電脳塵芥

四方山雑記

農林水産物の輸出額増加における立役者について

 2020年の農林水産物輸出額が発表されました。

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その輸出額は9233億円となりこれは過去最高の金額です。農林水産物輸出額と言えば安倍政権時代に2019年までに1兆円目標というものがあったものの達成できず、2020年も達成は出来てはいないものの、だがしかしこの輸出額の増加傾向は止まっておらず素直に喜ぶべき現象でしょう。ちなみに目標と言えば「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略案(概要)」によれば2025年に2兆円、2030年に5兆円というあまりにも高すぎる目標が掲げられていますが、これは本題ではないので置いておきます。流石にあと4年で輸出額を倍に出来るとは思えませんし、5兆円というのは雲よりも高い目標のようにも思ったりしますが……。  さて、この2020年の輸出額増加の要因ですがメディアでは以下の様に記述されています。

農林水産省によりますと、去年1年間の農林水産物や食品の輸出額は9223億円でした。前の年を1.1%上回り、8年連続で過去最高を更新しました。このうち、農産物は前の年と比べて11.6%増えました。中でも、新型コロナウイルスの影響でいわゆる巣ごもり需要が海外でも広がり家庭向けの需要が高い鶏卵が2倍余りになったほか、豚肉も55%増加しました。
NHK 去年の農林水産物・食品の輸出額 8年連続で過去最高を更新

 

鶏卵は、香港で卵かけご飯の需要が高まるなど約2・1倍の45億円と大幅に増加した。同じく家庭向けが中心のコメが15・0%増の53億円、豚肉が55・0%増の17億円だった。上半期に大幅に落ち込んだ牛肉や日本酒も、小売店向けなどに販路を拡大して盛り返した。
読売新聞 香港「卵かけご飯」需要も後押し、昨年の農林水産物輸出1・1%増…8年連続更新

NHK、読売共に鶏卵や豚肉の輸出が好調という事が大きかったように受け取れる記事を書いており、という事はそういう様な発表を農林水産省側のプレスリリースなどで行われている事が察せられます。ただコロナ禍の影響は大きく例えば真珠▲253億円、ホタテ貝▲132億円などと百億円レベルで輸出額が減少した水産物が存在します。個々の要因を詳述しているのは農業協同組合新聞の「農産物輸出 9223億円 過去最高も1兆円目標届かず」でご興味があればこちらを読むのも現状だと一番よいかなと思います。

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ただ全体的に言えるのは上記のグラフの通り水産物輸出が約600億円と大幅減少し、その減少幅を補う形で農産物輸出が約700億円増加となっています。

輸出額増加における立役者

 ここからが本題ですが、これらの報道に書かれていない輸出額増加における立役者が存在します。それは「調製食料品(他の項に該当するものを除く。)ーその他のもの」です。2020年における輸出額は1278億円。農林水産物輸出額9223億円の13.9%に値する一大輸出産品となります*1

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グラフを見ればわかる通り近年その増加傾向は顕著であり2019年から2020年にかけての約380億円増加という数字は凄まじいの一言です。なお主な輸出地域は香港と中国ですが、香港の2020年の輸出額の伸びもまた凄まじいの一言。

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 さて、この輸出額の一大産品ともいえる「調製食料品(他の項に該当するものを除く。)ーその他のもの」ですが、その詳細な中身は良くわかりません。例えば該当品目コードの中身を書いた資料を見ても素人目には何が何だかという感じ。以前に税関に問い合わせをしたこともあるのですが、やはりこの「その他」は「その他」であって詳細な中身は税関の方でも答えられないようでした。残当
 と思ってたら2020年9月の食品等流通合理化促進機構の資料にこんな情報がありました。

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下の方に「HSコード210690900」とありますが、このHSコードが「調製食料品(他の項に該当するものを除く。)ーその他のもの」に該当するものであり、そして例示品目が明記されています。それによると例示されるような代表的な品目は「健康サプリメント、厚焼き玉子、かきあげ、ミルクセーキ原料等」とあります。最後に「等」とあることから、これら以外の品目も多数あることは予想されますが(だからこその「その他」ですが)、とはいえここら辺が調製食料品のその他を代表するものとなるのでしょう。ただこのうち厚焼き卵、かき揚げ、ミルキセーキ原料などが主な産品であるとは考えにくく、やはり健康サプリが大きな輸出底上げなのかなと。それを証明する、というほどではないですが2018年に以下の様な記事もあります。

日本貿易振興機構ジェトロ)によると、健康食品に関する相談は近年増加傾向にある。(中略)ジェトロに寄せられた健康食品に関する相談件数は、2015年に248件で、2017年は420件にまで増加した。
健康産業新聞 【特集】「海外サポート」-健食輸出の問い合わせ急増 情報収集で商機を掴む-

この記事によれば健康食品、サプリメントはHSコードがなく食品に分類され云々とありますが、このうち少なくともサプリのいくらかは「その他」に分類されるという事でしょう。また株式会社インテージによれば日本の健康食品・サプリメントの市場規模は1兆4,095億円とあり、このうちサプリメントが何割かはまでは書かれていないもののそれなりの規模であることは確かであり、この市場規模がある商品が外国へと輸出されれば相応の額になるはずです。2015年からの輸出額増加も記事にある相談件数の増加という点と符合している事からも、調整食料品その他には健康サプリメントが相応の金額が入っていてもそうはおかしくないと考えます。勿論これは明示されているわけではなく推測であり、また「その他」という項目の特性上雑多なものが多種多様に入っておりだから輸出額の肥大化が著しいのでしょうが。
 以上のことから近年における農林水産物の輸出額増加には健康サプリメントなどの要因もそれなりにある事が考えられます。それ自体に是非があるものではありませんが、とりあえず一般にあるであろう農林水産物輸出イメージにはあまりないであろう健康サプリメントがその輸出額の中で結構な割合で存在するかもしれない、というの認識は持っていてももしかしたらよいのかなあと。ただ結局は証明できるデータがないので憶測になってしまいますが……。

*1:なおこの「その他」は農林水産物すべての「その他」ではなく調整食料品とういカテゴリ(農産物扱い)の「その他」となります。