電脳塵芥

四方山雑記

霊感商法の被害推移と被害金額とか

 なんて図がありまして。この図の初出は渡邉哲也氏のツイートへの返信。


https://twitter.com/Tek88681399/status/1551460662466908160

安倍政権と消費者契約法改正を絡めた言説流布の過程

 もともとが渡邉氏のツイートの論旨を補強するような形でのツイートになります。ちなみにこの「安倍政権下の消費者契約法改正によって霊感商法が打撃を受けた」系のツイート自体は以下のように7月20日ごろから流布し始めたのものです。

安倍政権と「消費者契約法改正」との関連ツイートは7月中旬ごろから少しずつ増え始め*1、7月20日ごろからは目に見える形で増加していきます。


https://twitter.com/ryoma09012/status/1549610601923588096


https://twitter.com/exstar444/status/1549643839656558592

この流れの中で「消費者契約法改正」と「安倍政権」という論調のツイートの流れを決定的にしたのがおそらくは渡邉哲也氏の7月22日の以下のツイートでしょう。


https://twitter.com/daitojimari/status/1550268913392697344


https://twitter.com/daitojimari/status/1550272410074894337

渡邉氏はこのほかにもツイートしていますが、ここからいつもの面々にもこの「武器」が伝わっていきます。以下のように。


https://twitter.com/YoichiTakahashi/status/1551332807498436608


https://twitter.com/hidetomitanaka/status/1551392605711519744


https://twitter.com/Nathankirinoha/status/1551584194496962562


https://twitter.com/PeachTjapan3/status/1551808045071577090


https://twitter.com/CYXuAxfGlfFzZCT/status/1551882995207786497


https://twitter.com/kikumaco/status/1551905991364468736


https://twitter.com/napori_ankake/status/1552085576106786816


https://twitter.com/satonobuaki/status/1552868898734649344


https://twitter.com/hong2010kong/status/1553522412171702272

おまけで「消費者契約法改正」との単語はないけど、こちらのツイートも同様の趣旨のツイートですね。


https://twitter.com/KadotaRyusho/status/1551755591952961536

さすがに多くなるのでこれ以上は割愛しますが、25日ごろからツイートが加速度的に増えていることがわかります。なお、おそらくこれ関連で一番バズったツイートは下記のもの。


https://twitter.com/Syanagi42/status/1552237562294849536

 ではそもそも消費者契約法改正が今の形に改正された流れについてですが、こちらはShin Hori氏の以下のツイートあたりが参考になると思うのでこの記事では省略しておきます。

ただ少し資料的な意味で補足すると衆議院法制局の「消費者契約法の一部を改正する法律案に対する修正案」で提案された法律の原案修正新旧表を読むと新たに「霊感」という文言が追加されており、より霊感商法に対して対処可能な法案へと「立法府」において可決されたことが理解できます。またこの消費者契約改正法は閣法となり、この法案自体の下地は内閣府における第4次消費者委員会の「消費者契約法専門調査会」の審議において形作られていったものです。この調査会においては当然ながら「霊感商法」という文言が幾度かやり取りされており、問題視されていることが理解でき、それは報告書概要の以下の部分で対応しているものと考えられます。

上記部分では「霊感」という単語ないために閣法作成段階でも「霊感」という項目はなかったということでしょう。ただこれは霊感商法が困惑類型などに該当するから明言しなかっただけと考えられます。それが国会の審議において霊感商法についての項目が新たについてより明確化したということは立法府における議論の重要性が如実に表れた一例でもあり、とても好ましい流れといえます。


消費者契約法改正の流れ】
消費者契約法(平成12年法律第61号)に基づき、施行後の蓄積や社会経済状況の変化を鑑みてあり方を検討するように安倍首相から消費者委員会に対する諮問(2014年)

消費者契約法専門調査会報告書が出される(2017年)*2

196回国会で閣法として消費者契約法改正が提出(2018年)
霊感商法」に関する議論がなされる

野党の議論がきっかけとなり、閣法が修正されて法案に霊感商法に関する項目が追加

2019年6月15日施行


ただ一つ切り分けるべきは消費者契約法改正は安倍政権下で成された改正であっても、その法律が今の形になった流れを考えるならば「安倍政権」が主体となって霊感商法を含む消費者契約法改正をしたということは困難であり、野党の提案によって現在の形へとなったということです。その提案に対して政権側が拒否をせずに自民党も賛成したとは言えますが、これらをもって例えば「安倍晋三統一教会の天敵」というには飛躍が過ぎ、議論とその成果へのフリーライドといえる部分があるでしょう。

霊感商法の被害件数と金額推移

 前置きが長くなりましたが、まず件のグラフで「安倍政権化で(被害件数が)1/10」になったという話ですが、そもそもグラフの1/10云々を示す矢印は何故か2010年の民主党政権を起点にしています。まじめにやれ、ってな話ですが、では実際の件数の推移はというとそれは以下のようになります。

【2012年以降の被害件数推移】
2013年 185件
2014年 239件
2015年 174件
2016年 159件
2017年 188件
2018年 61件
2019年 79件 ※消費者センターの集計含まず
2020年 214件 ※消費者センターの集計含まず
出典:全国霊感商法対策弁護士連絡会

まず起点をどこに置くかですが、安倍政権が2012年末に成立したことから2012年の被害件数は集計に入れず、2013年からの被害件数をカウントします。また出典である全国霊感商法対策弁護士連絡会のHPの集計表を見ればわかるように2018年以降は今現在消費者センターの集計が含まれておらず、連続性のある統計は2013年から2018年といえます。2020年は消費者センターの数を含めなくても2013年の件数を超えており、例外的に2018、2019年に被害件数の減少はみられるものの、2020年には一挙に件数が上昇しています。この2020年の上昇については「献金・浄財」の増加であり、時期的に考えればコロナ禍の影響と考えられます。ただ2021年の被害件数は47件(消費者センター含まず)であり、コロナ禍の影響であった場合であっても、この件数を見るともしかしたら局所的な「活動」があったのかもしれません。まぁ、ただひとまずいえることは「安倍政権下で(被害件数が)1/10」は絶対にない
 ちなみにもっと広い範囲での被害件数と金額の推移を置いておきます。

2000年から見ると00年代は被害件数は基本的に上昇傾向なのが見て取れ、それが2009年から減少傾向に向かうことが見て取れます。この減少についてはすでに多くの方が指摘されていますが、2009年に新世事件などの影響によって旧統一教会の組織的な活動の仕方が変わった事が根本的な原因であると考えられます。そもそもこれ自体は当事者が今回の事件を受けて下記のように語っていることからも明らかです。

旧統一教会「トラブルなし」誤り 会見を訂正
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は17日、田中富広会長が安倍晋三元首相銃撃事件を受けて開いた11日の記者会見で、2009年以降は信者との間で「トラブルがない」と発言したことについて、「コンプライアンス順守の結果が表れているという趣旨であり、トラブルがゼロになったという意味ではない。言葉不足で誤解を招いたことを率直におわびする」

実際、2009年から商品別被害件数について明確な変化が見受けられます。それが印鑑、壺などの物理的な商品による被害件数の大幅な減少です。

*3

上記グラフは全国霊感商法対策弁護士連絡会商品別被害集計から物品を伴う商品のうち、累計上位5品の被害集計の推移です。2009年から大幅にその被害数が減少していることが見て取れ、2020年にもなるといずれの商品も1桁台の被害数となります*4。では、「献金・浄財」などの物品を伴わない被害件数推移はどうであるかというと、それは以下のようになります。

こちらも2009年から被害件数の減少はみられるもののそれでもいまだに数十件は存在していることになります。コンプライアンス順守とやらの結果、物品系の霊感商法の被害は劇的に減少したといえますし、献金なども件数は減ったといえます。ただ合計被害金額における「献金・浄財」の推移、そして「内訳不詳・その他」に占める割合を見ていくと、2009年以降からその被害額の過半はこの2つで占められていることがわかります。

「内訳不詳・その他」に関しては詳細になんであるかは不明ではあるために何らかの推測をすることはかないませんが、元からその比率は高めであったことは確かではあるものの2010年以降は「献金・浄財」が霊感商法における主な稼ぎ頭になっていることが見受けられます。なお2018年に被害金額が大幅に上昇していますが、これは主に「献金・浄財」の影響であり、その金額は14億円、被害件数は27件。2018年周辺の「献金・浄財」被害件数は2017年が54件、2019年が23件、2020年が141件であり、件数自体は17年、20年の方が多いのにもかかわらず2018年が突出しているということは2018年に幾人かの多額の献金をした人間がいることが伺えます。
 最後に全国統一協会被害者家族の会の相談件数の推移を見ていきます。

この被害件数を見ていくとこちらも2009年からその件数自体は縮小傾向であることがわかります。2014年から2015年にかけては何があったかは不明ですが相談件数は一気に減少しています。あえて言えば2015年8月に「世界基督教統一神霊協会」から「世界平和統一家庭連合」への改称があります。この改称によって「家族の会」へのアクセス数が少なくなった可能性はあり得るかもしれませんが、月別の相談件数を見る限りは8月前から前年比減の傾向がみられるために名称変更が理由だと断言はできません。


8月16日追記
 以下のような報道がありましたので追記しておきます。

最近は、献金の返還を請求できないよう権利を放棄させる「合意書」の存在が明らかになった全国弁連によると、元信者に署名押印させていた事例が複数確認されたという。
 13年以降、少なくとも560万円を献金していた女性は、15年に約200万円の返金を受けた際に合意書を書かされた。夫と一人息子に先立たれた女性はその後、信者らに「2人が地獄で苦しんでいる」などと不安をあおられて多額の献金をさせられたとして、教団側を東京地裁に提訴。20年の判決では「社会的に相当な範囲を逸脱した行為として、違法と評価せざるを得ない」と教団などに損害賠償責任を認めた。
 判決はさらに、合意書についても「何らの説明もなしに請求権を放棄させ、公序良俗に反し無効」と認定。21年に確定した。川井康雄弁護士は「脱会しても弁護士に相談することを諦めさせる目的で、組織的なのは明らか」と批判する。物品を売る形での「霊感商法」は減ったものの、「新たに広く信者を獲得するより、トラブルになりにくい今の信者から献金という形で深く吸い上げるというケースが増えているようだ」と手法の変化も指摘する。
 全国弁連への電話やメールでの相談は、最近は月1件ほどだった。しかし安倍晋三元首相銃撃事件後の1カ月間では109件に上ったという。
旧統一教会被害「法令遵守宣言後も138億円」 全国弁連指摘 8月16日 毎日新聞

以上のように霊感商法による手口が被害相談がしにくい形態へと変化していることが伺えます。この形態がいつからかまでは不明ですが、推移を考えれば10年代から始まっていることはわかります。なんにせよ、消費者契約法改正は関係ないでしょう。


 実はこのほかにも警察庁霊感商法の認知件数・検挙件数に関しての統計資料を請求したのですが、どうやら「霊感商法」というくくりでは統計を取っていないようでそちらに関しての推移は不明となります。これは「特定商取引等事犯」というくくりで統計を取っているらしく個別にはないということ。ないものはしょうがないけれど、これがわかればいろいろと面白かったかもしれません。
 とりあえず。消費者契約法改正をもってして「安倍晋三統一教会の天敵」とかいう論調は的外れかなと。宗教2世による「安倍さんは(同教会の)神様側の人なんだよ」という証言記事もありますし。安倍晋三氏や自民党統一教会を強く批判したというならばともかく、そういった姿勢や言動を見せてない事からも明らかなように、本人の意図を超えた擁護になっているとしか思えない。

*1:7月8日かなり早い段階で「消費者契約法改正」についてツイートしているアカウントもありますが、こちらは文脈的には安倍政権用語ではありません。

*2:報告書は2015年に出て、第一次答申は2016年。その後に2017年の報告書のための審議が再開される

*3:グラフが2004年からなのは2001年の被害件数が例外的に突出して多くなり、グラフの動きが見えにくくなっていること、後述する被害相談グラフと年数のはじめを併せるために2004年からにしています。

*4:消費者センターの被害数がカウントされていないであろうことに注意してください