電脳塵芥

四方山雑記

「韓国向けフッ化水素輸出ゼロ」というニュースに対する経産省のニュースリリースについて

 

とか

 

などをはじめとして、8月の貿易統計を見ると「フッ化水素の韓国向け輸出額がゼロ」になったというニュースがあったわけです。さて、そのニュースに対して経済産業省ニュースリリースにおいて、

 

本日財務省から発表された貿易統計に関連して、8月の大韓民国向けフッ化水素輸出がゼロになったとの一部報道がありますが、許可の対象となるフッ化水素は8月中も大韓民国に輸出されていることを経済産業省として確認しています。

日本から輸出されるフッ化水素については、貿易統計上、国内における加工・製造の工程等によって、「フッ化水素(HS2811.11-000)」以外にも「再輸出品(HS0000.00-190)」として計上される場合もあり得ます。

以上の様な反論を行っております。

 

 では、実際の貿易統計でその推移はどうなっているのかというと……、「e-statの普通貿易統計国別品別表の8月」の東アジア地域のCSVファイルを確認すると以下の様になっていることが確認できます。

 

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という様に「フッ化水素(HS2811.11-000)」の推移が記されています。が、これだとなんだかわかりませんから、さらに加工してグラフ化してみると、

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そして、「再輸出品(HS0000.00-190)」の推移は、

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以上の様なものであると理解できます。グラフからもわかる通り、というか各報道記事の通り「フッ化水素(HS2811.11-000)」の8月の輸出量は0kgであり、0円です。6月の輸出額が約6億円、7月の輸出額が約4億円という事を考えれば、多大な影響があったことは事実でしょう。

 

 ただ、まあ

別品目を管理する財務省としての見解と、特定品目の輸出管理を行い許可を出す経済産業省の間の見解が異なる場合もあるということは貿易実務に携わっている者であれば通常認識していることである。

主要メディアの「8月の韓国向けフッ化水素輸出ゼロ」の報道を経産省が否定 | ASEAN PORTAL(アセアン ポータル) 

 という話があったり、

「えっ、前はこの番号で許可が下りたんですけど...」みたいなことは、私がお勤めしていた時にも何回も遭遇していましたから、品目番号別に統計を出す財務省(税関)と直接輸出入の管理をして許可を出す経産省の見解が違うのは当たり前なんですよね... 

8月の大韓民国向けフッ化水素輸出量について | My treasures

みたいな話も合って、正直素人にはこれらの手続きにはよくわからない点も多々あったりするわけです。とはいえ上記の時事通信によると「輸出ゼロは比較可能な1988年1月以来初めて」とあるので、フッ化水素の輸出が大幅減少したのは紛れようもない事実かなと。

 

 ちなみに「フッ化水素(HS2811.11-000)」の貿易統計上での説明は、

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で、当然ですが「フッ化水素」そのものの説明です。そして「再輸出品(HS0000.00-190)」は、

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という様になります。「再輸出品」とは

輸入した商品を再び輸出すること。輸入した品物がその原形のまま再び積出されることをいう (日本の貿易統計などの定義) 場合と,修繕,加工のため,または輸出品の容器として輸入された品物が再び輸出されることをいう場合 (日本の関税法の定義) とがある。

再輸出(さいゆしゅつ)とは - コトバンク

以上の説明のうち、今回の件は後段の「加工のため,または輸出品の容器として輸入された品物が再び輸出」にあたるのかと考えますが、当然ながらこの再輸出品の中にはフッ化水素関連以外の再輸出品も含まれるわけで。この品目にフッ化水素が含まれるのは事実でしょうが、再輸出品に関しては6月約675億円、7月約635億円、8月約657億円と比較的安定していて、さらに「フッ化水素(HS2811.11-000)」の分がこちらに回ってきたかどうかに関してはフッ化水素の輸出額が再輸出品の輸出額の誤差の範囲内のレベルで統計上ではその存在を確認しようもありません。

 

 なんにせよ経産省の指摘は誤っていないであろうものの、統計上確認できる「フッ化水素(HS2811.11-000)」の輸出がゼロとなったのもまた事実なんですよね。さらに付け加えるならば、韓国関税庁の輸出入統計でもフッ化水素が「輸入0」となった発表したそうですし(韓国、フッ化水素「輸入0」でも屈せず-日本企業が外交の犠牲に - M&A Online)、韓国が欲している類の「フッ化水素」が輸出されていないことは事実なんじゃないかなと思うわけです。こう見ると経産省は主張は正しいが、しかしそれってミスリードを誘う様な反論、詭弁に近いものと捉えられても致しかたないかなと。