電脳塵芥

四方山雑記

大阪で維新が看護師数を減らしたという話について

大下「どうして看護師さんがこんなに不足?」
吉村「ネットで"維新が看護師減らしたせいだ"と言われていますが事実と違います」
 
なんでこういう維新のウソを流すわけ?

 というツイートきっかけの覚書。

大阪の看護師の推移

 まず第一にツイートでは大阪の看護師を維新が減らしたという話を否定したことについて「ウソ」と言ってますが、そのツイートが誤認です。大阪に限らず全国の看護師数は厚労省の隔年による調査「衛生行政報告例(就業医療関係者)の概況 」で確認が可能です。その数値を参考にしてグラフにすると以下の通り。

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というように看護師数が順調に増加していることがわかります。なおこの看護師数増加に関しては大阪の行政が優秀だから、というわけではなく全国的な傾向といえます。例えば以下の記事のように看護師全体がずっと増加傾向であり、2018年の看護師数は過去最多です。

看護師の数は121万8600人【過去最多】10年間で1.4倍に|看護roo!ニュース
看護師の就業人数は、毎年3万~3.5万人ペースで増えています。
2008年が約87万7000人だったのに比べて、2018年は約34万人の増。10年間で約1.4倍になりました。

それと上記の厚労省調べのデータでは人口10万人当たりの看護師数も出ており、それによると大阪は全国平均を下回ってはいます。2018年を数えてみると36番目に低い数値となりますが、これは都市部という意味では千葉、東京、埼玉、神奈川、愛知などに比べれば多くなります。なおこの傾向は維新行政前からです。つまりは看護師数に関して言えば大阪は平均よりは下回るもののその数自体が著しく低いであったり、維新行政によって看護師そのものの数が減らされたという事実はありません。ただし10万人あたりの順位を見る限りここ10年くらいでそうは変わっていないことから維新府政下で看護師の数が劇的に改善されたとまでは言えない。

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看護師専門学校の閉鎖について

 看護師の数が少なくなっているという「印象」は大阪府医師会看護専門学校の閉鎖という事実から語られていることだと考えます。なお大阪赤十字看護専門学校は閉校、淀川区医師会看護専門学校は募集停止などの発表もしており、これらも閉校予定と言えますが、赤十字は大学化が望ましいという国の流れに対応が難しくて閉校、淀川区医師会に関しては理由が書かれていないためにどういう背景で募集停止したのかはわかりませんので、この2校についてはここでは語らずに大阪府医師会看護専門学校についてのみの話をします。
 まず、当事者自身が以下のように言っています。

大阪府医師会看護専門学校は)府内の看護師不足の解消に大きな役割を果たしてきた。看護師養成は本来、公的な責任においてなされるべきであるにもかかわらず、最近では、大阪府大阪市財政再建を名目に、一方的に補助金が打ち切られた。本会は設置者として、毎年大きな財政的負担を伴い運営してきたが、卒業生の就職先は国公立・公的等病院が大半を占め、この8年間で診療所等への就職は3件に留まっている。(中略)2022年3月末日をめどに、すべての在校生の卒業をもって看護師養成事業を廃止する
第310回 府医臨時代議員会 | 大阪府医師会

 これが特に言われている事例だと思います。しかしこれだけでは実際にどれくらい補助金が減ったのかがよくわかりませんので大阪府大阪市のデータを探します。で、確認しやすい大阪市の方では該当ページは「補助金等支出一覧」。そのデータを見る限りこの医師会のいう補助金はおそらく「大阪府医師会看護師充足養成事業補助金」。そして推移は以下の通り。

大阪市補助金推移】
2006年:26,500,000円
2007年:26,500,000円*1
2008年:17,100,000円
2009年:17,100,000円
2010年:17,100,000円
2011年:17,100,000円
2012年:0円(凍結)

そして大阪府の方は市のようなわかりやすいページが見当たらずで……、ただ調べてみると補助金は「大規模看護師等養成所運営補助金」という名目で交付されており、このキーワードで大阪府内HPを検索するといくつかの年の看護関係の予算が書かれたワード文書があるのでそれを参照します。

大阪府補助金
2010年:31,500,000円
2011年:31,500,000円
2013年:15,750,000円
2014年:0円*2

というように2014年から大阪府医師会看護専門学校に対する補助金はなくなっています。ちなみに赤旗の記事を見る限り2014年から同交付金が当時の松井知事によって廃止とありますが、看護師等養成所運営費補助金に基づく交付金は引き続き交付しているとあります。しかしながらこちらの交付金大阪府にある各種看護養成学校に対する交付であり、2018年時点では57件の機関に9億7千万円というもの。一校当たりどの程度の補助金かはわかりませんが、この補助金自体は廃止前からも交付されているもの。維新行政の府と市によって交付金がゼロになったのはまごうことなき事実。ちなみにこの件について橋下氏は以下のように言っています。

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看護学校が多く設立されたから補助金を本当に入れる必要がなくなったかまではわかりませんが、この看護養成所の増加に伴う競争による影響は大阪府医師会看護専門学校の閉校に対する学校長あいさつでも触れています。

18歳人口が大きく減少していく状況のなか、看護系大学・学部の新設が相次いだことを受けて、本校でも受験者数の減少や実習施設の確保が困難になるなど様々な影響が波及しています。さらには、公的補助の削減・廃止、建築後40年を超える校舎の老朽化の問題など、このままでは教育の質を維持することが困難になりつつあります。
大阪府医師会看護専門学校

さて、ではデータ上ではどうか。これは先ほど大阪府補助金データに関する資料に養成所の数が書かれているので、それをピックアップします。

【大阪における看護養成所の数】
2009年:大学 7
    3年課程 37
    2年課程 13
    高校(5年一貫) 1
    合計:58
2013年:大学 12
    3年課程 37
    2年課程 11
    高校(5年一貫) 2
    合計:62
2018年:大学 18
    3年課程 34
    2年課程 9
    高校(5年一貫) 2
    合計:63

というように養成所の数は増加しています。それも特に大学が。これは看護師不足などが言われているために新設という流れになっているという事らしく、全国的な傾向であって別段大阪府が率先してというものでは特になさそうです*3。こういった民間の流れや大学で学ぶといった傾向になってきたことは事実としてあります。民間の大学という競争相手が出来たから専用の補助金を廃止するという流れはとても新自由主義的ではありますが。ちなみに何で上記の補助金を廃止したのかを見ていくと、大阪市については以下のような理由。

ここ数年の看護師養成数の実績をみると、平成19年度246名に対して、22年度については132名と逓減してきており、市内医療機関への就職率も40%から55%程度にとどまっており、補助金交付金額がこの間一定であることからすると、補助効果が低下してきており、十分な補助効果が得られているとは言い難い。
また、当該事業については、大阪府からも運営補助金が交付されているので、大阪府とも連携し、改めて補助金のあり方について検討されたい。
https://www.city.osaka.lg.jp/somu/cmsfiles/contents/0000159/159226/5568-2.pdf

その後に別資料では「社会経済情勢の変化等により事業効果が薄れたため廃止」とあります。大阪府についてはどのような理由で廃止したのかの理由はわかりませんが当時の府が維新府政であることを鑑みれば同様の理由と考えてもそう的外れではないでしょう。これ自体は橋下氏の言うように「時代の変化」と言える部分が大きいでしょう。維新府政によって看護師が減ったというのは誤認であるし、看護専門学校補助金打ち切りも批判の急先鋒にたてるほどの論理があるかは少し疑問なところです。



 大阪における看護師不足はとりもなおさず大阪における新型コロナ陽性者数が多いってだけだと思います。それ自体がイソジンやあの状況下において強行した都構想、テレビなどのでたがりなどに象徴される維新行政による「結果」なわけですが、たがしかし看護師が減少したなどというのはデマの類です。正味なところでは私自身は維新を好かないですが、とはいえデマで批判しても意味ないです。優しく言えば誤認でしょうが結局はデマですから。

*1:2009年資料だとなぜか17,100,000円なのですが、2007,2008年では26,500,000円なのでこちらの数字を信じます。

*2:ワード文書から記述自体が消えています。

*3:参考: 【進路コラム】看護分野の学び なぜ新設ラッシュが起きているの?|大学Times