電脳塵芥

四方山雑記

自民党の政策集における「性的指向・性自認に関する理解の増進」に関するメモ

 LGBT理解増進法が自民党内で修正案と共に了承されたのですが、ちょっとそれ関連で自民党政策集の性的思考・性自認関連の記述に関するメモ的なもの。
 まず自民党の公約と言える総合政策集に「性的指向性自認に関する理解の増進」が出てくるのが2016年から。この前の政策集である2014年版では「性的」と検索しても一つもヒットしないことから2016年から自民党が公約に「理解の増進」を盛り込んできたと考えられる。なお、ここでは何故2016年から公約に入れたかまでは言及しない。そして、その2016年版の公約とは以下のような内容。

性的指向性自認に関する理解の増進(総合政策集2016)
性的指向性自認に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指すとともに、各省庁が連携して取り組むべき施策を推進し、多様性を受け入れていく社会の実現を図ります。
https://storage.jimin.jp/pdf/pamphlet/sen_san24_j-file_0620.pdf

ネットで時折見る安倍総理なら理解増進法は実現しなかった的な事をネットにおける右派/保守層が言っている場合があるが、ただ自民党の公約として盛り込まれたのは安倍晋三の総理時代であった事だけは明白。実際に安倍晋三がどの程度この「理解増進法」に対して意欲的であったかまでは疑問符が付くが殊更に反対するほどの明確な主張があったかもまた今となっては謎。そして2016年以降から自民党の公約集には「性的指向性自認に関する理解の増進」が盛り込まれる。総合政策集2017年版は2016年版のコピペ公約で特に変化はせず、2019年版ではマイナーチェンジながら次の様に変化。

性的指向・性同一性に関する理解の増進(総合政策集2019)
性的指向性自認に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法速やかな制定を実現するとともに、民間や各省庁が連携して取り組むべき施策を推進し、多様性を受け入れる社会を築きます
https://storage.jimin.jp/pdf/pamphlet/20190618_j-file_pamphlet.pdf

細かい変化なもののコピペではない事、「図ります」から「築きます」、「制定」に対して「速やかな」という語句を付加することにより重要性を認識していると受け取れる。ちなみにこの時も安倍晋三。そして次の2021年版(岸田政権)ではまた次の様にマイナーチェンジ(菅政権時には政策集なし)。

性的指向性自認に関する理解の増進(総合政策集2021)
性的指向性自認LGBT)に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の速やかな制定を実現するとともに、民間や各省庁が連携し て取り組むべき施策を推進し、多様性を認め、 寛容であたたかい社会を築きます。
https://storage.jimin.jp/pdf/pamphlet/20211018_j-file_pamphlet.pdf

LGBT」という単語を追加。これは当時の「LGBT」という単語の認知度の高まりを示しているともとれるが、ただ公約に語句が出るという事の意味は決して小さくはない。また最後の言い回しが変化し、今までは「多様性を受け入れ」だったものが「多様性を認め」となっている事から上から目線的な言い回しに変化したといえるかもしれない。そして最新版の2022年。この2022年版で公約は刷新される。

性的マイノリティの理解増進(総合政策集2022)
性的マイノリティの社会生活上の困難を軽減するため、地域・学校・職場等社会の様々な場面における理解増進を図ります。また性別不合等の対応に関し、生命の尊厳を守る観点から時勢に応じた法制度等の見直しを行います。
https://storage.jimin.jp/pdf/pamphlet/20220616_j-file_pamphlet.pdf

大きな変化は「性的指向性自認」を「性的マイノリティ」という言葉に変化させている事。この呼称変更は明確な意図がなければ出来ない。それがなんであるかまでは専門の人に任せるが、例えば「性自認」という単語を修正案では「性同一性」という言い回しに変えたという事からも自民党の保守層の意見を取り入れた修正だったと言える。また2021年版までは「議員立法の制定」を公約に掲げていたものの2022年版からは「理解増進を図ります」とだけあり、議員立法の公約は破棄されたと見て良い。これは2023年現在、修正案の受け入れなどから立法自体はする見通しではあるので、総合政策集を作成した2022年時点だと自民党内の保守派からのバックラッシュがあったと見て良いと考える。傍証としては今回自民党内で開かれた性的マイノリティに関する特命委員会と内閣第1部会の合同会議では賛成10人、反対18人の反対多数となっている事からも、党内保守派の意見が根強いことがわかる*1。それと今回の理解増進法とは別に、新たに性別不合等の法制度の見直しが追加されたが、これは性別を変更するのに必要な手術要件の緩和と考えられる。これがどの様な理路の下に出てきたかまでは不明だが、この点に関しては当事者にとっては前進に繋がるかもしれない。
 とりあえず公約の変化はこんなところ。公約上の変化を追うと2022年に党内のバックラッシュの影響が伺える。そしてこの影響は自民党内ではなく法務省の人権冊子の表記にも見受けられる。


https://twitter.com/mainichikurashi/status/1633255965251469313

会員登録をしてないので毎日新聞の記事「法務省の人権冊子から消えた「性自認」の文字 その裏にある誤解」の全文は読めてないものの記事の紹介文を読む限りはい自民党保守派の関与は明白。実際にどれくらい変化したかを比べればその差は歴然。

2021年版人権冊子

2022年版人権冊子

この変更が「理解増進法」に難色を示している保守派による介入であれば今後の理解増進法の運用も果たしてどうなる事かであり、今後もバックラッシュが続く可能性は大いにある。
 そして最後に少し古い2016年の冊子ではあるものの、自民党HPにある「性的指向・ 性同一性(性自認)の 多様性って? 自民党の考え方」は保守派を含めた自民党のこの件に関する認知を端的に表しているかもしれない。

目指す方向性
カムアウトできる社会ではなく、カムアウトする必要のない、互いに自然に受け入れられる社会を実現します。すなわち、勧告の実施や罰則を含む差別の禁止とは一線を画し、あく まで社会の理解増進を図りつつ、当事者の方が抱える困難の解消を目指します。

同性婚・ パートナーシップ 制度について
憲法24条の「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」が基本であることは不変であり、同性婚容認は相容れません。また、一部自治体が採用した「パートナーシップ制度」についても慎重な検討が必要です。

ジェンダーフリーに ついて
性的指向・性同一性(性自認)の多様性を受容することは、性差そのものを否定するいわゆる「ジェンダーフリー」論とは全く異なるものであり、一線を画します。特に、教育現場等において、これらの問題を政治的に利用しかねない団体の影響に対して、細心の注意を払って対応しなければならないと考えます。

このころから差別の禁止には著しく消極的であり、同性婚への反対、また教育現場なども視野に置いていることがわかる。現在の保守派の考えもここから変更しているとは考えられず、また今後変わることも困難と予想できる。特に同性婚辺りは自民党政権である限りは非常に実現困難な政策といえるかなと。