電脳塵芥

四方山雑記

難民申請中に強制送還できない法律を作ったのは民主党ではなく自民党時代



https://twitter.com/Jet_Driver_/status/1760482936229626258
※長いのでスクショは途中を割愛

 かなり拡散されている「悪夢の民主党政権」投稿。既にコミュニティノートがついている様に難民申請中に強制送還を行えなくなったのは2004年の小泉政権時による改正による。

第159回国会(常会)
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案
三、難民認定制度の見直し
  難民認定申請中の者及び難民として認定された者の法的地位の安定化を早期に図るため、難民認定制度の見直しを行う。
 1 仮滞在許可制度の新設
  イ 不法滞在者である難民認定申請中の者について、仮滞在許可制度を創設することとし、同許可を受けた者については、退去強制手続を停止し、難民認定手続を退去強制手続に先行して行う。
  ロ 仮滞在許可を受けていない者についても、難民認定申請中の間は、送還を行わない
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案:参議院

これは「迫害の危険がある国へ難民(申請者も含む)を送還してはならない」というノン・ルフールマン原則に則った法改正だろう。また過去の入管法の改正やその概要については出入国管理庁がまとめており、それによると次のようになる。

民主党政権時は2009年(平成21年)となるが、この改正は第171回国会の時期であり当時は麻生政権となる。ついでに言えばこの改正では申請中の強制送還に関わる条文に変更はない。つまりこの表を見るかぎり民主党政権時(平成21年9月~平成23年12月)に入管法は改正されていない。ただし、この話の元となったネタは存在する。それは民主党政権時代の2010年3月に法務省の運用によって申請者の生活の安定の観点から導入された「難民申請6カ月後から就労を許可する」ことへの変更だ。これは法改正ではなく法務省による運用変更によるもので当時特に報道されたような形跡もネット上ではほぼ見当たらない。このために民主党政権の意向がどこまであったのかも不明なものとなる。では何故これが注目を浴びたのか。それは2014年末頃から読売新聞が難民偽装について書き始め、そして2015年2月に読売新聞が「難民偽装」という特集を連載したことによる。詳しくは難民支援協会の「難民申請の「偽装」「悪用」「濫用」等に関する報道について」や合同・一般労組全国協議会の「技能・実習制度改悪=2年延長を許すな!奴隷労働をやめよ!制度そのものを解体せよ!」に読売報道の反発として書かれているが、そこには以下の様な記述が見える。

2010年3月の難民申請後6ヶ月を経れば合法的に働けるようになった法改正が甘かったと法務省幹部
「法改正」ではなく運用の変更であり、合同・一般労組全国協議会のHP上では同様の指摘がなされている。記事のわきが甘いことが指摘できる。

つまり読売新聞はこの部分に一つのターゲットを絞っていることが理解できる*1。そしてその一連の記事の中に「難民申請、民主政権時の就労「一律」許可見直し(2015年3月8日)」という見出しの記事が配信される。

難民認定制度」では、難民申請を行った外国人に対し、申請から半年後に国 内で働く資格を自動的に与えている。申請者の生活に配慮し、民主党政権が2010年、生活困窮者に対してだけ優先的に認めていた就労資格を「一律」に見直した。これを契機に偽装とみられる申請が急増した。

この記事によって「民主党政権」と「難民」が結びつき、一気にSNS上で認知を得る。例えばこの記事が配信される2015年3月7日以前は「難民申請 民主党」で検索しても検索ヒット数はさしてないが、この記事の後にはbotの影響もあるが激増する。

そしてこの「情報」が流布することによって伝言ゲーム的に別のデマが生まれる。例えば「民主党政権が難民申請制度を何度却下されても申請できるように変えた」という類の投稿もそれだ。

民主党政権は既述の様に入管法改正はしていないし、この部分は運用ではどうにもならならく2023年の法改正によって原則二回となった部分だ*2。難民申請中に強制送還できないのも自民党政権時によるものだ。上記画像の上の投稿の内容はそして冒頭の「強制送還できない法律を作った民主党」に近い投稿でもあるが、影響力としては次の投稿は馬鹿にできないだろう。


https://twitter.com/mk00350/status/1597497535861751810

「帰国拒否者」を強制送還できないという前提はついているが今回の論旨にはかなり近いものとなっている。また類似の投稿としては次のものも挙げられる。


https://twitter.com/kaminoishi/status/1397474112663015425
※井上太郎は類似の投稿を複数行っており、これはその一例。読売新聞報道時から反応していたが当時より先鋭化しているともいえる内容に変化している。

こういった投稿やそれに影響を受けた情報圏で「調べた」結果として冒頭のたーか@営業中は「難民申請中は強制送還できない法律を作った民主党」という認識を得たと考えられる。とはいえ、そんな事実はない。実際に2010年3月にどれほどの政権の意向があったのかは不明だが、それはともかくとして冒頭のデマは読売新聞の記事から端を発し、悪いことは民主党に責を負わしたいという願望、そして昨今のSNS上の反難民潮流の末のバズだろう。



■お布施用ページ
note.com

*1:2014年10月27日に朝日新聞が「難民申請、実は就労目的 留学生や実習生「乱用」増加」という記事を配信しており、読売新聞だけがこの点を問題視しているわけではない。朝日も記事にしていることから法務省などが問題視ししていたと思われる。ただしこの朝日記事は特にネットでウケはしなかった模様

*2:厳密にいうと二回目の申請中までは強制送還が出来ず、三回目以降は申請中であっても強制送還が可能となるというもの。詳しくは法務省HP