電脳塵芥

四方山雑記

難民に認定された人の月収「37万5千円」はデマだよ


https://twitter.com/shop_kakiko/status/1761342567524831286

 この投稿がバズっていた。元ネタは次の「城之内みな」による投稿。


https://twitter.com/7Znv478Zu8TnSWj/status/1760797167915352088

難民と認められると「年間450万円」という投稿はこれ以前も一応存在するが*1、一気に拡散したのは上記の「城之内みな」によるアカウントの投稿がおそらくは初。そしてこれがNewsSharingというまとめサイトによってまとめられて拡散される。


https://twitter.com/newssharing1/status/1760939849463545859

そしてそれを受けた反応があり、


https://twitter.com/airi_fact_555/status/1760970572107010073

その反応がJAPAN NEWS NAVIというこれまたまとめサイトに転載されて、


https://twitter.com/JapanNNavi/status/1761229950601048333


https://twitter.com/mattariver1/status/1761232062462493182

こういった反応や、冒頭の投稿へと繋がっていく。コミュニティノートがある様にこれはデマなのだが、そのデマ情報がまとめサイトに転載され、さらにその記事への反応を転載したまとめサイトやアカウントによってさらに拡散していくという、デマの転載拡大再生産の様相を見せる。
 そして冒頭の月収については「450万÷12か月=月当たり37.5万円」という考えで至ったのだろう。指摘内容はコミュニティノートに準拠するが、まず城之内みなは内閣官房の資料である2012年6月19日「諸外国における第三国定住による難民の受入れの概要」をソースにしている(コミュニティノートも同じ資料)。そこに次のような記述がある。

(1)中央省庁における予算措置
日本の場合,おおむね難民1人当たり約450万円の中央省庁における予算措置がされているが,例えば,ニュージーランドでは約490万円,米国では約110万円,カナダでは約80万円,スウェーデンでは約240万円となっている。
(参考1)
日本(パイロットケース)では, 政府予算は約1億3,500万円(注)であり,年間約30人を受け入れる場合,難民1人当たり予算額は約4 50万円となる。
(注)平成23年度の外務省,文化庁及び厚生労働省の委託費予算であり,一部に条約難民の定住支援に関する予算を含む。また,定住支援施設の手当に係る予算は含まれていない。

ここの記述は当時の政府予算である1億3500万円で難民を年間30人受け入れた場合の一人当たりの予算額であり、難民一人当たりの「年間支給額」ではない。さらに言えば外務省、文化庁厚生労働省の委託費予算の合算であり、その内訳はこの資料からは不明であるし、定住支援施設の手当てにかかる予算は含まれていないなど、正直言ってこの資料から「金額」を云々言うのは意味がないし、資料が読めていない。ちなみにコミュニティノートは額としては次の文言を引用している。、

(2)中央省庁による第三国定住難民への生活支援
日本(当初の180日間)では,収入補助等として,月額約4万5千円の生活費支給,住居(受託団体が手当。1世帯当たり家賃12万円前後)への入居等の支援や,一時金(約15万7千円)の支給などの支援がある。

ただしこれは「第三国定住難民」に対する支援であり、第三国の難民キャンプにいた難民を日本で受け入れた際のプログラムである事には留意が必要*2。日本での難民申請からの難民認定者(条約難民)へのプログラムとは若干異なる。


出典:文化庁政府の難民等に対する定住支援体制」より

日本における難民支援はアジア福祉教育財団の難民事業本部(RHQ)が行っており、そこには難民認定者に対する「月収」と呼べるような保護費の情報は存在せず、難民への支給として見当たるのは教育訓練援助金くらいとなる。これは日本国内の学校に入学した難民への一時金であり、最高額でも大学入学時の10万円となる。「生活に困っている」という相談項目もあるが、ここでは「難民申請者」に対する支援の話であり月当たり大人4万8千円の支給額となっている。この資料には住宅費がいくら出るのかは書いていないが、難民支援協会によれば月当たり単身で6万円、4人家族で8万円だと書いてある。なおこの申請中の保護費に関して、難民支援協会によれば認定の結果が出るまでは就労して自活することが想定されているとあり、保護費は来日後から就労資格が付与されるまでの限られた期間の支援と位置づけられているとある。この期間などについては2018年の改正などによる影響もあるようなのだが、その部分は割愛し、近年の申請者の保護費受給者の割合を見ていくと次のようになる。


出典:難民支援協会より

このデータを見る限りは、大抵の申請者は自活している事となる。そしてそれは難民認定を受けた後も同様と考えられる。RHQにしても難民支援協会にしても難民認定後に保護費、冒頭のアカウントが言う様な「月収」の存在などは微塵も感じられない。就労支援、定住支援などの存在は確認できるが直接的と言えるが、それは「月収」でばない。そもそもこれは資料を読めない人間が誤読した事に端を発し、ネット右派とまとめサイトロンダリングによって反難民感情に付け込んできたデマといえる。



■お布施用ページ
note.com

*1:2月21日に同資料をソースにしていると思われる類似の投稿がされている(その1その2)。関連性は不明。

*2:ちなみに第三国定住難民の現在の生活費額はRHQの説明を読む限りは2012年資料とほぼ変わらない。