電脳塵芥

四方山雑記

電車における案内などの多言語表示について


https://twitter.com/ekimeihangeul/status/1210932329792696321

 こういった電車の案内板表示におけるハングル語表記の写真を撮って「どこの国だ」、「必要ない」という感じの投稿は今やSNS上などでは稀によく見るツイートです。これらは循環表示されるものであり、数秒感覚で再度日本語表示があるにも関わらずハングルが切り替え表示された瞬間に写真を撮ってSNSにとってアップする、という一連の行動は非常に滑稽ではありますが今や手軽に憎悪を煽る為にいまや定番化してる手法です。大体、引用したツイートにある様に今現在の日本の電車内ディスプレイは2つ並んだものが多いはずで、その隣に日本語表示がある場合があります。指摘としては事実レベルの確認をしない甚だいちゃもんレベルでしかなく、これらの物申す系にあるのは排外感情がほぼほぼでしょう。
 ちなみにこの件は2019年に韓国でもちょっとだけネットニュースになるくらいです。

「日本電車にハングル嫌 "日有名な作家「嫌韓」ツイート議論
日本右翼に分類される有名な小説家百田尚樹が電車に浮かぶ韓国語を批判する「嫌韓」のツイートを上げて議論だ。
議論は去る18日百田が自身のツイッターにしたネチズンがあげた日本の電車の中、ハングル案内板の写真をリツイートして始まった。
(中略)
百クタの記事に同調した日本ネチズンたちは「日本語が出てくるまで待たなければなら英語と中国語があれば十分だと思う」、「バットで殴って壊したい"、"ここは日本だから日本人が理解しやすい言語で書かれていほしい」とやや過激に反応した。
"일본 전철에 한글 구역질 나" 日 유명 작가 '혐한' 트윗 논란 : ZUM 뉴스
※自動翻訳

このニュース自体は百田尚樹きっかけでニュース化したものでしょうが、2017年でのこちらの中央日報記事"「地下鉄「韓国語」のご案内を見る嫌い」日本ネチズンわいわい "ではそれとは関係なく記事になっています。いまや韓国では時折ですがニュースになるくらいのネットの話題になってきている事象です。

◆言説の出始めた時期

 2ちゃんねるにおいては2008年のスレットにその様な言説はありましたがすぐ消えています。2010年には「https://www.logsoku.com/r/2ch.net/rail/1272455666/」において少し盛り上がりを見せていますが、それはあくまでも2ちゃんねる上であり、その他の場所ではそういった言説はあまり見受けられません。なおスレッドを見ると民主党(鳩山)政権批判の文脈もいくらか確認できます。
 これが2012年になると2ちゃんねる以外でもそういった疑問が確認できます。

京急のホームにある駅名表示にはどうしてあんなにハングルが書かれているのだろう。局所的に向こうの方々がたしかに多く住み着いているが、あまりにも多すぎるので、経緯を知りたいです(ぷさんのキニナル)
(中略)
まとめ
私たちの生活の足である公共交通機関において、確実に増えつつある多言語表示。
「ここは日本なのに、いったい何故?」と思う方も中にはいらっしゃるかもしれないが、昨今のグローバル化という流れを受け、今後は益々、ハングルや中国語を目にする機会が増えるだろうと感じた今回の取材だった。
京急の駅名表示がハングル表記なのはなぜ? - [はまれぽ.com] 横浜 川崎 湘南 神奈川県の地域情報サイト
2012年06月18日

この記事自体は今の様な言説とはやや異なりますが、コメント欄にはその萌芽、というよりもほぼほぼ今の言葉と同じ様な言説が見受けられます。またニコニコ動画においては”https://www.nicovideo.jp/watch/sm18059974”という様に現在と同じ言説がされています。

 また2013年11月には極右系運動において多言語(というかハングル)表示がイシューになっているのが観測できます。このページ(遠州日の丸会 “ 日本と故郷を護る” 活動日記:『多言語は見にくい』 子供でもバカでも分かります)やツイッター上では、

というような感じで現在とイコールの動きです。ここである言説は多言語批判も含みますが、根本は横断幕が表す様にハングル、というか韓国憎しの感情が優先されているといっても過言ではないかなと。 ちなみに画像のツイートにある「日本がハングル普及云々」に関してはこちらの記事で書きましたが、かなり無理のある言説でしょう。
 言説自体は2008年頃からふつふつと表出してきたものであり、噴出したのが2012~3年頃という感じなのかと考えます。言説の内容的には民主党政権部分は削ぎ落されたものの当初からその内容自体に変化はありません。

◆なぜ多言語表示になったのか

 まず直近で挙げられるのは第2次安倍政権後の観光立国政策による2014年の「 観光立国実現に向けた多言語対応の改善・強化のためのガイドライン」。ここでは多言語対応言語の考え方として基本は英語併記をするものとして英語優先ではあるものの、英語以外の表記の必要性が高い施設については中国語、韓国語などの多言語で表記されることが望ましいとしています。観光立国とはすなわち外国からの観光客増加を目指す政策であり、多言語表示とはその上での「おもてなし」の一環と捉えることが出来るでしょう。
 それとなにもこの観光立国の提言はなにも2014年に突如出てきたものでなく、2010年の「公共交通機関における外国語等による情報提供」では「外国人観光旅客の旅行の容易化等の促進による国際観光の促進に関する法律(外客来訪促進法)」に基づき、「外国人旅行者が1人歩きできる社会を目指している」としています。検討会には交通事業者系の当事者たちが委員となっている事からも国、事業者と主に多言語表示という方向性を共有していると言っていいでしょう。またこの法律はさかのぼれば全国都道府県議会議長会のHPを見る限り、小泉政権時代の2002年の「グローバル観光戦略」に萌芽が見られ、翌年には案内標識などのガイドラインを策定する方向性へと動いています。少し懐かしい言葉ですが「ビジット・ジャパン・キャンペーン」などの文句もその頃です。遡ればもっと遡れはするでしょうが、この時点で多言語表示へと舵を切ったと考えても良いでしょう。

◆訪日外国人旅行者アンケート調査

 観光庁HPに「多言語表示・コミュニケーションの受入環境について訪日外国人旅行者にアンケート調査」(2018年3月20日)というものがあります。

”旅行中困ったことの回答は、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」が平成28年度調査と同様最も多くなりました(26.1%)。続いて「多言語表示の少なさ・わかりにくさ」”という様に多言語表示が一つのネックとしてなっている事が明らかになっています。また、以下のグラフでは

「鉄道駅」は多言語表示で困る割合が多いです。この内訳をみると誤訳であったり情報量の少なさの指摘だったりと多言語表示の有無自体以外の理由も入っていますが、表示言語数が問題になりやすい事はグラフからも明らかです。もし韓国語などが表示から消えればこの割合が増える可能性は高いでしょう。
 また韓国からの訪日客数は今現在不買運動などの一環として減少中ではあるもののそれでも2019年11月で20万人不買運動前は70万人を超える月もありました。減少前は中国に次ぐ第2位、減少後であっても中国、台湾に次ぐ第3位の人数です。いってしまえば韓国は観光のお得意様と言えるわけで、その言語表示を無くす合理的意味はあろうはずがありません。

◆まとめみたいなの

 多言語表示自体、観光立国と銘打った時点で避けようもない施策です。また日本の位置する場所を考えれば距離的に近い隣国は韓国や中国、そして実際にそこからの観光客は多い。日本に来る観光客の体験を一切無視していいという方や日本に観光客が来なくていいという方ならば話は別でしょうが、しかし国としては観光立国は今現在も謳っていますのでこの流れが逆行する事はほぼほぼあり得ないでしょう。鎖国するとかなら話は別ですが……。
 またよく指摘される事ですが多言語表示は外国人自身が判断して誰かに道を聞くという工程をある程度省くであろう事から人間が対応するコストを削減させます。災害時などにも多言語表示があった方が良いのは言わずもがなです。

 案内板での多言語表示は実生活においての日本語話者の利便性を著しく奪うものでは無く、また逆に多言語表示によって日本語以外の話者の利便性は向上し案内側はコスト削減が図れるものです。その利便性などを奪ってまで合理的な説明の無い憎悪の感情のみの言葉が生みだすものは排外のみであり、またこれにより実現するのものはそういった心性を持つ人間の満足感と達成感です。もし彼らの言っている事が実現した場合、その達成感は次につながる可能性さえありエスカレートの危険性があります。そこまでの理性が失われた社会ではないと思いたいですが、一部で話題のネタ化して定着して叩かれても出続けるもぐら叩きと化した現状は危うい。傍から見たら言ってる事、完全に排外極右ですし。

◆余談。韓国での話

https://www.youtube.com/watch?v=DORo7pM40Uwから

 韓国でも同じように電車案内に日本語、中国語表記がある模様。ただどこまで普及しているのかまでは良く分かりませんが。一応ハングルでいくつか思いつく単語でツイッターなどを検索しましたが、韓国で「日本語を使うな!」的な発言は見当たりませんでした。専用のミームとかあったら話は別ですが、それも可能性低いと思います。もしあったとしても日本よりはかなり少ないボリュームはないのではないかなと。