電脳塵芥

四方山雑記

関東大震災周辺時期の新聞記事 読売新聞 1924.9.7「地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体」

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読売新聞 1924.9.7「地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体」の記事から。

※一部旧字体を直し、読みやすくするために一部に句読点を挿入しています。 ※読みやすくするために途中で改行しています。
※判別が難しい文字には後ろに(?)を、判別が無理な文字には「□」で表記しています。もし間違っていたらご指摘お願いします。

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地震当時伝わった怖しい流言飛語の正体
鮮人……主義者……投毒……放火
苦心して調べた砲兵大尉
 
震災後一年を経ても尚お当時の流言飛語の出所が曖昧になっているが、参謀本部の砲兵大尉石橋鬼千興氏はその当時震災地を駆け巡り任務を□していた関係もあり、其の後の部(?)隊長から休暇を貰って二カ月に亘り私費で調査をやった。その統計が出来あがったので参考材料にと陸軍省に提出した。それによると朝鮮人騒ぎの始まりというのは斯うだ。
 
横浜市中村町の某貿易商が店員の一人より□跡の金庫の破壊(?)が行われているようだから気をつけろと注意をうけたので店員を集めて手配をしていると、横須賀に通ずる街道を逃げかけた人たちが引返してきて、途上略奪に会ったからそっちは危険だと告げたので方向を変えて程ヶ谷方面に□□を始めた。其の時略奪に会った人は言葉の具合で鮮人らしい半纏着(?)の土工であるといった。そうこうしていると市内の略奪の中に鮮人も混じってるようだと噂が出た。北笠地方でも略奪の話は午後九時頃初めて起こった。神奈川の浅間という所に伝わったのは其の夜の十時から十一時頃までの間で、其の時分は横浜で略奪が起こっている位の程度で直接来るというのではなかったが、二日未明になると神奈川ではもう横浜に鮮人の暴動が起こったと伝えられたのだから堪らない
鮮人はやっつけろということになり神奈川、鶴見、出崎の間で四時から六時頃にかけてかの虐殺が起こったが、六□川を隔てている関係で川崎で止まって対岸ではなんともなかった。例の問題だった高津村の警察署長は二日早く神奈川方面に見□旁偵察に行っての帰途、鶴見から川崎方面にかけて鮮人や日本人の虐殺された状況を見て帰る(?)と直ぐ午後二時から三時の間(?)に署員の非常招集をやり、鮮人の暴動が近く高津地方にくるかも知れぬから防備をしなければならぬ、根岸監獄を破った囚人も混じっているとつけ足した。この訓示が巡査の口を通じて農民に知れ、当時□車会社の私設電話が通じていたので二子の事務所からすぐ渋谷の憲兵分隊に防御力を頼んだ関係から、渋谷地方では鮮人襲来説(?)は二日の午後五時半には□がっていた。社会主義者がこれに関係しているように噂された。□端は丸子で某大学生が二日午後二時□種を蒔いた。
川崎で立消えた鮮人問題は其日午後四時頃大森に入ったので、婦女子の避難と防御の準備を始めた。その話を聞いて品川では六時、泉岳寺附近に知れたのは七時頃、麻生方面に知れたのは品川と同じく六時頃だった。これで見ると渋谷が五時半だから麻布のは渋谷□から伝わったものとみられる。□□地方は八時□中七時□布七時という時刻、原町田は午後一時に知られている。それは渋谷から自動車で避難した一家族が蒔いたものだが、其家族は鮮人と間違えられひどい目にあったそうだ。八王子は午後四時という早い頃だったので一時震源地(?)の噂を立てたのだ。
上野廣小路附近の鮮人騒ぎは晩の七時から八時の間に起ったが、これは松阪屋附近の火事が不思議な様な焼け方だったので起こったものらしく、どこから入ったものか□□が□□で、砲兵公舎の放火の噂は五時頃起こった。□の井戸に毒薬を投げ入れたという話は神奈川地方で起こったものだが、□くのでビール瓶をもって井戸端に立ち寄ったのを見た注意深い人が毒物でもと云って注意したのから始まった。略奪ははじめ極(?)めて僅かこそ泥式のものがあったのは認(?)められるが、組織的なものはなかったということだ。

 この調査自体を何処まで信じれば良いかは判断しかねますが、とはいえ時間や流言の広まり方を見ると相当綿密に調査しているように見受けらます。出来るならばその報告書を読みたいレベルで。で、有名な「井戸に毒」はこの調査によれば井戸の近くにビール瓶を持った人物がいて、それを見た人物が結果的には悪い意味で注意深かったから。これが真実かは最早確かめようもないですが、ビール瓶を持った人物が発端で「井戸に毒」が伝言ゲーム的に流布されて最終的に多くの人間が死に、そして現在にも至る。流言や猜疑心は時と場合によっては人を殺させる。

流言のメディア史 (岩波新書)

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流言蜚語 (ちくま学芸文庫)

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