電脳塵芥

四方山雑記

「あいうえお」はGHQによって作り替えられた順番で本当は「あおうえい」とかいう与太


https://twitter.com/Daisuke_F369/status/1643647859911430149

 以前、「和多志、弥栄、氣、神運字……、スピリチュアル言霊(漢字)運動について」という記事でこのダイスケなる人物について少し触れましたが、今度はGHQによって「あおうえい」が「あいうえお」になったとか馬鹿げたことを言っていたわけです。全文は長くなるので引用しませんけど(本題とは別で1ツイート4000字なげえ)、GHQ以外のネタはネットの言霊スピリチュアル系信仰の話を寄せ集めたもので特に新規性がある話をダイスケはしてません。あえて言うならばGHQを絡めたのがダイスケのオリジナリティ。しかし困ったことにそれなりにバズって信じてしまった人間がいるようで検索にも出てくるように。

「魂の目覚め」はただのツイート貼り記事なので置いといて、「言靈が意図的に封じられている?」というnoteの記事はダイスケのネタを交えた派生ですし、「言霊は意図的に、GHQにより封じられていた‼️」というブログ記事はダイスケの転載パクリ記事。ちょっとヤバいのは栃木県にある種徳院という曹洞宗の寺が公式的にやっているブログに「日本人て素晴らしい✨」という記事で

✨あおうえい✨は昔から使われていたとてもエネルギー✨が高い霊力ある音❗だったらしいがGHQの命令により日本人の力を弱める為あいうえお に、なるが日本人て素晴らしい✨

と書かれているという事。ダイスケのツイートが4月6日の1時頃、そして派生記事はそこから24時間以内に書かれたものでそれが3つ以上出てるわけで。「あおうえい」と「GHQ」を絡めたこのデマは今この瞬間に生まれたと考えて良いです。歴史的瞬間ではありますよ。

「あおうえい」の源流。江戸時代から昭和へ

 「あいうえお」の方の由来については東京大学だとかことば研究館だとかを参照してもらうとして、では現在使用されている類の「あおうえい」の方の元ネタは江戸時代後期の国学者である中村孝道による言霊関連の研究と考えます。言霊学は平田篤胤などにも関連するのですが、さすがにそこまで手を出すとめんどくさいのでこちらに関してはnoteにある「古神道の言霊学」という記事で平田篤胤や今回紹介する人物がいくらか載っていますので、より流れを知りたい方はそちらをどうぞ。そして中村ですが、彼は「言霊或問」(天保5年(1834))や「言霊聞書」(書写年不明)を著したとされ、表題の通りいずれも言霊についての本を残しています。これらは早稲田大学の古典籍総合データベースで中身を確認でき、そのうち「言霊聞書」には以下の様な表があり、一番下に「あおうえい」があることが確認できます。

書籍は江戸時代という事もありこの表以外はくずし字も使っている為に正直読めないのですが、くずし字解読アプリを使用する限り「アイウエオは天地の順理にあらず」という様な内容が書かれている箇所があり、その後に「アオウエイ」などについての記述もあることから中村孝道は「アオウエイ」が正しいという認識なのでしょう。


※『言霊聞書』より該当箇所の切り抜き

そして中村孝道の言霊学を継承した望月幸智、その望月の教えを受けた五十嵐篤好が「言霊真澄鏡」という望月の教えを書いた本を後に書いており、これは文化遺産オンラインでその写本(明治10年(1877)7月)が確認で可能であり、ここでも類似の表が存在します。このことから中村孝道の教えが連綿と繋がっていることが理解できます。この様に江戸時代後期に生まれた「あおうえい」が明治時代にまで伝わっていたわけですが、当然ながらそれは明治以降にも継承する人間が現れます。その一人が大石凝真素美です。
 大石凝真素美は言霊学者・国学者であり、そして中村の弟子である望月幸智の孫にあたります。大石は明治36(1903)年に『大日本言霊』を書きあげており、そこでも「眞素美の鏡」として中村孝道と類似の表を書いています。ただ中村にはない図が多数示されており、そこには大石なりの変化が見られます。


「大石凝翁全集 4 (大日本言霊)」より

正直意味が分かりませんが、これは表にある75音(なおデジタルコレクションは「ぽ」「ぷ」が抜けていると思われる)の構成要素(?)を示したものと思われます。大石の影響力が当時どこまでであったかまでは不明ですが、大石による言霊学は大本教の教祖として有名な出口王仁三郎にも影響を与えていると考えられます*1。それが確認できるのが昭和10年(1935年)の『玉鏡』における以下の記述です。

言霊学
言霊学の中興の祖中村孝道の言霊学は一言一義に近いもので覚えやすい。大石凝真寿美になっては一言多義になった。本当の言霊学をもちいたのは弘法大使くらいのもので、真言というのは言霊のことである。

この様に次に記す王仁三郎の発想は中村や大石からの影響を受けていると考えていいでしょう。ただ出口王仁三郎は大石との繋がりがなくても王仁三郎の祖母である宇能が中村孝道の妹、もしくは母親であることから「あおうえい」を使用していた可能性は高いとは言えます。そして王仁三郎データベースで「アオウエイ」を検索すると次の様な説明が確認できます。

祝詞に『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐原に御禊ぎ祓い給う時に生坐る』とあるのは、このアオウエイの五大父音によって、以下の七十五声を生み出し、新陳代謝の機能である祓戸四柱の神を生み成して、宇宙の修祓神としたことを表しているのである。
五大父音を地名に当てると、アは天=アジヤ、オは地=オーストラリヤ、ウは結び=アフリカ、エは水=エウロッパ、イは火=アメリカ、となる。そしてこれら五大大陸はすべて、アに返る。
七十五声はすべて、アオウエイのどれかに返り、アオウエイはすべてアに返るので、言霊学上は、アに当たるアジヤにすべてのものは統一されるべき、ということになるのである。
霊界物語 第6巻 霊主体従 巳の巻

この霊界物語の初版は「1922(大正11)年5月10日」であり、その内容は中村や大石のものに比べて日本以外の「世界」を感じさせる変化や彼の思想の流入が見受けられます。霊界物語ではこのほかにも随所で「アオウエイ」(王仁三郎は基本的にカタカナで表記)が使用されており*2、そして大本教という新宗教やそれによる彼自身の知名度などからその「教え」は中村や大石以上に後の人間に広がっていったと考えらえます。なお王仁三郎による「アオウエイ」自体は霊界物語よりも『神霊界』という雑誌での記述が早く、その内容は次の通り。

日本は世界一切の中枢である。文芸・宗教・教育・其他あらゆるものの枢府である。熱帯に枕し、寒帯に脚を延ばし、あらゆる気候、あらゆる土質・風土の凝聚地である。即ち世界一切の小縮写である。世界の典型である。否、世界万邦の中つ国として、万国統治の中府である。霊域である。この霊域日本国の中府に天御柱アオウエイの母音なす金竜海が神示に因りて築かれたのである。
神霊界 大正8年3月1日号

上記に紹介した以外にも色々な書籍などで王仁三郎は「あおうえい」に書いているわけですが、ただしこれらで書いている意味を理解するにはそれなりに書籍を読み込まなければ無理っぽいのでここではその論理を無視します。深淵は覗き過ぎない方が良いので。ちなみに出口王仁三郎も「あいうえお」は本来「あおうえい」だったという人間であり、『玉鏡』では次のように述べています*3。時代的に当然GHQではないんですが、どのように言っているかと言えば、

声の順序
声にも順序がある。今日ではアイウエオ、カキクケコというが本来はアオウエイ、カコクケキというべきである。ア列は天位であるから上を向いて声を出す。オ列ウ列エ列イ列の順序で次第に下を向いて声を出す。鶏がコケコッコーと鳴く時に首を上下に振るのもその順序に従って振るのである。アハヽヽ、オホヽヽ、ウフヽヽ等と笑うときもアンアンオンオンなどと泣くときも、この声を出す態度はきまっている。アオウエイをアイウエオというようになったのは安倍晴明の頃からである。

安倍晴明が変えたとは言ってはいないものの、その頃辺りから「あいうえお」になったと。正直苦しいと思うけどGHQよりはマシかもしれない。
 以上の様に「あおうえい」の源流は江戸時代の国学にまで遡れるものであり、中村孝道が作り上げたものをその弟子や血族が継承し、出口王仁三郎によって今に至る源流が作り出されたと考えられます。

出口王仁三郎からの継承と派生

 出口王仁三郎大本教の教祖なだけあり「あおうえい」言説はのちの世に伝わっています。例えば合気道創始者である植芝盛平。植芝の『武産合気』という書籍では<アオウエイの発生(p.94~96)>では、

口一杯に開きて、喉の奥底より、呼気を吹き出すべし。この時、アーと一杯になりだすべし。ア声とはいかなすとも常立にして変化なし。故にア声を称して国常立大神と申す。(伊邪那岐伊邪那美神はこの声を受け持つ)

というようにア、オ、ウ、エ、イの順に一文字ごとにその文字の発生、受け持つ神についての記述がされて行きます。考えとしては大石の一言多義に近いし物を感じますが、ただそこには独自性も見受けられます。そしてこの植芝の影響からか佐々木合気道研究所というHPのコラムでは開祖である植芝と絡めて次の記述が見受けられます。

合気道の根底にあるのは「合気」ということであり、合気とは言霊の響きによる禊の業をいうとされ、また、合気道とは、言霊の妙用であるともされる。言霊とは宇宙の響きを感得することであるという。従って、言霊には「あおうえい」の5母音や75音、祈りの言葉などがあるが、それに雄叫び、気合もあるということになろう。特に一般には、開祖のように「あえいおう」と唱えながら神楽舞をすることもないであろうから、稽古で使うのは気合であろう。開祖は気合の大切さを道歌で、「己が身にひそめる敵をエイと切りヤアと物皆イエイと導け」と唱っている。
【第66回】 気合、言霊、響き、山彦の道

言霊としての「あおうえい」を前提とした記述であり、また合気道方面で生き残っていることが理解できます。なお、この佐々木合気道研究所のコラムはグーグルの期間指定検索によると2007/08/07ごろに書かれたもので、この期間指定で出てくる日付はあてにならないことがあるとはいえ2006年から開始された同研究所HPの第66回目のコラムであることを考えると、2007年ごろに書かれたと考えてもそう外れではないでしょう。
 そして合気道以上に見逃せない流れとしては大本教に関係していた人物による新宗教による継承で、まずは生長の家。「宇宙浄化の祈り」にもろに「あおうえい」が使用されています。


宇宙浄化の祈り「アオウエイ祝詞」
また生長の家創始者谷口雅春による「住吉大神宇宙浄化を祈る招神歌」(初版発行 1976年9月)というカセットテープの商品説明には「A面で宇宙浄めの言葉「アオウエイ」の意味などを解説」が確認できます。そして次に岡本天明による日月神示でも同様に使用が見受けられます。

ひふみ神示 第27巻 春の巻
第十七帖
 希望は愛の現れの一つ。どんな時、どんな人にも与へられているのぢゃ。希望にもえつつ、現在を足場として生きよ。呼吸せよ。同じことしていても、希望もつ人は栄え、希望なき人は亡びる。希望は神ぞ。アイウエオからアオウエイの世にうつって来るぞ。アオウエイの世が天国ぢゃ。用意はよいか。今の世は道具ばかりぢゃ。使ふ人民、早うつくれよ。
アイウエオの世は愛上王の時代か
エスは愛を説き、愛が至上とされながら我良しの時代となった。我良しは餓鬼の火の心、餓鬼の色は赤勝ち、王仁三郎はアカガチの世と言ったとか。 アオウエイの世は青上位の世か
ミロクの世は水晶の世とも言われる。青は水の属性の象徴。ブルーカラー=職人が輝く時代という見方もできるか。
アイウエオからアオウエイの世に

以上の様に生長の家日月神示でも「あおうえい」は使用されているわけです。また影響力は合気道新宗教よりも少ないと考えられますが、島田正路という人物が関わっている言霊の会なる団体は「コトタマ学」という会報誌を昭和63年から出しており、ネットで確認できる2006年の第二百二十号では「アオウエイ」についての記述があります。言霊の会や島田については何を受けての流れかまでは確認できませんでしたが、言霊学というからには出口王仁三郎あたりかの影響はあるのでしょう。この様に一過性ではない、そしてある程度の集団に継承される仕組みが存在することによって今現在のネットで流布している言霊としての「あおうえい」に繋がっていることは確実でしょう。

ネットにおける流布

 宗教や合気道の流れからネットにも「あおうえい」が書かれていくわけで、おそらく個人HP時代からそれはなされていたと考えられますが、だがしかし今現在それはほぼ確認不可能。なので現状で確認できる範囲ではありますが、見ている限りは00年代後半あたりから言霊としての「あおうえい」が見られるようになります。例えば上述した佐々木合気道研究所やコトダマ学は2006~2007年ごろ。そしてその他としては「あおうえい 母なる音、父なる音」です。これが出来た詳細な時期は不明ですがグーグル検索では期間が2006年となり、この期間表示は信頼性は必ずしも高くないのですが、とはいえインターネットアーカイブでは2011年には既に保存されていることから初期段階のHPと言えます。HPには天地弥栄祝詞、ひふみ神言などだけを紹介しているだけで連絡先の記載や意図すら記述してない謎なHPと言えますが、紹介されている祝詞などを考えるならば日月神示の関係者が作成したHPと思われます。また正確な年数は不明ですが00年代後半には神言会による大本教の解説HPでも「言霊」としての記述が見受けられます。この様に00年代にもいくつかのHPの存在は確認できますが、現在見る限りその影響力は少なそうです。
 10年代に入ってからだと王仁三郎や日月神示に関するブログでの解説が00年代以上に見られるようになります。例えば2010年10月30日「宇宙誕生以前と天地創造の神々「エロヒム」の正体「アオウエイ」の真相」」、同年11月14日「葵上(アオイウエ)」、2012年2月25日「アオウエイの言霊」、同年7月13日「アオウエイ 言霊発声練習」同年11月29日「宇宙浄化の祈り「アオウエイ祝詞」」などなど。また相川七瀬が2013年にリリースした「ヒカリノミ」においては「あおうえい」の多用が見られます。相川曰く、これは移動中のインスピレーションとのことですが、彼女はスピリチュアルへの傾倒も見られることからどこかで言霊「あおうえい」を見たことでの発想な可能性は考えられます。この10年代、特に前半からスピリチュアル界隈で「あおうえい」の認知度が徐々に上がったと考えられ、また00年代には見られなかった動きとしては「アオウエイ祝詞」が目につくようになったことです。

【アオウエイ祝詞
アーオーウーエーイー。
アーオーウーエーイー、アーオーウーエーイー。
アーオーウーエーイー、アーオーウーエーイー、アーオーウーエーイー。
宇宙浄化の祈り「アオウエイ祝詞」 2011年03月21日

このアオウエイ祝詞日月神示が出所と思われるものでネット上では2011年ごろには確認でき、 数は少ないですが徐々にこの部分がスピリチュアル界隈で膾炙。例えば言靈ヒーリング協会という団体では2023年1月に「天地とつうじる!禊の言靈アオウエイ」でアオウエイ祝詞の紹介が見られ(リンクとして貼られている動画のアップロード日は2017年)、2017年4月の「神道~「シン」へ至る道~」というブログの記事では言霊ヒーリング基礎セミナーで複数人で祝詞が唱えられたこと、ありがとうカンパニーによる高次元高波動音声コンテンツSHOPではアオウエイ祝詞を含む音声コンテンツの販売などが確認できます。ちなみに初音ミクも歌ってます。アオウエイ祝詞

www.youtube.com

このように数は少ないものの「アオウエイ祝詞」がスピリチュアル界隈で使用されていることが理解でき、大抵は大本教日月神示という宗教の背景はあるものの、ものによっては大本教などの確固とした宗教としての語られ方がやや薄れた「スピリチュアル」としての消費を感じる部分があります。

「あおうえい」と「君が代」を絡める言説の発明者「森井啓二」

 さて、ネットでも「あおうえい」が徐々に膾炙していったことが伺えるわけですが、基本は大本教日月神示がそのコアにあるであろうことが理解できます。ただし、ネットで膾炙することによってこれら宗教とは別の言説が「あおうえい」にくっつくことになります。それがダイスケも使用していた「あいうえお」の「い」と「お」が入れ替わると「あおうえい」になる、そして「君が代」の「いわおとなりて」は「い」は「お」となりてを表している、ナンダッテー、という論理です*4。この部分についてはネット以前にはおそらくないもので、考えれば今の大きな流れになったと解釈できる出口王仁三郎やさらに遡れば中村孝道などが君が代の歌詞にその様な解釈をすることは常識的に考えてすることは考えづらい部分です。ついでに言えばダイスケはヨガにも言及していますが、ヨガについても同様に王仁三郎らが使う単語とは思えない。
 ではこの言説を誰が考えたかですが、調べる限りそれは日本ホメオパシー協会会長の森井啓二です。森井は2010年『臨床家のためのホメオパシーノート基礎編』を刊行し、その「あとがき」において次の様な記述をしています。

〈いはおとなりて〉
宇宙の摂理よりも建前を重視した現在の世の中の順序を母音で現すと「あいうえお」となります。 この順序は、一般には 「悉曇学 (しったんがく)」に 基づくとも推測されていますが、 実は深い理由が隠されています。「あいうえお」の順では、学びの場を作るために、宇宙の理がストレートに人に伝われないよう意図的に工夫されています。
 脊髄を通してエネルギーを昇降させることのできる人には理解できるのですが、脊髄をエネルギーが通る順序は 「あおうえい」 なのです。 私はクリヤヨガを通してこの順序を体験しました。 これはすでに理解した人にしか理解できないことなので詳細は省略しますが、 この順序であれば高次へと導かれ ます。 この順序は、宇宙の摂理に適ったものであり、 もし地球の波動が大き く高まれば、この順序に変化しなければならないと思います。「い」は「お」となることにより、 宇宙のエネルギーがスムーズに流れやすくなると感じるからです。 「あいうえお」から「あおうえい」という本来の順に戻ることを、「いはおとなりて」で表現しているのです
 「あ」に続く「お」「う」 は、様々な表現方法がありますが、 愛や光の言霊であり、続く「え」「い」は知性・理性の言霊です。最後の「い」 は、「あ」 で生まれた生命が末端まで発達した段階ですので、「あ」 で始まる五音の最期に来るのが宇宙の理にかなっています。
なぜ現在は「あいうえお」の順序なのかというと、それによって通常ではなかなか成し得ない魂の学びを飛躍的に得られる (困難な) 環境を作り出し ていたということのようです。
p.686-687

この言説はp.683で私見として紹介という意を含む記述であることからおそらく森井による「発見」だと考えられます。ちなみに森井は「あとがき」で君が代についての語りを朗々としているわけなのですが、彼曰く君が代には9通りの解釈があり、ここで紹介されている内容はその一つの側面だと述べています。ただし、当然「あおうえい」自体は森井の発想ではなく彼のツイッターを観測する限りは出口王仁三郎日月神示などの単語を出していることから歴史的な流れとしてはやはり言霊学があることが伺えます。なお森井はこの説を書く前に「我空徳生」なる人物が神がかりして自動筆記をし、平成4年ごろに都内でポスティングされた『火水伝文』*5に言及していますが、森井が説くところの君が代言説とは異なるのでやはり森井が考え出したものの可能性が高いです。若干脇道ですが、この『火水伝文』は文体などからも『日月神示』の流れをくむものであることは確かですが、mixiなどでアップされた全文や補足までアップされたブログ記事などを読んでも君が代やあおうえいについての記述は見受けられません。
 そしてこの言説が後に広がるわけですが、当時はそこまで流布していません。かろうじて確認出来るのが2012年11月26日のブログ「ことたまの社」や2015年3月25日の「ミスチルLOVE & キネシな日々」によるブログ記事です。ただ「ことたまの社」は森井の説に数霊という概念*6を加えた独自解釈であったりミスチルLOVEの方も森井の説そのままではなさそうではないことから今流布しているものと若干の違いがあります。やはり『臨床家のためのホメオパシーノート基礎編』という書籍の敷居は高かったと考えられます。そんな森井の説が広まったのは2015年8月にヒカルランドより刊行された森井啓二著、増川いづみ解説の『宇宙深奥からの秘密の周波数 「君が代」 その音霊は、潜在意識を高次元へと導く《光の種子》となる!』の影響の方が大きいでしょう。この書籍が現在の君が代と絡めた「あおうえい」ネタの流布に大きな役割を担ったと考えられます。その内容は森井自身のブログ「ひかたま(光の魂たち)」で書籍と類似の表現で紹介されています。それが2015年11月06日「君が代の核心部分から「いわおとなりて」」です*7。ここで語られている内容は上記のホメオバシーノート基礎編と大きな違いはないので引用は避けますが、このブログ記事を転載した記事がいくつか存在し、例えば2017年2月16日「増川いづみ氏の宇宙に響く「君が代」の音霊と33014の暗号」、2017年5月5日「国歌君が代の「いはおとなりて」」、2018年07月17日 「あいうえおからあおうえいの世界へ」などなど。また森井の本に開設を寄せた増川いずみはどうにもスピリチュアル界隈で有名な人物で、その他の人物としても2018年に「あいうえおから~」というブログ記事で森井説を転載した天下泰平ブログの滝沢泰平(著書に『目覚めよ<<宇宙の雛型>>スーパー日本人!』など)もまた講演会を開くなどする人物であり、彼らの存在もこの森井言説の拡散に寄与していると言えるでしょう。そして冒頭のダイスケに繋がると。GHQ部分はダイスケでしょうけど。ちなみに森井はその後に『君が代から神が代へ』上下巻などを書きますが、少し読む限りさらに独特の世界観を構築しているように見えますが理解して書くのも嫌なので割愛します。

 この様に「あおうえい」は江戸時代の国学から言霊学へと派生し、出口王仁三郎から新宗教と結びつき、そこから影響を受けての新宗教合気道、言霊学として続き、そして2010年代に入ってからは本来の要素にはなかった「君が代」とも融合し、そのスピリチュアル、言霊信仰の度合いを強めたと考えられます。特徴としてはいずれの時代も提唱者によってそこでの語られ方、解釈が異なっていることでしょう。最後に、この言説にどこまで影響を与えてるかは不明とはいえ無視できないのが2020年にアップロードされたPIEC3 POPPOによる「WATASHI」という歌を紹介します。この歌の歌詞の冒頭部分は、

アイウエオ意味わからん
アオウエイ体操
きみがよ イはオとなりて 瞑想する
動画:https://youtu.be/ho9hK2MZAvA

というものでもろに今回扱ったスピリチュアルを受けての歌詞であることがわかります。どうやらtiktokでプチバズったようで、youtubeの方でも200万回再生越え。ちなみに「WATASHI」は漢字では「和多志」。この歌の影響力は未知数なところがありますが馬鹿にできない再生回数であり、これを入り口にした人間が存在してもおかしくはないでしょう。この様に20年代に入ってからも言説は絶えることなく、むしろこの歌やダイスケの様なGHQを用いた疑似復古的な煽り要素を含ませたスピリチュアルを商売に活用している人間の存在、そしてブログなどよりもより情報が広がりやすいツイッターなどのメディアがある限り反論も数多くあるでしょうが今後も脈々と続いていく事は火を見るよりも明らかかなと。
 ネットとスピリチュアル(陰謀論)、相性が良すぎる。ふぃるたーばぶる。ガチの宗教だったものがその形を隠してふわっとしたスピリチュアルとして流布してるの、ちょっとヤバい。



■お布施用ページ

note.com

*1:例えば王仁三郎関連を集めたオニペディアでも大石は王仁三郎に影響を与えたという指摘が存在。

*2:王仁DBで「アオウエイ」の検索結果

*3:大変申し訳ないですが戦前に出版された方か、戦後に復刻された方か失念したのでページ数を割愛します。

*4:もともとは「いはほとなりて」だというのはここではスルー。

*5:文書の来歴についてはこちらを参照

*6:言霊の数版とでも考えれば言霊と数霊を対応させた表が存在する。その際の語順は「あおうえい」であり「あ=1」、「お=2」などと続く。知っとうや? 数霊などを参照すると多少わかるかもしれないがこの記事では深くは追わず。数霊も「あおうえい」を使用しているがこれは言霊がその順であることに起因していると思われる。

*7:のちにこの記事のほぼコピペ記事が森井のブログでも数回投稿されている。