電脳塵芥

四方山雑記

【デマ】夫婦別姓はソ連で大失敗したという話は出典を改ざんしてる

 っていうのがあって、これだけではちょっと読みづらいので以下は貼られた文章の引用。

『ロシアにおける家族廃止の試み』 ニコラス・S・ティマシエフ(Timasheff)
1917年ロシアの共産革命によって政権を掌握した共産党・革命政府の施策は多くの抵抗に遭遇した。ソ連政府はその原因を家族にあると考え、革命を成功させる為、『家族の絆を弱める』こととした。
これにより、『夫婦別姓』が容認され、家族の結びつきは1930年頃には革命前よりは著しく弱まった。 しかし、彼らが予想もしなかった有害現象が同時に進行していた。
1934年頃になると、それが社会の安定と国家の防衛を脅かすものと認識され始めた。
①堕胎と離婚の濫用(1934年の離婚率は37%)の結果、“出生率が急減”した。それは共産主義国家にとって労働力と兵力の確保を脅かすものとなった。
②家族、親子関係が弱まった結果、“少年非行が急増”した。1935年にはソ連の新聞は愚連隊の増加に関する報道や非難で埋まった。彼らは勤労者の住居に侵入し、掠奪し、破壊し、抵抗者は殺戮した。汽車のなかで猥褻な歌を歌い続け、終わるまで乗客を降ろさなかった。学校は授業をさぼった生徒たちに包囲され、先生は殴られ、女性たちは襲われた。
③性の自由化と女性の解放という壮大なスローガンは、強者と乱暴者を助け、弱者と内気な者を痛めつけることになった。何百万の少女たちの生活がドン・ファンに破壊され、何百万の子供たちが両親の揃った家庭を知らないことになった。
こうして、1934年には、国家はこのような“混乱”の対策に精力を消耗することに耐えられなくなった。 それは戦争に直面している国の「国力を破壊するもの」であった。これを是正するためには、社会の柱(pillar of society)である“家族を再強化”する以外に方法はなかった。

以上のテキストを簡単にまとめると「夫婦別姓」が容認されたソ連において、
 ①堕胎と離婚の濫用され、出生率が急減
 ②家族、親子関係が弱まり少年非行が急増
  愚連隊が出来、住居に侵入、略奪、抵抗者を殺戮した
 ③何百万の少女たちの生活が破壊された
というもので、夫婦別姓を導入することの恐ろしさが語られています。夫婦別姓の効果凄まじき……ですが、正直信じられないレベルの事が書いてある。偽書と思えるレベルの内容です。
 さて、このテキストはくつざわ氏の2021/5/13のブログ「入管法改正案に立憲と共産が抵抗し採決先送りに、与党は連中に配慮すんな敵なんだから」でも確認できます。しかしながら、果たしてくつざわ氏がこの引用元である『ロシアにおける家族廃止の試み』を読んでブログに書いたとはちょっと思えない。なぜならばこの『ロシアにおける家族廃止の試み』は日本語訳された書籍が恐らく存在しないからです。ではこのテキストの出典はどこか。

出典サイトからの転載時における改ざん

 ニコラス・S・ティマシエフ『ロシアにおける家族廃止の試み』の翻訳を日本で扱った書籍は1996年に発刊された八木秀次宮崎哲弥編『夫婦別姓大論破!』における小田村四郎氏が書いた部分です。そしてこの書籍をHPに引用しているサイトがあります。それによると該当部分のテキストは以下の通り。

夫婦別姓論者の真の狙いは何か
 その結果はどうなるか。かつて事実婚を公認した唯一の国家であった旧ソ連の 実験を左に紹介したい。以下は、ニコラス・S・ティマシエフ(Timasheff)の 「ロシアにおける家族廃止の試み」という論文(N.W.Bell"A Modern Instrucion to the Family"1960 N.Y.Free Prees所収)による。
 
旧ソ連の家族破壊はどう行われたか
 1917年、ロシアの共産革命によって政権を掌握した共産党及び革命政府の施策は多くの抵抗に遭遇した。ソ連政府はその原因を家族、学校、教会にあると考え、革命を成功させるため、家族の絆を弱め、教会を破壊し、学校を革命の担い手に変えることとした。「旧秩序の要塞・伝統文化の砦」とされた家族に対す る攻撃は次のように行われた。
 一、従来、法律婚の要件とされていた教会での結婚式を不要とし、役所での登録だけで婚姻の効力が生ずるものとした。
 二、離婚の要件を緩和し、当事者合意の場合はもちろん、一方の請求だけでも裁判所はこれを認めることとした。
 三、犯罪であった近親相姦、重婚、姦通を刑法から削除した。
 四、堕胎は国立病院で認定された医師の所へ行けば可能となり、医師は希望者には中絶手術に応じなければならないことになった。
 五、子供たちは、親の権威よりも共産主義のほうが重要であり、親が反動的態度に出たときは共産主義精神で弾劾せよ、と教えられた。
 六、最後に、1926年には、「非登録婚」も「登録婚」と法的に変わらないとする新法が制定された。
 この結果、一、同居、二、同一家計、三、第三者の前での結合宣言、四、相互扶助と子供の共同教育、のうちの一つでも充足すれば、国家はそれを結婚とみな さなければならないこととなった。
 これにより、「重婚」が合法化され、死亡した夫の財産を登録妻と非登録妻とで分け合うことになった。
 こうした反家族政策の狙いどおり、家族の結びつきは1930年頃には革命前 よりは著しく弱まった。
 しかし、彼らが予想もしなかった有害現象が同時に進行していた。 1934年 頃になると、それが社会の安定と国家の防衛を脅かすものと認識され始めた。す なわち、
 一、堕胎と離婚の濫用(1934年の離婚率は37%)の結果、出生率が急減した。 それは共産主義国家にとって労働力と兵力の確保を脅かすものとなった。
 二、家族、親子関係が弱まった結果、少年非行が急増した。1935年にはソ 連の新聞は愚連隊の増加に関する報道や非難で埋まった。彼らは勤労者の住居に 侵入し、掠奪し、破壊し、抵抗者は殺戮した。汽車のなかで猥褻な歌を歌い続け、 終わるまで乗客を降ろさなかった。学校は授業をさぼった生徒たちに包囲され、 先生は殴られ、女性たちは襲われた。
 三、性の自由化と女性の解放という壮大なスローガンは、強者と乱暴者を助け、 弱者と内気な者を痛めつけることになった。何百万の少女たちの生活がドン・ファンに破壊され、何百万の子供たちが両親の揃った家庭を知らないことになった。
破壊後のゆりもどしはこう行われた
 こうして、1934年には、国家はこのような混乱の対策に精力を消耗するこ とに耐えられなくなった。それは戦争に直面している国の国力を破壊するもので あった。これを是正するためには、社会の柱(pillar of society)である家族 を再強化する以外に方法はなかった。かくして政府は次のような措置を取った。
(以下略)
ソ連の「革新」的な実験がもたらした大惨事

以上を見てもわかる様にくつざわ氏が引用したテキストとは被る部分もありますが、かなり内容が異なる事が伺えます。夫婦別姓大論破!とくつざわ氏のテキストの違いを視覚化すると以下の様になります。

まず一番重要な点は元の文章には夫婦別姓を容認」などという文章は存在しません。ニコラス・S・ティマシエフの「ロシアにおける家族廃止の試み」はソ連における家族破壊はどの様に行われたのかを述べたものですが、夫婦別姓については一切触れていません。要はくつざわ氏が紹介している部分は出典を改ざんしたデマなわけです。

夫婦別姓大論破!』での取り上げ方

 ではなぜ『夫婦別姓大論破!』においてこのソ連の家族崩壊を夫婦別姓批判の文脈で取り上げるかというと福島瑞穂氏によるソ連事実婚政策ともいえる部分への賛意を受けたものです。まず上述したサイトの引用部分と出典である『夫婦別姓大論破!』でも若干問題のある引用のされ方がされています。引用サイト上では「夫婦別姓論者の真の狙いは何か」という題目の後は「その結果はどうなるか。」と続きますが、原著の方では以下の様な流れとなります。

夫婦別姓論者の真の狙いは何か
 今回法務省が法制審議会の答申を受けて提案しようとした民法改正案は、非嫡出子の法定相続分の引き上げ、裁判上の離婚理由に破綻主義の導入、選択的夫婦別姓制の導入等、いずれも夫婦、家族の紐帯を弱めるという点で同じ方向を指向している。
 現行民法は一夫一婦制による法律婚主義を採用し、正規に届け出られた婚姻に基く家族を社会生活の最小単位として尊重している。このため家族共同体の呼称として同一の氏を称することとし、夫婦の同居相互扶助義務、守操義務等を定め、重婚及び堕胎を禁止している。
(中略。福島瑞穂、水上洋子、田島陽子の事実婚についての発言などを記述)
夫婦別姓はなぜ結婚制度廃止につながるか
 それでは、夫婦別姓はなぜ結婚制度廃止につながるのか。
 別姓制が導入されると、別姓夫婦や別姓親子が正規の夫婦・親子であるか否かは、戸籍をいちいち点検する以外に、少なくとも外見上は判定できなくなる。つまり正規の結婚と事実上の同棲や野合と容易に区別できなくなる。
(中略。法律婚のメリットは将来的に消えるとし、事実婚のメリットを挙げる)
 別姓の導入によって事実婚に対する社会的評価が一変すれば、事実婚は大手を振って急増することになる。
 その結果はどうなるか。かつて事実婚を公認した唯一の国家であった旧ソ連の実験を左に紹介したい。
夫婦別姓大論破!』 p.171~p.174

「その結果はどうなるか」は「●夫婦別姓論者の真の狙いは何か」という題目ではなく、「●夫婦別姓はなぜ結婚制度廃止につながるか」という題目でのテキストです。引用サイトが何故この様な微妙な変更をしたのかよくわかりませんが、「真の狙い」からのソ連の家族崩壊という流れを印象付けたかったのかもしれません。ただ引用部分にはないですが原著の方でもカッコつきの「革命」という単語を用いてるので、引用者と原著で思想的に大きな違いがあるとまでは言えませんが。
 そして原著における論理展開ですが、まず夫婦別姓などの当時の民法改正案は個人の権利の主張を貫くものであり、家族をばらばらの個人に解体するものとしています。つまりは夫婦別姓などを許していけばやがては法律婚をするメリットは消え去り、事実婚が増加するというある種の夫婦別姓によるドミノ理論であり、そのドミノの先にはソ連の様な家族崩壊が待っている、というものでしょう。それは以下の結論からもうかがえます。

以上が、結婚と家族を破壊しようと試みたソ連の壮大な実験の経緯と結末を紹介したティマシエフ論文の概要である。ところが、「家族」を敵視した共産主義者たちですら失敗と認めたソ連の悲惨な実験について、福島瑞穂氏は、「ロシア革命の後、様々な政策が根本から見直され、一時的であれ、事実婚主義がはっきり採用されていたとは素晴らしいことだと思う」(『結婚と家族』岩波新書)と手放しで絶讃している。別姓論者の意図が奈辺にあるかは、この一文によって察せられるであろう。
(中略。中略部分に別姓要素はなし)
 欧米のような厳格な一神教の伝統を持たないわが国にあっては、祖先祭祀を核とした 「家」の存在こそが社会秩序の基礎であった。(参照、加地伸行『沈黙の宗教- 儒教筑摩書房) 競争社会の中で唯一の憩いの場であり団欒の場である家庭が崩壊することは、社会秩序を根底から破壊する。それは国家破滅への道である。
 「ライフスタイルの自己決定権」と称して、別姓論者が事実婚を実行し、現姓に固執することは犯罪ではないから自由である。しかし、これを実定法以上の権利と主張し、別姓の法定を要求し、相続権も与えよというに至っては論外である。
 民・刑法の定める一夫一婦制度は、わが国社会秩序の基礎であって、これを破壊するような要求に法的保護を与えることは断じて許されないのである。

2chにおける拡散

 さて、くつざわ氏のテキストは元々の引用からの改ざん引用となりますが、ではこの改ざんをくつざわ氏がしたかというとそれは異なります。少なくとも2013年3月9日の2chに以下の様な書き込みが存在します。

これはくつざわ氏が投稿していたテキストとほぼほぼ同一のものです。なお、書き込みの一番下にURLが貼ってありますが、サイトURLは変わっていますが、これは上記で紹介した『夫婦別姓大論破!』を引用しているサイトであり、文章は当然ながら『夫婦別姓大論破!』となりURL先を確認すればすぐに嘘であることが分かる引用の仕方になっています。また、「夫婦別姓」とは別に以下の様なバージョンも存在します。

■結婚制度を破壊ver ※2012年12月9日

■全女性の労働参加を進めたver.1 ※2012年12月9日

■「婚外子区別」が“撤廃”ver ※2013年11月1日

■全女性の労働参加を進めたver.2 ※2014年10月27日

以上を見ればわかる様に一部で『夫婦別姓大論破!』の文章の一部を変えて使用するというコピペミーム化しています。「夫婦別姓」もその一つのバージョンに過ぎなかったものの、今回はそれをくつざわ氏が利用したことによって拡散したという所でしょう。ただこれの少しややこしい所は当時のソ連における政策において夫婦別姓の容認、女性の労働参加、婚外子区別、事実婚の政策化などは実際に行われている事でもあるということです。デマではあるけど、部分的にはあっているというのがこのコピペの厄介なところです。

ソ連における夫婦別姓について

 日本語環境ではソ連における夫婦別姓の容認についての論考は少ないのですが、数少ない論文として森下敏男『ソビエト婚姻法の生成と展開(上)』があります。まず森下によれば1926年法典における初期ソビエトの婚姻法の特徴は自由化の傾向であり、婚姻関係は大幅に私的自治の世界に委ねられ、登録婚はあったものの事実婚の成立については制約がなく、離婚も完全に自由化されます。またもう一つの特色としては弱者保護の観点や男女平等化の原則であり、特にこの男女平等原則の論理の下で夫婦別姓の容認が行われます。なお、この時期のソ連共産主義の下では経済的・政治的に自立することによる男女間の不平等が解消されるという家族消滅論(家族死滅論)や、それに伴い恋愛が自由化されるという自由恋愛論という考えがあります。それらはのちの揺り戻しを考えれば否定されるのですが、それはともかくソ連における夫婦別姓の流れは以下の様になります。
 まず1917年の民事婚等についての布告と18年法典によって結婚すると夫婦は共通性で姓は夫か妻のものとするという現行の日本と同じものが制度化され形式的には平等になりますが、これは現在の日本と同じく夫の姓が事実上多数を占めます。そこでこの時期には共通姓として結合姓(二重姓)制度も採用されます。これは例えば佐藤さんと鈴木さんが結婚した時に結合姓を選択すると「佐藤鈴木」という姓になるというものです。なおこの連結姓はドイツやフランスなどでも現在採用されいる姓の在り方の一つです。ただしこの結合姓は評判が悪く、26年法典ではその役割を早くにして終え、男女平等原則として夫婦別姓制度が導入されることになります。ちなみにここでいう姓における男女平等とは夫の姓を妻が強いられることは「妻の独立した人格の否定であり、妻が夫の一部分とみなされていることの証拠として批判」というものであり、欧米、日本でも言われている論理の一つです。
 この夫婦別姓導入の議論の際には家族は単一姓であるべきだという今の日本における反対派と同様の反対意見が存在していたり、逆に賛成意見としては経済的に独立している女性にとって改正はナンセンスだという今の日本でもよく聞く賛成、反対の議論が行われています。23年にはこの別姓案が出て、24年には26年法典よりも早く立法化。26年法典の際にも反対派の声はありましたが、立法責任者が改正を望まないものが多いのが現実であり、現実が制度の廃止を要求したとして以下の様な条文が誕生します。

「婚姻の登録に際して、夫婦は夫もしくは妻の姓を共通姓として名のるか、または各自旧姓のままでいるかについての希望を申し出ることができる」(第7条)

 なお現在日本において選択的夫婦別姓制度を求める多くの人間とは若干異なる論理もソ連は用いています。それが事実婚の存在であり、森下は以下の様に説明します。

夫婦が完全に平等となるべき社会主義の下では別姓が必然のなりゆきとみなされていたのである。また夫婦別姓制は、事実婚主義の下において、登録婚と事実婚の相違をほぼ最終的に解消するものでもあった。夫婦の共通姓は登録によってはじめて確定するのであって、それは登録婚の効果を事実婚から区別するほとんど唯一の事例であったが、二六年法典は共通姓の義務づけまでも廃止したのだからである

別姓により登録婚と事実婚の差異を消す為のものだというのは『夫婦別姓大論破!』における論理にかなり近しいものがあり、そういう意味ではあの論考自体が的外れというほどに的外れとは言えませんが、ただしそれを日本に当て嵌めてそっくりそのまま考えるべき事の妥当性があるかは疑問です。
 ちなみにニコラス・S・ティマシエフの論文の様にソ連のこの事実婚主義は失敗したと言わざるを得ず、44年には事実婚から登録婚への揺り戻しが行われ、家族の強化の必要性が指摘されます。その際の論理としては男女平等が実現したから事実婚の保護は不要になったという欺瞞的なものや、26年法典で事実婚が自由化されていても登録婚の意義は重視、登録婚と事実婚は完全平等ではなく事実婚は夫婦共同材先生と扶養義務の点での事実婚保護の強調をしていたにすぎず登録婚の強調は揺り戻しではないとする論理などが存在します。また事実婚主義に関しては西側諸国から共産主義者による家族破壊のたくらみとして理解されたとされますが、ソ連内でも事実婚主義に対する否定的な見解が登場します。マトヴェーエフによれば事実婚主義は決して婦人を保護しなかったのであり、実践が示したように家族を瓦解させ、かえって婦人を困難に陥れた、30年代以降に事実婚主義が否定されるのは歴史的役割が終了したからではなく、そもそもはじめから誤っていたとしています(森下敏男『社会主義と婚姻形態―ソビエト事実婚主義の研究』による)。
 マトヴェーエフが言うようにソ連における事実婚主義に関してはやはり問題を含むものだったと理解できるものですが、だからといって『夫婦別姓大論破!』の様に「事実婚主義」=家庭の破壊というのは短絡かと考えらえます。引用されているニコラス・S・ティマシエフでもその一端は伺えますし、該当論文を引用しているMartina Pavelková『The Characteristic of Family and (Re-)Educationin the Communist Perspective』を読む限り、当時のソ連においては共産主義教育を受けた子どもと親との間での意識の違い、失業率、子どもの預ける施設の存在の有無、浮浪児やそれを受け入れる体制の問題などが伺え、当時の国家状況も勘案する必要があります。事実婚主義やこれらの組み合わせによっての失敗はあり得ますが、事実婚主義の一つだけで家庭の破壊までは飛躍が過ぎるかと。
 ソ連事実婚主義から登録婚への揺り戻しが存在したのは確かな様ですが、その際に夫婦別姓までもが戻されたのかまでは論文にないために不明です。ただし現在のロシアにおいては夫婦別姓が一つの選択肢として認められている事から、類推となりますが事実婚からの揺り戻し期においても選択的夫婦別姓制度は変わらなかったのではないかなと。夫婦別姓が大失敗であるならば現状のロシアにおいてその制度が残っているとは考えづらく、そういう意味では「選択的夫婦別姓で大失敗」そのものは事実に反するのではないか。


【11月20日追記】
追記①
 やはりソ連では選択的夫婦別姓導入後、それが変更されてはおらずに現在のロシアまで引き継がれているという書き込みを読みました。なので選択的夫婦別姓制度そのものは「失敗」扱いされていはいない。

追記②
 ツイッターでニコラス・S・ティマシエフの論文”The Attempt to Abolish the Family in Russia”が載っている雑誌がダウンロードできる場所をお教えてくれた方がいました。なので読んでみた。今回の記事に関連する特徴を書くとするならば以下の様になります。

・(革命前の)ロシアでは妻は夫の姓を受け継ぐ。なお西洋の様に女性を「Mrs ~」と呼ぶのではなくファーストネームを使わなければならないとした

「姓」に関する話題はおそらくここだけで別姓については一切語ってないと思われます。事実婚についてこの論文を用いるならともかくとして、夫婦別姓について語るならば不適切としか言いようがない。やっぱりデマですね。



■お布施用ページ

note.com

OECDのデータで「批判的思考」を日本が育んでいないというのはちょっと微妙に思える

f:id:nou_yunyun:20211113133829p:plain

 というツイートがあり、そしてそこで示されてるデータはこちら。

f:id:nou_yunyun:20211113133955p:plain

たしかにこのデータを見る限りは日本は「生徒の批判的思考を促す」を育んでいない教育と読み取れるデータです。正直、異常なほどに。ちなみに「批判的思考」ですが、別名はクリティカル・シンキング。単純に巷で言われている「批判」も含みますが、ちょっと異なる概念と言えます。京都大学大学院教育学研究科教授の楠見孝氏は以下の様に批判的思考を定義しています。

第 1 に、証拠に基づく論理的で偏りのない思考である。第 2 に、自分の思考過程を意識的に吟味する省察的(リフレクティブ)で熟慮的思考である。そして、第 3 に、より良い思考を行うために目標や文脈に応じて実行される目標指向的な思考である。
https://psych.or.jp/wp-content/uploads/old/61-5-8.pdf

実際のデータや質問を見てみよう

 まずこのデータの出典はOECDTALISという調査の2018年版です。さらに日本における調査票はこちら。該当部分に関しては教師に対する質問であり、その質問は以下のようなもの。

f:id:nou_yunyun:20211113135329p:plain

問31 あなたの指導において、以下のことは、どの程度できていますか。
(7) 生徒の批判的思考を促す

つまりは教師に対する自己評価として「生徒の批判的思考を促す」授業を出来ているかという問いになるかと考えます。他の外国は分かりませんが、正直日本の教師に対する「~が出来てるか」系の自己評価で高い値が出るかというとあまり期待できないという先入観がどうしてもぬぐえない。実際にこの問31に対する日本の「かなりできている」「非常によくできている」の回答率は軒並み低いと言えます。少々長いですが全13問の回答は見ていくと以下のようなもの。

f:id:nou_yunyun:20211113145254p:plainf:id:nou_yunyun:20211113145356p:plainf:id:nou_yunyun:20211113145503p:plain

全13問全てで日本が最下位です。これからわかることはむしろ日本の教師の自己評価、TALIS上では「自己効力感」が著しく低いことであって日本で批判的思考を育む教育の問題点のデータとして語るには少々向いていない気がします。文科省もこのデータでは以下の様な結論を出しています。

f:id:nou_yunyun:20211113151005p:plain

f:id:nou_yunyun:20211113151035p:plain

日本の小中学校教員は、高い自己効力感を持つ教員の割合が低い傾向にある。
(略)
ただし、このような結果が出た理由として、日本の教員が他国の教員に比べ、指導においてより高い水準を目指しているために自己評価が低くなっている可能性や、実際の達成度にかかわらず謙虚な自己評価を下している可能性もある。

 この結論的な部分は数値が低いことのただの言い訳にもなっていますし、それが謙虚かどうかはともかくとして。このデータで分かることは「諸外国と比較して教師の自己効力感が著しく低い」であって「諸外国と比較して(日本の学校教育が)批判的思考を育まず、無批判服従を良しとする調教を続けた」ではないでしょう。付け加えて言うとこのデータをそのまま教育のデータとして受け取るとするならば、「児童生徒を教室のきまりに従わせる」、「学級内の秩序を乱す行動を抑える」なども諸外国と比較して低く、最下位なので「無批判服従」とは少々矛盾する事になります。一つだけのデータを見ると導かれる結論がそのほかのデータと比較してみると矛盾する部分がある一例のようなものですね。
 あと、脇道ですがポルトガルとか一部の国はどの値も異常に高いんですよね。それらの国は教師の自己効力感が無茶苦茶高いのかもしれませんが、果たしてどこまでこのデータが比較に相応しいかも難しい気がします。ちなみにロシアも表に入ってたんですがこの設問は行っていないのか集計がなかったようなので表から除外してます。なので文科省には48か国平均とありますが、正しくは47か国平均かなと。なおベルギーのみ「- Flemish Comm. (Belgium)」(フランデレン地域 )が別枠で集計されていますが、こちらはややこしいので上記の表からは削除しています。

指導実践から読み取れる「批判的課題」

 批判的思考への教育を考える際にもう一つだけ参考になるデータは存在します。それが指導実践を訪ねた項目におけるもので、内容としては以下のようなもの。

問39 対象学級 における指導について、以下のことをどのくらいの頻度で行いますか。
(6) 批判的に考える必要がある課題を与える」

こちらの各国比較データは以下のようなもの。

f:id:nou_yunyun:20211113154038p:plain

相変わらず日本はぶっちぎりで最下位なわけですが。ただ教師の自己効力感で測るよりも頻度を聞いているこちらの質問の答えから語る方が有益でしょう。それとほかの質問での答えについては少々横着をして文科省の日本のみのデータを拝借しますが、それによると指導実践の結果は以下の様になります。

f:id:nou_yunyun:20211113154236p:plain

参加48か国平均を下回るのが基本な事はわかります。ここら辺は改善をしていかなければならない面もあると思いますが、果たして日本の教育改革が信頼できるかというと正直……、なところもあって難しそう。

 私自身も別段日本の批判的思考(クリティカルシンキング)の教育のレベルが高いとは思いませんが、元ツイートの方のデータから直結的に批判的思考教育が行われていないというのはやや早計かなと考えます。発言と実態があっていたとしても、引用するデータがその発言内容を必ずしも補強しているとは限らないものを持ってきては説得力が落ちます。なお、この記事自体が批判的思考ってやつになると思いますが、はてさてどれくらいの人がこのデータとツイートに対して批判的思考を持っていたか、とか考えるのは性格が悪いですね。OECDの統計表データ探すの、ちょっと手こずった。

令和3年版自殺対策白書に著名人の自殺の後に自殺が増える事がデータとして書かれてた

 先日、厚労省から令和3年版自殺対策白書が発表されました。2020年の自殺についての話ですが、やはり主に注目されるのはコロナ禍であったりそれによる女性の自殺の増加などは去年から話題になってました。実際にデータとしては去年の自殺数は久々の増加となっており、特に女性の自殺数の増加は特徴的と言えます。

f:id:nou_yunyun:20211112003410p:plain

また去年だけではありませんが、最近の傾向を見ると19歳以下の子どもの自殺も増加傾向なのも気がかり。

f:id:nou_yunyun:20211112003554p:plain

ちなみにコロナ禍なので経済問題が理由の自殺者が増えたと思いきや、経済問題はむしろ減少しており、健康問題が増え、さらに男女問題、学校問題ではそれらよりも元の数が少ないとはいえ2019年と比較して10%以上増加。どこまでコロナ禍の影響かまでは分かりませんし、自殺は複合的な要因が連鎖して起きるので「これ」が原因とだけ言うのは危険ではありますが、これらの動機が2020年の自殺増加のひとまずの原因だという事が分かります。

f:id:nou_yunyun:20211112003830p:plain

著名人自殺による自殺者数への影響

 著名人などによる自殺が起き、それによる自殺報道がなされた場合、その後に自殺が増えるというウェルテル効果というものがあります。そして2020年には幾度かそういった報道があり、そして実際に増えたことについて自殺対策白書に書かれていました。詳しいデータはリンク先に書いてあるのですが、この記事でもいくつかデータを貼っておきます。

f:id:nou_yunyun:20211112005625p:plain

 上記は過去5年の自殺者数をもとに予測した2020年の予測値と実測値との差ですが、自殺報道のあった7月18日に自殺者数が増え、そしてもう一つの自殺報道があった9月27日以降にかなりの増加がみられます。また例年の10月は下記の図の様に特に他の月と比較して自殺が多いという事ではない事からも報道の影響が色濃く出ていると考えて良いかなと。

f:id:nou_yunyun:20211112005938p:plain

そして「報道後2週間と報道前2週間との自殺者数の比較」、「報道後2週間と前年同期との自殺者数の比較」を見ると自殺報道の自殺者数の関連は疑いようもない。

f:id:nou_yunyun:20211112010108p:plain

f:id:nou_yunyun:20211112010225p:plain

 ただし。この自殺報道そのものがどのくらいの期間まで自殺に影響を及ぼしているかまではわかりません。7月ごろから継続的に自殺者数が予測値よりも常に上回っているような状況ですが、常識的に考えて2週間程度のタイムスパンならともかく1か月、2か月後にも強い影響を及ぼしているとは考えづらい。コロナ禍の影響が夏から徐々に出てきたとも考えられますし、自殺報道の影響をあまりにも大きく見すぎる事は宜しくない。だけれどもやはり自殺報道によって自殺が増えるという事はデータから見ても恐らく確かであり、自殺報道というものは気を付けてやらなければいけなくなってきているのかなと。

脇道。相談件数における男女の違い

 第2章「新型コロナウイルス感染症の感染拡大下の自殺対策に係るSNS相談の拡充」でちょっと興味深い事が書かれていたので脇道として置いときます。
  f:id:nou_yunyun:20211112011613p:plain 

BONDプロジェクトは10~20代の女性が対象なのでそれを抜きにしたとしても、全体的に相談件数の男女比の割合が女性が圧倒的に多め。自殺者は男性の方が多いことを考えると、男性の男性性からの相談しづらさなどがあるのかななどと思った次第。

【デマ】岡田克也氏の街頭演説で「ジャスコのせいだ!」とヤジを言っているキャプチャ風画像はデマ

 こちらの画像は幾度か見たことはあったんですが、そしたら宮崎氏が以下の様なツイートをしていました。

なんでちょっと探ってみました。
 まず画像の初出は宮崎信行氏のブログにおける2013年7月4日の記事。この記事の中には「シャッター街」云々の記述はありません。当時の映像はないので絶対にその文言がなかったとは言えませんが、それはともかくとして次にこの「シャッター街を」という発言がネット上に出てきたのは何時かというと、以下の通り。

2014年の11月19日のツイートです。実際の街頭演説から1年以上過ぎてから「シャッター街」云々という話が生まれており、甚だ怪しいとしか思えません。ちなみにこれを別のアカウントからの引用で保守速報が記事にしており(現在削除済み。アーカイブはこちら。)、それで拡散した模様。なお保守速報で引用されているのは以下の様なツイート。

ジャスコ」、「イオン」以外は同じ内容という割と不可思議なツイートです。タイムスタンプを見ると「イオン」ツイートが早いように見受けられますが午前5時に街頭演説はあり得ないし、「ジャスコ」はそれを受けてのパクツイなような気がしてしまいます。それはひとまず置いといて、これらを受けてj-castでは記事にもなっています。ここら辺が拡散に寄与したものと考えられます。
 さて何故1年以上前の街頭演説写真を持ってきてつぶやいてるのかですが、2014年11月19日は第187回国会が開会中の水曜日なものの11月21日に解散がありその解散風を受けてその近辺では既に街頭演説をしているのはツイッターで過去を漁ると存在することが分かります。本当に岡田氏がこの時期に街頭演説をしていたかまでは上記の人たち以外に目撃者ツイートが無く、また岡田氏HP等からは不明ですが、その時に「よっし~の面白通信」氏が写真を撮っていなかったから宮崎氏のブログから拝借したというものでしょう。かなりの好意的解釈ではありますが。それとキャプションがついた画像自体を現状確認できるのは2016年からで、2015年以前の画像が削除されて検索できないとかでなければこのキャプション付き画像が出回っているのはそれなりにタイムラグが存在することになります。あとそもそもですが「民主党候補」と言っている事から別に岡田氏以外の可能性も高いんですよね。

 こう振り返ってみると街頭演説自体にもやや怪しい感じを受けてしまいますが、こちらの真偽は探りようもない。ただそれはともかくとしてキャプションのついたキャプチャ画像自体は確実に【デマ】ですね。



■お布施用ページ

note.com

【開示請求】防衛省のインフルエンサー接触計画の開示請求結果が来ました

www.asahi.com

防衛予算の大幅増額をめざし、防衛省がユーチューバーらに「厳しい安全保障環境」を説いて回る取り組みを計画している。今月、100人を想定して対象者の選定作業に着手。

 という記事があり、そんなんだから

としてみたわけです。そしたら防衛省から「該当資料が見当たらない」とまず言われてその代わりに有識者に対する説明資料の様なものはあると言われて、それで良いよとこちらはOKとしたわけです。朝日新聞の資料自体は続報で岸防衛大臣が認めていますし、インフルエンサーへの説明資料と代替として挙げられた行政資料との違いが良くわからなかったものの、それはともかくとして本日開示した資料が届きました。以下がその資料内容です。

f:id:nou_yunyun:20211029144742p:plain

f:id:nou_yunyun:20211029144754p:plain

f:id:nou_yunyun:20211029144807p:plain

f:id:nou_yunyun:20211029144815p:plain

f:id:nou_yunyun:20211029144824p:plain

f:id:nou_yunyun:20211029144840p:plain

何が書いてあるか、わっかんねー。資料名も黒塗りだから結局何の資料が来たかさえわからんね。私は一体何の資料を手に入れたのだろうか……。

山本太郎(れいわ新選組)が提示する貯蓄ゼロ世帯のデータが示すのは文字通りの「貯蓄ゼロ世帯」ではない

f:id:nou_yunyun:20211018104446p:plain

 この貯蓄ゼロのデータをれいわ新選組や党首である山本太郎党首討論d根使用していました。この表は元々は2018年の参議院予算委員会で使用していた以下のものが出所とも言える。

f:id:nou_yunyun:20211018104630p:plain

つまりはここで表示されているデータ自体は2017年のものです。2021年のこの時期に出すにははっきり言って古い。で、このデータ元自体は「家計の金融行動に関する世論調査」がもとで現在2020年までのデータが出ており、該当の表は「単身世帯」なので今回も単身世帯のデータを見ます。それによると2020年の貯蓄ゼロ世帯の割合は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20211018105732p:plain

これだけだと分かりにくいのでピックアップすると。

【2020年の貯蓄ゼロ世帯の割合】
20歳代:43.2%
30歳代:31.1%
40歳代:35.5%
50歳代:41.0%
60歳代:29.4%

以上の様になっており、いずれの世代においてもれいわ新選組が提示するデータから改善がみられています。ちなみに年齢別ではないデータにおける近年の推移は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20211018110145p:plain

 さて、この件については以前も書きましたが2017年と2018年に奇妙な破線があります。これは2017年と2018年で集計の仕方が異なるためデータの連続性が崩れたためです。なので単純に2017年から2018年の数字の改善は必ずしも状況の改善とは言えません。
 ちなみにですがこの「家計の金融行動に関する世論調査」における「金融資産の非保有(貯蓄ゼロ)」は以下の様に試算されています。

【貯蓄ゼロ世帯のカウント方法】
①問1で現在保有している金融商品の選択肢で「いずれも保有していない 」を選択
f:id:nou_yunyun:20211018112827p:plain ②問2で預貯金の合計残高で「うち運用または将来の備え」がゼロの世帯
f:id:nou_yunyun:20211018113641p:plain ※参考「https://www.shiruporuto.jp/public/data/movie/yoron/tanshin/2020/pdf/shukeit20.pdf

上記をそれぞれ金融資産非保有(貯蓄ゼロ世帯)とカウントしています。特に②ですが、「預貯金の合計残高」がゼロの世帯ではなく、「うち運用または将来の備え」がゼロの世帯であることに注意が必要で、記入にあたっての注意を見ればわかる様に「日常的な出し入れ、引き落としに備えている部分は除く」というものです。つまりはれいわ新選組が提示している「貯蓄ゼロ世帯」とは実際の貯蓄ゼロも含みますが、日常的な生活を送る上で貯蓄がある世帯ですら「貯蓄ゼロ世帯」とカウントされます。ということを考えると、貧困を訴えるのにはいささか微妙なデータと言わざるを得ません。

厚労省のデータにおける貯蓄がない世帯

 なお貯蓄有無のデータですが、厚労省2019国民生活基礎調査においては以下の様なデータがあります*1

f:id:nou_yunyun:20211018114602p:plain

全世帯だと13.4%が貯蓄なし世帯となり、母子世帯に至っては31.8%が貯蓄なしとなっています。年齢別のデータがないために表にすることは難しいですが、母子世帯などのデータは示唆に富むものかとおもいます。


10/23追記

f:id:nou_yunyun:20211023144808p:plain

年代別を作ったので置いておきます。れいわ新選組が提示するデータとは全然違いますね。


 とりあえずれいわ新選組の示しているデータは単純に古いと共に数字が悪いところでデータの更新が止まっている点で宜しくない。このデータを振り回している身でありながらもしも政府の恣意的なデータを指摘するとしたらちょっと図々しいと言わざるを得ない。またそのデータの性質上、これを「貯蓄ゼロ」と大々的に言っていいのかも疑問が残ります。なんにせよ、今後このデータを使うのは止めた方が良い。

*1:2020年の調査が休止になり、2019年が最新となります

中国による日本分割予想図がまたぞろ増えてる(2055年日本列島予想図)

nou-yunyun.hatenablog.com

 以前上記の記事を書いたんだけですけど、ツイッターやってたらまたぞろ新しい分割地図が出来てたので記録。

これは「2019年現在」とある様に2019年に造られた画像でしょう。それが2020年になると。

分割予想図も何故か結構様変わりしてます。2019年の方は2019年12月18日のツイートが見つかるものの初出は分からず。このツイート主は皮肉的?に使用している模様なので画像自体はもう少し前からのものでしょう。で、2020年の予想図*1ですが、おそらくは4月8日の以下のツイートが初出。

この際にはツイート主の紀子氏による中国視点?からのマウンティング的な意味での「私的な」予想地図でした。意味不明すぎる予想ですけど。で、この後に少し期間が開き、4月19日のこちらのブログで現在のような使われ方をしており、また4月21日にアノニマスポストが上記ツイートを馬鹿にするような記事を書き(その記事は何故か削除済み)というもので、ツイッターにおいても20日以降に現在の中国脅威論的な意味でのツイートがみられるようになります。ちなみに発端となっている紀子氏の元ツイートは消えていますが、この方は過去にこの様なツイートも。

このアカウント、これらのツイートは削除済みではあるもの現在も運用されて残ってます。2019年版のももしかしたらこのアカウントが作成した可能性もありますが現状は不明。このアカウント自体が正直かなり尖ったアカウント(婉曲)で本気であるとは微妙に考えにくいですね。れいわ支持者である可能性もどれだけあるやらって感じで。いずれにしてもこんな画像持ちだして信じるな、煽るなって感じですが。
 そういえば話は変わって今は2021年ですが。

2020年は過ぎ去りましたね。しかしこれ系の画像は本当に多い。


※ハート出版『静かなる日本侵略 -中国・韓国・北朝鮮の日本支配はここまで進んでいる』の著者 佐々木類(産経新聞論説副委員長)発? 少なくとも吉田康一郎チャンネルにおける動画で確認できる。


ペマ・ギャルポ飛鳥新社『最終目標は天皇の処刑』のカバー


10/22追記

 なんだか新しいデマ付きで画像が来たので追記しておきます。画像だけはこちら。で、問題の文言はこちら。

日本大学の勝股秀通教授が2005年に北京市内の政府系研究機関で見つけた地図

元々この地図は2008年に「チベットを日本に置き換えたら」というたとえ話の為に作られた地図です。それをもとにして同じく2008年に中国外務省から流出したという話に置き換えられて流れ出たデマです。出所が日本大学の勝股秀通教授なんて言葉は今回の楊海英氏の発言以前には管見の限り見当たりません。念のために検索したって出てこない。ちなみに2005年となると勝股秀通氏は読売新聞の記者で専門は防衛問題や安全保障。解説部長、論説委員編集委員のいずれかを、もしくは兼任してはいたのだろうけどこの身分で中国に赴き政府系研究機関で見つけられるのかはよくわかりません。そもそも仮にこの地図が真実だとして政府系研究機関で見つかるってどんな杜撰な管理だよと思わざるをませんが……。いずれにしてもこんなデマ地図を持ってきて、それも新しいデマを付加して語ってる時点で研究者失格ですよ。


 そもそも中国外務省から流出~というデマがこの日本分割系画像の始まりなんですが、それが2008年。2020年時点でも未だに新たな画像は作られるわ、あまつさえ産経新聞論説委員だった人間が類似の画像を使うわ、カバーに使われるわで結構ひどいありさま。自分たちで作りだした捏造で自分たちを恐怖させて憎悪してと、マッチポンプ甚だしい。



■お布施用ページ

note.com

*1:ちなみにバズってるツイートとかだとこれとか。

早稲田大学教授の有馬哲夫が言ってる「東北の水源地を中国人が買った」はデマ臭い

 というツイートがありました。この早稲田大学教授の有馬哲夫氏はここ最近歴史問題などで暴れているという印象ですか、今回は置いといてこの「東北の水源地を中国人が買った」話について。ネット右派によるテンプレ的な文言ではあるものの、それはともかくとしてデマ臭いなと。
 根拠としては林野庁には「外国資本による森林買収に関する調査」が存在します。森林買収=水源地というわけでは必ずしもありませんが、鄙びた温泉地ならば基本的には森林地帯の買収と考えるのが妥当でしょう。で、「平成18~令和2年における森林取得の事例」における東北での外国法人又は外国人と思われる者による森林買収は以下の通りです。


※県、市、件数、haという順です。

宮城、山形、福島の3県で合計102haが売買されていることになります。そのうち山形県大崎市シンガポールによる資産保有目的福島県いわき市アメリカによる太陽光発電事業用地宮城県大崎市アメリカによる太陽光発電目的となっており、現在のところ林野庁が把握している東北の森林買収において中国人、中国系企業が関わっている形跡はありません。林野庁の調査の抜けであったり*1、森林以外の土地にある水源地を買いに来たという可能性までは否定はできませんが、正直なところ有馬教授の話はかなりデマ臭いです。

2012年による調査

 少し遡りますが2012年に「地方自治体による水源林取得等の政策効果に関する検討調査委託事業」というものが行われ、それに対しての評価が平成24年度第4回林野庁入札等監視委員会 審議概要で伺えます。そこでは以下の様なやり取りが記されています。

・この調査の中で外国人による森林の購入など所有権移転の問題も対応するのか。
・調査を行った自治体には参考に聞いているが、外国人の所有の実態把握のためではなく、地方自治体の水源林取得の政策効果について調査するものである。
 
・しかしながら外国人による水源地の取得が進んでいることは大きな問題ではないか。
・そのとおり。
 
・誰が購入したのかは分かるのか。
・別途、調査はしているがリゾート地や単なる資産保有といったケースはあっても、水源地購入を目的としたような事例は聞いていない。一方、自治体としても、この件については非常に強い懸念は有しており、例えば森林所有者が森林を手放し、寄付したいといった場合もあるが、管理が難しいことから自治体では断っているケースもある。

2012年段階では水源地購入を目的とした事例は確認されいません。また森林所有者という文面からも基本的に水源地と呼ばれるものは森林にあるものと考えられますし、外国資本による森林買収に関する調査からも東北地方でのそれは行われていない事が分かります。まあ、とにもかくにも有馬氏の語っている体験談はデマ臭いなと。

そのほかにこの話で参考になりそうなもの

【狙われる日本の水源地】というデマについて - Togetter

原野商法の禍根と現状の問題点の一考察② :不動産コンサルタント 松井謙介 [マイベストプロ青森]

ミネラル豊富な北海道等の湧き水を利用し、実用化できるとして原野を売りつける商法。しかし河川法に基づかない水利権は売買できず、大手飲料メーカーでさえ水源地を購入したとしても水源を利用しての成功例はまずはないのだそうです。しかし、最近の傾向として中国人等による水源地等の用地買いがあるのだそうです。日本のようにミネラル豊富な綺麗な水は外国人にとっては魅力的なのです。中国のものにならないと安心してはおられません。
(中略)
政府の対策は後手後手でいまだに外国人等を相手の原野商法が行われていたとは、驚くばかりです。

 

News Up ”水資源が狙われている問題“を調べてみた | NHKニュース

森林買収の背景には私たち庶民には到底理解できない海外の富裕層ならではのステータス意識と価値観があったのです。
(中略)
「彼らが求める森林は水源として価値のあるところはほとんどなかった。結局、事情を知らない海外の富裕層がブローカーにどうにもならない土地をつかまされたというのが真相だ。今ではブローカーもいなくなり、このあたりでは買収の話はなくなった」

 原野商法辺りは以前から指摘されている事です。不安視は理解できなくもないですが現状のところ水源地を水資源取得のために買われたという実態は確認できていません。そもそも水源地を取得してその水を中国へと輸出するためのコスト、バカ高くなって採算性とれるんですかね。この水源地の話は息が長い説ですが、隣国への不信感を増させるためだけに存在している「流言」としか思えませんね。



■お布施用ページ

note.com

*1:NHK記事にある面積と差異がある為にどこまで精度の高い調査かは不明