電脳塵芥

四方山雑記

消費税上がってエンゲル係数上がった

消費税増税後のエンゲル係数について - 電脳塵芥

 という記事を書いたので、その続報的なものをほんの少しだけ。内容は題名通りの話です。

【データ参照先】
家計調査 家計収支編 二人以上の世帯 詳細結果表 | ファイル | 統計データを探す | 政府統計の総合窓口

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消費増税後の10~12月のエンゲル係数(二人以上の世帯)は以下の通り。

10月:26.4(25.7)
11月:26.3(25.4)
12月:28.4(27.1)
※カッコ内は2018年

となっており、いずれも2018年の値を上回っています。消費増税されたので当然の結果ですが。なお12月の28.4%という値は一番最初にリンクした記事を参照してもらえばわかりますが、2010年以降では最高値のエンゲル係数になっています。2019年の3か月でこれなので2020年も全体的にエンゲル係数が上がるんでしょうね。

沖縄の豚熱(CSF、豚コレラ)で玉木デニー知事が予防接種を渋ったという話について

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 という話があったのでその話をぱぱっと。

 主な参照先は沖縄県HPにある「CSF(豚コレラ)発生について」。ここには「沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議」がリンクされていますので、今後の経過も含めて知りたいなら一番手っ取り早いかと。といいつつ、ニュース記事を漁るとちょっと情報に物足りなさが拭えませんが。閑話休題。さて本題。

◆時系列(2月2日現在)
1月6日 沖縄での豚コレラ確認
1月8日 第 1 回沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議
    畜舎消毒、出荷自粛、物品移動自粛(1月8日時点で講じた措置)
    江藤農水相との会談 ワクチン接種について触れられる
1月10日 第 2 回沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議
    知事のあいさつでワクチンに触れ、農家と相談して検討と発言
1月11日 第 3 回沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議
1月15日 第 4 回沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議
     1 月14日に生産団体からワクチン要望があったと述べる
1月16日 定例記者会見でワクチン接種の策定指示
1月22日 沖縄県CSF防疫対策関係者会議
    知事によるワクチン接種表明
1月24日 沖縄県 農水省へワクチン接種を要望
    農水省 沖縄をワクチン推奨地域への追加指定
1月27日 県庁会見 ワクチン全頭接種について完了期間などを示す
1月31日 県議会経済労働委員会開催 ワクチン接種の方針固める
2月 2 日 第 5 回沖縄県特定家畜伝染病防疫対策本部会議

 アップされている主な会議やニュース記事などによる時系列は多分こんな感じになるのかなと。 1 月10日時点でワクチンの話に触れ、農家と相談して検討という至って常識的な対応であり、これをもって反ワクチンというのは判定が厳しすぎでしょう。勿論、議事録が公開されていませんので会議で反ワクチン言説をしているという暴露でもあれば話は別ですが、その後の冒頭あいさつを見てもその傾向はありません。
 また1 月16日には策定指示、22日には接種表明、24日には農水省へ要望、月末にはワクチン接種は委員会においても方針が決定されています。これに対してもっと早くやれたという意見もできるでしょうが、とはいえ1月6日に確認された豚熱にたいしてその月末にはワクチン接種の方針が委員会で決定されているというのは、通常の行政対応から考えればそこまで問題ない部類ではないかなと。本州での豚熱確認からワクチン接種判断までに費やした月日を考えれば沖縄県の対応がそこまで瑕疵のある判断とは思えません。
 そもそも反ワクチンというレッテルを張るのは現状の情報からですとどこから来たのかあまりにも謎であり批判としては雑以下。安い餌で釣れる有象無象に対する事実軽視のデマに等しいです。扱う言葉がペラッペラッに軽い。

関東大震災周辺時期の新聞記事 読売新聞 1924.9.7「地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体」

関東大震災関連記事リンク - 電脳塵芥

読売新聞 1924.9.7「地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体」の記事から。

※一部旧字体を直し、読みやすくするために一部に句読点を挿入しています。 ※読みやすくするために途中で改行しています。
※判別が難しい文字には後ろに(?)を、判別が無理な文字には「□」で表記しています。もし間違っていたらご指摘お願いします。

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地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体
鮮人……主義者……投毒……放火
苦心して調べた砲兵大尉
 
震災後一年を経ても尚お当時の流言飛語の出所が曖昧になっているが、参謀本部の砲兵大尉石橋鬼千興氏はその当時震災地を駆け巡り任務を□していた関係もあり、其の後の部(?)隊長から休暇を貰って二カ月に亘り私費で調査をやった。その統計が出来あがったので参考材料にと陸軍省に提出した。それによると朝鮮人騒ぎの始まりというのは斯うだ。
 
横浜市中村町の某貿易商が店員の一人より□跡の金庫の破壊(?)が行われているようだから気をつけろと注意をうけたので店員を集めて手配をしていると、横須賀に通ずる街道を逃げかけた人たちが引返してきて、途上略奪に会ったからそっちは危険だと告げたので方向を変えて程ヶ谷方面に□□を始めた。其の時略奪に会った人は言葉の具合で鮮人らしい半纏着(?)の土工であるといった。そうこうしていると市内の略奪の中に鮮人も混じってるようだと噂が出た。北笠地方でも略奪の話は午後九時頃初めて起こった。神奈川の浅間という所に伝わったのは其の夜の十時から十一時頃までの間で、其の時分は横浜で略奪が起こっている位の程度で直接来るというのではなかったが、二日未明になると神奈川ではもう横浜に鮮人の暴動が起こったと伝えられたのだから堪らない
鮮人はやっつけろということになり神奈川、鶴見、出崎の間で四時から六時頃にかけてかの虐殺が起こったが、六□川を隔てている関係で川崎で止まって対岸ではなんともなかった。例の問題だった高津村の警察署長は二日早く神奈川方面に見□旁偵察に行っての帰途、鶴見から川崎方面にかけて鮮人や日本人の虐殺された状況を見て帰る(?)と直ぐ午後二時から三時の間(?)に署員の非常招集をやり、鮮人の暴動が近く高津地方にくるかも知れぬから防備をしなければならぬ、根岸監獄を破った囚人も混じっているとつけ足した。この訓示が巡査の口を通じて農民に知れ、当時□車会社の私設電話が通じていたので二子の事務所からすぐ渋谷の憲兵分隊に防御力を頼んだ関係から、渋谷地方では鮮人襲来説(?)は二日の午後五時半には□がっていた。社会主義者がこれに関係しているように噂された。□端は丸子で某大学生が二日午後二時□種を蒔いた。
川崎で立消えた鮮人問題は其日午後四時頃大森に入ったので、婦女子の避難と防御の準備を始めた。その話を聞いて品川では六時、泉岳寺附近に知れたのは七時頃、麻生方面に知れたのは品川と同じく六時頃だった。これで見ると渋谷が五時半だから麻布のは渋谷□から伝わったものとみられる。□□地方は八時□中七時□布七時という時刻、原町田は午後一時に知られている。それは渋谷から自動車で避難した一家族が蒔いたものだが、其家族は鮮人と間違えられひどい目にあったそうだ。八王子は午後四時という早い頃だったので一時震源地(?)の噂を立てたのだ。
上野廣小路附近の鮮人騒ぎは晩の七時から八時の間に起ったが、これは松阪屋附近の火事が不思議な様な焼け方だったので起こったものらしく、どこから入ったものか□□が□□で、砲兵公舎の放火の噂は五時頃起こった。□の井戸に毒薬を投げ入れたという話は神奈川地方で起こったものだが、□くのでビール瓶をもって井戸端に立ち寄ったのを見た注意深い人が毒物でもと云って注意したのから始まった。略奪ははじめ極(?)めて僅かこそ泥式のものがあったのは認(?)められるが、組織的なものはなかったということだ。

 この調査自体を何処まで信じれば良いかは判断しかねますが、とはいえ時間や流言の広まり方を見ると相当綿密に調査しているように見受けらます。出来るならばその報告書を読みたいレベルで。で、有名な「井戸に毒」はこの調査によれば井戸の近くにビール瓶を持った人物がいて、それを見た人物が結果的には悪い意味で注意深かったから。これが真実かは最早確かめようもないですが、ビール瓶を持った人物が発端で「井戸に毒」が伝言ゲーム的に流布されて最終的に多くの人間が死に、そして現在にも至る。流言や猜疑心は時と場合によっては人を殺させる。

流言のメディア史 (岩波新書)

流言のメディア史 (岩波新書)

流言蜚語 (ちくま学芸文庫)

流言蜚語 (ちくま学芸文庫)

選択的夫婦別姓についての話 推移とか歴史的な経緯とか

www.asahi.com

若い男性から「交際女性から『姓を変えないといけないから結婚できない』と言われた」と相談されたことを紹介したうえで、「夫婦同姓も結婚の障害になっている」と指摘した。この際、ヤジが飛んだという。

 というニュースがあったので夫婦別姓についての話でも。

◆最近の選択的夫婦別姓に対する世論

 選択的夫婦別姓に対する世論の推移ですが、手っ取り早く内閣府から。

2017年 内閣府 家族の法制に関する世論調査

Q10 現在は、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗らなければならないことになっていますが、「現行制度と同じように夫婦が同じ名字(姓)を名乗ることのほか、夫婦が希望する場合には、同じ名字(姓)ではなく、それぞれの婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めた方がよい。」という意見があります。このような意見について、あなたはどのように思いますか。次の中から1つだけお答えください。
 
(29.3) (ア) 婚姻をする以上、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきであり、現在の法律を改める必要はない
(42.5) (イ) 夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望している場合には、夫婦がそれぞれ婚姻前の名字(姓)を名乗ることができるように法律を改めてもかまわない
(24.4) (ウ) 夫婦が婚姻前の名字(姓)を名乗ることを希望していても、夫婦は必ず同じ名字(姓)を名乗るべきだが、婚姻によって名字(姓)を改めた人が婚姻前の名字(姓)を通称としてどこでも使えるように法律を改めることについては、かまわない
(3.8) わからない

 選択的夫婦別姓にあたるものは(イ)であり、その選択者が42.5%と一番割合が多くなっています。(ア)は現行制度、(ウ)は旧姓の通称使用という現行制度+αという内容であり、これらを合わせれ5割を超えているわけであり、まだ選択的夫婦別姓過半数を超えているわけではありませんが、しかし現状でも4割は賛成という結果となっています。
 ちなみに選択的夫婦別姓への賛否の態度は男女では特に変わらず共に42.5%となり、そこに性差はありません。ですが年齢による賛否は大きく分かれます。

f:id:nou_yunyun:20200123005937p:plain ※わかりやすくするために内閣府調査と文言を少し変えています

年齢別調査においては18~19歳は59%と過半数を超え、その後の年代でも50代前半までは賛成が半数附近に推移、その後の年代では目に見えて賛成の割合が減少していき、逆に現行制度のままの割合が増加していきます。結婚をする当事者の事を考えたならばよりその制度を利用するであろう若い世代ほど賛成です。それと、これらの賛成者に限って選択的夫婦別姓制度が導入されれば使用するかという問いに対しては希望するが19.8%、希望しないが47.4%となり、必ずしも賛成者が全員夫婦別姓を希望するわけではありません。

 なお内閣府の選択的夫婦別姓に関する調査は名称にはある程度の揺らぎはあるものの1976年ごろから継続的に調査をしています。今確認可能なのは2012年2006年2001年1996年1994年1990年1987年1976年。1996年以前の質問は質問内容と選択肢が少し違っていたり、1976年の調査は女性のみに聞いている為に完全な連続性を持つデータではありませんが、それらを無視してそのデータ推移を見ていくと以下の様になります。

f:id:nou_yunyun:20200123014637p:plain

※「わからない」などの回答はグラフ上無視しています。

グラフを見ればわかる様に「別姓を認める」は増加傾向ではありますが、1996年が42%以降からは伸び悩み一時30%台へと下がった後の2017年で久々に40%越えという推移となります。なお、1996年から「通称使用」という選択肢が増えてから「別姓を認めない」が大きく減っていますが、しかし旧姓の通称使用可能も「別姓を認めない」の亜種でもある為に依然として全体を見れば別姓を認めない割合が別姓を認めるを上回っている状態です。
 内閣府調査以外の世論調査に関しても短く触れますが、

NHK 夫婦別姓に関する世論調査(2015年)
 夫婦は同じ名字を名乗るべきだ:49.7%
 同じ名字か別の名字か選べるようにするべきだ:45.9%

毎日新聞世論調査(2015年)
 選択的夫婦別姓
 賛成:51%
 反対:36%

ネットで簡単に参照可能な世論調査は以上の2つ。2015年と少し古いですがいずれも賛成が4~5割近辺となっています。これらの傾向は今やっても変わらないでしょうし、むしろ今回のニュースなどを含めた報道や前述した様な別姓反対に対する年齢層の偏り、また現在は政治的議題として定期的に語られている事からも、相当なバックラッシュが起きない限りは今後は別姓を認める割合が増加していく可能性が大かなと。


【1月27日追記】
 朝日新聞世論調査がアップされていたので追記します。

朝日新聞社が実施した全国世論調査(電話)で、選択的夫婦別姓について尋ねると、69%が「賛成」と答え、「反対」24%を大きく上回った。自民支持層でも63%が賛成し、反対は31%だった。
選択的夫婦別姓、賛成69% 50代以下の女性は8割超:朝日新聞デジタル

記事内で2015年の調査は「49%」となっており、NHK及び毎日新聞とほぼほぼ同じ値です。それが2017年には58%、そして今回の2020年調査では賛成69%とかなりの伸びが記録されています。調査方法の変更による変動や、調査日が25、26日と例のヤジ後の調査となりそれへの反動的要素もあるのかもしれませんが、約7割賛成というのはかなりのものです。
 なお朝日新聞の調査は内閣調査とかなりの差異がありますが、朝日新聞調査は賛成・反対の二択、内閣府調査は賛成・反対・通称使用の三択による差異と考えられます。この記事では旧姓の通称使用を夫婦別姓反対と捉えて述べましたが、実際の通称使用選択者は二択であったならば選択的夫婦別姓賛成者がそれなりに多いのかもしれません。というか、データ上ではそう解釈した方が自然でしょう。

【5月29日追記】
(朝日・東大谷口研究室共同調査)賛成、自民支持層でも浸透 夫婦別姓54% 同性婚41%:朝日新聞デジタル

という記事が新しく上がっていました。この調査によると自民支持層でも「夫婦別姓賛成54% 反対21%」です。「中立」というのが何を指すのかが無料記事部分だけですとよくわからないですし、自民党支持層(賛成54%)と回答者全体(賛成57%)となり数字の乖離があまりにも少ないのがちょっと不思議ではありますが、少なくとも最早世の流れとしては選択的夫婦別姓は民意としては肯定すべき内容と考えるのが良いのかなと。


 それと若干脇道ですが、結婚した男女の名字に対する意識の変化を見るうえで参考になるものとしてNHKによる第10回「日本人の意識」調査があります。その名の通り「日本人の意識」を1973年から5年おきに同じ質問で行われている調査です。その中に「男女のあり方(名字)」というものがあり、その推移は以下の通り。

f:id:nou_yunyun:20200126001305p:plain ※その他などは省略

上記調査は選択的夫婦別姓の是非を問うているわけではないので、実質的に夫婦同姓か夫婦別姓かの話になっています。なので別姓の割合は選択的夫婦別姓制度を調べた割合よりも別姓の割合が少なくはなっていますが、とはいえ「別姓でよい」が5%以下から15%近くまで上昇している事、また「当然、夫の性に」の割合低下など確実に日本人の「姓」への意識の変化が伺えます。

◆簡単な歴史的経緯について

 さらっと(?)歴史的な経緯を記述しておきます。

【戦前】
・1876(明治 9)年の太政官指令
 妻は夫の「家」を相続する場合は「夫家ノ氏」を称する。それ以外は「所生ノ氏ヲ用ユヘキ事」とされ、これが元々は夫婦別姓だったとの一つの論拠となっているものです。なお余談ではありますが、これに関する事柄を扱った記事が1964年の朝日新聞夕刊にあったりして、そこでは以下の様に記述されています。

研究ノート 妻の不改姓
「婦女、人ニ嫁スルモ、仍ホ所生ノ氏ヲ用ユベキコト」-これは明治9年内務省に石川県の伺いに応じて発した指令である。その後、明治二十四年まで八回ほど、同様の指令がその他の諸府県に対しても出されている。いずれも妻の性は夫家の姓に改むべきか、もしくは生家の姓(所生ノ氏)のままにしておくべきか、との問い合わせに対する回答であった。戸籍上の記載においても、妻の名前には生家の姓を冠すべきことが指令されていた。
朝日新聞1964.11.12 夕刊

この記事自体は「研究ノート」という題名やその時期から別姓論議という話とは別ベクトルから生まれたものだとは思います。ただ記事の意味合い自体はここでは置いといて、兎にも角にも元々の話で言えば日本は夫婦別姓が普通だったという事です。ただ、法務省の「我が国における氏の制度の変遷」を見ると、 妻が夫の姓を名乗るのが慣習化されていたという指摘も存在します。

・1898(明治 31)年に明治民法が施行
 明治民法によって「家」制度と共に夫婦同姓が始まり、「家」に「氏」は一つ、家族は全員戸主と同じ氏(姓)を名乗るようになる

 上記二つが選択的夫婦別姓の歴史が語られる際の主な二つです。夫婦同姓という「伝統」は明治期中~後期あたりで生まれた制度であって、「明治」から生まれた「伝統」は多くありますが夫婦同姓もその一つです。なお戦前にも平塚らいてうは結婚による改姓に反対して事実婚をしたという事も有る様に、当時から全ての女性がこの制度に従っていたわけでもないでしょうし、想像力を逞しくすれば夫婦同姓システムへと切り替わる際に、以前は別姓でよかったのに強制的に同姓になるというシステムへの変更への違和感を持つ人間がそれなりに存在していたとしてもおかしくはありません。

【50年代】

1955年の法制審議会民法部会第 2 回で、「夫婦異姓」を認める案が議論されている。一方で「婚姻によって夫婦いずれか一方の氏に変更するという現行制度に不便を感じる人々が次第に多くなり民法でも夫婦の異姓を認める 社会的必要があるのでは」という意見があり、他方で「そこまでの社会的必要があるか疑わしい、現行どおりでよい」という意見があり、最終決定は留保となっている(久武 2001b:41)。
笹川 あゆみ

 引用の参照元の久武の文自体は読んでいないのでどういった背景のもとに発案されたのかが分かりませんし、その後に続いている印象も薄いですので今と連続した繋がりある運動なのかは不明ですが、とりあえず50年代から既に意見自体はありました。

【70年代】
 朝日新聞データベースでは70年代にはすでに夫婦別姓運動をする女性団体が出現しています*1。この時の記事は今の様な切実さは薄く、そういう運動の紹介という枠を超えるものではありませんでしたが、これらの運動が後に続いていったと考えて不思議ではないかと。
 なお国会議事録で「夫婦別姓」で検索すると昭和50年が最も古いものとなり、この70年代中盤あたりから政治的議題にあがる話題であることが確認できます。なお、当時のやり取りでは、

佐々木静子
働く婦人がこれだけふえていて、婦人が結婚している、しておらない、あるいはすると否とにかかわらず社会的に活動している機会が大変ふえているわけでございますから、結婚しても名字はそのままで婚姻届が、本人の希望によっては受理できる方法ということも、(中略)やはり夫婦同氏の規定というものも、これは一遍にいかなくても、おのおのの人格を尊重するということになってくれば自然緩和する方向に向かっていかなければならないんじゃないかというふう(中略)
香川保一
御指摘の夫婦別姓の問題も、(中略)現在のわが国の国民感情あるいは国民意識として、すべて夫婦別氏というふうなことがそのまま受けられるかどうかというふうな実態の問題。(中略)直ちにいま夫婦別姓を採用するというのは、ちょっと時期尚早ではなかろうかというふうなのが大方の御感触のようでございます。
第76回国会 参議院 法務委員会 第3号 昭和50年11月18日

時期尚早から約45年経ちました。

【80年代】
 この時期から夫婦別姓運動が社会的な動きになってきています。当時の記事では井上治代『女の「姓(ナマエ)」を返して』が火付け役になった記述されており、その他にも『夫婦別姓時代』、『楽しくやろう 夫婦別姓』などなど夫婦別姓を扱った書籍が出版されており、また新聞記事においてもその件数が増加していきます。
 それと1989年には首相の私的諮問機関である婦人問題有識者会議にはじめて夫婦別姓が取り上げられています(石山玲子)。

【90年代】
・1991年 法制審議会 婚姻及び離婚制度の見直しのための検討開始
・1996年 法制審議会民法部会 民法の一部を改正する民法改正要綱案を決定

民法 750条の改正案は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫若しくは妻の氏を称し、又は各自の婚姻前の氏を称するものとする(下線筆者)」という文言となった(久武 2001b:43)。同年 2 月、選択的夫婦別姓制導入と非嫡出子の相続分差別撤廃を主な内容とする民法 改正要綱案が法務大臣に答申された。しかし、政府・与党自民党内での反対が強く、6 月に国会提出は見送られた。
笹川 あゆみ

という様に1996年の時点で選択的夫婦別姓に対する民法改正要綱案が決定されています。この時点で与党自民党がその気であれば選択的夫婦別姓制度は通っていた可能性が高いでしょう。ちなみ97年に書かれた松本タミの書いた 調査には「選択的夫婦別姓制の導入がかなり確かなものになってきた昨今」という文章が書かれており、当時は割と改正が現実に起こり得るものとして認識していた方々がそれなりにいたのかなと。
 なお当然ながら夫婦別姓への反対も存在しており、例えば97年に長谷川 三千子 や高橋 史朗などによる『ちょっとまって!夫婦別姓―家族が「元気の素」になる』( 編集:日本の教育を考える母親の会 , 夫婦別姓に反対する女性フォーラム )という本が出版されています。これらの著者は自民党保守派との親和性はかなり高いでしょうし、恐らくほぼそのままの意見を持っていても不思議ではないと考えます。

【00年代】
・2001年11月 法務省の「選択的夫婦別姓」案が再提出、再度見送り
・2002年4月 原則は同姓で別姓は例外とする「例外的夫婦別姓」案が新たに法務省により提示、意見集約ならず
・2002年7月 反対派の意向を考慮した案が、一部の自民党の国会議員によって「家裁許可制夫婦別姓」案提示。原則同姓で別姓を望む際には家裁の許可を必要。見送り。

 「例外的夫婦別姓」にしても「家裁許可制夫婦別姓」にしても自民党内部の推進派が反対派の納得を得る為に生み出した案です。特に「家裁許可制夫婦別姓」にはその色が濃く表れており、要件の通り家裁の許可が必要なのですがその要件として、

「職業生活上の事情」と「祖先の祭祀の主宰」が挙げられている。「今の姓が好きだから」とか「改正によって自分らしさが失われるのがイヤだ」といった抽象的な理由は認められないのだという。
伊藤哲夫 〈『明日への選択』平成14年8月号〉

があげられています。反対派の賛成を得るためとはいえ、これでは選択的夫婦別姓制度を欲する方々が欲する別姓制度ではなかったでしょうし、また逆に上記の『明日への選択』の後半では否定的な意見が述べられており、保守派はこの案ですら反対しています。神道政治連盟もこの案に反対だった様です。

【10年代】
・2011年に民法750条を憲法違反と訴え、最終的に2015年の最高裁判決で訴え却下。なお、ニュー選択的夫婦別姓訴訟がある様に別の論点からの訴えが進行中です。

・2010年「[夫婦別姓問題] 夫婦別姓に反対する国民大会 (概要・運動方針)
民主党政権が別姓に対する改正案を出そうとした動きに反応した日本会議の運動の一環です。当時の石原都知事や上田埼玉県知事、森田千葉県知事などの自治体首長や自民党議員などが参加しているものです。なお、この中の運動方針の中で「一、政府に対して旧姓を通称として使用するための法的整備を働きかける。」というものがり、現政権の通称使用というのはここら辺の下支えもあるのかなと。

・2010 自民党政策集 J-ファイル 2010

270 民主党夫婦別姓法案に反対自民党は働く女性を応援
 夫婦別姓を選択すれば、必ず子どもは両親のどちらかと違う「親子別姓」となります。わが党は、民主党夫婦別姓制度導入法案に反対し、日本の家族の絆を守ります。また、女性の社会進出については、旧姓の使用範囲を拡大する法整備などで支援します

 上記は選挙の際の公約集ですが、他の資料を見ると2010年の自民党的には民主党夫婦別姓案は「暴走」との認識だったようです。
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なおこれは余談ですが、この選挙時に使われたであろうチラシでは相手の鳩山氏に対して「宇宙人」という言葉を使ったり端々の文言がまとめサイト的であったりと甚だ公党のチラシとしては品がなく、怪文書に近い内容です。今でも自民党HPにあります

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 閑話休題
 言わずもがなですが現在の自民党夫婦別姓制度は反対の方向性です。反面、野党は「「選択的夫婦別氏法案」を5野党1会派で衆院に提出」という様に賛成の立場ですし、自民党が決意さえすればもう通るという状態でしょう。その決意がもう20年以上されてないし、される気すらないわけですが。なので通称使用という別の手法で夫婦別姓を極力避けるという手を今後も推進するという方向性かなと。

◆行政における制度への対応など

法務省
 「法務省:選択的夫婦別氏制度(いわゆる選択的夫婦別姓制度)について」で制度が説明されています。審議会など歴史的経緯やQ&Aなどもありますし、どのような制度なのかを知るのには一番いいのかなと。

法務省としては,選択的夫婦別氏制度の導入は,婚姻制度や家族の在り方と関係する重要な問題ですので,国民の理解のもとに進められるべきものと考えています。

とある様に法務省は推進の方針です。

内閣府
第4次男女共同参画基本計画(平成27年12月25日決定)」「>第9分野 男女共同参画の視点に立った各種制度等の整備
 現在の安倍政権は夫婦別姓ではなく通称使用という方向性へと向かっていますが、安倍政権下での男女共同参画基本計画においても選択的夫婦別氏制度の導入について検討を進めるとあります。進めた(進めたくない)結果が通称使用なのかもしれませんが。内閣府男女共同参画についてのページがあるので夫婦別姓制度に対する反応は多くなりがちです。
 行政の話で大きなものは法務省内閣府の二つかなと。

安倍晋三首相の認識

 最後に現在の首相であり、歯止め役の自民党総裁でもある安倍晋三の選択的夫婦別姓に対する認識でも。

・2019年6月30日 ※選挙期間中

安倍首相は、選択的夫婦別姓の是非については答えず「いわば夫婦別姓の問題ではなくて、しっかりと経済を成長させ、みんなが活躍できる社会を作っていくことではないか」と述べた。(中略)すると安倍首相は「いわば経済成長とは関わりがないというふうに考えています」と、またも明言を避けた。
安倍首相 夫婦別姓への見解に批判殺到「もはや支離滅裂」 | 女性自身

・2019年7月3日 ※選挙期間中

「選択的夫婦別姓についての考え方」を安倍総理に尋ねる。
安倍総理:あのー、まず冒頭ですね、星さんが、働きやすい、女性が働きやすい、ということを言われましたね。で、あの、この、おー、5年間でですね、280万人の女性が働き始めました。25歳以上の、ですね、全ての世代で、え、就業率、は、ですね、アメリカを超えています。そして、えー、いわば、役員、だ、あ、あのー、大企業の役員の、ボードメンバーのですね、これは政権とる前の倍になっている、ということは申し上げておきたい、と、えー、思います。それから賃金格差もですね、今までで一番少なくなっている。えー、そして、賃金の上昇率も一番高くなっている、ということは申し上げておきたいと思います。ま、その上で、えー、今のグラフ、うー、においてもですね、意見が、えー、もちろん賛成の方が多いのですが、分かれているという状況で、え、まさに、えー、基本に係ること、でありますから、あのー、慎重に議論していきたいと思っております。
TBS『news23』党首討論信号無視話法分析で露呈。安倍政権の「選択的夫婦別姓」へのスタンス « ハーバー・ビジネス・オンライン « ページ 2

・2019年10月9日 ※国会

安倍晋三:夫婦の別氏の問題については、家族の在り方に深く関わる事柄であり、国民の大方の理解を得て行うべきものと考えていますが、平成二十九年の世論調査の結果でも国民の意見が大きく分かれている状況です。引き続き、国民各層の様々な意見を幅広く聞きながら、慎重に対応を検討してまいります。
第200回国会 参議院 本会議 第3号 令和元年10月9日

 選挙期間中のやり取りは意味不明ですが、とりあえず選挙期間中にしても国会にしても賛意の姿勢は極力避けようよしています。国会では上記の様な文言がもはや定型句化してそれ以上の事はほぼほぼ言いません。それと最後に有名なのを。

・2010年 右派系雑誌

安倍首相は野党時代に右派雑誌の対談で「夫婦別姓は家族の解体を意味します」と発言。さらに夫婦別姓は「家族の解体が最終目標」、「左翼的かつ共産主義のドグマ(教義)」(『WiLL』2010年7月号)などと敵視する異常な持論を展開していました。
選択的夫婦別姓を敵視/これが安倍首相の本音

 図書館で現物を確認したかったのですが私の地元には無かったので引用記事で。2010年と言えば民主党政権ですし、その頃には上述したような怪文書的な民主党批判が成されていた時期です。その際の語り口であったり、日本会議などでの右派での夫婦別姓反対を鑑みればこういう発言をしていても不思議ではないです。どこまで本気かは分かりませんが、本気でないにしても甚だ意味不明です。


 現在、安倍政権下では夫婦別姓はしたくないであろうことは想像に難くありません。その代替物として旧姓の通称使用という別手段の推進で夫婦別姓に対抗しています。しかし通称使用が加速すれば加速するほど、それは実質的に夫婦別姓へと近づくであるという不思議な代替案であるなと私などは思ったりしますが。コスト面から考えても、姓を変えないという選択肢の選択的夫婦別姓と姓を変えるけど旧姓も使用や併用可能な通称使用では、後者の方がフォーマット作成や対応などがかかる気がして甚だ良い対応とは思えません。
 それと選択的夫婦別姓で国も家族も壊るとは到底考えられません。ただ各々の選択の幅が一つ増えて少しだけ変容し、その変容によって生じた隙間で楽になる人が増える方が大きいと考えます。壊れるのはただかつて国が決めたからというだけでただ形骸化した括弧付きの「伝統」。特に壊さぬ様にとありがたるような代物ではないかと。
 大体、過去を振り返るならば夫婦同姓制度によって国と家族が壊れたとも言えるわけで、ならもっかい壊したって良いはずかなと。私たちは「姓」によって家族の絆とやらを享受しているわけでもないのだろうし。


【参考文献】
石山 玲子『選択的夫婦別姓をめぐる新聞報道の分析 : 賛否理由におけるニュースフレームを視野に入れて』 2009
松本 タミ『民法改正・夫婦別姓に関する意識動向 : 地域・地方の視点で』 2012 北原 零未『夫婦別姓は何故「嫌われる」のか?』 2017
笹川 あゆみ『選択的夫婦別姓制度は何故実現しないのか : 「女性活躍推進」の陰で』 2019

*1:記事を記録し忘れたので引用とかはしていません。なので少しふわっとしてますがご勘弁を

アイヌ新法へのパブリックコメントのコメントは何処から来たの?

www.hokkaido-np.co.jp

 という記事がありました。ログインしないと中身は見れませんが、題名の「パブコメ98%公表せず アイヌ新法方針案 大半が差別表現」がすべてを表しています。そして結果が公示されているHPはこちら。

パブリックコメント:意見募集中案件詳細|電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

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提出意見数は6,305件。パブリックコメントは必ずしも全てが公表さるわけではありませんが、このうちの98%非公表は流石に度を越していると考えますし、そうせざる得なかったというのは「大半が差別表現」だったという事でしょう。
 ちなみに公表された意見についてはリンク先のページから参照可能ですが、一応リンクをば。なお、公表されている中にはアイヌ差別の際に使用される常套句的なものがあったりもして、「意見に対する考え方」でそれらへの回答をしていますが現在のアイヌ差別の一旦が垣間見えてくる意見がいくらか散見されます。

【基本方針全般に対する意見】
アイヌ民族先住民族であることを科学的根拠に基づいて明示すべき。又は、「先住民族」という言葉を削除すべき。
・具体的な「アイヌの人々」の定義を本方針案に記載すべき。
・利権化の危険を排除すべき。
・この政策を全国に展開するのは無理がある。全国的に多大の労力と税金が投入されることに反対したい。

【基本方針の各項目に対する意見】
・日本には先住民族はいない。国連の言う先住民族アイヌ系日本人は全く別物と考える。
アイヌは1万5千年頃の前より日本人の先祖である縄文人よりはるか後の13世紀頃に北海道に来た民族であり、先住民ではないことが近年考古学やDNA鑑定で明らかになっているにもかかわらず、改めて特定の保護権利を付与するのは基本的に問題である。従って、これを削除し、13世紀ごろに「北海道に定着しだした人々」とすべき ・北海道に古くから住んでいたという定義であるならウィルタ民族や和人もそうである。一部の民族を優遇するあまり、他の民族が犠牲にならないようアイヌ民族以外の日本人民族への配慮すべき。
・「差別され貧窮を余儀なくされた」は、主観的な表現であり歴史的事実とは言えない。

などなど。

 ピックアップしたのは主に差別と親和性の高い意見です。念のために言っておきますがこれらは公表された意見のごく一部であり、日本の加害性に関する意見なども出ていますし、アイヌに対するヘイトスピーチへの対処を求める意見などの反差別的な意見も当然ながら存在します。
 とはいえ。
 公表されていなかった意見が6000件以上はある事、そしてそれらが公表されなかった理由は記事を信じれば「差別表現」が理由という。6000件の差別表現、これは個々人がパブリックコメントに気付き投稿しているというよりも、どこかでこのパブリックコメントへの投稿を促している事は明白です。ちなみにそういった動きは韓国への輸出規制の時にも似た様な事がありました。「 韓国への優遇措置適用除外のたくさんのパブコメは何処から来たの? - Togetter」で簡易的にまとめましたが、多分こういう事が今回も行われていると考えるのが妥当です。じゃ、今回のはどこから来たんでしょ、と。

パブリックコメントへの促し源

ツイッター
・上念司

吉田康一郎

・重松保之

・Chieko Nagayama

・木村光

 他にもいくつか拡散されているのはありますが、大きく拡散されているのは以上の様なアカウントであって、特に上二人は界隈では有名です。それと上記は拡散された主なツイートですが、ツイッターパブコメURLを検索するとかなりの量が出てきます。あまりお勧めはしませんが、どのようなやり取りをされているかを知りたい人はどうぞ。なお、その際に「虎ノ門ニュース」のハッシュタグをつけている人が見受けられ、それらの番組視聴者層へパブコメを促していることがうかがえます。

【ネット番組】
【DHC】2019/8/2(金) 上念司×大高未貴×居島一平【虎ノ門ニュース】 | DHCテレビ
アイヌ文化継承へ政府が基本方針 新交付金手続き記載

 上記にも書きましたが虎ノ門ニュースはパブコメ投稿者と重なる視聴者が多いと考えて良いでしょう。また虎ノ門には小野路まさるというアイヌに関する話でこれまた有名な人間が出演したりもありますし、ここもまた拡散元となった一つと捉えても良いのではないかと。なお小野寺まさるですが、パブコメに対するツイートはしていない様でした。
 ちなみにパブコメではないですが、youtubeで「アイヌ」を検索すると以下のようなものが上に決ます。一番上に来るのが「チャンネル桜北海道」。

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勿論こういったものだけが引っ掛かるわけではないですが、とはいえこれに類する動画は他にも存在します。これらもコメントを出すようになった下地と言えるでしょう。

【ブログなど】
上念 司 - アイヌ新法に関するパブリックコメントに以下のような意見を提出しておきました。ご参考まで。... | Facebook

アイヌ民族についてパブコメ:すたーとのブロマガ - ブロマガ

▶8/13まで【パブコメ】アイヌ施策の総合的かつ効果的な推進を図るための基本的な方針案に関する意見募集について - engram 記憶の痕跡

https://dajya-ranger.com/patriot/pubcomme-for-ainu-policy/#outline__4

【アイヌ問題】アイヌ政策に関するパブリックコメントに意見を!(意見サンプル公開): 大師小100期生集まれ!

 などなど。探せば他にもあるかもしれませんが、簡単に出て来るのはここら辺かなと。上念司のフェイスブックを見ればわかる様にパブリックコメントの最初の方に来ているものと同内容のものが書かれています。これをコピペして送った人は多くいると考えられます。なおパブコメの公表では採用されていない意見もこれらのブログを見ると何であったのかが垣間見えます。

アイヌを認定する機関、メンバー(通名ではなく実名)、国籍を公表すべき
アイヌに関連する団体その他に在日朝鮮・韓国人が関わっているのはなぜか
アイヌ認定された人間だけに特権を与えることはそれ以外の日本人に対する差別となり、仮にアイヌが差別されているとしたら差別の再生産となるのではないか
アイヌ協会には北朝鮮主体思想チュチェ思想)の信奉者が多く入り込んでおり、政治的プロパガンダをしているようだが、そのような団体を血税によって援助するのは適切ではなく、アイヌ政策の推進自体に反対する

というような感じの。酷さは言わずもがなであり、これらが公表されるわけありません。ただ中にはこれ以上の感情的や陰謀論的な意見を言っている人間がいても不思議ではないでしょう。

【新聞について】
政府がアイヌ文化継承へ基本方針とりまとめ 新交付金手続き記載 - 産経ニュース

文化継承など方針案決定 アイヌ政策推進本部「民族誇り持てる社会を」 - 毎日新聞

 新聞に関してはパブリックコメントを募集する程度の記事であり、流石に煽ったりはしていません。とはいえ、ここら辺の情報が発火点になってしまったという事はあるでしょうが……。



 以上となりますが、基本は新聞の情報 ⇒ 上念司などのネット右派界隈のコメントを境にという流れだとみられます。ただしそれだけがキッカケではなく行動には知識の下地が必要というのを考えれば、虎ノ門ニュースやチャンネル桜などのネット媒体や個人の活動の結果としてその下地はすでに出来上がっていると考えられます。パブコメを複数送った人間がいるとしても、こういった意見を送る人間が4桁はいる可能性があります。
 上念司などは現政権支持者でありますし、虎ノ門ニュースなどもそう。ポジティブに考えるならばそういった支持者からも反対される施策を行う安倍政権、的な事を考えることも可能ですが、安倍晋三個人がアイヌ施策に対して前のめりという姿勢は一切見えず*1、それは流石に政権をよく考えすぎでしょう。ここで考えるべきならどういった層に現政権が支持されているのか、かなと。

アイヌ学入門 (講談社現代新書)

アイヌ学入門 (講談社現代新書)

アイヌ近現代史読本 増補改訂版

アイヌ近現代史読本 増補改訂版

*1:国会議事録検索で発話者「安倍晋三」キーワード「アイヌ」で調べるとヒット数は3件。アイヌに関する会議には出ていますが以前の政権からの連続性の上での行動であることは否めません。

10代の身長が低下しているという話について

https://comemo.nikkei.com/n/n41f7e39b07fdcomemo.nikkei.com

 という話を見たんで、へーって思った次第。へーへーへーって、特に疑いもなく。なんで調べてみました。なおリンク先はの内容はとりあえず下記引用部分に注目しとけばとりあえずいいかなと。

その身長の伸びが近年止まってしまったどころか、逆に低身長化の傾向にあるという事実をご存じでしょうか?
(中略)
20-40代の男性の平均身長は、ほぼ170㎝を超えています。50代でも2017年にはじめて170㎝を突破しました。ですが、18-19歳男子の身長が直近2年連続低下し、170㎝に達しないという低身長化が見られます

 リンク先はこれをグラフにしており、その参照先データは「国民健康・栄養調査」です。で、引用部分の話についていえば「2017年国民健康・栄養調査(e-stat)」の身長のデータ。直接的な該当部分はここです。ちなみに現在のところ2018年分は概要は出ていますが、詳細は出ておらず身長のデータを参照するのは無理な様です。

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2017年 国民健康栄養調査より

となっており、確かにデータ上、18-19歳男子は平均して170を割っています。さらに2016年データでの身長は、

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2016年 国民健康栄養調査より

となり、確かにこのデータ上では減少傾向である事がうかがえます。そしてなんとさらに2015年データでは、

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2015年 国民健康栄養調査より

という様に2015年からも低下傾向となります。データだけ見ると2015年に平均身長174.9cmの19歳男子が2017年では170.7となんと4.2cmも縮んでいることが分かります。

おかしくない?

たった3年間の間に同じ年齢の平均身長が4cmも違うのは正直異常事態の類といってもいい。これが本当ならば相当の何かがあったのか、もしくは癖のあるデータであると考えた方が妥当です。
 さて、では18-19歳に限らなかった場合にはどうかというと、「国民健康栄養調査」の2010~2017年の16~25歳男子での平均身長を見てみます。

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先ほどの2015年の19歳の値が突出していることが一目瞭然ですが、それと共に調査年ごとにかなりのばらつきがある事が判ります。平均身長が毎年1cm程度ブレるというのは中々考えづらいことかと考えます。

 このブレの要因ですが、調査人数が少ないことが原因かなと。上の方のデータで張り付けた国民健康調査ですが、「年齢」と「身長」の間に謎の数字があります。それは調査人数となります。以下の様に。

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これは2015年データですが、例の突出した19歳の平均身長は19人からとった平均身長にしかすぎません。このサンプル数が少ないであろうとことは想像に難くありません。
 そもそもこの「国民健康栄養調査」ですが、主な目的はその名の通り「健康と栄養」の調査であって、身長はその副次的な調査と考えます。その証左であるかのように「平成30年国民健康・栄養調査結果の概要」を読みますと、身長そのものの話はされていません。生活習慣、糖尿病、栄養・食生活、運動etc、という様な内容。このデータをもとにそれらの状態を見るのは良いとは思いますが、身長はあくまでも目安、これをもって10代の身長の参考にするにはあまりにも使用するデータが誤っているかなと。

 じゃあ、実際10代の身長はどうなんだという話になりますが、それは「学校保健統計調査(e-stat)」を参照するのが良いかなと。で、手っ取り早くデータです。ただし学校での調査のために18,19歳のデータはありません。なので中学校(12~14歳)、高校(15~17歳)の男性のデータ比較となります。

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表を見ればわかる通り中学校はほぼほぼ変わらずの推移、高校の方は2~3mm程度の減少傾向ではあるようです。ただ17歳の時点で170越えはしていますし、18、19歳にも少しは身長が伸びることを考えれば日本の10代男性の平均身長はまだ170は割ってはいませんし、この推移であっても170を割るのは相当後でしょう。
 ちなみに女性(中学校、高校)の身長推移は、

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となり、女性の方もやや減少傾向といって良いかなと。

 一番最初にあげた記事は少々データ元がまずい気がしますが、とはいえ身長が減少傾向である事はほぼほぼ確かかなと。この原因を探るなら参照記事にあるような低体重児もあるでしょうし、日ごろの栄養状態とかもあるでしょう。栄養状態を調べるなら家庭ごとの所得による子どもの身長などなど、多数の要因を探せば探せるとは思います。さすがにそこまで色々と調べて……、というのは私にはできませんが。
 とりあえず結論としては10代の身長、ちょっとだけ低下しつつあるというのはほんと。


2005年にあったジェンダーバッシングについて

政府関係や国会で使われている「行き過ぎた個人主義」について - 電脳塵芥

 っていう記事の中でジェンダーフリー教育バッシングがあったと書きましたが、ちょっとそれについてでも。

 2000年代初頭に「過激な性教育」というものが話題になり、これはメディア等でも扱う一種の社会問題的なものとして扱われたと記憶しています。後に問題を振り返る中でこのバッシングによって日本の性教育は遅れたままになったと振り返っている方も見かけましたし、後々への影響は大きかったと考えます*1
 なおジェンダーフリーバッシングというか、それに類するバッシング自体はそれ以前から存在しています。たとえば1996年民法改正要綱案の選択的夫婦別姓制度*2。これに対して「家族の一体感を壊す」ものとして反発が起こっています。選択的夫婦別姓制度に関しては現在においても同様の理由での反発者がいますが、この論法は20年以上前から同じような理屈で反発が存在しているわけです。

 閑話休題さて本題。
 2005年の国会にて「ラブ&ボディBOOK」という教材を発端として性教育ジェンダーフリー教育に対してにわかにこの話題が盛り上がり、衆議院総選挙もあってから自民党では「過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」というものが立ち上がっていきます。今の自民党HPにはもう存在しない*3ですが、たとえはこういう特設ページがあったくらいにその活動に熱心でした。

過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト
アーカイブ

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といった文句と共に構成されています。尚、リンク先では性教育の実例が少しだけ紹介されているのでご興味があれば。基本的には当時の民主党との比較であり、やはり選挙を意識したものです。ちなみにこのプロジェクトチームの座長が

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安倍晋三です。若い。この当時の安倍晋三座長の写真の横に「不適切事例を郵送・FAXでお寄せ下さい」とある様に当時に不適切事例の密告制度的なものを行い、で、それが報告されたのが「◆過激な性教育・ジェンダーフリー教育の調査結果◆アーカイブ」です。なお、そもそも「過激な性教育」が行われているという文句がなされているページにおいて事例を集めるというのは、調査としては甚だ誘導的であり調査段階でバイアスがかかっています。
 このページには合計3500件ほどの報告が寄せられ、ページ内にも数々の例が挙げられています。中には人によってはおかしいと思うであろう教育というか状況もあれば、「コンドームの付け方を習った」程度のものまであります。「射精についての教科書の説明に対してオナニーを学校で教えるのか」、「男女混合の組体操で男の上に女が乗ったり云々」など、正直いちゃもんと思えるレベルまで。寄せられた中には過去の性教育の嫌な思い出も交じっていたりしますし、これを教育に反映させると性教育が後退するなというのは素人の私でも分かります。あと読んでて以下のようなコメントがあったのですが、

○ 山谷議員が国会で取り上げた「ラブ&ボディBOOK」の製作者の一人です。ただ、この本を読んで信じられないことです。しかし、帰国子女の私はこれを小学校のときに体験させられて、男として本当にいやでした。小学校からこのようなことが無いようにしてください。

ラブ&ボディBOOKの製作者の一人という方が情報を寄せていますが、性教育が嫌だった人間が製作者になるかという疑問や微妙に怪しい日本語であったりして、誰かの騙りによる嘘情報なのではと疑いたくなるものまであります。密告的な制度であると共に数を多く見せるための組織票や一部ネットの悪ノリ的投稿があったと邪推してもそこまでバチはあたらないのではないかなと。たとえば2004年と少し時期はずれますが2ちゃんねるの過去ログには「【政治】"ジェンダーフリー、自虐史観"…「まるで社会党」 自民、民主の左翼的路線を批判」というものがあります。これらで活動していた人間が投稿を自作したかどうかまでは分かりませんが、投稿を促したとしてもおかしくありません。ちなみにこの2ちゃんの話題提供元は産経新聞です。

 それと上記の事例調査には以下の様な批判がなされています。

「バッシングの対象である社会的実践」としてあげる行為と、「バッシングの対象になっている人」との間に、全く関連性が無い場合が、極めて多いのである。
(中略)
つまり私たちは、批判の対象である社会的行為と、特定の個人や組織の間に、事実的関連性が存在するはずだと仮定してその批判を聞くのである。
(中略)
ジェンダージェンダーフリーという言葉の使用者として挙げられた例と「過激な性教育」の例として攻撃された人々の間には、明確な関連性はない。先述した「男女同室着替え」の例で見ても、「学校における男女同室着替えの強要」という社会的行為が批判の対象になっておりGFBはこの社会的実践を「ジェンダーフリー派」教員が行なったことであるかのように、批判の矛先を向けている。しかし、既に新聞記事や日教組の調査などで明らかになっているように、このような「男女同室着替え」は現にあるけれども、教室の都合などによるものであり、ジェンダーフリー教育とは何の関係もない。
江原由美子
※GFB=ジェンダーフリーバッシング

情報収集時点でバイアスがすでにかかっていますが、その情報の利用も稚拙と言われても仕方ありません。これらの情報を実際にどこまで政策などに使用したかまではわかりませんが、「自民党過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム会合」は2005年の「第12回男女共同参画基本計画に関する専門調査会議事録」で資料を出しています。これは性教育限定ではなく男女共同参画*4ですが、以下の様なまとめがなされています。

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2枚目の右側には「■全てにおいて「女性」が誇張されすぎている」とありますが、象徴できな文言かなと。それと脇道ですが、左下に「2020年までに、社会のあらゆる分野において女性の指導的地位が占める割合を30%となるように期待」とありますが、2020年現在の我々からすると見事にその期待は叶わずでしたと思わざる負えません。


 ここで例に挙げたジェンダーフリーバッシングは2005年です。それから15年経つわけで、あと私は現在の性教育事情は良く知らないのですが、現在はどうなんでしょうね。現代性教育研究ジャーナル(2018年6月15日発行)の「わが国の性教育の現状と課題」では、

田代は「過激な性教育バッシングが激化するなかで、性交やコンドーム、避妊などの科学的な知識を扱う性教育が過激な性教育とされ、現在でも文科省性教育を積極的に推進する姿勢は示していない。」と述べ、日本は東アジア諸国の中でも遅れていると指摘している。


わが国の性教育の根本的な原因は、学校教育の中に性教育が位置付けられていないことである。学習指導要領に必ず付されている歯止め規定があり、コンドームの教育は家族を作るという前提での教育であり、子どもたちの知りたいことや必要なことはベールに隠された情報となり、理解されないまま安易な性交を迎え、その結果妊娠や性感染症、暴力的な性に結びついている。

とあまり変わっていないように見受けられますが。そうなると悪い意味でいまだにあまり変わっていると言えない状況なのかな、と。

“性教育のタブー“に踏み込んだ都立中学のモデル授業 15歳までに知りたい性のこと | ハフポスト

こういう動きもありますが、とはいえ国としてはあんまり動いてない感じですしね。


【参考文献】
江原由美子ジェンダー・フリー・バッシングとその影響
若松孝司『ジェンダーフリー・バッシングに関する一考察

ジェンダーフリー・性教育バッシング―ここが知りたい50のQ&A

ジェンダーフリー・性教育バッシング―ここが知りたい50のQ&A

Q&A 男女共同参画/ジェンダーフリー・バッシング

Q&A 男女共同参画/ジェンダーフリー・バッシング

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 明石書店
  • 発売日: 2006/06/05
  • メディア: 単行本

*1:今回は2005年のジェンダーバッシングの一例のみですが、2003年の七生養護学校事件などは有名ですし、東京においてバックラッシュが起こっています。ここでもその筋では有名な自民党の都議が精力的に動いたりしていました。なおバックラッシュ自体は東京に限らず各地で起こっています。参考文献に挙げた江原由美子の論文である程度の概要がうかがえます。

*2:日弁連のHPhttps://www.nichibenren.or.jp/document/civil_liberties/year/1996/1996_2.htmlに当時の声明が確認できます。

*3:http://women.jimin.jp/news/2005/104447.htmlの様に山谷えり子の活動でその残滓が残ってはいます。

*4:脇道ですが「男女平等」ではなく「男女共同参画」という事にも留意してください。「平等」と「共同参画」では意味合いが違います。

政府関係や国会で使われている「行き過ぎた個人主義」について

 香川のゲーム利用時間制限条例で少しだけ「行き過ぎた個人主義」についての話を見たので、その文言についての政府などでの使用のされ方の紹介でも。
 「行き過ぎた個人主義」という文句は主に右派や保守が良く口にする言葉であり、また議員などの公的な立場で発するのも大抵はそういった傾向が強い人物です。体感的にはではありますが自民党議員の方が多い印象です。なおこの「行き過ぎた個人主義」は時折政府関連の資料でもそれが用いられることがあります。例えば、


1)2008年 子育てを支える「家族・地域のきずな」啓発パンフレット

罪・虐待などの毎日のニュースばかりではなく、離婚も増加し、その一方で、子どもの数は減っています。今「家族・地域のきずな」が弛み、社会に「ガタ」がきているのです。何故そうなったのでしょうか。(中略)同時に、心も汚染され、行き過ぎた個人主義・物質万能主義となり、人間関係が希薄になった結果、「家族・地域のきずな」も弛んだのでしょう。

 この発言主は「家族・地域のきずな」フォーラム実行委員会代表であり国立小児病院名誉院長の小林登氏。文面を見ればわかるかもですが、少子化対策の一環「家族・地域のきずなを再生する国民運動」の実施にあたってのパンフレットでの文章です。少子化と「行き過ぎた個人主義」を合わせるのもままみる光景です。

2)2013年 教育振興基本計画

○ 道徳教育については,行き過ぎた個人主義の風潮や社会全体のつながりの薄れ,異なる文化や価値観等を持った人々との交流や各種体験の減少などを,,背景として 規範意識や社会性などの育成には依然として課題が残っており各学校段階における取組の強化が必要である。

 資料の冒頭にありますが、2006年の「教育基本法」に基づいてできた計画です。ちなみに2006年は第一次安倍政権です。道徳と「行き過ぎた個人主義」の話もよく聞く組み合わせ。なお必ずしも安倍政権下でこれらの言葉が使用されたというわけではなく、民主党政権下の2011年の教育振興基本計画の話し合いの中でも同様の文言は使用されていますし、2012年文科省の「少人数学級の推進など計画的な教職員定数の改善について」などでも使用されており、それらの積み重ねもあって第二次安倍政権下の教育振興基本計画でも使用されるに至ったという流れかと考えます。

 政府関連のもので「行き過ぎた個人主義」という文言がそのまま使われているので大きなのは上記2つくらいです。省庁の横断検索を使用するともう少し出たり、各委員会での議員の発言では似たような言葉が使われていたりしますが、政策と親和する使用のされ方は上二つかなと。
 ちなみにですが「行き過ぎた個人主義」そのままの文言ではないですが、似たような使われ方で以下のようなものもあります。

3)2004年 「今後の少子化対策の方向について」(少子化問題調査会中間とりまとめ)

学校教育、家庭教育は、両親・祖先・子孫への思いを大切にする、子供・家族の大切さを実感できる-ものとすることが必要である。また、異性は互いに尊重し合い、身体的・生理的違いを認めあったうえで、人間としての尊厳を認めあうべきであって、行き過ぎたいわゆるジェンダーフリー的教育や制度は改めるべきである

 これは中間とりまとめであり、またその後の資料では使われていない文言ではありますが、これまた当時の自民党界隈で意識されていた言葉です。多分今も。なお当時には「行き過ぎたジェンダーフリー教育」バッシングというものがありまして、これまた安倍晋三がその動きに大きく携わっていたりしています。
 さて、次は国会での発言について。

4)国会での発言 f:id:nou_yunyun:20200112012348p:plain

 という様に今のところ14件引っ掛かります。すべての発言が「行き過ぎた個人主義」への警鐘という内容ではないですが、典型的な発言をいくつか紹介します。

2003年7月10日 参議院内閣委員会 

参考人八木秀次君)
自己決定権という場合には、行き過ぎた個人主義というものを背景としておりますので、やはり結婚も出産も相手があるものでありますし、この行き過ぎた個人主義の中から、特に出産、中絶といったところを、これも女性の個人としての権利だと、こう理解することから、例えば中絶の自由やあるいは先ほどから御指摘のように行き過ぎた性教育がなされるという、そういう事態も出てきておると思います。

 以上は少子化社会対策基本法案の議題において参考人として出てきた八木氏の発言です。氏は界隈では有名な方ですが、第1次安倍内閣でブレーンとして報じられたりした方であり、フェミニズムや選択的夫婦別姓などに強く反対する方でもあります。

2004年4月8日 衆議院憲法調査会

古屋圭司自民党
忘れてならないのは、やはり家族の再生という視点であると思います。やはり、みんなで支え合うという共生の理念を築き上げることが大切だと思います。憲法の二十四条で、個人の尊厳と両性の本質的平等について規定されていますが、これが行き過ぎた個人主義という風潮を生んでいる側面も私は否定できないと思いますので、そこで、やはり憲法にも、家族のきずなの重要性であるとか家族の再生、家族が果たしてきた機能の回復、そういったものをサポートするような規定を加えるという考え方が私は必要ではないかと思います。

 古屋氏もこういった方面で有名な方です。これもその典型的な発露でしょう。
 国会での「行き過ぎた個人主義」の使用者ですが、大半は自民党議員やそれへの同調者のものとなります。2003年の民主党議員によるものが1件ありますが、これは世間の風潮でそういう文言が使われているという質問の過程での発言であり、上記の古屋氏の様な発言とは趣が異なるものです。その反面、自民党議員の発言は大抵において「行き過ぎた個人主義」の問題視をしている発言と捉えても言い過ぎではないかなと。

 またこれは余談ですが、自民党議員西田昌司氏のHPでは1996年07月20日発行の機関紙(?)の原稿が載っていて、そこでも似たような文言で使われています。

しかしその一方子供の教育環境の面では、いじめの問題、家庭の教育力の低下など子供の健全な発達を歪めているのが現実であります。しかも、その原因は「行き過ぎた自由主義個人主義」が蔓延してしまったためで、他人や社会のことを考えない勝手気ままな利己主義者を生み出してしまったからです。
第8号 行き過ぎた自由、失われた伝統と秩序 家庭の回復を!|機関紙showyou|参議院議員 西田昌司

「行き過ぎた個人主義」がいつから使用されるようになったかまでは調べてはいないですが*1少なくとも1996年にはもう使用され始めています。そして事程左様に大抵において「行き過ぎた個人主義」という文言を使いたがるの、自民党系なんですよね。

ジェンダーフリー・性教育バッシング―ここが知りたい50のQ&A

ジェンダーフリー・性教育バッシング―ここが知りたい50のQ&A

*1:「行き過ぎた自由主義」、「行き過ぎた平等主義」、「行き過ぎたジェンダーフリー」など、行き過ぎた○○は結構多いです。なので追うとしたら大変そう。あと使用され始めるのはおそらくですが保守論壇誌上でしょう。