電脳塵芥

四方山雑記

難民に認定された人の月収「37万5千円」はデマだよ


https://twitter.com/shop_kakiko/status/1761342567524831286

 この投稿がバズっていた。元ネタは次の「城之内みな」による投稿。


https://twitter.com/7Znv478Zu8TnSWj/status/1760797167915352088

難民と認められると「年間450万円」という投稿はこれ以前も一応存在するが*1、一気に拡散したのは上記の「城之内みな」によるアカウントの投稿がおそらくは初。そしてこれがNewsSharingというまとめサイトによってまとめられて拡散される。


https://twitter.com/newssharing1/status/1760939849463545859

そしてそれを受けた反応があり、


https://twitter.com/airi_fact_555/status/1760970572107010073

その反応がJAPAN NEWS NAVIというこれまたまとめサイトに転載されて、


https://twitter.com/JapanNNavi/status/1761229950601048333


https://twitter.com/mattariver1/status/1761232062462493182

こういった反応や、冒頭の投稿へと繋がっていく。コミュニティノートがある様にこれはデマなのだが、そのデマ情報がまとめサイトに転載され、さらにその記事への反応を転載したまとめサイトやアカウントによってさらに拡散していくという、デマの転載拡大再生産の様相を見せる。
 そして冒頭の月収については「450万÷12か月=月当たり37.5万円」という考えで至ったのだろう。指摘内容はコミュニティノートに準拠するが、まず城之内みなは内閣官房の資料である2012年6月19日「諸外国における第三国定住による難民の受入れの概要」をソースにしている(コミュニティノートも同じ資料)。そこに次のような記述がある。

(1)中央省庁における予算措置
日本の場合,おおむね難民1人当たり約450万円の中央省庁における予算措置がされているが,例えば,ニュージーランドでは約490万円,米国では約110万円,カナダでは約80万円,スウェーデンでは約240万円となっている。
(参考1)
日本(パイロットケース)では, 政府予算は約1億3,500万円(注)であり,年間約30人を受け入れる場合,難民1人当たり予算額は約4 50万円となる。
(注)平成23年度の外務省,文化庁及び厚生労働省の委託費予算であり,一部に条約難民の定住支援に関する予算を含む。また,定住支援施設の手当に係る予算は含まれていない。

ここの記述は当時の政府予算である1億3500万円で難民を年間30人受け入れた場合の一人当たりの予算額であり、難民一人当たりの「年間支給額」ではない。さらに言えば外務省、文化庁厚生労働省の委託費予算の合算であり、その内訳はこの資料からは不明であるし、定住支援施設の手当てにかかる予算は含まれていないなど、正直言ってこの資料から「金額」を云々言うのは意味がないし、資料が読めていない。ちなみにコミュニティノートは額としては次の文言を引用している。、

(2)中央省庁による第三国定住難民への生活支援
日本(当初の180日間)では,収入補助等として,月額約4万5千円の生活費支給,住居(受託団体が手当。1世帯当たり家賃12万円前後)への入居等の支援や,一時金(約15万7千円)の支給などの支援がある。

ただしこれは「第三国定住難民」に対する支援であり、第三国の難民キャンプにいた難民を日本で受け入れた際のプログラムである事には留意が必要*2。日本での難民申請からの難民認定者(条約難民)へのプログラムとは若干異なる。


出典:文化庁政府の難民等に対する定住支援体制」より

日本における難民支援はアジア福祉教育財団の難民事業本部(RHQ)が行っており、そこには難民認定者に対する「月収」と呼べるような保護費の情報は存在せず、難民への支給として見当たるのは教育訓練援助金くらいとなる。これは日本国内の学校に入学した難民への一時金であり、最高額でも大学入学時の10万円となる。「生活に困っている」という相談項目もあるが、ここでは「難民申請者」に対する支援の話であり月当たり大人4万8千円の支給額となっている。この資料には住宅費がいくら出るのかは書いていないが、難民支援協会によれば月当たり単身で6万円、4人家族で8万円だと書いてある。なおこの申請中の保護費に関して、難民支援協会によれば認定の結果が出るまでは就労して自活することが想定されているとあり、保護費は来日後から就労資格が付与されるまでの限られた期間の支援と位置づけられているとある。この期間などについては2018年の改正などによる影響もあるようなのだが、その部分は割愛し、近年の申請者の保護費受給者の割合を見ていくと次のようになる。


出典:難民支援協会より

このデータを見る限りは、大抵の申請者は自活している事となる。そしてそれは難民認定を受けた後も同様と考えられる。RHQにしても難民支援協会にしても難民認定後に保護費、冒頭のアカウントが言う様な「月収」の存在などは微塵も感じられない。就労支援、定住支援などの存在は確認できるが直接的と言えるが、それは「月収」でばない。そもそもこれは資料を読めない人間が誤読した事に端を発し、ネット右派とまとめサイトロンダリングによって反難民感情に付け込んできたデマといえる。



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*1:2月21日に同資料をソースにしていると思われる類似の投稿がされている(その1その2)。関連性は不明。

*2:ちなみに第三国定住難民の現在の生活費額はRHQの説明を読む限りは2012年資料とほぼ変わらない。

難民申請中に強制送還できない法律を作ったのは民主党ではなく自民党時代



https://twitter.com/Jet_Driver_/status/1760482936229626258
※長いのでスクショは途中を割愛

 かなり拡散されている「悪夢の民主党政権」投稿。既にコミュニティノートがついている様に難民申請中に強制送還を行えなくなったのは2004年の小泉政権時による改正による。

第159回国会(常会)
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案
三、難民認定制度の見直し
  難民認定申請中の者及び難民として認定された者の法的地位の安定化を早期に図るため、難民認定制度の見直しを行う。
 1 仮滞在許可制度の新設
  イ 不法滞在者である難民認定申請中の者について、仮滞在許可制度を創設することとし、同許可を受けた者については、退去強制手続を停止し、難民認定手続を退去強制手続に先行して行う。
  ロ 仮滞在許可を受けていない者についても、難民認定申請中の間は、送還を行わない
出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案:参議院

これは「迫害の危険がある国へ難民(申請者も含む)を送還してはならない」というノン・ルフールマン原則に則った法改正だろう。また過去の入管法の改正やその概要については出入国管理庁がまとめており、それによると次のようになる。

民主党政権時は2009年(平成21年)となるが、この改正は第171回国会の時期であり当時は麻生政権となる。ついでに言えばこの改正では申請中の強制送還に関わる条文に変更はない。つまりこの表を見るかぎり民主党政権時(平成21年9月~平成23年12月)に入管法は改正されていない。ただし、この話の元となったネタは存在する。それは民主党政権時代の2010年3月に法務省の運用によって申請者の生活の安定の観点から導入された「難民申請6カ月後から就労を許可する」ことへの変更だ。これは法改正ではなく法務省による運用変更によるもので当時特に報道されたような形跡もネット上ではほぼ見当たらない。このために民主党政権の意向がどこまであったのかも不明なものとなる。では何故これが注目を浴びたのか。それは2014年末頃から読売新聞が難民偽装について書き始め、そして2015年2月に読売新聞が「難民偽装」という特集を連載したことによる。詳しくは難民支援協会の「難民申請の「偽装」「悪用」「濫用」等に関する報道について」や合同・一般労組全国協議会の「技能・実習制度改悪=2年延長を許すな!奴隷労働をやめよ!制度そのものを解体せよ!」に読売報道の反発として書かれているが、そこには以下の様な記述が見える。

2010年3月の難民申請後6ヶ月を経れば合法的に働けるようになった法改正が甘かったと法務省幹部
「法改正」ではなく運用の変更であり、合同・一般労組全国協議会のHP上では同様の指摘がなされている。記事のわきが甘いことが指摘できる。

つまり読売新聞はこの部分に一つのターゲットを絞っていることが理解できる*1。そしてその一連の記事の中に「難民申請、民主政権時の就労「一律」許可見直し(2015年3月8日)」という見出しの記事が配信される。

難民認定制度」では、難民申請を行った外国人に対し、申請から半年後に国 内で働く資格を自動的に与えている。申請者の生活に配慮し、民主党政権が2010年、生活困窮者に対してだけ優先的に認めていた就労資格を「一律」に見直した。これを契機に偽装とみられる申請が急増した。

この記事によって「民主党政権」と「難民」が結びつき、一気にSNS上で認知を得る。例えばこの記事が配信される2015年3月7日以前は「難民申請 民主党」で検索しても検索ヒット数はさしてないが、この記事の後にはbotの影響もあるが激増する。

そしてこの「情報」が流布することによって伝言ゲーム的に別のデマが生まれる。例えば「民主党政権が難民申請制度を何度却下されても申請できるように変えた」という類の投稿もそれだ。

民主党政権は既述の様に入管法改正はしていないし、この部分は運用ではどうにもならならく2023年の法改正によって原則二回となった部分だ*2。難民申請中に強制送還できないのも自民党政権時によるものだ。上記画像の上の投稿の内容はそして冒頭の「強制送還できない法律を作った民主党」に近い投稿でもあるが、影響力としては次の投稿は馬鹿にできないだろう。


https://twitter.com/mk00350/status/1597497535861751810

「帰国拒否者」を強制送還できないという前提はついているが今回の論旨にはかなり近いものとなっている。また類似の投稿としては次のものも挙げられる。


https://twitter.com/kaminoishi/status/1397474112663015425
※井上太郎は類似の投稿を複数行っており、これはその一例。読売新聞報道時から反応していたが当時より先鋭化しているともいえる内容に変化している。

こういった投稿やそれに影響を受けた情報圏で「調べた」結果として冒頭のたーか@営業中は「難民申請中は強制送還できない法律を作った民主党」という認識を得たと考えられる。とはいえ、そんな事実はない。実際に2010年3月にどれほどの政権の意向があったのかは不明だが、それはともかくとして冒頭のデマは読売新聞の記事から端を発し、悪いことは民主党に責を負わしたいという願望、そして昨今のSNS上の反難民潮流の末のバズだろう。



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*1:2014年10月27日に朝日新聞が「難民申請、実は就労目的 留学生や実習生「乱用」増加」という記事を配信しており、読売新聞だけがこの点を問題視しているわけではない。朝日も記事にしていることから法務省などが問題視ししていたと思われる。ただしこの朝日記事は特にネットでウケはしなかった模様

*2:厳密にいうと二回目の申請中までは強制送還が出来ず、三回目以降は申請中であっても強制送還が可能となるというもの。詳しくは法務省HP

2月18日の蕨で行われた日の丸街宣倶楽部に対するカウンターデモでクルド人は「日本人死ね」と言ってはいないと思う

 2月18日に蕨において日の丸街宣倶楽部という団体が以下の様なデモを行った。


https://twitter.com/hinomaruspeech2/status/1750509069344141343

このデモに対してSNS上で「#0218蕨ヘイトデモを止めろ」 というハッシュタグが用いられるなど、現地でカウンター活動が行われ、そして次の様な動画がアップロードされる。

https://twitter.com/Hudutsuz81/status/1759110278074266029:embed)

音声を書き起こすとするならば、

~18秒ごろはブーイング
18~26秒ごろは「恥を知れ」
27秒ごろからクルド人と思われる男性が、
 病院に行け
 病院に行け
 精神病院に行けレイシスト
33秒ころ女性の声で「あんたたち恥を知りなさい」
36秒ごろ女性の声で「日本の恥」?
39秒ごろ女性の声で「あんたたちね、差別デモや差別で日本は守れない」

以上の様な言葉が聞き取れる。例えば「(精神)病院に行け」などの発言がカウンターとして良いのかという議論はあり、その部分で問題視されるというのはあり得る。しかしながら石井孝明の下記発言が行われた事によって全く別の解釈が行われている。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759201152221237470

「病院に行け」を「日本人死ね」と聞き取ったのだ。動画を見ればわかる様に「病院に行け」と発言者は三回言っており、三回目の頭には「精神」が付き、さらにお尻には「レイシスト」が付く。「日本人死ね」と言っている場合、三つめは「精神日本人死ねレイシスト」という意味不明の言葉を羅列している事にもなる。さらにいえばこれはクルドに対するヘイトデモに対するカウンターであり「レイシスト死ね」ならばともかく「日本人死ね」はカウンター側の発言としても意味が不明だ。カウンターデモには日本人も当然いる。「日本人死ね」と言っていると読んだ後にも「病院に行け」と言っている様にしか聞こえない。しかし、石井孝明の投稿はバズり、「日本人死ね」と言っていると解釈した人間が多数現れる。動画を聞いたうえで。


https://twitter.com/bigawamp/status/1759216415343575156


https://twitter.com/TM47383445/status/1759232639880581613


https://twitter.com/TV65377118/status/1759211027991023672


https://twitter.com/ginseiou/status/1759363119053467815
※投稿が長いので割愛

以上の様に動画を聞いたうえでも彼らは「日本人死ね」と聞こえている。サヨクが「病院に行け」と強弁したと言っているアカウント存在しており、ここまでくると彼らは「そう聞こえる」のだろうとしか言えない。最早ここまでくるとこの件で言葉を交わして議論をすること自体不可能だろう。それが少数ならばよかったが、石井やその投稿に付和雷同するアカウント、まとめブログもえるあじあの「【恐怖】埼玉県、駅前でクルド人集団が怒号「ニホンジンシネ!」連呼」などによって、あたかもクルド人が「日本人死ね」と言っている事が半ば既成事実化して語られている*1。石井孝明はSNS上におけるクルド人へのバッシング言説のオピニオンリーダーといえるが、しかし彼自身の発信は以前にも指摘した様にそのソースが胡乱であり、信用に値するとは言えないレベルのものも存在する。今回もそれに値するが、さらに一歩先に進んだ感がある。多くの人がまっさらな状態で聞けば「病院に行け」と聞こえると思える音声だ。それが簡単に覆されている。ものすごい粗悪で悪質な語り手に語り場がジャックされている。


【ちょっと追加】
一般社団法人日本クルド文化協会が以下の様な投稿をしている。

これに対して、石井孝明は「音声を書き換えていますよね」などと反論している。

https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759514502532649451

@Hudutsuz81がアップロードした最初の動画の時点で「同じ動画」を見て、石井側は「日本人死ね」と聞こえたといっており、カウンター側は「病院に行け」だと言っている。同一動画からの解釈の話でしかないので、「日本人死ね」を「病院に行け」と聞こえるのは「音声を書き換えている」と言いたいのかもしれないが意味不明だ。 ネイティブには「日本〇ね」とハッキリわかるとまで言っているアカウントもあり、正直もう意味が分からない。


【追記その2】
批判が多くなったのかは不明だが、石井孝明は音声すり替え説にかじを切り、連投している。
※追記に入れた投稿もわかりやすさのために入れています。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759495430679969921


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759497474971189490


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759497764055236879


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759499973551599951


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759500055239864822


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759514391144460559


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759514502532649451


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759518237581275385


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759519145543319844


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759590282440679430


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759592498283135053


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759594226135056414


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1759718888097685629

20日の11時時点で確認できるだけですり替え説と言える投稿を13個ほどしている。追記にも書いたが石井孝明が「日本人死ね」と聞いたと言っている動画は@Hudutsuz81の投稿への引用投稿であり、「病院に行け」と聞いた人間が聞いているのもその動画だ。音声すり替えもクソもない。もしも石井孝明が今聞いて「病院に行け」と聞こえているならばそれは謎の「プロの人」がいうところの修正ではなく、石井孝明が最初に聞き間違えたのを自白している様なものでは。音声すり替え説をこんな多く投稿しているのも言い訳がましくみえる。



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*1:例えば、2月18日~19日におけるXの「日本人死ね」の検索結果を見るとそれが顕著だ

岩手の蘇民祭が終了した理由は単純な担い手不足であり、2008年のポスターも関係ない


https://twitter.com/KomeiT2/status/1758850124170838306

 このキャプチャはTBSの「7daysニュースキャスター」放送のもの。2月17日に最後の蘇民祭があることから特集及び中継などが行われる。まず、komei氏の投稿内容だと「意識の高い人」が祭りを終わらせようとしたと読める内容になっている。ただし、この論旨から逃げられるように続く投稿で「補足」として「因果関係は不明」とはしている。しかし、そもそも祭り終了の理由は妙見山黒石寺自体が次の様に述べている。

令和7年以降の黒石寺蘇民祭について
令和7年以降の黒石寺蘇民祭については、実施しないこととなりました。
その理由は、現在祭りの中心を担ってくださっている皆様の高齢化と、今後の担い手不足により、祭りを維持していくことが困難な状況となったためです。 今後可能な限り祭りを継続することも検討しましたが、祭り直前での急な開催中止等、多くの皆様にご迷惑をかけかねない事態の発生を防ぐため、祭り自体を行わないという判断に至りました。
これまで長きにわたり、黒石寺蘇民祭の護持にご尽力いただいた皆様に心より感謝申し上げます。
また、蘇民祭を楽しみにしてくださっている皆様におかれましては、大変申し訳ございませんが、何卒ご理解を賜りたく、よろしくお願い申し上げます。

一言で言ってしまえば過疎化といえる。奥州市の人口集計によれば該当地区であろう黒石の2008年(平成20年)年の15~64歳の男性の人口は392人、それが2023年集計は210人にまで減っている。実際は「黒石」地区だけが参加するわけではなく周辺地区も参加するのだろうが、それでもテレ朝の記事によれば黒石寺の蘇民祭関係者は「地域の人口は885人。その半数が65歳以上の高齢者」と言っている。他地域からの参加も出来るようだが、それでも祭りを維持できる人間の数が地域にいないという事なのだろう。そしてそれは番組でも説明している事がわかる投稿は存在している。komei氏が途中で見たから該当部分を見ていなかった可能性もなくはないが、とはいえ「意識高い人たち、伝統壊すの得意すぎる」などと言うのはデマを流しているに等しく、意識が低いとか高いとかいう問題ではない。そもそもの話、2008年のポスター問題は「意識の高い人たち」という話よりも、JR東日本がポスター掲示を拒否したというものであって張り出されたポスターにクレームが来たのではなく、JR東日本による事前審査によって断られたという話だ。

岩手伝統の裸祭りポスター 「きわどい」とJR東日本が拒否(AFP 2008年1月9日 )
千年の歴史がある「裸祭り」の伝統が、時代の変化の壁に阻まれた。JR東日本(JR East)が、岩手県奥州市に伝わる伝統行事のポスターを「不快感を与える」として掲示を拒否していたことが明らかになった。
(略)
同地域担当のJR東日本盛岡支社は、ポスター掲示がセクハラにつながるかもしれないと判断したという。同社広報室は「駅はいろいろな人が利用する。このポスターのデザインに不快感を持つ人も出てくる可能性は高い」としている。銭湯や温泉がある日本でも、公衆の面前で裸になることはますますタブーになりつつある。

 

祭りポスター:JR東が「待った」…女性が不快感毎日新聞 2008年1月8日)
岩手県奥州市の黒石(こくせき)寺で繰り広げられる伝統行事、蘇民祭(そみんさい)の観光ポスターを市が駅構内に掲示しようとしたところ、JR東日本から待ったがかかった。「男性の裸に不快感を覚える客が多い」というのが理由だ。数十年作製しているポスターの掲示拒否は初めてで、市は枚数を200枚減らして1400枚とし、駅で張れない分は市内や首都圏で張るという。

以上の様にJR拒否話がマスコミやワイドショーなどに報じられて一気に「話題」となる。クレームが来てからの掲示を取りやめたならばともかくとして、またこのJRの対応の是非についての話ならば成り立つが、果たしてこれを「ネガキャン」、そして「一部の意識の高い人たち」につなげるのはいささか発想が飛躍しすぎているように思える。「ネガキャン」という意味では以下の様な「ネット民」がオモチャ化した方が「ネガキャン」ともいえる。


http://riceballman.fc2web.com/AA-Illust/Data/HadakaMaturi.html

もっといえばポスターは2008年の話題で、今2024年ですよ……?



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イーロン・マスクが百田尚樹に引用して「Uso o kakuno~」っていってるのはコラだよ

 まあ、ネタとわかっているとは思うが中にはバズっている投稿もあって「おもしろい画像」であることは違いないのだけど、それはともかく今後残って出回ってしまうかもしれないので一応指摘しておく。

1)「Elon Musk@elonmusk」及び「百田尚樹@hyakutanaoki」に該当投稿がない
まずいずれのアカウントにも当然ながら該当投稿はない。たとえばイーロンマスクは「uso」で検索、百田尚樹は「コミュニティノート」を検索しても該当投稿はない。当然、存在しないのだからリンクやアーカイブもない。日本で拡散され始めたのが2月15日だが*1、マスクの投稿は2月13日で実在するならば日本で話題になるのが遅すぎる。ちなみに百田尚樹からの一方的なイーロン・マスクとの絡みは存在しており、それが下記の投稿。


https://twitter.com/hyakutanaoki/status/1621151479032877059
※「百田尚樹と申します。」で検索したのでそこだけ太字。別に百田尚樹が強調したわけではないです。

文面は今回の内容と類似しており、おそらくはこの投稿をネタ元としてコラ画像を作ったのだろう。ついでにいうと「初めまして」をこの時に使っているので今回「初めまして」を使用するのもおかしい。

2)百田尚樹アカウントにブルーバッジがついていない
上記投稿スクショを見ればわかる様に百田尚樹はブルーバッジ取得者である。それがコラ画像では存在しておらず、現在の百田尚樹アカウントの表示と矛盾している。

3)引用元の各種表示がおかしい
コラ画像と実際の画像を比較するとわかりやすいが、引用投稿に下記の様な差異が存在する。
・引用元のアカウント名は1行が正しいが、コラ画像は2行になっている
・引用元のアカウント名の横には日付が付くのが正しいが、コラ画像にはそれがない
・引用元投稿の右端には何も存在しないのが正しいが、コラ画像には引用の右端に縦三つの点が存在する
 ※そもそも縦三つの点ってXにおいて表示されないのでは
・コラ投稿の百田尚樹の文中にはリプライ表示がないところを見れば引用となるが、引用リンクがない

以上の様に意図的にかどうかまでは不明なものの細部におかしな点が多い。出所まではわかりませんが普通にコラ画像です。ちなみにこちらはあまりバズってないですがコラ画像はもう一枚あって、それは次のようなもの。

こちらのブロック画像と合わせてのネタだったんでしょう。



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*1:わかりやすい文言で検索したところ、2月15日午前1時の投稿が確認可能。

「夫のコレクションを勝手に処分する主婦の姿」として挙げられている画像は全然関係ない女性


https://twitter.com/mt_yamamoto_/status/1755429113031250123

 投稿内容と画像からネタ元は2018年11月1日にテレビ東京で放映された「しあわせ買取隊」という番組と思われる。これの放映後にtogetterに「「父の“積みプラ”を売って旅行に行きたい」という家族に、ご本人が前向きでも同情が集まる #しあわせ買取隊」というまとめができるくらいに反響が起きる。そのまとめに放送前の10月30日に番組予告を見ての投稿が挿入されている。


https://twitter.com/trapezohedoron/status/1057270295516471297

こちらの投稿自体も拡散はされている&まとめに取り入れられたことから、この画像の女性が「夫のコレクションを勝手に処分する主婦」として扱われるにいたると思われる。ちなみにこの冒頭の「やまもとやま(美少女)@mt_yamamoto_」とというアカウントは今回の投稿が初めてではなく、2023年8月にもほぼ同様の内容の投稿を画像付きでしている。この女性の画像を検索すると使用者はこのやまもとやまなる人物以外には使用していない様にも見えるので、このアカウントがまとめを見て事実を歪曲して覚えていたのだろう(とはいえ掲示板などで使用されていた可能性はあるので断言はできない。)。それはなにも画像の話だけではなく、元のまとめの時点で夫はテレビに出ており、家族との相談は見られるのでそもそも「夫のコレクションを勝手に処分する主婦の姿」など少なくともこの番組では映っていない。とはいえこの部分は「しあわせ買取隊」のことを言っているのではなく、画像はたまたま象徴的に覚えていたものを使用した、という論理は可能だが。
 そして画像の女性だが、この女性の買取査定を担当したエコスタイルバイヤーが自身の公式youtubeに「ブランドデータバンク査定士!エコスタイルバイヤー出演。突撃!しあわせ買取隊 2018年11月1日毎週木曜日19時~」アップロードしている(公式にアップロードしていることから許可を得ていると判断してリンクを貼っておく)。キャプチャされている部分までは映っていないもののお金を受け取る前までのシーンは存在する。

画像からもわかる様に売ったのは「ブランド品」。売ったのも自分で収集したものであり、関係のない画像をあげて個人をさらしていることとなる。これも11月1日放送であり、つまりは一時間番組なので「ブランド品」と「詰みプラ」の話など、複数扱われたうちの一つなのだろう。「人のコレクションを勝手に処分する人」的な話はSNSでウケやすい性質のものでたまに類似の情報は上がってくるが、関係のない人の画像を使用してまで広めるのはダメだろう。
 当たり障りのない結論をいうと、コレクションを集める以上コミュニケーションちゃんとしよう、ってなってしまう気。



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paypay → ID:denmok

noteからはこちら
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埼玉県の各地の河原でクルド人が動物の解体をしているという話は疑わしい

 昨年から埼玉県川口市における「クルド人問題」とでもいう様な動きが目立ち、メディアでもいくらか出ている。例えば昨年7月にあった病院前における100人程度の集団でのグループ的な対立からの騒動があり*1SNSでは「クルドカー」などの蔑称も生まれている状況だ。当事者としての川口市による国への要望や存在する問題点についてはNHKが2月2日に出した記事「埼玉・川口市がクルド人めぐり国に異例の訴え なぜ?現場で何が?」などが参考になる。ところでこの「SNSにおけるクルド人問題」そのものはつい最近生まれたもので、原因としては2023年4月に当時の国会で審議入りされた入管法改定案で4月15日からネット右派系の投稿が増えていき、そのいくつかはそれなりに拡散される状況となる*2。今ある「SNSクルド人問題」が実質的に「始まった(発見された)」のはこの時であり、例えばネット右派系アカウントである「T.M@TM47383445」は4月15日~30日の間に「クルド人」を含む投稿は50を超えている*3
 そんな状況のなかでジャーナリスト「石井孝明@ishiitakaaki」というアカウントがこの流れに4月21日から参加する。石井孝明という人物は実質的にこの「クルド人問題」を率先して扱っていると言える人物で、時に煽動的内容や支援者への嫌がらせ的な行動を行っている人物だ。石井のHPでは2023年5月8日からクルド人に関する記事をアップしはじめ、2月4日0時付近の24時間のアクセスランキングを見る限り「クルド人」に関する記事がウケている事がわかる。

つまり1年近くは「クルド人問題」を扱っているわけであり、石井がこれによってどれほどの収益を受けているかはわからないがこれらを見ると「ジャーナリスト」としてそこに狙いを定めたともいえる。そしてこれらの情報源のいくらかは匿名の情報提供によるもので、それを活用することで「クルド人問題」を訴えようとしている。例えば典型的なのは次のような投稿だ。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1742815829400629711

どうにもこれはお気に入りのネタなようで記事の小項目としても取り扱っているし、複数回記事紹介の投稿をSNSでもしている。その中では「日本人の人通りが増えると、携帯から大音量で緊急地震速報を流し、日本人が驚くのを見て笑っていたという。伝聞ではあるが、実話の可能性が高い。」とあり、駅前という場所やその異常ともいえる行動から目撃情報がありそうな状況なのだがX上における情報源は石井孝明のみとあって事実性が疑わしい。


https://twitter.com/search?q=%E8%95%A8%E9%A7%85%E5%89%8D%20or%20%E8%95%A8%E9%A7%85%20or%20%E9%A7%85%E5%89%8D%20%E7%B7%8A%E6%80%A5%E5%9C%B0%E9%9C%87%E9%80%9F%E5%A0%B1%E3%80%80since%3A2024-1-3%20until%3A2024-1-5&src=typed_query&f=live

クルド人が河原で動物を解体しているという情報について

 そして本題なのだが、石井孝明によって次の様な投稿がなされる。始まりは9月。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1702297761235001700


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1702460632807993702

上記の様に埼玉県の秩父長瀞の河原で羊を解体してバーベキューをやっているという「証言」があるという投稿をし、そしてこの投稿が下記の様にまとめサイトに転載されることによりさらに流布するという状況が生み出される。


https://twitter.com/nonbeiyasu/status/1702770688191586421

そして少し間が開いた12月にふたたびいくつか同様の投稿を石井は行う。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1732928566789038468


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1737334257595593201


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1737653973262401796
※引用元の写真は園芸センターヤマオカが所持する牧場とヤギであり、クルド人は関係ない*4。引用元は近くにクルド人解体屋が存在しており窃盗を心配している体でありそれは石井孝明も同様なのだが(「クルド人=山賊」と解せる表現は論外だが)、なぜかこの牧場がクルド人によるものだと勘違いしていた人間も存在している。それは単純に事実と反する。


https://twitter.com/ishiitakaaki/status/1737819685675213027

12月21日の投稿では「長瀞」は消えて「飯能」が追加されており、また「河原」という場所は消えている。ただ一連の発言を素で信じるならば「秩父」、「長瀞」、「飯能」においてクルド人が羊、もしくはヤギを河原で解体しており、そしてその「目撃情報は多数」だということになる。


農林水産省HPに存在する地図から作成

クルド人が主に居住している場所が川口市であり、そこから秩父長瀞、飯能となるとそれなりに距離が離れており、そこで羊などを解体してバーベキューをしているという状況はやや不思議だが、好意的解釈をすれば娯楽としてのキャンプをしに遠出をして現地で解体を行っている、という解釈は成り立つ。ただ「目撃情報多数」にしてはX上において河原で羊、もしくはヤギなどの動物を解体している外国人の投稿は石井の投稿以前以後、いずれも特にみられない。つまりはこの話の発端は石井孝明が媒介した「証言」となる。この「証言」なるものが石井孝明自身が取材して対面した相手から聞いたのか、それともDMなどネット媒体によって得たものか、果たして実在するのかさえ不明だがいずれにしてもその実態は不透明と言える。ただ少なくとも石井の投稿を読む限りは決定的な証拠のようなものはないと見える。

自治体への問い合わせ

 ネット上の情報だけでは河原での動物解体は不透明であるのでこの件について各自治体にその様な事例や苦情などは存在するかどうかを尋ねてみたところ、以下の様な返答を頂いた。

秩父市
生活管理課
お問合せ頂きました河原でのヤギ・羊の解体に関しましては、市に対する苦情や目撃情報等は届いておりません
なお、ヤギ・羊の解体は、と畜場法が関係すると思われますので、その関連業務を行っている埼玉県(食肉衛生検査センター北部支部)や、河川(水路)の管理者等へ情報提供を行いました。
飯能市
農業振興課
本日時点で、本市に対し本件に関する市民の方からの苦情や目撃情報は寄せられておりません
また、関係機関からの情報提供も受けておりません
今回いただきました内容をもとに、今後につきましても情報収集に努めてまいりたいと考えています。
長瀞町
お問い合わせいただいております件につきましては、現在のところ、当町へ苦情や目撃情報は入っておりません
また、実態の把握のため、関係機関、関係部署と連携し情報を収集しておりますが、こちらにつきましても情報は得られておりません
今後も引き続き、河川管理ならびに環境衛生保全のため関係機関、関係部署と連携し情報収集を行い、事実であれば然るべき対応を検討してまいります。

当事者といえる三つの自治体はその様な苦情は届いておらず関係機関からの状況提供も受けていないとあり*5、事実上は石井孝明による情報は否定された形となる。石井孝明がいうところの「目撃情報多数」の「多数」が石井孝明にだけ情報を流し、各自治体などへの問い合わせもせず、SNS上での投稿もしていなかったという可能性も決してゼロではないが、その可能性は低いと思わざるを得ない。そもそも石井孝明にどの様な情報がもたらされたのかも不明であり、石井のHPにも該当記事は挙がっていない様に見受けられる*6。邪推をするならばこれらは虚偽の情報提供に釣られたか、もしくは自らによる情報の捏造の可能性もゼロではない。石井孝明氏は「ジャーナリスト」を名乗っているので裏どりをしているだろうし、そんなことはないと信じたいものだが現状では「クルド人が河原で動物を解体」という情報は疑わしいと判断せざるを得ない。



■お布施用ページ
note.com

*1:騒動の背景については、週プレ「在日外国人の暴走に「住民は恐怖している」は本当か? 現地で見えた埼玉県川口市「クルド人騒乱」の真実」が詳しい。

*2:例えば4月15日~4月20日において「クルド人」でRT数が100を超えるものを見るとネット右派系と思われる投稿が目立つが、それ以前の時期において2023年4月1日以前の「クルド人」でRT数が10以上を見るとバッシングと言える内容の投稿はほぼ見受けられない。ただし例えば外国人排外投稿を主に行いデマも多い高安カミユによるクルド人の危険性を煽る投稿なども存在はする

*3:当該アカウントはそれ以前から「クルド人」を含む投稿をしていたが、ここまでの執拗な投稿はこの時期から

*4:ヤマオカのHPはないが、こちらの学校の「ヤギさんと散歩」というページを見ると状況がわかる。

*5:「関係機関」が何処までかは不明だが、こちらとしては埼玉警察に問い合わせを行っていた。しかしながら問い合わせをしてから1か月以上たっても返答がない事から警察が情報を持っているかまでは不明。

*6:例えば「河原」で検索しても記事はヒットしない

穴水高校における自販機破壊案件に関してのメモ ~読売新聞を含めた記事の変遷~

nou-yunyun.hatenablog.com

 上記内容の続き。
 1月20日に読売の報道があり、それ以降も他社を含めた複数の報道が存在。この記事では読売を中心としたそれらの報道の流れを見てゆく。

1月6日

 まず、6日朝に読売新聞が「石川・穴水の避難所、40~50代の集団が自販機破壊し金銭盗む…目撃者「避難所がパニックに」」という記事を掲載する。この記事の大きな特徴(印象付け)としては下記の部分が挙げられる。

同日午後8時頃、校庭に金沢ナンバーの車が見え、40~50歳代の男女4、5人の集団が校内に入ってきた。集団は「緊急だから」とだけ話し、女の指示を受けた複数の男がチェーンソーとみられる道具を使って自動販売機を破壊し、飲料水や金銭を盗んだという。

「金沢ナンバー」とあり県内ではあるものの地元以外の人間でありえそうなことであり、震災後数日後に流布した地元以外の不審車両デマを想起させる表現である事。この部分は「金沢ナンバー」が事実であるので読売が不審車両デマを意識してまで用いたのかは不明だが表現手法としては同類のものと言える。またそのあとに「4、5人の集団」、「道具での自販機破壊」、「飲料水や金銭を盗んだ」という書きぶりから「震災に乗じた窃盗団」を思わせる記事内容になっている事は指摘できる。なのでこの記事が当初報道された時点では「震災に乗じた窃盗団についての報道」という反応が多数見られた。しかし、この読売記事は避難所にいてこの件に関わったであろう当事者アカウントからの反論、また6日夜の北國新聞〈1.1大震災〉自販機破壊、避難者のためだった 「飲料水確保するため」 穴水高」によって自販機破損に関しては飲料水などを確保する為に避難者の一部による行為であり、また石川県警によって「事件性はない」という判断がされたという追加報道が行われる。つまり、この時点で読売の報道が匂わす「窃盗団」的な存在はいないことがほぼ明らかになる。

1月20日

 そこから少し時が過ぎての20日に読売は追加報道として「石川・穴水の高校に設置の自販機破壊、北陸コカ・コーラが被害届…住民ら100人避難先」を掲載して話(論点)が変わってくる。初報からの一番の変更点は「窃盗団」というニュアンスを消した報道といえ、例えば6日の読売記事に記述のあった「飲料水や金銭を盗んだ」という表現は消え、以下のように「飲料を取り出して避難者らに配った」としている。

目撃した男性らによると、同校には1日午後4時過ぎの地震発生後、住民ら100人ほどが次々と避難してきた。午後8時頃、4、5人の男女が「緊急だから」と周囲に告げながら校内にある自販機を工具でこじ開け、内部も破壊し、飲料を取り出して避難者らに配ったという。

また「金沢ナンバー」という情報も消えており地元以外の人間であることを示唆する情報も消えている。この様に「窃盗」という部分は後退してはいるものの無断で自販機破壊と共に次のように「校舎は施錠されていた」、「窓ガラスなどが壊れていたため、校舎内に立ち入ることができた」などの無断侵入を想起させる表現があり、違法性を匂わせる部分は存在する。

校長によると、校舎には当時、同校の教諭や事務員はおらず、自販機を破壊する許可は出していなかった。校舎は施錠されていたが、地震で窓ガラスなどが壊れていたため、校舎内に立ち入ることができたという。

後述する21日の記事を見ればわかるが事件とされる20時には校内に100人ほど避難者が存在しており、ならば全避難者が(おそらく)無断で侵入したともいえる。この表現部分は読者に対して当時の避難所の状況説明をしただけともいえるが、ミスリードを誘っているとの判断も可能とはいえる(ちなみに続報である21日版だと「校舎は施錠されていた」という表現はない。とはいえ文脈から施錠されていたとは判断はできる)。そして20日の読売記事の一番のポイントは見出しにもある「北陸コカ・コーラによる石川県警の被害届」だろう。読売としてはこれをもってして初報が誤報ではない、というロジックになると思われるが*1、当初匂わせた「窃盗団」的な存在を有耶無耶にして「無断で自販機破壊」のみに焦点を当てていることから内容の軌道修正が見られる。記事の最後にコカ・コーラの担当者が「自販機を壊してもいいという許可は出していない。緊急時だからといって、壊して飲料を取り出すことを認めることは出来ない」という言葉を紹介していることからも論点をこちらにずらしている。しかしこの北陸コカ・コーラの担当者の発言に関しては、北國新聞が21日朝に「穴水高の自販機破壊で被害届 北陸コカ「罰したいわけでない」」という記事をアップしておりそのニュアンスの違いが興味深い。内容としては「罰したいわけではなく、自販機を破壊された以上、被害届を提出しなければならない」とある様に実行者そのものへの刑罰を望んでいるとは言いにくい。また緊急時には壊さずに自販機に表示された問い合わせ先に連絡という旨も紹介しており、情報そのものはそこまで違わないものの論調は読売よりも温情的といえる。少なくとも北國は実行者たちを「犯人」かの様な書き方をしていないといえる。この発言を20日記事の読売新聞を把握していないとは考えづらく、意図的に今の様な表現にしているとも考えられる。

1月21日

 そして21日朝にも読売は「避難先の自販機破壊は計3台、責任者の許可得ず…カギ開ければ無料で取り出せる「災害支援型」」という記事を出している。より詳細な記事であり、論調そのものは20日の記事のアップデート版と言える。ただし、以下の様な差異も存在する。

複数の学校関係者の話では、校長や事務長などの責任者は不在だった。

上記は21日の記事だが、20日の記事では「校長によると、校舎には当時、同校の教諭や事務員はおらず」とあり、責任者ではなく学校関係者の不在ととれる表現であった。これが21日の記事では「複数の学校関係者」による発言として「責任者は不在」となり微妙に修正が図られている。つまりはいつ取材をしたかは不明だが20日記事の「校長」の認識は関係者の不在だったが、「複数の学校関係者」の認識では責任者の不在であり、とすると教諭などの関係者は発災日当時に現場にはいたと考えられる。校長に関しては1月4日に初めて学校に訪れたという証言もあり*2、校長は発災当日の状況に関しての認識が拙い可能性、ひいては校長に対する当時の状況の情報伝達が正しく行われていたのか疑問符がある。それと21日版には20日版にあった「校舎は施錠されていた」という表現が消え、地震で窓ガラスなどが壊れていたために立ち入ることが出来たという表現も次のように微妙な言い回しの違いが見られるし、さらに今までにない情報として次のようなものをあげ、この自販機破壊は避けられた案件だったのではないかという可能性を示している。

災害時には鍵で扉を開け、無料で商品を取り出せる「災害支援型」だった。校長によると、鍵は学校が同社から預かり、事務室で管理していたという。学校の責任者に連絡していれば、自販機を壊さなくても飲料を確保できた可能性がある。

また記事の締めとして専門家のインタビューとして犯罪行為に当たる可能性や冷静な対応を求める発言を取っており、論調としては自販機破壊という行為そのものに懐疑的で拙速な行動であったのではないかということが見て取れる。この21日記事も20日記事と同じく「窃盗団」というニュアンスは消えており、自販機破壊の是非の様な話へと論点が移っている。そしてこの記事によって壊された自販機は3台あるとするが北陸コカ・コーラ以外の明治、雪印メグミルクは現状のところ被害届を出したという情報はない。
 21日夕方に今度は中日新聞が「地震直後の避難所で自販機3台壊し飲料を確保 「罪に問われる可能性」と弁護士指摘、非常時なのに?」という記事を掲載する。ここで次のようなことが明らかになる。

100人以上が避難した同校は停電して自販機が利用できなかった。車中泊をしていた女性は複数の避難者が「飲み物が必要だから自販機を壊そう」と話すのを聞き、ジュースを受け取った。「物資がない中でうれしかった」と振り返る。

件の自販機は「災害支援型」であり災害時に無料で商品がとれるタイプだったものの、当時の穴水高校は停電によって自販機が利用できない状況だった。読売がなぜ停電によって自販機が使用できない状況であったのかを記述しなかったのかは不明だが(付け加えればこの日の記事に限らず、読売の一連の記事において「停電で使用できなかった」旨は記述されていない。)、カギがあれば開けられたという状況の説明をするならばこちらの情報も必要だったと思われる。記事内容自体はやはり自販機損壊の是非、というよりも専門的に見ればやはり次の指摘に収束はするのだろう。

今回は管理会社に連絡するなど他に取るべき手段があったため、緊急避難に当たるとは考えづらく、民法上の損害賠償責任を負う可能性も高い。

なお同記者によるほぼ同内容の記事が1月22日の東京新聞「非常時とはいえ…飲み物確保のために「自販機破壊」は許されるのか 能登半島地震直後、避難場所で発生」という記事名で掲載。特に新しい内容はないが、中日新聞版にはない”お金の保管場所も壊された。”という表現があり、ここだけ読むと金銭が盗まれた可能性があることを匂わせているとはいえるが、盗まれたかどうかは記事だけを読むと不明。

1月23日

 23日朝にも読売は「自販機破壊で1人から謝罪、北陸コカ・コーラは弁済求めず」という記事を掲載。この記事によって破壊した一人からの謝罪及び、北陸コカ・コーラは以下のように北陸新聞時記事の様に罰するつもりさないこと、そして弁済は求めず被害届は経理上の都合であるとも記載している。

「罰するつもりはない。平時であれば被害弁済を求めるが、今回は事情が異なるため申し出を断った」としている。被害届については、自販機損失の経理上の都合で取り下げる予定はないという。

読売の初報からの流れを考えるとこの部分は「犯人による罪の告白とそれを許す権利者」という邪推もできる構造ではある。20日北國新聞には同じニュアンスで存在した北陸コカ・コーラの温情的とも言えるコメントが23日版にようやく書かれているが、その遅さにはやや意図的なものを感じざるを得ない。
 そしてこの23日には産経新聞「切羽詰まり」 能登地震の混乱で自販機破壊 関与の女性が謝罪 災害支援型も停電で機能せず」とNHKによる記事「地震発生時 住民が避難した穴水町の高校で自動販売機壊される」という記事も掲載される。この二つの記事は各社の初報だけあって状況説明と謝罪の件などが記述され、当時責任者が不在であったことも書かれているが、一連の報道の流れとして注目すべきは次の場所だろう。

<産経記事>
同社によると、被害を受けた自販機は、災害時に専用キーを差し込むと支払いなしに商品が得られる状態になる「災害支援型」だった。キーは学校側が管理していたが、同社広報担当者は「当時は停電していて自販機が通電しておらず、仮にキーがあっても無償で取り出すことはできなかった」とする。

 

NHK
設置していた自動販売機は「災害支援型」と呼ばれるタイプのもので、通電していれば、管理者やメーカーの担当者が専用の鍵を使って操作することで飲み物を無料で取り出せるようになるということです。
ただ、穴水町では、地震のあと全域で停電となり、当日は元日で鍵を管理している教職員がいなかったため、災害支援のための機能が使えなかったと見られるということです。
メーカーでは、停電時でも作動する自動販売機の展開を始めているということで、今後、増やしていくことも検討しているということです

NHK記事であるとカギには触れてないのでわかりづらいが、産経の記事によって読売の21日版にある「カギ開ければ無料で取り出せる「災害支援型」」という見出しに対して、カギが例えあっても飲料などが取り出せなかった可能性が高いことを示唆しており読売記事は記事の状況説明が足らないと指摘できる。なお事業者は上記二つの記事に限らず緊急連絡先に連絡してほしいという話もあるしそれは正論でもあるのだが、そもそも緊急連絡先に連絡が不可能な状況でもあったために実行が難しいアドバイスでもある。それと派生記事としてNHKは24日に「自販機 災害時どうすれば?災害支援型には複数のタイプが…」という記事も掲載している。記事では事件の概要に触れつつ停電しているときでも取り出せるタイプであるバッテリー式、ハンドル充電式、ワイヤー式などの説明がされており、23日記事を含めて今後の災害支援用自販機が変わっていく可能性を示唆している。それと23日には中日新聞も「自販機を壊した女性、コカ・コーラへ謝罪 「気が動転」告訴はしない方針」という記事を掲載するが、こちらには新情報と言えるものはないので内容は割愛。

1月24日

 1月24日の日テレ「災害時の自販機…どう活用? “無料で取り出し”「災害支援型自販機」」が放送される。この記事も今までのまとめの様な内容だが、他の記事にはなく、そして重要なのは以下の一文である。

北陸コカ・コーラによると、自販機の中にあったお金は警察に預けられていたそうです。

これによりようやく1月6日の読売記事にある「自販機破壊し金銭盗む」の、「金銭盗む」が否定されたといえる。この記事では北陸コカ・コーラのみについての記述であり、他の二社の自販機の金銭についても同様の対応を行われたのかは不明だが通常の思考で考えれば他の二社の金銭は盗まれていたという可能性は低いだろう。つまり読売新聞の初報である「自販機破壊」に対しては否定もしようのない事実だが、同見出しに存在した「金銭盗む」という窃盗団的な報道部分は誤報であったと言える。読売を含めて20日以降の各社の記事にこの「金銭を盗んだ」という件について一切触れられていなかったのはその様な事実はなかったからだろう。そして読売はその部分についての弁明をせずに一連の報道をしていたことになる。また「飲料水や金銭を盗んだ」の飲料部分についても他二社である雪印メグミルクと明治の対応は未だ不明だが、少なくとも北陸コカ・コーラは日テレ記事に「弁済を求めず刑事告訴もしない」とあり、報道における警察の動きなどを見る限りも窃盗扱いはされない可能性が高そうではある。

 
 穴水高校の自販機破壊案件に対する報道は2月2日時点では1月24日の報道が最後となり、それ以上の報道の進展は見られない。なお私的にだが1月21日に穴水高校に対して「金銭的盗難があったか」、「その場に教諭などがいたか」、「学校施設に無断で入ったという認識は正しいか」などを訪ねたメールを送付したものの現状では返事は戻ってきておらず、10日以上経過したことを考えればおそらく返事はないだろうと思われる。震災対応などで良くわからない個人からの問い合わせに答える余裕はないとも思われるので致し方ないが、惜しむべくは現段階の報道ベースにおいて「穴水高校」の公式見解の様なものは存在しないということ。責任者として「校長」の発言が存在するがこの校長は当時現場にはおらず、当時教諭が現場にいなかったなどの発言は「複数の学校関係者」との発言と齟齬をきたす可能性があり、事実認識があやふやという欠点がある。また自販機破壊報道に対して読売に強い反論をしていたアカウントは当時事務長がいたという投稿を幾度かしており、それなりに具体的に何故そう思ったのかを述べている*3。これらの発言は意図的な虚偽の可能性もゼロとはいえないが、あえてそこまでの虚偽をいうメリットも薄く感じられ、その書きぶりからは事務長がいたか事務長と誤認出来る相手と説明者が現場に存在した可能性が高い。とはいえ、ここの状況に関して「学校」としての正式な意見を得ることはどうやら難しそうだ。
 以上、結局詳細が不明な部分がどうしても拭えない部分があるのだが追えるのはひとまずここまでとなりそう。今回、能登半島地震の発生時間は1日16時10分。ここから避難が始まったと考えると夕飯などを取らずにそのまま避難してきた人間も多いと考えられ、ちょうど夜になると飲食が欲しくなる頃合いで、そして指定避難先ではなかった穴水高校では備蓄食料も特になく、あるのは災害支援型だが停電で使用できない自販機のみ。責任者か、少なくとも鍵の存在を知る人間がおそらく近くにはおらず、そして当時穴水高校で電話はほぼできなかった状況であったことは想像に難くない。緊急時のシミューションとしてどうすべきかと考えると難しいところはあるのだと考えられる。ただ開けるための器具が手元にあったかという要素もあるだろうが、同様の状況に陥った地域自体は複数はあったろうものの自販機破壊をした案件はこの穴水高校だけともいえる。また自販機破壊というレベルまではいかなくとも類似の案件として避難所の玄関などを破壊して「侵入」した案件は複数存在している。例えば富山チューリップテレビ津波が来る!でも避難所の鍵が開かない…学校の窓ガラス割るケース相次ぎトラブルも 富山」、朝日新聞金沢の避難所8校で玄関周辺破損 解錠方法わからず?住民周知が課題」などがそれだ。元日の災害というイレギュラーとはいえ関係者がいない閉まっている避難所に入るための緊急対応としての「器物破損」はおそらくこれらの記事以上に発生している可能性はあり、今後の防災と避難を考える際の課題ともいえそう。だがしかしそれらはともかくとしてこれでは「自販機破壊の是非」という論調に乗せられてしまっている。初報では「窃盗行為」の方に報道のフレームがあったはずだ。それが後景に追いやられているが、その部分だけを見れば読売の初報の表現は取材が足りていない部分は否めずに誤報的な要素を含む記事だったことは拭えないとはいえるのではないかと。



■お布施用ページ
note.com

*1:故に前回弊ブログで記述した記事のタイトルから「誤報」を外して、お詫び文を載せるに至る。

*2:詳しくは前回記事を参照

*3:例えば「男性教諭、女性事務長、役場職員もご家族で一日から穴水高校へ避難」、「事務長、ずっとおられたよ。私は穴水町高校在籍の高校生から紹介されたので間違いありません。」などの投稿。