電脳塵芥

四方山雑記

穴水高校における自販機破壊案件に関してのメモ ~読売新聞を含めた記事の変遷~

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 上記内容の続き。
 1月20日に読売の報道があり、それ以降も他社を含めた複数の報道が存在。この記事では読売を中心としたそれらの報道の流れを見てゆく。

1月6日

 まず、6日朝に読売新聞が「石川・穴水の避難所、40~50代の集団が自販機破壊し金銭盗む…目撃者「避難所がパニックに」」という記事を掲載する。この記事の大きな特徴(印象付け)としては下記の部分が挙げられる。

同日午後8時頃、校庭に金沢ナンバーの車が見え、40~50歳代の男女4、5人の集団が校内に入ってきた。集団は「緊急だから」とだけ話し、女の指示を受けた複数の男がチェーンソーとみられる道具を使って自動販売機を破壊し、飲料水や金銭を盗んだという。

「金沢ナンバー」とあり県内ではあるものの地元以外の人間でありえそうなことであり、震災後数日後に流布した地元以外の不審車両デマを想起させる表現である事。この部分は「金沢ナンバー」が事実であるので読売が不審車両デマを意識してまで用いたのかは不明だが表現手法としては同類のものと言える。またそのあとに「4、5人の集団」、「道具での自販機破壊」、「飲料水や金銭を盗んだ」という書きぶりから「震災に乗じた窃盗団」を思わせる記事内容になっている事は指摘できる。なのでこの記事が当初報道された時点では「震災に乗じた窃盗団についての報道」という反応が多数見られた。しかし、この読売記事は避難所にいてこの件に関わったであろう当事者アカウントからの反論、また6日夜の北國新聞〈1.1大震災〉自販機破壊、避難者のためだった 「飲料水確保するため」 穴水高」によって自販機破損に関しては飲料水などを確保する為に避難者の一部による行為であり、また石川県警によって「事件性はない」という判断がされたという追加報道が行われる。つまり、この時点で読売の報道が匂わす「窃盗団」的な存在はいないことがほぼ明らかになる。

1月20日

 そこから少し時が過ぎての20日に読売は追加報道として「石川・穴水の高校に設置の自販機破壊、北陸コカ・コーラが被害届…住民ら100人避難先」を掲載して話(論点)が変わってくる。初報からの一番の変更点は「窃盗団」というニュアンスを消した報道といえ、例えば6日の読売記事に記述のあった「飲料水や金銭を盗んだ」という表現は消え、以下のように「飲料を取り出して避難者らに配った」としている。

目撃した男性らによると、同校には1日午後4時過ぎの地震発生後、住民ら100人ほどが次々と避難してきた。午後8時頃、4、5人の男女が「緊急だから」と周囲に告げながら校内にある自販機を工具でこじ開け、内部も破壊し、飲料を取り出して避難者らに配ったという。

また「金沢ナンバー」という情報も消えており地元以外の人間であることを示唆する情報も消えている。この様に「窃盗」という部分は後退してはいるものの無断で自販機破壊と共に次のように「校舎は施錠されていた」、「窓ガラスなどが壊れていたため、校舎内に立ち入ることができた」などの無断侵入を想起させる表現があり、違法性を匂わせる部分は存在する。

校長によると、校舎には当時、同校の教諭や事務員はおらず、自販機を破壊する許可は出していなかった。校舎は施錠されていたが、地震で窓ガラスなどが壊れていたため、校舎内に立ち入ることができたという。

後述する21日の記事を見ればわかるが事件とされる20時には校内に100人ほど避難者が存在しており、ならば全避難者が(おそらく)無断で侵入したともいえる。この表現部分は読者に対して当時の避難所の状況説明をしただけともいえるが、ミスリードを誘っているとの判断も可能とはいえる(ちなみに続報である21日版だと「校舎は施錠されていた」という表現はない。とはいえ文脈から施錠されていたとは判断はできる)。そして20日の読売記事の一番のポイントは見出しにもある「北陸コカ・コーラによる石川県警の被害届」だろう。読売としてはこれをもってして初報が誤報ではない、というロジックになると思われるが*1、当初匂わせた「窃盗団」的な存在を有耶無耶にして「無断で自販機破壊」のみに焦点を当てていることから内容の軌道修正が見られる。記事の最後にコカ・コーラの担当者が「自販機を壊してもいいという許可は出していない。緊急時だからといって、壊して飲料を取り出すことを認めることは出来ない」という言葉を紹介していることからも論点をこちらにずらしている。しかしこの北陸コカ・コーラの担当者の発言に関しては、北國新聞が21日朝に「穴水高の自販機破壊で被害届 北陸コカ「罰したいわけでない」」という記事をアップしておりそのニュアンスの違いが興味深い。内容としては「罰したいわけではなく、自販機を破壊された以上、被害届を提出しなければならない」とある様に実行者そのものへの刑罰を望んでいるとは言いにくい。また緊急時には壊さずに自販機に表示された問い合わせ先に連絡という旨も紹介しており、情報そのものはそこまで違わないものの論調は読売よりも温情的といえる。少なくとも北國は実行者たちを「犯人」かの様な書き方をしていないといえる。この発言を20日記事の読売新聞を把握していないとは考えづらく、意図的に今の様な表現にしているとも考えられる。

1月21日

 そして21日朝にも読売は「避難先の自販機破壊は計3台、責任者の許可得ず…カギ開ければ無料で取り出せる「災害支援型」」という記事を出している。より詳細な記事であり、論調そのものは20日の記事のアップデート版と言える。ただし、以下の様な差異も存在する。

複数の学校関係者の話では、校長や事務長などの責任者は不在だった。

上記は21日の記事だが、20日の記事では「校長によると、校舎には当時、同校の教諭や事務員はおらず」とあり、責任者ではなく学校関係者の不在ととれる表現であった。これが21日の記事では「複数の学校関係者」による発言として「責任者は不在」となり微妙に修正が図られている。つまりはいつ取材をしたかは不明だが20日記事の「校長」の認識は関係者の不在だったが、「複数の学校関係者」の認識では責任者の不在であり、とすると教諭などの関係者は発災日当時に現場にはいたと考えられる。校長に関しては1月4日に初めて学校に訪れたという証言もあり*2、校長は発災当日の状況に関しての認識が拙い可能性、ひいては校長に対する当時の状況の情報伝達が正しく行われていたのか疑問符がある。それと21日版には20日版にあった「校舎は施錠されていた」という表現が消え、地震で窓ガラスなどが壊れていたために立ち入ることが出来たという表現も次のように微妙な言い回しの違いが見られるし、さらに今までにない情報として次のようなものをあげ、この自販機破壊は避けられた案件だったのではないかという可能性を示している。

災害時には鍵で扉を開け、無料で商品を取り出せる「災害支援型」だった。校長によると、鍵は学校が同社から預かり、事務室で管理していたという。学校の責任者に連絡していれば、自販機を壊さなくても飲料を確保できた可能性がある。

また記事の締めとして専門家のインタビューとして犯罪行為に当たる可能性や冷静な対応を求める発言を取っており、論調としては自販機破壊という行為そのものに懐疑的で拙速な行動であったのではないかということが見て取れる。この21日記事も20日記事と同じく「窃盗団」というニュアンスは消えており、自販機破壊の是非の様な話へと論点が移っている。そしてこの記事によって壊された自販機は3台あるとするが北陸コカ・コーラ以外の明治、雪印メグミルクは現状のところ被害届を出したという情報はない。
 21日夕方に今度は中日新聞が「地震直後の避難所で自販機3台壊し飲料を確保 「罪に問われる可能性」と弁護士指摘、非常時なのに?」という記事を掲載する。ここで次のようなことが明らかになる。

100人以上が避難した同校は停電して自販機が利用できなかった。車中泊をしていた女性は複数の避難者が「飲み物が必要だから自販機を壊そう」と話すのを聞き、ジュースを受け取った。「物資がない中でうれしかった」と振り返る。

件の自販機は「災害支援型」であり災害時に無料で商品がとれるタイプだったものの、当時の穴水高校は停電によって自販機が利用できない状況だった。読売がなぜ停電によって自販機が使用できない状況であったのかを記述しなかったのかは不明だが(付け加えればこの日の記事に限らず、読売の一連の記事において「停電で使用できなかった」旨は記述されていない。)、カギがあれば開けられたという状況の説明をするならばこちらの情報も必要だったと思われる。記事内容自体はやはり自販機損壊の是非、というよりも専門的に見ればやはり次の指摘に収束はするのだろう。

今回は管理会社に連絡するなど他に取るべき手段があったため、緊急避難に当たるとは考えづらく、民法上の損害賠償責任を負う可能性も高い。

なお同記者によるほぼ同内容の記事が1月22日の東京新聞「非常時とはいえ…飲み物確保のために「自販機破壊」は許されるのか 能登半島地震直後、避難場所で発生」という記事名で掲載。特に新しい内容はないが、中日新聞版にはない”お金の保管場所も壊された。”という表現があり、ここだけ読むと金銭が盗まれた可能性があることを匂わせているとはいえるが、盗まれたかどうかは記事だけを読むと不明。

1月23日

 23日朝にも読売は「自販機破壊で1人から謝罪、北陸コカ・コーラは弁済求めず」という記事を掲載。この記事によって破壊した一人からの謝罪及び、北陸コカ・コーラは以下のように北陸新聞時記事の様に罰するつもりさないこと、そして弁済は求めず被害届は経理上の都合であるとも記載している。

「罰するつもりはない。平時であれば被害弁済を求めるが、今回は事情が異なるため申し出を断った」としている。被害届については、自販機損失の経理上の都合で取り下げる予定はないという。

読売の初報からの流れを考えるとこの部分は「犯人による罪の告白とそれを許す権利者」という邪推もできる構造ではある。20日北國新聞には同じニュアンスで存在した北陸コカ・コーラの温情的とも言えるコメントが23日版にようやく書かれているが、その遅さにはやや意図的なものを感じざるを得ない。
 そしてこの23日には産経新聞「切羽詰まり」 能登地震の混乱で自販機破壊 関与の女性が謝罪 災害支援型も停電で機能せず」とNHKによる記事「地震発生時 住民が避難した穴水町の高校で自動販売機壊される」という記事も掲載される。この二つの記事は各社の初報だけあって状況説明と謝罪の件などが記述され、当時責任者が不在であったことも書かれているが、一連の報道の流れとして注目すべきは次の場所だろう。

<産経記事>
同社によると、被害を受けた自販機は、災害時に専用キーを差し込むと支払いなしに商品が得られる状態になる「災害支援型」だった。キーは学校側が管理していたが、同社広報担当者は「当時は停電していて自販機が通電しておらず、仮にキーがあっても無償で取り出すことはできなかった」とする。

 

NHK
設置していた自動販売機は「災害支援型」と呼ばれるタイプのもので、通電していれば、管理者やメーカーの担当者が専用の鍵を使って操作することで飲み物を無料で取り出せるようになるということです。
ただ、穴水町では、地震のあと全域で停電となり、当日は元日で鍵を管理している教職員がいなかったため、災害支援のための機能が使えなかったと見られるということです。
メーカーでは、停電時でも作動する自動販売機の展開を始めているということで、今後、増やしていくことも検討しているということです

NHK記事であるとカギには触れてないのでわかりづらいが、産経の記事によって読売の21日版にある「カギ開ければ無料で取り出せる「災害支援型」」という見出しに対して、カギが例えあっても飲料などが取り出せなかった可能性が高いことを示唆しており読売記事は記事の状況説明が足らないと指摘できる。なお事業者は上記二つの記事に限らず緊急連絡先に連絡してほしいという話もあるしそれは正論でもあるのだが、そもそも緊急連絡先に連絡が不可能な状況でもあったために実行が難しいアドバイスでもある。それと派生記事としてNHKは24日に「自販機 災害時どうすれば?災害支援型には複数のタイプが…」という記事も掲載している。記事では事件の概要に触れつつ停電しているときでも取り出せるタイプであるバッテリー式、ハンドル充電式、ワイヤー式などの説明がされており、23日記事を含めて今後の災害支援用自販機が変わっていく可能性を示唆している。それと23日には中日新聞も「自販機を壊した女性、コカ・コーラへ謝罪 「気が動転」告訴はしない方針」という記事を掲載するが、こちらには新情報と言えるものはないので内容は割愛。

1月24日

 1月24日の日テレ「災害時の自販機…どう活用? “無料で取り出し”「災害支援型自販機」」が放送される。この記事も今までのまとめの様な内容だが、他の記事にはなく、そして重要なのは以下の一文である。

北陸コカ・コーラによると、自販機の中にあったお金は警察に預けられていたそうです。

これによりようやく1月6日の読売記事にある「自販機破壊し金銭盗む」の、「金銭盗む」が否定されたといえる。この記事では北陸コカ・コーラのみについての記述であり、他の二社の自販機の金銭についても同様の対応を行われたのかは不明だが通常の思考で考えれば他の二社の金銭は盗まれていたという可能性は低いだろう。つまり読売新聞の初報である「自販機破壊」に対しては否定もしようのない事実だが、同見出しに存在した「金銭盗む」という窃盗団的な報道部分は誤報であったと言える。読売を含めて20日以降の各社の記事にこの「金銭を盗んだ」という件について一切触れられていなかったのはその様な事実はなかったからだろう。そして読売はその部分についての弁明をせずに一連の報道をしていたことになる。また「飲料水や金銭を盗んだ」の飲料部分についても他二社である雪印メグミルクと明治の対応は未だ不明だが、少なくとも北陸コカ・コーラは日テレ記事に「弁済を求めず刑事告訴もしない」とあり、報道における警察の動きなどを見る限りも窃盗扱いはされない可能性が高そうではある。

 
 穴水高校の自販機破壊案件に対する報道は2月2日時点では1月24日の報道が最後となり、それ以上の報道の進展は見られない。なお私的にだが1月21日に穴水高校に対して「金銭的盗難があったか」、「その場に教諭などがいたか」、「学校施設に無断で入ったという認識は正しいか」などを訪ねたメールを送付したものの現状では返事は戻ってきておらず、10日以上経過したことを考えればおそらく返事はないだろうと思われる。震災対応などで良くわからない個人からの問い合わせに答える余裕はないとも思われるので致し方ないが、惜しむべくは現段階の報道ベースにおいて「穴水高校」の公式見解の様なものは存在しないということ。責任者として「校長」の発言が存在するがこの校長は当時現場にはおらず、当時教諭が現場にいなかったなどの発言は「複数の学校関係者」との発言と齟齬をきたす可能性があり、事実認識があやふやという欠点がある。また自販機破壊報道に対して読売に強い反論をしていたアカウントは当時事務長がいたという投稿を幾度かしており、それなりに具体的に何故そう思ったのかを述べている*3。これらの発言は意図的な虚偽の可能性もゼロとはいえないが、あえてそこまでの虚偽をいうメリットも薄く感じられ、その書きぶりからは事務長がいたか事務長と誤認出来る相手と説明者が現場に存在した可能性が高い。とはいえ、ここの状況に関して「学校」としての正式な意見を得ることはどうやら難しそうだ。
 以上、結局詳細が不明な部分がどうしても拭えない部分があるのだが追えるのはひとまずここまでとなりそう。今回、能登半島地震の発生時間は1日16時10分。ここから避難が始まったと考えると夕飯などを取らずにそのまま避難してきた人間も多いと考えられ、ちょうど夜になると飲食が欲しくなる頃合いで、そして指定避難先ではなかった穴水高校では備蓄食料も特になく、あるのは災害支援型だが停電で使用できない自販機のみ。責任者か、少なくとも鍵の存在を知る人間がおそらく近くにはおらず、そして当時穴水高校で電話はほぼできなかった状況であったことは想像に難くない。緊急時のシミューションとしてどうすべきかと考えると難しいところはあるのだと考えられる。ただ開けるための器具が手元にあったかという要素もあるだろうが、同様の状況に陥った地域自体は複数はあったろうものの自販機破壊をした案件はこの穴水高校だけともいえる。また自販機破壊というレベルまではいかなくとも類似の案件として避難所の玄関などを破壊して「侵入」した案件は複数存在している。例えば富山チューリップテレビ津波が来る!でも避難所の鍵が開かない…学校の窓ガラス割るケース相次ぎトラブルも 富山」、朝日新聞金沢の避難所8校で玄関周辺破損 解錠方法わからず?住民周知が課題」などがそれだ。元日の災害というイレギュラーとはいえ関係者がいない閉まっている避難所に入るための緊急対応としての「器物破損」はおそらくこれらの記事以上に発生している可能性はあり、今後の防災と避難を考える際の課題ともいえそう。だがしかしそれらはともかくとしてこれでは「自販機破壊の是非」という論調に乗せられてしまっている。初報では「窃盗行為」の方に報道のフレームがあったはずだ。それが後景に追いやられているが、その部分だけを見れば読売の初報の表現は取材が足りていない部分は否めずに誤報的な要素を含む記事だったことは拭えないとはいえるのではないかと。



■お布施用ページ
note.com

*1:故に前回弊ブログで記述した記事のタイトルから「誤報」を外して、お詫び文を載せるに至る。

*2:詳しくは前回記事を参照

*3:例えば「男性教諭、女性事務長、役場職員もご家族で一日から穴水高校へ避難」、「事務長、ずっとおられたよ。私は穴水町高校在籍の高校生から紹介されたので間違いありません。」などの投稿。