電脳塵芥

四方山雑記

「正しい万歳」についての話

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 ってまとめを作ったのでこちらでも。手を挙げる時に手の向きは内側が「正しい万歳」ってのが流布されてることに対する突っ込みです。あと私が作ったまとめ以外にも下記のまとめがあります。

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 私の方は過去のネットでの語られ方、別の方のまとめでは偽書万歳三唱令』にも着目してますがその他にも出典として小林よしのり天皇論』や『久米宏TVスクランブル2』が挙げられています。『天皇論』の発行年は2000年代以降と偽書が一般に広まった後の話なのでそこら辺の影響は考えられますが、久米宏の方は1984年発行となり偽書が流通する前となります。該当ページは樋口清之氏が指導をしており、この方は種々の雑学本も出していますので他にも類似の本があるのかもしれませんが、いずれにしても該当ページを読む限りは何かを出典にしているわけではありません。なおそのページに「日本古来の礼法」にのっとった正しいバンザイの仕方云々とありますが、今の万歳は明治期以降なので「日本古来」は言い過ぎかなと。


 とりあえずですが、この「正しい万歳」の出所は以下の様に分類できるかと思います。

1)偽書万歳三唱令』による
  ※万歳三唱令についてはwikipediaのご参照を。過不足なくまとまっているかと。
2)『久米宏TVスクランブル2』、小林よしのり天皇論』、唐沢俊一『トンデモ一行知識の世界』などの書籍から
  ※久米宏以外は偽書の影響が強く疑われます。
3)テレビの情報から
  ※TVスクランブル、また元気が出るテレビでも見たという情報あり。
4)戦前世代の話による
  ※ネットの中にそういった会話が見られます。mixiとかで確認可能。
5)学校で教わった
  ※これもネット情報ですが学校で教わった方がちらほらと見受けられます。
6)偽書万歳三唱令』を否定するものの、根拠不明なものの姿勢は正しいとするネット与太。
  ※典型例は「ねずさんのひとりごと」。民主党批判を伴う場合あり。


などなど。1に挙げた偽書根拠は論外ですし、この偽書の膾炙によって学校で教える、ネットで言いふらすという経路も考えられますが、とはいえ戦前世代や樋口清之根拠は出典があやふやなものの偽書根拠ではない「正しい万歳」というものがあるのも事実ではあります。あ、6のネット与太は除いてです。あれは基本的に政敵批判の為のものですから。戦前世代の話が作り話でなければ、「手のひら前向きは降参を表す」というとっても「マナー」らしい理由が添えられて教えられたとあります。政治家の中にはそういった「降参」の意味を避けるためにゲン担ぎとして所謂「正しい万歳」をする方もいらっしゃるようなので、そういった「ゲン担ぎ」から正式ではないものの根拠も記述もないマナーが生まれたと考えるのが自然なのかなと。それが本当に「正しい」のかは置いといて。
 あと2009年段階ですと自民党

あの「ウソの法律」が、最近の自民党首脳たちの万歳スタイルに影響したのでしょうか?
自民党本部に取材を申し込みましたが…
怪文書のことは知りません。手を内側に向けるのが普通じゃないですか?」
とそっけないお返事。
毎日放送 「『万歳』は『お手上げ』ではない!!」  2009/07/22 放送
アーカイブ

というように「手を内側に向けるのが普通」という認識らしいです。

 といっても、そもそもこの「正式な万歳」は2010年2月3日に提出された、

四 式典の結びに天皇陛下の御前にて、鳩山総理の御発声で万歳三唱をしたが、手のひらを天皇陛下側に向け、両腕も真っ直ぐに伸ばしておらず、いわゆる降参を意味するようなジェスチャーのように見られ、正式な万歳の作法とは違うように見受けられた。日本国の総理大臣として、万歳の仕方をしっかりと身につけておくべきと考えるが、その作法をご存知なかったのか、伺いたい。
2010年2月3日『天皇陛下御在位二十周年に関する質問主意書』(提出者:自民党 木村太郎

という質問主意書に対して、

万歳三唱の所作については、公式に定められたものがあるとは承知していない。
上記質問への答弁

という答弁をしているように公式に定められた「正しい万歳」は存在しません。また過去にさかのぼったとしても、

萬歳奉唱に当たっては、姿勢を正して脱帽し、両手を高く挙げて、力強く発声、唱和する。最厳粛なる場合は、全然手を挙げないこともある。
国民礼法振興会 編『皇民礼法精典
※一部漢字を現代のものに置き換えています

の様に戦前においてもそのような記述はありません。さらには、

なぜ「ばんざい」をする時に両手をあげるのか、動作の意味を知りたい(神戸市立中央図書館)
 
動作の意味や起源はわからなかった
 
回答プロセス:『日本国語大辞典小学館 2000、『日本大百科全書小学館 1984、『日本民俗大辞典』には「万歳(ばんざい)」の言葉の意味や起源はあるが、動作については言及されていない。『図説明治事物起源事典』、『明治事物起源』、『事物起源事典』には現在のような「ばんざい」をするようになった起源は記載されているが、動作については言及されていない。『明治もののはじまり事典』、『近代事物起源事典』には「万歳」についての項目がなかった。『しぐさの民俗学』、『しぐさの人間学』などしぐさについての資料、児童向けの雑学の資料も確認したが、万歳(ばんざい)についての記述はなかった。
なぜ「ばんざい」をする時に両手をあげるのか、動作の意味を知りたい(神戸市立中央図書館)

という様に複数の本において動作についての言及がないことから「正しい万歳」がいずれの本にも記述されていないことがうかがえます。また「2月11日が万歳三唱の日であるとテレビで紹介されていたが、これの根拠を知りたい。」(レファレンス共同データベース)に挙げられている書籍、


 『明治・大正・昭和世相史』 加藤 秀俊/[ほか]著 社会思想社
 『明治・大正・昭和政界秘史』 若槻 礼次郎/[著] 講談社
 『明治・大正・昭和の新語・流行語辞典』 米川 明彦/編著 三省堂


以上の三冊の該当箇所を確認しましたが、なしのつぶてです。どの本にしても「万歳」という掛け声の方がメインの話であって動作については一切言及されていません。少なくとも当時はその程度の扱いだったのでしょう。

 つまりはいずれにしたって手の向きを指定した「正しい万歳」などというものは偽書以外でも多少の記述もありましたがそれでも口承の域を出るものではなく、甚だ怪しい偽マナーという他ないでしょう。ただマナーとは集団内での暗黙の了解や規律の様なものであり、現在ネット上でもそれなりに継続的に言われている事、場合によっては学校等の教育現場や社会の中で言われる可能性があり、そうなるとどんどんとそういった偽マナーが既成事実化する可能性も大いにあるのでしょうけれど。




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