電脳塵芥

四方山雑記

クルド人の春の祭り「ネウロズ」において、「テロ組織PKKの制服」を着ていたとはいえないのでは


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1770405710658158778

 手短に。まずPKKがこの様な服を着ていることは事実として存在する。


出典:www.aljazeera.com

これだけを見れば「PKKの制服」という推論も不思議ではないとはいえる。ただし、そもそもこの衣装は「PKKの制服」というよりもクルド人にとっての特別な日に着る民族衣装的な性格があるように思える。例えば2015年のトルコ語の記事「Şal û şepikler Newroz'a hazırlanıyor」に次のようなものがある。

シャル・ウ・シェピックを「テロ組織の制服に似た衣服」であるとして禁止する「国内治安パッケージ」法草案への反応が続く中、ハッカリのユクセコヴァ(ゲヴァー)地区の市民は、来るニューロズ祭を前にシャル・ウ・シェピックに特別な関心を示している。
(略)
ゲヴェル文化芸術協会の幹部の一人であるアイハン・クズルドアンは、クルド人の民族衣装の禁止は悲劇であると述べた。つまり、この組織は自分たちが戦う民族の民族衣装をユニフォームにしているのだから、それを禁止することはできない。
※自動翻訳

※記事内の写真

このシャル・ウ・シェピック(Şal û şepikler)が件の衣装のことなのだが、これが「国内治安パッケージ」のという法案ではテロ組織(PKKのことか)の制服に似た衣服であるから禁止するという内容のもので、記事にはこの服が逮捕の理由になっていることも窺える。また上記法案が議論された際にSNS上では反対として件の衣装を着るというムーブメントの様なものが一部であった事が「Sosyal medyada 'Şal u Şapik' tepkisi」という記事でわかる。これらの記事を読む限りはŞal û şepiklerは歴史の中で継続してきたであろう「民族衣装」であるのだからこの服装を以てして「PKKの制服」と捉えるのはトルコ政府に親和的な解釈でしかなく、まずは民族衣装と捉えるのが正解だろう。ちなみに外国のネウロズにおいても同様の服装をしている人間を複数確認できる。

asopress.com

いずれにしても「この服はテロ組織PKKの服装ですね」と石井孝明は断言しているが、この服装は民族衣装的性格があるものであり(故にPKKはこれを衣装ともしているのだろう)、断言するには根拠が薄弱といえる。物事の裏どりが出来ているとは到底言えず、ただ自身の偏った知識による偏見を述べているに過ぎない。


【追記】
 補足として。「Şal û şepikler」は自動翻訳で直接的に訳せば「ショールとスカーフ」となるのだが、必ずしもPKKが着ている様なカーキ色でポケットありのものだけではない。


https://www.indyturk.com/node/40596/ya%C5%9Fam/


https://www.vanolay.com/vanda-dugunlerin-vazgecilmezi-sal-u-sepik-ve-kiras-fistan

「一般的」にどちらが主流なのかまでは不明だが、このようなスタイルの「Şal û şepikler」も存在はしている。ちなみにインスタグラムで「Şal û şepikler」のレンタルや販売をしている業者のアカウントを見る限りはどちらのタイプも存在しており、やはり「PKKの制服」と断ずることは難しいと思われる。


【追記その2】
 今回のネウロズはクルド人が主体となった祭りであるし、この面で注目されている。そんな中、上川外務大臣ネウロズ(ノウルーズ)を祝った事で若干炎上した。


https://twitter.com/MofaJapan_jp/status/1770288437851214167

これは外務省が(クルド人の祭りである)「ネウロズ」を祝ったという解釈でのプチ炎上なのだが、文面を見ればわかる様に「諸国民」に対するメッセージであり、記述URLでは次の様な補足説明がなされている。

ノウルーズとは、ペルシャ語で「新しい日」を意味し、バルカン半島黒海沿岸地域、コーカサス地域、中央アジア、中東、その他の地域で新年の元日として祝われる。

元々は太陽イラン暦における新年の祝い事であって*1、該当地域は上記の様にかなり広いと言える。外務省が該当地域の諸国民に対して新年の祝いを述べるというのもさほどおかしくはない。日本で一部が注目していた「ネウロズ」ではなく、念頭にあってもおかしくないが基本的には世界的な暦の中での祝いの言葉ととるのが通常だろうと。むしろこれに対して違和感を覚えている人間は結局探ることや思考を誰かに託して憎悪煽動されている人が多いのではないかなと思ったり。

■お布施用ページ
note.com

*1:詳しくは英語版wikipediaなどを参照してください。