受けてのもの)が生まれて今に至る、だと思います。

*6:https://www.news24.jp/articles/2015/02/12/07269111.html

*7:元が日刊ゲンダイ記事の数値をグラフ化したものとはいえ、調べが足りませんでしたね。迂闊。

「入国制限緩和」が新型コロナ陽性者激増の主要因にするのは難しいと思う

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 このグラフが一部で出回っていたり、

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これでも入国を止めないとか日本の政界・官界も相当毒が回っているとしか思えませんね。

という様なツイートであったりと一部界隈ではウイルス検査不要となった入国制限緩和*1が11月ごろからの新型コロナ感染拡大の主要因と言わんばかりの投稿がいくらか散見されます。それについてつらつらと書いていきますが、あくまでも入国制限が【主要因】ではないと「思う」程度の記事であるし、後述しますが空港検疫で陽性者は見つかっていますのでリスクを少しでも低くすることを目指すならそれこそ再び入国制限をするという案自体は全然ありだと考えます。坂東氏のツイートの様な悪感情ありきの論調は論外ですが*2

入国緩和以降の入国者数と陽性者数

 まず入国者数についてはJNTOによる「訪日外客数(2020 年 11 月推計値) 」で確認可能です。

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これによると入国緩和がなされた11月の入国者数は56,700人となり、10月の27,400人からすると倍増と言えるでしょう。仮にこの5万6千人の過半、いや1割でも陽性者であったならば感染を引き起こす主要因と捉えられても致し方ありませんが、しかしこちらに関しては空港検疫による陽性者の数は厚労省HPによって公表されています。それによると11月の空港検疫による陽性者数の数は以下の通り。

【11月の空港検疫による陽性者数】
日本国籍128名
外国籍225名
合計353名

入国者数のうちの陽性者数は0.6%となります。日本全体の11月の陽性者数47,494人*3からすると0.7%。この353名を多いと捉えるか少ないと捉えるかは少し悩ましい面はありますが、陽性者がそれなりにいることそのものは事実です。しかしながらこれらの陽性者は「空港検疫*4」という水際対策によって炙り出されており、国内の感染主要因になるとは言えないでしょう。
 そもそも入国緩和といえども無条件に入国がOKになっているわけではありません。例えば先ほどのJNTO資料にはこのような記述があります。

日本政府は、2020年10月1日から、ビジネス上必要な人材等(順次、留学、家族滞在等のその他の在留資格へも拡大)に限り、原則として全ての国・地域からの新規入国を許可(防疫措置を確約できる受入企業・団体がいることを条件とし、入国者数は限定的な範囲に留める。)している。なお、本対象であっても検疫強化、査証の効力停止等の措置は継続されている。)

という様にビジネス目的に限っての緩和であり、観光目的の様なものでは入国はできない状況と言えます。 また10月からは「レジデンストラック」及び「ビジネストラック」が運用されておりますが、それは以下の様なもの。

「レジデンストラック」とは、入国後14日間の自宅等待機は維持しつつ例外的に日本と相手国間の往来を認める仕組みで、主に駐在員の派遣・交代など、長期滞在者用。「ビジネストラック」とは、「活動計画書」の提出等の条件の下、日本または相手国入国後の14日間の自宅等待機期間中も行動範囲を限定した形でのビジネス活動を認める仕組みで主に短期出張者用。

14日間の自宅待機などが果たしてどれほど守られているかなど疑問の余地はあれど*5、入国者には通常の国内にいる日本人よりも強い行動制限が課せられており、観光の様な自由な行き来を促すような入国緩和でもありません*6

空港検疫について

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 国籍不明者8割についてはさんざん言われている事なので割愛しますが*7、そもそも国籍不明者には日本国籍者も含みます。大半は日本国籍者と考えた方が蓋然性があるのではないかと。そして「外国人はPCR検査なしで入れまくる」とありますが、空港検疫は唾液を使用した抗原検査との事なので*8PCR検査でないのは事実ですが、検査そのものはしています。ただ抗原検査ですと偽陰性が多くなり、この検査体制に問題がないとは言えないでしょうが。それと上陸拒否対象地域に滞在歴のある外国人は入国の際に原則として滞在先の国・地域を出国する前の72時間以内に検査を受けて陰性検査証明を取得する必要があります*9。それでも空港検疫において陽性者が出ている状況ですが、なんの検査もしていない国内旅行者には恐れずに入国前、入国時に検査をしている外国人には恐れるのはちょっとおかしいです。

11月の空港検疫による地域別検査実績

 厚労省の資料に「空港検疫所における滞在国・地域ごとの検査実績(直近4週間)」というものがあります*10。この資料には11/8から12/5の4週間の検査実績が記されています。滞在国別の検査数と陽性者数が記されており大変に参考になります。

【11月の空港検疫検査実績】
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※到着者数*11の多さから順に表示。上記にリンクした資料から作成

4週間の総数を見ていった場合の表の上位20位が以上となります。見てわかる様に中国、ベトナム、韓国、タイなど検査数が著しく低い国がありますが、これが11月からの入国制限緩和(検査不要)による影響です。現在それらの国からの入国者は有症者などを除けば検査は不要となっています。それらの国々をいったん無視すれば陽性者はアメリカが多いことが一目瞭然です*12。またインドネシアの外国籍者が多いことも分かります。
 さて、中国、ベトナム、韓国などに関してはそれなりの入国者数がいるにもかかわらず検査がほぼほぼ不要になっていることから、もしこれらの中に有症者ではない陽性者が多くいれば感染の主要因になっている可能性はあります。しかし検査不要ではない10月時点での空港検疫についても資料は存在しており、それによると10月の中韓越の3か国の検査結果は以下の通りです。

【10月の中韓越の3か国の空港検疫検査結果】 f:id:nou_yunyun:20201223101413j:plain

陽性者そのものは存在しているもののその数がずば抜けて高いかというとそうでもありません。また韓国は日本と同じように11月ごろから感染者数急増となっていますが、中国*13ベトナム*14に限っていえば感染者数は日本と比較して極端に低い状況であって、これらの国々の人間が日本の感染増加の主要因となった可能性はかなり低いと思われます。なお相手国の状況を見極めて入国制限(検査不要)を柔軟にする必要はあるでしょうから現状で韓国の検査を復活するなどという方針も全然有りだと考えます。

Gotoトラベルについて

 空港検疫ついでにGotoの話も記しときます。まず12月25日現在のGotoトラベルの利用実績は以下の通り。

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11月の利用者は1654万人泊、そして合計えは6850万泊となりその数はかなりのものと言っていいでしょう。「人泊」なので単純に1654万人が移動したわけではないものの数百万人レベルの移動があったことは揺るぎないでしょう。またGotoそのものによる移動だけではなくGotoトラベルが政府、メディアで喧伝されることによるアナウンスメント効果も考えられます。要は旅行(移動)をしていいという認識が国民に生じる可能性。で、11月の延べ宿泊者数(速報値)は宿泊旅行統計調査により確認でき、それによると以下のような数値および推移となります。

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11月は速報値で3466万人泊。Gotoトラベルは1645万人ですのでそれ以外の通常の宿泊が1821万人泊となると思われます。宿泊自体は緊急事態宣言解除から伸びているもののやはり7月末のGoto以降から増加傾向。そして11月の外国人宿泊数は約40万人泊、3466万人泊ということを鑑みればその数の圧倒的差から日本人の方がリスク要因になっている可能性は高いと言えるかなと。なお、11月の外国人宿泊数の上位五か国は次の通り。中国92,580人泊、アメリカ89,260人泊、ベトナム40,000人泊、フィリピン17,710人泊、韓国15,960人泊。この数値には入国した人間だけではなく日本在住外国人も含みますが、基本的には到着者数とほぼほぼ変わらない並びです。
 それと旅行先はどこが多いか。10月の数値ですが上位5位の行先は以下の通りです。

【10月の宿泊先都道府県上位5位】
東京都 2,670,360人泊
北海道 2,291,050人泊
大阪府 1,539,860人泊
神奈川県 1,475,920人泊
千葉県 1,361,890人泊

東京も多いですが、北海道も多い。北海道は寒さなども環境的要因もあるでしょうがこれらの多くの人の移動がリスク要因になっていた事は確かであろうし、寒さと移動増大による感染拡大は起きていても不思議はないかなと。

Gotoトラベルの感染者数について

 Gotoトラベルの感染者数は赤羽大臣の会見によれば12月17日時点で5000万人泊のうち309名となっています。東京新聞の記事を見ると11月26時点では202名ですのでこちらもジワジワと数字が上がっているものの全国的な感染増加に比べれば少ないといえるかもしれません。なお、この感染者数ですが赤羽大臣の会見ではカウントの仕方は以下の様になっています。

・参加宿泊施設と旅行業者には、旅行者や従業員の感染が判明した場合には運営事務局を経由して観光庁に報告
・事業者が運営事務局に報告する感染に関する情報は保健所からの連絡によって認知
・具体的には、宿泊中に体調が悪くなった旅行者が宿泊施設のフロントを通じ、保健所に相談。PCR検査を受けて陽性が判明するケースやチェックアウト・帰宅の後に体調が悪くなった旅行者が保健所に相談してPCR検査を受検し陽性判明

文字だと若干分かりづらいので、先ほどの東京新聞にそれを図にしたものがありますのでそちらを引用します。

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感染者がでた場合に保健所が行動履歴を調査、その際にGotoトラベル利用者、若しくは対象施設の従業員であったならばGotoトラベルの感染者にカウントされるというものです。ただこれは保健所の行動履歴調査が積極的に全員に行われている事前提であるものの、当の保健所には疲弊が見受けられる記事が9月の東京新聞都内保健所アンケート 4割超が「調査見直すべき」」というものや調査と対策が追い付かないケースがあることから積極的疫学調査に優先順位、そして行動履歴は14日間ではなく前7日間にするというNHKの報道もあります*15。保健所の疲弊度合いを鑑みればこの309名という数字をそのまま信じていいのかは少し疑問があります。
 それとこのGotoトラベル関連の感染者の調査方法ですとカウントされるのはあくまでもGotoトラベルの「利用者」と「宿泊施設従業員」、「旅行業者」程度になると思います。利用者は宿泊施設のみにいるという事は考えにくく、そのまま飲食店や観光などに出向き、その中には人の多い場所に移動することは考えられますし、その出先で感染させる可能性もありますが、そういう数字はここには入らないかと。
 Gotoトラベルの宿泊施設に関しては観光庁が防止対策の実施状況を調査し、対策が不十分な宿泊施設に対して個別指導をするなど*16、感染拡大防止対策はされていることは確かですが、結局のところ人の移動は感染リスクであることは変わらないので、多数の人の移動を伴うGotoトラベルが感染拡大原因の矛先にあたるのは致し方ありませんし、感染拡大の原因としてのエビデンスがないという政府の対応についても、エビデンスがないのは感染拡大にGotoは関係ないも同様といえます。何が言いたいかというと、感染拡大期には人の移動というリスクを減らすのが穏当なので、Goto停止は致し方ない。というかそもそもGotoトラベルは以前の記事でも書きましたがV字回復、反転攻勢期などの感染収束期に行う予定だったものであって、感染拡大期に行うものではなかったはずです。だのに頑なにそれをやろう、続けようというのは当初の目的との齟齬であるし、柔軟さの欠如は危機対応能力に疑問符がついても致し方ない。

Gotoイートについて

 ついでにGotoイート(10月開始)について。記事が長くなってるのでこっちは短くいきます。まず飲食店向け予約管理システム「ebica」を運営する株式会社エビソルが出しているデータから。

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【Press release 2020-12】【エビソル飲食店予約推移・11月度(11/2〜11/29)】 | 【公式】ebica(エビカ)予約台帳

で、お次は株式会社TableCheckの調査から。

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f:id:nou_yunyun:20201224025523p:plain 2021年狙うべきキーワードは「ハレの日」需要。変容するライフスタイル、プライベート利用増|TableCheckデータ大全リリース 2020-2021

これらを見るとGotoイートによって予約数が劇的に増えたこと、前年比割れはしているものの来店人数に復調傾向が見られることが分かります*17。10月などを見ると来店件数がそのまま新規陽性者数とリンクしているわけではないものの、会食はリスクが高いといえるでしょうからこちらも感染拡大期に進めるべき施策とは言えないでしょうね。


 Goto〇〇がなくても旅行者数は増えていたであろうし飲食店への会食は増えていたはずです。しかしながら自然発生的に起こる行動と政府が政策としてそれを促進するのとでは意味合いが異なります。経済そのものも重要ですが、だらだらと感染が長引けば血はより長く多く流れることになる。このままだと血は当分流れ続けそう。コロナ禍と菅政権、どちらが先に終わるのか。

余談

首相は21日のTBS番組で「(英国は)上陸拒否の対象国になっているので、日本に入って来られるのは日本人で英国に住んでいる方とか、1日1人か2人だ。そこは対応できる。さらに厳しくする方向は当然、英国と交渉する」
野党、首相の「英から来日は1日1~2人」発言の誤認指摘 実際は週15往復便 - 毎日新聞

 英国での新型コロナ変異種が話題になった影響で菅首相がTBSで「英国から日本に来るのは1日1人か2人だ。」と言っていますが、上述した空港検疫の資料の最新版には英国滞在歴の人間がどれくらい日本に入国したのかが分かります。

【12/6-12/12の英国滞在歴を持つ人間の空港検疫数】
日本国籍者:1,066人
陽性検体数:2人
外国籍者 :136 人
陽性検体数:0人

以上のような数字となり、一目瞭然ですが英国滞在歴を持つ人間の空港検疫数は12月6-12日の間で約1200人ほどとなり、英国から日本に来るのは1日1~2人という菅首相の発言は完全に誤っています。というか。英国ほどの国から1日1~2人しか入国しないという状況は普通に考えたらあり得ないわけですが……。完全に入国禁止措置にしてるならまだしも。陽性者が1日1,2人だというわけでもありませんし、あえて言うなら1週間に1,2人の陽性者というレベルであり、忖度すればその数を言いたかったのかもしれません。しかしながら菅首相の発言が事実とは全く異なることは揺るぎません。果たしてどこから数字を持ってきたのか……。

*1:現在のところ対象国は「中国、韓国、台湾、香港、マカオシンガポール、タイ、ブルネイベトナム、豪州、ニュージーランド

*2:脇道ですが、坂東氏のツイートで1-11月の合計人数に赤線引いてますが、この数字の大半は新型コロナの影響があまりない1-2月の数字です。新型コロナでもこんなに入国してるんだというミスリード的なものを誘っているのかもしれませんが、下劣な行為と言っても言い過ぎじゃないかなと。

*3:NHKの「新型コロナウイルス データで見る感染状況一覧|NHK特設サイト」から

*4:空港検疫についての詳細は「新型コロナウイルスに関するQ&A(水際対策の抜本的強化)|厚生労働省」や「東京国際空港(羽田空港)にご到着の皆さまへ 検疫所からのお知らせとお願い」を参照してください。

*5:例えば「これはまずい空港検疫 藤崎真二|【西日本新聞ニュース】」を参照のこと。

*6:どのような目的で日本を訪れたかを調査する「訪日外国人消費動向調査」というものがあったのですが、こちらは新型コロナの影響によって調査を中止しています。なので厳密に何目的で入国をしてきているかを客観的なデータで示すことはできませんが、今この状態で観光目的で日本に来る人間はいないでしょう

*7:詳しくは新型コロナ「感染者上位の多くが中国人」「日本国籍が確認されてる感染者は20%以下」拡散している情報はミスリードなどを参照してください。

*8:今回の水際対策強化の全体像を見ると日本人のみが抗原検査している様にも見受けられますが、在イタリア日本大使館では「国籍を問わず日本に入国の際の検疫強化として新型コロナウイルスの検査」で「唾液を使用した検査(抗原検査)」とある様に国籍を問わずの検査です。ただし成田空港検疫所HPの資料を見ると以前はPCR検査もあった模様。イタリア大使館の記述でも「(抗原検査に)変更されつつあります」とある様に安倍政権末期に抗原検査への転換が図られている様に見受けられます。

*9:外国人の入国・再入国に係る出国前検査証明について」を参照

*10:おおもとのページは「新型コロナウイルス感染症の検査実績について(空港検疫)

*11:到着者数とは航空便の出発国・地域別の搭乗者数(乗り継ぎ客を含む。)を計上したもの

*12:ちなみに11月の入国者数よりも総検体数が多いですが、これは入国者が入国前14日間に滞在した国・地域を全て計上した「滞在歴」のカウントであることの影響であると考えられます。

*13:中国本土における新型コロナウイルスの感染状況・グラフ*」を参照

*14:ベトナムにおける新型コロナウイルスの感染状況・グラフ*」を参照。

*15:ちなみに厚労省資料だと https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000696906.pdfに記載

*16:Go To トラベル事業に登録している宿泊施設における感染拡大防止対策の実施状況等について

*17:ちなみに「【週次更新】コロナ禍における飲食店の来店・予約件数推移(12月22日更新)|TableCheck」を見ると来店人数は前年よりも少なくなっている事が見受けられます。それとebica調査によれば予約は増えてるものの、TableCheck調査ですと来店件数は減っていることが分かります。

Goto事業が啓発事業と言い張るのは苦しい

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 ってのがあって、で、

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さて、観光庁Go To トラベル事業関連情報には確かにこうある。

旅行者の皆様へ
【Go To トラベルのご利用に当たっての遵守事項】
Go To トラベル事業は、ウィズコロナの時代における「新しい生活様式」に基づく旅のあり方を普及、定着させるものです。次の内容を必ず守り、安全・安心なご旅行をお願いします。

これをもってしてGoto事業は正しく防疫すれば感染リスクを減らせる「啓発事業」というのは一面的にはその要素が全くないとは言えないでしょう。次にもうちょっと詳しく見て行って観光庁の資料「Go To トラベル事業」には以下の様にある。

Go To トラベル事業の概要
失われた旅行需要の回復や旅行中における地域の観光関連消費の喚起を図るとともに、ウィズコロナの時代における「安全で安心な旅のスタイル」を普及・定着させる。

上記資料には啓発的な内容も取りまとめられているものの、どちらかというと主眼は失われた旅行需要の回復、消費喚起策と捉えて方が良いでしょう。それを補足するための「啓発」である事を忘れてはいけません。なお「新しい旅のエチケット」の啓発事業という意味では以下の様な取り組みをしています。

www.youtube.com

であるとか、

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などなど。ほかの動画や広告などもこちらのサイトで確認できるます。これを見る限り、「啓発事業」という言葉そのものはGoto事業の一面として機能していること自体は過ちではありません。どこまで利用者がその啓発を守っているかは分かりませんが。
 ちなみにこの啓発事業といえる「新しい旅のエチケット」ですが、策定主体は「旅行連絡会(協力:国土交通省観光庁)」となっており、官庁側は協力なんですよね。そしてこれが出来たときの文言は以下の通り。

今後の観光振興に当たっては、国民の皆さまに感染リスクを避けながら安全に旅行していただくことが重要となります。
 こうした観点から、本日、観光関連事業者により、旅行者視点での感染防止のための留意点をまとめた「新しい旅のエチケット」が示されました。
 感染拡大の抑止と社会経済活動の維持を両立していくため、官民連携して、旅行者への普及・啓発に努めてまいります。
旅行者向け「新しい旅のエチケット」について ~観光関連事業者により、旅行者視点での感染防止のための留意点がまとめられました~ | 2020年 | 報道発表 | 報道・会見 | 観光庁

観光振興が主であり、啓発事業はその刺身のつま程度のものといって差し支えないでしょう。

Go To キャンペーン事業構想時について

 現在の事業としての形になっている状態での話は以上ですが、構想時はどうだったかというと。これ以上にない資料として「令和2年度国土交通省関係補正予算の概要」というのがあります。以下は該当箇所のスクリーンショットですが、

f:id:nou_yunyun:20201215185654p:plain

成果目標
新型コロナウイルスの影響を受けた地域における需要喚起と地域の再活性化を目指します。

「事業の目的」、「成果目標」には啓発事業という側面は一切触れられていません。あえて言えば”(まずは、感染防止を徹底し、雇用の維持と事業の継続を最優先に取り組むとともに、)”という面がその部分にあたるでしょうが、この括弧の部分をもってして啓発事業を目的としているとは決して言えないでしょう。また、2020/4/7の臨時閣議及び閣僚懇談会議事録では

収束後を見据えた「V字回復フェーズ」として,
・甚大な影響を受けた観光・運輸業等をターゲットにした需要喚起策

とある様にV字回復フェーズでの事業見込みであり、なおかつ需要喚起策以上の構想はされていません。また2020年3月31日の自民党による「緊急経済対策第3弾への提言~未曾有の国難「命を守り、生活を守る」ために~」においても、

<反転攻勢期>
新型コロナウイルス感染拡大によって特に影響を受けている観光業・旅行業・宿泊業・飲食業・イベント・エンタメ事業などを盛り立てるため、(中略)国内での人的交流・物流拡大、地域活性化のための、これまでにない大規模での観光・消費の国民的キャンペーンを行うこと。

とあり、こちらでも今現在の観光庁の様な記載はありません。さらに4月22日の観光庁長官の会見では

・状況が落ち着き次第、間髪入れずに反転攻勢に転じるため、「Go To Travel キャンペーン」と銘打ち、観光による大規模な地域活性化策を講じていく。
(中略)
・こうしたキャンペーンを、国民に積極的な旅行を促すための機運醸成にも取り組みつつ、1兆円を超えるかつてない規模で実施してきたいと考えている。
・こうした施策により、全国で人々の交流を大きく造り出し、地域経済を再活性化して参る。
・もう一つ、このキャンペーンの効果が、今後の地域の観光振興につながるようにしたいと考えている。

最早書く必要もありませんが、啓発事業については触れていません。
 そもそも閣議決定時にしても、自民党の発案時にしても長官の会見にしてもGoto事業はV字回復、反転攻勢期などの感染が収束しつつある時期を想定している文面と捉えられ、経産省の資料にしても「感染症の流行の終息状況を見極めつつ、一定期間に限定して」というものであって構想当時は感染拡大期ともいえる時期は全くの想定外ですし、その構想からすれば今はGoto事業が行われていること自体がおかしいといえます。

 もうほんとお願いだからっていうので観光庁のサイト見たけれど、啓発事業と言い張るのは苦しい。観光庁に書いてあるからといっても書いてあればそれがイコール主目的とは限りません。大体ご本人が引用している箇所「遵守事項」の項目であって事業概要とか目的の項目じゃないし……。出発点を探れば(探らなくてもわかる気はしますが)何が目的であったのか、そしてその当時はどういう想定であったのかがより理解できるはずです。しかし現実は想定通りには動かないものだから現実に合わせて計画か、もしくはそのための方便が変わる。ただし方便は変わってもその手段で達したい目的自体は変わらないので、語るならばその目的を核にして語った方が良い。そも。今が感染拡大期でなく収束していれば「啓発事業」なんて考えはなかったはずですよ。その方便が悪いとは言いませんが、その程度の方便ではないかと。

観光白書 コンパクト版〈令和2年版〉

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  • 発売日: 2020/08/28
  • メディア: 単行本

大阪で維新が看護師数を減らしたという話について

大下「どうして看護師さんがこんなに不足?」
吉村「ネットで"維新が看護師減らしたせいだ"と言われていますが事実と違います」
 
なんでこういう維新のウソを流すわけ?

 というツイートきっかけの覚書。

大阪の看護師の推移

 まず第一にツイートでは大阪の看護師を維新が減らしたという話を否定したことについて「ウソ」と言ってますが、そのツイートが誤認です。大阪に限らず全国の看護師数は厚労省の隔年による調査「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 」で確認が可能です。その数値を参考にしてグラフにすると以下の通り。

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というように看護師数が順調に増加していることがわかります。なおこの看護師数増加に関しては大阪の行政が優秀だから、というわけではなく全国的な傾向といえます。例えば以下の記事のように看護師全体がずっと増加傾向であり、2018年の看護師数は過去最多です。

看護師の数は121万8600人【過去最多】10年間で1.4倍に|看護roo!ニュース
看護師の就業人数は、毎年3万~3.5万人ペースで増えています。
2008年が約87万7000人だったのに比べて、2018年は約34万人の増。10年間で約1.4倍になりました。

それと上記の厚労省調べのデータでは人口10万人当たりの看護師数も出ており、それによると大阪は全国平均を下回ってはいます。2018年を数えてみると36番目に低い数値となりますが、これは都市部という意味では千葉、東京、埼玉、神奈川、愛知などに比べれば多くなります。なおこの傾向は維新行政前からです。つまりは看護師数に関して言えば大阪は平均よりは下回るもののその数自体が著しく低いであったり、維新行政によって看護師そのものの数が減らされたという事実はありません。ただし10万人あたりの順位を見る限りここ10年くらいでそうは変わっていないことから維新府政下で看護師の数が劇的に改善されたとまでは言えない。

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看護師専門学校の閉鎖について

 看護師の数が少なくなっているという「印象」は大阪府医師会看護専門学校の閉鎖という事実から語られていることだと考えます。なお大阪赤十字看護専門学校は閉校、淀川区医師会看護専門学校は募集停止などの発表もしており、これらも閉校予定と言えますが、赤十字は大学化が望ましいという国の流れに対応が難しくて閉校、淀川区医師会に関しては理由が書かれていないためにどういう背景で募集停止したのかはわかりませんので、この2校についてはここでは語らずに大阪府医師会看護専門学校についてのみの話をします。
 まず、当事者自身が以下のように言っています。

大阪府医師会看護専門学校は)府内の看護師不足の解消に大きな役割を果たしてきた。看護師養成は本来、公的な責任においてなされるべきであるにもかかわらず、最近では、大阪府大阪市財政再建を名目に、一方的に補助金が打ち切られた。本会は設置者として、毎年大きな財政的負担を伴い運営してきたが、卒業生の就職先は国公立・公的等病院が大半を占め、この8年間で診療所等への就職は3件に留まっている。(中略)2022年3月末日をめどに、すべての在校生の卒業をもって看護師養成事業を廃止する
第310回 府医臨時代議員会 | 大阪府医師会

 これが特に言われている事例だと思います。しかしこれだけでは実際にどれくらい補助金が減ったのかがよくわかりませんので大阪府大阪市のデータを探します。で、確認しやすい大阪市の方では該当ページは「補助金等支出一覧」。そのデータを見る限りこの医師会のいう補助金はおそらく「大阪府医師会看護師充足養成事業補助金」。そして推移は以下の通り。

大阪市補助金推移】
2006年:26,500,000円
2007年:26,500,000円*1
2008年:17,100,000円
2009年:17,100,000円
2010年:17,100,000円
2011年:17,100,000円
2012年:0円(凍結)

そして大阪府の方は市のようなわかりやすいページが見当たらずで……、ただ調べてみると補助金は「大規模看護師等養成所運営補助金」という名目で交付されており、このキーワードで大阪府内HPを検索するといくつかの年の看護関係の予算が書かれたワード文書があるのでそれを参照します。

大阪府補助金
2010年:31,500,000円
2011年:31,500,000円
2013年:15,750,000円
2014年:0円*2

というように2014年から大阪府医師会看護専門学校に対する補助金はなくなっています。ちなみに赤旗の記事を見る限り2014年から同交付金が当時の松井知事によって廃止とありますが、看護師等養成所運営費補助金に基づく交付金は引き続き交付しているとあります。しかしながらこちらの交付金大阪府にある各種看護養成学校に対する交付であり、2018年時点では57件の機関に9億7千万円というもの。一校当たりどの程度の補助金かはわかりませんが、この補助金自体は廃止前からも交付されているもの。維新行政の府と市によって交付金がゼロになったのはまごうことなき事実。ちなみにこの件について橋下氏は以下のように言っています。

f:id:nou_yunyun:20201212025850p:plain

看護学校が多く設立されたから補助金を本当に入れる必要がなくなったかまではわかりませんが、この看護養成所の増加に伴う競争による影響は大阪府医師会看護専門学校の閉校に対する学校長あいさつでも触れています。

18歳人口が大きく減少していく状況のなか、看護系大学・学部の新設が相次いだことを受けて、本校でも受験者数の減少や実習施設の確保が困難になるなど様々な影響が波及しています。さらには、公的補助の削減・廃止、建築後40年を超える校舎の老朽化の問題など、このままでは教育の質を維持することが困難になりつつあります。
大阪府医師会看護専門学校

さて、ではデータ上ではどうか。これは先ほど大阪府補助金データに関する資料に養成所の数が書かれているので、それをピックアップします。

【大阪における看護養成所の数】
2009年:大学 7
    3年課程 37
    2年課程 13
    高校(5年一貫) 1
    合計:58
2013年:大学 12
    3年課程 37
    2年課程 11
    高校(5年一貫) 2
    合計:62
2018年:大学 18
    3年課程 34
    2年課程 9
    高校(5年一貫) 2
    合計:63

というように養成所の数は増加しています。それも特に大学が。これは看護師不足などが言われているために新設という流れになっているという事らしく、全国的な傾向であって別段大阪府が率先してというものでは特になさそうです*3。こういった民間の流れや大学で学ぶといった傾向になってきたことは事実としてあります。民間の大学という競争相手が出来たから専用の補助金を廃止するという流れはとても新自由主義的ではありますが。ちなみに何で上記の補助金を廃止したのかを見ていくと、大阪市については以下のような理由。

ここ数年の看護師養成数の実績をみると、平成19年度246名に対して、22年度については132名と逓減してきており、市内医療機関への就職率も40%から55%程度にとどまっており、補助金交付金額がこの間一定であることからすると、補助効果が低下してきており、十分な補助効果が得られているとは言い難い。
また、当該事業については、大阪府からも運営補助金が交付されているので、大阪府とも連携し、改めて補助金のあり方について検討されたい。
https://www.city.osaka.lg.jp/somu/cmsfiles/contents/0000159/159226/5568-2.pdf

その後に別資料では「社会経済情勢の変化等により事業効果が薄れたため廃止」とあります。大阪府についてはどのような理由で廃止したのかの理由はわかりませんが当時の府が維新府政であることを鑑みれば同様の理由と考えてもそう的外れではないでしょう。これ自体は橋下氏の言うように「時代の変化」と言える部分が大きいでしょう。維新府政によって看護師が減ったというのは誤認であるし、看護専門学校補助金打ち切りも批判の急先鋒にたてるほどの論理があるかは少し疑問なところです。



 大阪における看護師不足はとりもなおさず大阪における新型コロナ陽性者数が多いってだけだと思います。それ自体がイソジンやあの状況下において強行した都構想、テレビなどのでたがりなどに象徴される維新行政による「結果」なわけですが、たがしかし看護師が減少したなどというのはデマの類です。正味なところでは私自身は維新を好かないですが、とはいえデマで批判しても意味ないです。優しく言えば誤認でしょうが結局はデマですから。

*1:2009年資料だとなぜか17,100,000円なのですが、2007,2008年では26,500,000円なのでこちらの数字を信じます。

*2:ワード文書から記述自体が消えています。

*3:参考: 【進路コラム】看護分野の学び なぜ新設ラッシュが起きているの?|大学Times

2011年の民主党政権による国会延長と自民党の会期延長批判について

f:id:nou_yunyun:20201209035159p:plain

 なんて画像があって。もう自分の中の記憶がおぼろげで当時のことを覚えていなかったのでメモ代わりに当時の自民党の会期延長反対のロジックを置いておきます。なお2020年の方については自民党の国会延長(安倍政権の通常国会、菅政権の臨時国会)せずというのは現状を考えたら不味い対応であるし、何よりも首相の討論を見せまいとする姿勢がありありと見えててなめられてるなと。首相が国会でしゃべる時間が多いほど支持率が落ちる可能性が高いから隠すんでしょうけれど。
 で、2011年ですが。確かに2011年6月の民主党による国会延長提案に当時の野党は反対しています。ただ2011年6月21日時点では50日の国会延長で与野党は合意していました*1。それが22日の夕方に70日へと急遽日数が増えたことによってこの合意が崩れて迷走的状況が現れます。この50日から70日の延長については当時の松本純はこう書いています。

50日あれば十分だ。そして、8月には民主党の代表選挙をされ、その後すぐに臨時国会を召集し、新内閣の下で新しいスキームで考えていくべきではないかと申し上げている
● 少なくとも、3党の幹事長間で「50日延長」で合意したものを、首相の都合、つまり自らの延命の為に延ばされ、公党間の約束は反故にされたのだ。その延命に手を貸すことはできない
松本純の国会奮戦記2011-06

河野太郎のブログ*2でもこのことを取り上げていますし、当時にこの合意反故は相当な反発があったのがうかがい知れます。また松本純のブログでも書いてありますが、一度合意したように自民党のロジックとしては震災対応を議論しなくて良い、というものではなく以下の様なもの。

民主党が70日延長への協力を要請した。自民、公明両党は延長に反対する。民主党は自公両党との3党で、菅直人首相の退陣時期と重要法案の処理に関する合意文書を取りまとめたい意向だったが、自公両党は首相退陣の時期が明確ではないとして応じない構えだ。
国会会期、70日延長議決へ 自公は反対: 日本経済新聞

この時期は菅首相の支持率は低迷しており、菅降ろしも進行中の時期。同6月には菅政権への不信任案もありましたし、国会延長ではなく新内閣の下で新しく国会を開き議論をしようというものです。また当時の自民党メールマガジンでは、

【国会会期延長について~谷垣禎一総裁会見から~】
■昨日、国会が70日間延長されたわけですが、会期延長を巡りましては、政府与党内の迷走と申しますか、ゴタゴタが見るも堪えない状態であったということだと思います。(中略)今の国会の混乱、政治の混乱は、第一は政府与党の中での統一性のなさ、方向性のなさ、そういうところに問題が基本的にはあるわけです。
 
■被災地の復旧・復興のために、国会で審議すべき問題は山積しております。したがって、私どもは、会期延長そのものに反対しているわけではありません。大切なことは、何をするための会期延長であるのか。(中略)政府与党の中で明確な整理・説明がない中での、不合理な日程、不合理な国会に与することはできないということを私どもは申し上げたわけです。
 
■結局、総理の座への執着のみが、菅さんの頭の中にあるのではないか。平然と人を欺き、保身を事とする。総理の座にとどまる資格は全くなくなっていると私どもは思います。そういう総理の下で、日本の立て直しは不可能であると考えています。我々は、改めて総理の早期退陣を求めていかなければならないと思っています。
メールマガジン 2011.6.24 Vol.506

というもの。民主党内部の統制のなさを指摘され、自民党からしたら問題を明確に対処できない、政権末期なので会期延長せずに新内閣の下での国会を開くという考えで、個々人によって評価は異なるでしょうが一定の論理は成り立ってはいます。当時の菅内閣の政権支持率も25%ほどでしたし、政権末期的な状況だったのは確かです。なおメールマガジンの最後の強調部分について、何が言いたいかは察してください。
 こう見ていくと最初に貼った画像は当時の状況を無視したミスリード的な画像と言えます。もちろん当時の70日間の国会延長に反対すべきでないという意見は大いにあり得ますが、ただし危機災害に延長する民主党、延長しない自民党、というような単純な比較枠組みで語るには適さないかなと。

 最後に野田政権になってからのですが、2011年12月に自民党が作った文書を貼っておきます。

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この当時の自民党によく見受けられるちょっとアクの強い文面ですが、「審議拒否は与党にあり、 国会審議を尽くせ!」は良い言葉ですね。

*1:通常国会70日間延長、衆院本会議で議決|日テレNEWS24

*2:一夜明けて 私はなぜ会期延長に賛成したか | 衆議院議員 河野太郎公式サイト。なお記事中に国会とは別に「我が国の原子力業界は腐っている、力説した」という記述があり、その後の河野太郎の顛末を知ってると面白い記述があります。

来年の出生数、おそらく70万台になるってよ

 さて2017年9月に安倍前首相が少子高齢化大義名分の一つとして国難突破解散をしたのも今は昔ですが、それはさておき自民党HPの政策を見ていたところ「危機的な少子化の打開に向けて ~希望出生率1.8への道筋~」というのがあって、つらつらと読んでいたところ危機的な状況が書かれていたので紹介しときます。
 とりもなおさず書いてあることは「少子化ヤバい」という事なんですが、結論的な部分からまず引用します。それによると今の状況は、

希望出生率と現実の合計特殊出生率の差は、政治が国民の希望に応えられていないことを示している。危機的な水準に悪化する少子化の状況は、もはや、「今がラストチャンス」という言葉すらも陳腐な状況になりつつある

とのことでかなりの危機感の表明といえて、そしてその陳腐な状況になりつつある「ラスト」チャンスも消えてしまいそうな感じはしますが。
 で、背景と政策的な提案についてはまとまっているパワポ的部分を貼ってそれを参照するなり、各々資料を見てもらうとして。

【危機的な少子化の打開に向けて~希望出生率1.8への道筋~ 背景と対策】
f:id:nou_yunyun:20201202012313p:plain

タイトルにも書いたように、というか大抵の方が予想するように来年の出生数がかなり少なくなりそうです。まず去年の出生数が想定より少なく86万人だったことからその数字をとって「86万ショック」ということがあります。自民党の資料によればこの数字についてのコメントは以下の通り。

エンゼルプラン(平成6年12月)が策定されるなど累次にわたり少子化対策が進められたものの、十分に結実せず、平成の時代を通り過ぎたと言わざるを得ない。

平成6年、つまりは1994年から現在に至るまでの少子化対策がほぼほぼ失敗したと言っているに等しいです。ちなみに脇道ですがこういう時に元号を使われると非常に面倒。脇道終わって本題に戻ると、2019年の合計特殊出生率は1.36。出生数と合計特殊出生率をグラフにすると以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20201202013619p:plain 出典: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai19/dl/gaikyouR1.pdf

そして今年の出生数ですが、1~8月の累計では出生数は前年比2.3%減、これを単純に当てはめると2020年の出生数は84.5万人ほど。この数字は自民党の資料を読むと、「令和2年の出生数は、記録がある明治32年(1899年)以来過去最少となった昨年の数字を、さらに更新することになる」と、明治統計以来過去最少となるとのことです。ただ1899年の出生数は138万人なので統計開始以来過去最低をここ数年ずっと最低を更新しているわけですが。なおこの明治32年の記録ですがあくまでも「人口動態統計」であり、それ以前は「国勢調査以前日本人口統計集成」による数字調査もあります。それを加えた出生数の推移は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20201202021339j:plain

1872年(明治5年)からの記録ですとまだ明治以降最低という記録までにはいっていない。ただ、この調査開始年の1872年の出生数は569,034人、翌年は809,487人となり、1年で約25万人増えているのを見るとこの1872年の記録はあまり信じないほうが良いかもしれません。1966年の様な急落と1967年の反騰もあるので一概には言えませんが……。
 さて今年の出生数が下がることは確定的ですが急激な下落とまでは言えません。しかし来年はどうか。自民党の資料によれば……、

新型コロナウイルスの影響により、令和2年5月~7月の妊娠届出数の状況が前年比11.4%減(中略)令和2年の出生数が84.5万人、これが更に11.4%減となると、令和3年には75万人台となる

かなり単純な計算ですがそれを当てはめると来年の出生数75万人との予想がなされています。ちなみに妊娠届出数の推移は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20201202023921p:plain
出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11920000/000681970.pdf

8月以降に数値が劇的に改善されるとは考えにくいことからもこの傾向は続くでしょうし、婚姻件数についても令和2年の1~9月の累計で前年比14.9%減という数値。来年の出生数が厳しい数字になる可能性が高いでしょう。出生数増加どころか、維持すらも現状のデータからは絶望的。来年の今頃に出生数70万台というニュースが出て、大きな話題になるでしょうね。そしたら明治5年に続く最低の数字。上り調子の80万台時期ならともかく下り調子の70万台はかなりつらい。
 国難突破解散が3年前。3年で改善するのが難しい問題とはいえ、だがしかし昨今のデジタル庁的な政治的熱量があったとは思えず、そして数値としては少子化は加速中。来年はコロナ禍の影響が出るとはいえおそらく70万台。安倍政権の時代はそれこそ「今がラストチャンス」という時期だったといえるでしょうが、結局この期間中に結果、出せませんでしたね。むしろ数字が減少し始めたという事を鑑みればラストチャンスを逃してしまったのかなと。

アベノマスクの使用率ってどれくらいだったのか

 結論だけ先に書いておくと困難であり不明な面はあるけど、やっぱそんなに高い効果はなかったよね。

www.asahi.com

田村憲久厚生労働相は30日の参院本会議で、「国民の皆様より感謝や御礼の声もいただいており、一定の効果はあった」と答弁した。(中略)ただ、具体的な効果については、「個々の対策がどの程度寄与するか数字を示すことは困難」と述べた。

って記事があったのでアベノマスクの使用率の話。まずとりあえず言っておくと「一定の効果」はあったのは確かというか、誰も使用しないということが起こらない限りは効果はあったといえるし、安倍前首相がずっとしていたので極論すれば安倍晋三氏が使ってたから効果があったとすらいえなくもない。ま、そんな屁理屈じみたことは置いといて。

各種調査によるアベノマスク使用率

 今までで幾つかの調査によってアベノマスクの使用率が出ています。それらを羅列していくと……。

アスマークによる調査
・調査人数:一都三県500名
・調査期間:5/14~15
・届いた:20.2%
使っている:22.8%

・調査期間:5/21~22
・届いた:34.4%
使っている:11.6%

アイクリエイトによる調査 ・調査人数:20代以上の男女145名
・調査期間:5/14~21
・届いた:33.8%
使っている:4.1%

週刊文春による調査
・調査人数:10代~80代まで1501票
・調査期間:5/26~29
・届いた:29.4%
使っている:12.2%

プラネットによる調査
・調査人数:4000名
・調査期間:7/17~20 ・届いた:不明
使っている:3.5%。今後使いたい人は2%

さらっと見て目に付く調査は以上の通り。どれもインターネット調査でもあるし、ちょっと精度はどうなのかなと思うこともなくはないですが、これらの調査を見る限り押しなべてアベノマスク使用率はどんなに高い時期でも2割程度という結果です。マスク不足がほぼほぼ解消された時期であろう7月末の調査で使用率3.5%。使用率が高いとは口が裂けても言えません。5月中旬の調査に限って言えばまだマスク不足といえる時期であろうし、その時にすら20%の使用率というのも高いとはいえそうにない。なおついでに言えば厚生労働省のページを見ると配布状況は「全国で5/27(水)時点 約25%」。4月7日閣議決定ということを鑑みれば1か月ちょっとかかって全国に25%は緊急時であることを考えればやはり遅いというそしりを受けてもやむ得ないかなと。この配布がもっと早ければまだ使用率は上がっていたのかもしれませんが、だがしかしタラレバをいっても仕方ない。

マスク輸入状況

 アベノマスクの効果として「東京などに届き始めてから、店頭での品薄状況も徐々に改善され、価格も反転したので非常に効果があった」という弁がありました。これについては「4月のマスク輸入量、むっちゃ増えたよ - 電脳塵芥」にも書いたんですけど、輸入量がむっちゃ増えたからじゃない? と書いたのですが、それ以降の推移とかも一応書いとこうかなと思って置いときます。貿易統計を参照してグラフ化すると10月までの不織布マスクに限った輸入量は大体以下のとおり。

f:id:nou_yunyun:20201130225034p:plain

グラフを見ると現在でも輸入の大半は中国から。6月に何故マスク輸入量が減ったのかはよく分かりませんが(供給過多、もしくは他国のバイヤーにとられたなど?)、その時期にもマスク不足的な事は起こったとは実感はないですし、それ以降の輸入推移からも最早マスク不足が起こることは難しい感じかなと。

国内でのマスク生産状況

 こちらはデータがないのでいまいちよくわからない面もあるのですが、とりあえず以下の記事を信じれば現在のマスク国内生産量は5億枚を超えていると考えてよろしいかと。

官房長官は(8月)26日の記者会見で、今月のマスクの国内供給量が約10億枚に達し、そのうち約5割が国内生産となる見通しを明らかにした。
8月のマスク供給量10億枚、「国産」5割に…菅長官「国内生産能力高める」 : 政治 : ニュース : 読売新聞オンライン

8月時点で5億枚。これは去年の国内マスク生産量である約15億枚の3分の1にあたることを考えればかなりの量が国内生産で賄えるようになって来てると考えていいでしょう。ちなみに11月に入ってマスクの生産、輸入総量動向の実態調査に乗り出すらしいです。その調査自体は大変宜しいけど11月にこの調査に乗り出すというのはかなり遅い気……。

国内生産・輸入総量の動向について実態調査に乗り出したことが14日分かった。国による大規模調査は初めてで、来年度にかけてサプライチェーン(調達・供給網)も踏まえた調査を本格化する方針。
https://www.tokyo-np.co.jp/article/68458/


 現在までにアベノマスクを使用している人間がどれくらいの割合いるかわからないので、必ずしも効果がなかったであるとか、逆にどこまで効果があったというのは確かに困難です。実際に使用してる人もいますし必ずしも効果ゼロとは言わない。けれど数百億円を超えるコストやそれに割いた時間コストに比べればその効果が高かった、とはとてもじゃないが言えそうになく、その資金でもっと効果的な施策ができた可能性は高いでしょう。どんなに高くて見積もっても大都市圏に多少配布されていた時期での使用者が2割、全国的に見たらもっと使用率は低いはずで1割程度とみてもそうは間違ってないでしょ。前政権とはいえ連続性のある内閣だから効果(影響)の否定やマイナス評価はしたくないんでしょうけれど、それらを認められない政権が危機対応にあたるの怖いですし、エビデンスベースの政策立案とか果たして出来るのかと。

終戦後の天皇の食事に関する記事 雑誌『眞相』より

nou-yunyun.hatenablog.com

 という記事の補足というか、おまけ。
 上記の記事の中で引用した『戦後ゼロ年 東京ブラックホール』で、その書籍中に戦後の雑誌『眞相』がネタ元の一つとして引用されてました。その記事が面白そうだったので国会図書館で遠隔複写で記事を見ようと思ったところ……、

という感じに該当記事が切り取られているという悪夢みたいな出来事があり(ツイートへの反応含めて)困惑してたところ、どうやら検索してらこの雑誌『眞相』には復刻版があるとわかったのでそちらを見てみたら他にも面白い記事が複数あったので、それについてここに別個の記事としてあげときます。

雑誌『眞相』への雑感

 まあまずこの雑誌『眞相』ですが、読んでみると左派というのかまではわかりませんが、基本は反権力反権威的なところがあってとにかく時の内閣や政治家を腐す。現代で言えば日刊ゲンダイの様なものと見るといいかもしれません。なおこの例えを誉め言葉として受け取るかどうかは個々人の判断に任せます。その他にも例えば甘粕大尉や児玉誉士夫についての記事、731部隊が話題になったときはそれに関わった人間へのインタビューをしてそれが真実であると喝破するなど今でも面白い読み物があります。そして何よりもこの雑誌、(昭和)天皇批判が多い。昭和天皇が主役の4コママンガが連載されますし、事あるごとに天皇に関する記事があり、現人神から人間になったあとの「戦後」をヒシヒシと感じます。ここらにある記事は現代ではほぼほぼ無理なレベルのものでしょう。例えばこんな記事。

【眞相 第11号より】
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天皇は箒である”という記事*1で、これは天皇が巡幸するとその周辺がきれいになる事への強烈な皮肉でしょう。天皇の顔を箒にしているのは確かに俗悪な表現とも言えますが、戦前にはなかった戦後に産まれた「表現の自由」。しかし、この戦後に産まれた表現の自由も昨今ではあいちトリエンナーレのことを思えばその当時よりもその方面の自由は劣っているかもしれません。また下の記事”珍憲法 働く者は喰うべからず”を見ると、天皇の食事の時期が不明なのは少し残念なものの、天皇家と一般庶民の食事格差があったのは歴然。ちなみに「天皇は箒」ですが、別に当時は問題視されなかったわけではなく、例えば「第1回国会衆議院司法委員会」でこの記事のことが取り上げられています。その後に眞相の方でもこの国会質疑に対する記事も書いてあったりします。
 事程左様に「こういう」雑誌です。そういう意味ではかなり主張に偏りがあるのは事実ですが、それはとりもなおさず天皇に戦争責任があるという主張をしてるからでもありましょう。

天皇の食事に関する記事

 天皇の食事に関する記事は複数回あって中には宮内省役人の覆面座談会などが行われて職員がざっくばらんに話している回まであります。この職員の話し方が現代では考えられないくらいにざっくばらんだったりして面白くもあるのですが、それは置いといて。
 まずはずばり第4号”皇族は何を喰っているか

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この記事は宮城にデモ隊が流れ込んだ記事であり、前回のブログ記事でも書いた部分です。内容を読むとこれが『原色の戦後史』の一部描写の底本になっていることがわかります。記事内容自体は各種やり取りがルポルタージュ的に書かれており、宮内省の皇族、高等官用の調理場で以下のようなやり取りがなされています。

「アッ、オハチの中にこんなに御飯がまだ残っているのに水が入れてあらァ」
 子供が先ず第一にそれを見つけた。食べ終わったオハチを洗ふべく水をいれてあるのであろが、なんと勿体ない処分よ。
「おかあちゃん。オカユが食べたいよ」
「どおれ、あっ、ほんとうだね……」
赤ん坊を背負ったおかみさんは覗き込んで驚いた。
「オカユ? おほげさだ」と一べつし、うそぶいたお役人はいった。だがお役人よ。人民の家庭では、こんなお粥すら喰うことが出来ないことをよく認識してもらひたい。
(中略)
「チョイとお役人さん。これが残飯ならせめて子供にだけでもた食べさせていただけませんでせうか、朝からまだ野草の汁以外なんにも食べていないんです。」
「お役人さん。私はロクに食べないためか、子供にふくませるお乳も出ないんです。どうかこの残飯を食べさせて下さいませ。この通り乳は出ないんですから」
(中略。冷蔵庫を開けてその食材に驚く)
「配給ですかね」
「もちろん闇ですよ」
天皇陛下が闇をなさるはづありません」
宮内省ならできるだろう」
「どういうルートで入ってくるのだろう?」

文面を読むと手を加えている感じがしなくもないですが、こういったやり取りに近いものが行われていたのはおそらくあったのでしょう。残飯については前回記事に書いたように水を切るために置いておいたものという反論もあり、本当に残飯であったのかは定かではありません。残飯と水を切るために置いてあったコメを母親たちが間違えるのか、という疑問がありますが。それと闇については後述します。なお、記事中では皇族用の献立表が書かれていますが、そちらは前回引用した新聞記事とほぼほぼ同じでしたので、そちらを参照してください。ただ前回の新聞記事などでは書かれていないやり取りとしてデモの先導者である岩田氏が以下のような発言をしています。

天皇はね」と岩田さんは語りだした。
「毎月三里塚の牧場から、バター45貫目、ブタ二頭、タマゴ1200個、ニワトリ40羽、その上に牛乳は頭の痛くなるほどきているのですよ」

この発言内容はアジテーションの気が強く、実際にどうであったかの検証は必要だとは思いますが、それでも野草の汁を飲んでいた母親たちとは全く異なる食生活をしていたのは事実でしょう。

 次の記事は第20号"夫婦漫才"。

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天皇家の食事のための家畜などを紹介していく記事で、昭和天皇と皇后が漫才形式のキャプションがつくというもので、昭和天皇の返しは大抵「アア、そう」というもの。俗悪的な表現といえますが、天皇家の食料供給状況が恵まれたものである事はわかります。なお記事の締めは「【結論】やっぱり朕はタラフク食っている」。

 最後に紹介する記事は第20号の”天皇一家の配給生活探訪記 ヒロヒト氏の市民生活・その二”これは雑誌で切り取られていた部分です。

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この記事ではある日の天皇の食事が出ています。それによると、

【昭和23年6月1日の天皇の食事】
朝:オートミール、焼きパン、玉子料理、果物、牛乳、お茶
昼:ソーセージ油揚、キャベツ、スパーゲット皿焼、ぱん、果物、牛乳、お茶
夜:お汁(赤差し豆腐)、半搗米御飯、干し鯖、粉吹き芋、浸しほうれん草、お漬物(大根)、果物、お茶

というものです。一般市民に比べれば豪華なものの新円成金に比べればご馳走ではないというレベルらしい。そして天皇家の食費について書かれていますが、それによると宮内省御用達の野菜卸一店舗に月平均2万4900円ほど。これでも戦前よりは質素になったもののの重さにすると1日平均約20貫目(75キロ)になると推定しており、かなりの量。ただあくまでも推定であるし、宮内省と御用商人とのやり取りにおいては以下のような指摘があります。

昔から宮内省の御用商人が、商品を時価やそれ以下の値段でおさめた例は一つもなく、かならず時の相場の二倍前後で納品するのが習慣。しかりしこうしてこのベラボーなマージンから生まれる特別利潤は係の宮内官吏と商人のあいだで山分けする

という商人にとってもうま味があり、食費が高くなる理由が書かれています。とはいえ、そのあと直ぐに別の商人は原価同様、時には原価を割る事さえあるということを言っており、どちらが正しいのか、もしくはどちらも正しいのかは不明。またこれらとは異なる気質の商人として天皇主義者の魚屋なども紹介されており、取引先によってはかなり付き合いは異なっていた模様です。そしてヤミ買いについては以下のように記述。

やっぱりヤミ買いする現人神
去年の秋天皇が山梨に旅行した時食べた牛肉は(中略)精肉にして七十貫タップリ、買い上げ値段は4万4千円(もちろん闇値)行幸先でこんな上等な肉を食っているせいかどうか、地方巡幸から帰るといつも三百匁ほど体重が増えるそうだ。

なおこのヤミ買いは地方巡幸の時で在京中は庶民的な牛肉で我慢しているということが書かれているのでヤミ市ではなさそうな書きぶりです。ただこれは天皇主義者の御用商がおり、購入先があるという要因もあるのでしょう。ただし、その時分の肉の公定価格百匁30円に対して150円で買っていると書かれていることからヤミで買っているようなものではあり、役人もそう思ったのか以下の記述。

ヤミ買いが世間に知れたら大変だと帳面ずらをあわせるべくマル公30円で買ったことにして二貫百匁買いました。ヤミは絶対にやっておりません、と記帳してあるそうだ(米久番頭さんの談)

まぁ、天皇もヤミ買いはしてたということ。そして農林省食糧管理局によると天皇一家は、

主食:米約八割、小麦粉約二割
   昭和21年度:145石
   昭和22年度:160石
   昭和23年度:160石
味噌:昭和23年度:185貫
砂糖:昭和22年度:1200斤

以上の配給?を受けているらしい*2。そして皇室経済会議で食品費として年150万円、1日当たり4170円。この値段はヤミ料理屋に出入りする資本家ならザラにあり得る値段とのこと。ただし天皇には献上品や公定価格の買い入れもあるのでヤミ料理屋と比べても意味はそこまでないでしょう。天皇はたらふく食っているといわれるだけの裏付けはあったということです。
 そしてこの記事に最後にはこんなことが書かれています。

寄生虫寄生虫
 天皇一家がいくら胃拡張にかかっているといっても、毎日二十貫の野菜や十日に羊豚各一頭づつも食えるはずがなく(中略)、つまり何処かで誰かが、ヒロヒト一家の胃の腑に代わって莫大な食物をパクついているのではないかという疑いが出てくるが、クサイのは宮内府の職員食堂菊葉会。ここを牛耳る元大膳課長佐野恵作(中略)近頃の食糧難もどこ吹く風との豪勢さ、金廻りも相当なもの(中略)。佐野大明神は大の日蓮信者で、池上本門寺に最近大枚5万円を寄付した。

これだけで事実はわからないものの、天皇家への豪勢な食事環境を利用して甘い汁を吸っていた人間はいたんだろうなと。

 長々と書きましたが『天皇の料理番』に端を発した終戦後の天皇の食事に関しては当時の(偏っているとはいえ)目線から見ると豪華な部類であったことは確かでしょう。それにしても昨今では「菊タブー」みたいな言葉もありますが、眞相からは微塵もそんな概念はなく、天皇に関しては戦後まもなくが一番表現の自由があったのだなと。

戦後ゼロ年 東京ブラックホール

戦後ゼロ年 東京ブラックホール

  • 作者:貴志 謙介
  • 発売日: 2018/06/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

*1:ちなみに巻頭。すべての記事がこういったグラフィカルなわけではなく、基本はちゃんとした文章です。

*2:記事の書き方としてこれは「配給」に当たるのかがよく分かりません。