電脳塵芥

四方山雑記

外務省が旭日旗の意味を対外発信するのは政府の意に沿ったもの

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 在豪日本大使が上記のようなツイートをしており、「旭日旗の意味を知っていますか」と共に動画のURLを貼っていたりしてます。これに対して外交官の右傾化、極右化みたいな話をしている方がおり、その可能性自体は否定できませんが、そもそもこの旭日旗の意味の対外発信については残念ながられっきとした政府や外務省主導の業務にあたるものです。

外交青書2020における記述

 まずわかりやすいのは外交青書 2020における以下の記述です。

第4節 日本への理解と信頼の促進に向けた取組
1 戦略的な対外発信
(1)戦略的対外発信の取組
外務省では、対外発信の最前線である在外公館の体制強化を図りつつ、①日本の正しい姿を含む政策や取組の発信に一層力を入れるとともに、②日本の多様な魅力の発信及び③親日派知日派の育成を推進するという3本の柱に基づいて戦略的に対外発信を実施している。
(略)
一部で旭日旗について事実に基づかない批判が見られることから、政府として、外務省ホームページに旭日旗に関する説明資料を多言語で掲載するなど、旭日旗に関する正しい情報について、国際社会の理解が得られるよう様々な形で説明してきているところである1。

以上の様に今回の行動はこの外交青書に沿った行動と言えます。また、上記にもあるように現在外務省HPには旭日旗に関する説明ページがあり、そこには以下の様な記述。

我が国の基本的立場(2021年5月18日加藤官房長官記者会見午前(抜粋))
 「旭日旗の意匠は日章旗同様、太陽をかたどっており、大漁旗や出産・節句の祝い旗等、日本国内で現在までも広く使用されているものであり、特定の政治的・差別的主張である等の指摘は当たらない。政府として、韓国を含め国際社会に向けて、旭日旗掲示が政治的宣伝にならないという考えを累次の機会に説明しており、今後ともそうした説明を継続していきたいと考えている。」

 この加藤官房長官の説明は旭日旗の「意匠」や文化的側面のみをピックアップした説明ですが、この説明には歴史的背景や好んで旭日旗を使用する人間によって付加された意味、また実質的な軍旗であることの問題性をないがしろにしている説明なので、こんなもので外国は説得できないし井戸の中の蛙しか説明できない論理といえます。さてそのほかの説明ですが、それは以下のようなもの。

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この説明PDFは日本語のほかに英語、韓国語、フランス語、スペイン語タイ語で行われています。3枚目とか説得力があると考えていたらちょっと怖いくらいですが……。  ちなみにこの戦略的対外発信については2020年が初出というわけでもなく、2019年の外交青書からこの旭日旗についての記述が出るようになりました。

国会における答弁や旭日旗対応のきっかけ

 外交青書に書かれたのが2019年版(6月に発行)からですが、ちょうど2019年の国会で以下の様なやり取りがありました。

松川るい旭日旗に関する韓国が繰り広げている世論戦、これに対しては日本政府としてはどのように対応されているのか、茂木大臣にお伺いいたします。」
茂木敏充旭日旗のデザイン、これは日の出であったりとか朝日をイメージしたものでありまして、日本国内でも広く使用されているものであります。そして、松川委員お作りいただいた資料にもありますけれど、類似のデザイン、海外でもよく見るんですよ。お店に入ったっていろいろありますし、旗の掲示が政治的宣伝になるとは考えておりません。そして同時に、組織委員会も同じような見解であると、このように承知をいたしております。
 こうした我が国の考え方、韓国含め国際社会に向けて累次の機会に説明してきておりまして、今後ともしっかり説明を続けていきたいと思っております。」
第200回国会 参議院 予算委員会 2019年10月16日

2019年はこのほかにも7回ほど旭日旗関連の話題が国会でなされており、外務省HPの旭日旗ページについても2019年の5月24日に運用が開始されています。これは茂木氏が口にしているように2019年までの韓国における旭日旗批判、例えば2018年の当時の外務報道官会見記録である

韓国での旭日旗掲揚を禁止する法案提出
産経新聞 原川記者】韓国内の動きなんですけれども,韓国与党の議員が,旭日旗を掲げた船舶の領海内での航行を禁止する法案を提出したんですけれども,これに対して,現状,何か抗議とか,外務省として対応されていることがあれば伺いたいんですけれども。
【大菅外務報道官】確認の上,追って,回答させてください
大菅外務報道官会見記録|外務省

などを受けての日本政府としての反応と言えるでしょう。
 なおこの政策評価については詳細は不明ですが2021年4月の資料「令和2年度外務省政策評価の結果の政策への反映状況について」の「【基本目標Ⅰ施 策Ⅰ-1】アジア大洋州地域外交」の項目内に「旭日旗関連事務に伴う 1 名新規増要求」とあり、もともと何人が従事しているかは不明なものの人員を装荷する当たり業務として無視はしていない事がわかります。

 以上の様に今回の一件は現地外交官の暴走などではなく政府の意に沿った外交行為と言えます。正直、日本政府やネット右派層が思うような効果を上げるとは思えませんが。