電脳塵芥

四方山雑記

「国立メディア芸術総合センター」についての経緯など

※自分のnoteからの転載です。

 

経緯はウィキペディアをざっと読めばわかります! だとは思ったりするのですが、それはさて置き「国立メディア芸術総合センター」の話です。まず最初に、というかほぼ結論ですが国立メディア芸術総合センター」はのべつまくなしにアニメ・マンガの原画を保存収集する図書館の様な施設ではありません。メディア芸術祭の受賞作品や失われる恐れのある貴重な作品(これは亡くなった作者の作品等でしょう)の収集・保存がメインであり、現役作品の保存は基本的に想定外の話だと考えられます。「寄贈、寄付」という選択肢で現役作品の保存という事もあり得るでしょうが、しかしこれは昨今話題の京アニの話に限って言えば、私企業が自身の財産を積極的に寄贈、寄付を行うかと言えば、それは考えにくい事であるはずです。

 

◆時系列

【安倍政権】

2006年 安倍首相がアジアゲートウェイ構想を発信

※本構想は安倍内閣から始まったと言われていますが、元がどれなのかは不明。ただ、このアジアゲートウェイ構想での決定(後述)が関与したと思われます。

【福田政権】 

2007年2月「文化芸術の振興に関する基本的な方針(第2次基本方針)」を閣議決定

国際文化交流の施策を検討していくことが必要である。その際には,アニメ,マンガ,音楽等の「ジャパン・クール」と呼ばれる分野も文化発信の上で重要な役割を担っており,メディア芸術などの新しい文化芸術の国際的な拠点を形成することも検討する必要がある。

 

2007年5月 アジアゲートウェイ戦略会議

フィルムアーカイブの拠点であるフィルムセンターの機能拡充などによる、日本の現代文化のアーカイブの充実及びメディア芸術の拠点化推進

 

2008年6月 知的財産推進計画2008

日本のアニメ、マンガ等のメディア芸術の国際的な発信拠点の形成を促進するなど、国内外での発信拠点の整備に向けた取組を進める。

以上のような流れがまず存在し、「国立メディア芸術総合センター」設立への流れが加速化していきます。以下からは実際にその拠点に関する検討会へと話が移っていきます。

 

2008年7月 「メディア芸術の国際的な拠点の整備に関する検討会」設置

 

【麻生政権】

2009年4月 「メディア芸術の国際的な拠点の整備について(報告)」

②メディア芸術作品その他資料の収集、保管
メディア芸術祭の受賞作品等すぐれた作品や関連資料を収集、保管する。

 

2009年4月 衆院本会議にて鳩山由紀夫が質問で疑義を呈す。この時期あたりから批判の風潮が次第に強くなる

 

2009年5月 緊急経済対策としての第1次補正予算で117億円の予算計上(この時点で土地の場所は未定)。117億円は建物と土地の為の金額であり、国会では当時の財務大臣与謝野馨)は「入れ物は予算で用意します、運営は自分たちの収入」と答弁。センター運営は「完全に民間委託」の構想。

 

2009年6月 自民党無駄撲滅プロジェクトチームが国立メディア芸術総合センターを不要と判断。のちの国会(平成28年02月26日 衆議院内閣委員会)で平将明は「当時は河野さんや私で潰した」と述べている

 

2009年8月 国立メディア芸術総合センター(仮称)基本計画

(1)収集・保存・修復
文化庁メディア芸術祭(以下「メディア芸術祭」という )の受賞作品をは。じめとする優れたメディア芸術作品及びこのままでは失われるおそれがある貴重な関連資料等を収集・保存・修復する。その際,他のメディア芸術関連施設と連携し,これらの施設との適切な役割分担を図るものとする。
○ メディア芸術作品等の収集に当たっては,購入のみならず,クリエイター等関係者の理解を得て,寄贈・寄託の受入れを進めるものとする。

 

【鳩山政権】

2009年10月 閣議決定により設立予算の執行停止

 

 

◆予算について

具体的な中身となると、ほとんど決まっていない。それというのも、政権の浮揚策として巨額の補正予算が組まれ、その中で「神風が吹いた」(文化庁幹部)ように突如認められた計画だからだ。

朝日新聞の2009年6月15日の記事では文化庁幹部が「神風が吹いた」と言っている様に本計画は緊急経済対策の趣が強く、綿密な計画の下に予算が計画されて計上されたという印象は弱いです。というよりも時系列にある様に5月に「117億円」の予算計上、基本計画は7月に決定という様に予算計上後に計画が決まっています。国会でのやり取りからは、9月をめどに設計者、建設地、コンセプトの企画提案を公募、これらを審査の上、九月を目途に決定の予定とあり、更に年度内の着工予定というスケージュール感でした。予算の「117億円」は建物の建設費が約70億、土地購入費が約30億(※)と言われていたらしく、基本的にはこの予算はほぼほぼハコモノのみに対しての予算になっています。

衆議院文部科学委員会 (平成21年06月10日)の笠浩史塩谷立大臣とのやり取りから

 

また設立準備委員会では、

清水芸術文化課長
補正予算につきましては,117億円ということでございますけれども,これについては施設整備費補助金という形で出てきているところでございますので,現在の予算の形ではそれはその他の,例えば政策の支援とか,人材育成に関するソフトの事業とかいったところにそのままでは使うことはできないところでございますので,これは毎年度毎年度の国の予算の編成などにおいてそういった予算を獲得していくなり,今回の補正予算とは違う形の対応が必要になるかと思いますので,その部分,ほかの用途に使えるという形ではないというところはご理解を頂ければと思います。

以上の様に記述されており、予算はハコモノのみへの予算でソフト代に使う予算は考えられておりません。なお、議事録では里中委員が117億円は大金ではないと発言しており設立準備委員会の中では決して高くはない予算だという認識をされていたのかもしれません。

 

◆運営費について

先ほどの朝日新聞からの引用

文化庁の試算によると、基本的な運営費は年間約3億5千万円。これに対し、収入の柱となる入場料収入の見込みは「1人250円、年間60万人で1億5千万円」。2億円の差額はイベントへの会場貸し出しやグッズ販売、館内スペースの命名権販売などで埋めるというが、具体的な調査でニーズをはかっているわけではない。

 

◆内容について

ここも先ほどの朝日新聞からの引用

肝心の展示内容もほぼ白紙。アニメやマンガ作品について、セル画、原画と合わせてアイデアがどのように形になっていくかを見せる。ゲームやメディアアートはCGなど先端テクノロジーを駆使し、来場者が五感で体験する作品を示したい――。今のところ、そんな「イメージ」にとどまる。

 

河野太郎のブログにおいては、

何をするのかもあやふやだ。アーカイブなのか、展示なのか、あるいはクリエイティブの現場を見てもらうのか、それらのすべてなのか。(中略)集めたものは保存が目的なのか、楽しんでもらう目的なのか、それによって箱物の内容も変わってくる。目的が決まっていないのに、箱物だけ建てても、百害あって一利なしだ。(中略)こうした疑問に、文科省は何も答えられない。だから、このまま箱物を建てれば、間違いなく運営はこける。

 

以上の様に計画性の甘さが指摘されている。保存の件だけに着目するならば「時系列」にも記載しましたが、保存対象は「①文化庁メディア芸術祭受賞作品をはじめとする優れたメディア芸術作品②このままでは失われるおそれがある貴重な関連資料(亡くなった人間の原稿など)③寄贈・寄託による受入れ、以上の3つで、現行作品の保存計画はありません。

 

里中さんは、「漫画の原画は作者が個別に管理しているので、捨てられたり、なくなったり、海外の収集家に買われて流出していることも多い。このままでは100年後に漫画の資料が残らない。ハコモノ行政という批判もあるが、漫画の原画を保存するにはハコモノが必要」と話した。

 

2009年06月04日の記事。設立準備委員会に参加した里中満智子の発言からは今回の保存という側面に近しい。ただし、あくまでも個別管理をしていた作者の手から離れていった原画の話であって、現行作品の保存という面でどこまで考えられたかは疑問がつく。付け加えて言えばマンガ原画の話であって、氏がアニメについてどこまで考えていたかは不明だ。

具体的な展示内容、採算が取れる運営方法などは白紙のまま。「東京都内に4~5階建て、お台場は好適地」とする文化庁報告書についても「実際はまったくの未定。イメージ図は検討会メンバーが削除を求めたほど」(浜野教授)。里中さんも「何も決まっていないので(計画が)流れてしまわないか冷や冷やしている」と述べる

 

こちらも2009年6月4日の記事。117億円の予算は計上されたものの「何も決まっていない」と計画性の無さ、若しくはそのあまりにもな拙速さによる破綻が表出している様に見える。

 

◆収蔵庫の大きさについて

収蔵庫の大きさは「1100㎡」と計画されていました。その大きさについては私は素人なので多くは語れませんが、マンガやアニメの原画、ゲーム基盤、映画作品などの保存を考えた場合、いずれも膨大な量になる事は容易に想像できるますし、この広さに妥当性があったかは不明です。

 

◆最後に

特に結論めいたことは書きませんが、現在は保管(アーカイブ)に重きを置いた「メディア芸術ナショナルセンター」や「MANGAナショナルセンター構想」案という形で動いています。

 

またその他にも、

NPO法人アニメ特撮アーカイブ機構

https://atac.or.jp/

 

文化庁 メディア芸術アーカイブ推進支援事業

 

などなど、個々の団体が既に動いており保存に対してずっと手をこまねいたわけではありません。アニメに限って言えば下記のリンクにIGによるアニメーション・アーカイブについての資料が数多く公開されています。こちらも大いに参考になるのではないでしょうか。

 

現在はデージタルアーカイブを政策として推進していますし、保存への潮流は確実に昔よりはあります。「国立メディア芸術総合センター」については時期的に経済危機であった事やその経済危機対策としてのハコモノと言う側面が強く、その為に計画が拙速であり内容がずさんであった事からも批判は免れ得ないものだったでしょう。また保存施設という側面が今回強調されていましたが、しょっぱなに書いたように必ずしも今回の話題にある様な民間も現行作品が保存されていたとは限りません。というよりも高確率で保存はされていなかったと思われます。それと「民主党」が潰したという声もありましたが、自民党内からの強い批判も存在、また時系列に入れていませんが公明党による批判も存在します。漫画家やアニメ業界の中にも反対の声を上げる方も当然ながらいました。それらを踏まえないでただ民主党が潰したというのは自身の党派性を露わにしただけでしょう。