電脳塵芥

四方山雑記

レジ袋有料化の効果のデータについて


https://twitter.com/orgmrm/status/1523801437993836544

 レジ袋有料化ネタのツイートは定期的にバズる傾向があるのでこのブログでも幾度か記事にしていますが、今回もまたデータやそれに伴う話を書いていきます。本題に入る前に少しふれときますが「データないとは言わせんで」と言ってて、むしろデータがないとネタでなく思ってたらやばいなって感じがします。それと「レジ袋有料化でどれくらいプラ減りましたか」と書いてあることから、論理の逃げ場としては「プラごみが全体でどれくらい減ったか」を言いたかった、要はレジ袋なんて全体からすれば大した事ない数字だ、と言いたいとも取れますがレジ袋有料化で減るのはレジ袋なのでレジ袋の話のみに限ります。といいつつ、一般社団法人プラスチック循環利用教会のデータだけは貼っておきます。

2019年 850万トン(一般廃棄:412、産業廃棄:438)
2020年 822万トン(一般廃棄:410、産業廃棄:413)*1

レジ袋有料化で28万トン減りました、というのは因果関係を無視した冗談にしろコロナ禍の影響などもあってか特に産業系廃棄が減り2020年は廃プラ総排出量は減少しています。ただこの減少分は2021年には戻ってしまう気もしますが。

レジ袋の辞退率や削減についてのデータ

 レジ袋有料化に伴うデータは種々出ているのでここではその一部を列挙していきます。  


日本フランチャイズチェーン協会
レジ袋辞退率進捗状況
レジ袋有料化前(2020年3月~6月) 28.3%
レジ袋有料化後(2020年7月~2021年2月) 74.6%

日本チェーンストア協会
レジ袋辞退率の推移

環境省

日本ポリオレフィンフィルム工業組合


 これらのデータを見ていくと、まずレジ袋の辞退率は7割以上と考えられます。環境省がまとめたデータからもレジ袋の使用枚数や国内流通量は激減レベルと言っていいでしょう。また日本ポリオレフィンフィルム工業組合によれば「レジ袋」の削減率は以下の様になります。

【レジ袋の年別出荷状況】
2019年 77,543トン
2020年 49,863トン
2021年 34,108トン

有料化前後の2019年から2020年にかけてレジ袋の出荷が大幅に減少したことが伺え、2021年でもその減少トレンドは変わりません。またゴミ袋などの推移の変化の乏しさ、ポリ袋の輸入量減少を見るとレジ袋の代わりに代替としての袋を買っていたとしてもレジ袋減少分をチャラにするほどの購入量は存在しないことが伺えます。
 つまりはレジ袋有料化によってレジ袋の流通は大幅に減少した、というのが結論です。

万引きの増減について

 レジ袋有料化後に万引きが増加したスーパーがネット記事に出たことがある事やエコバックによる万引き抑止策などを各店舗が行ったことによりレジ袋有料化後に万引きが増えたという認識が生まれていますが、こちらに関してもデータを見ていきます。
 まず初めに当事者ともいえるスーパーマーケット協会は2020年11月20日に協会会員300社の協力で得た調査で以下の様に記述しています。

レジ袋有料化義務化以降、マイバッグの使用は増えている。
マイバッグの普及による万きの動向については、「わからない」が最も多い43%であり、万引きや盗難被害の実態についても「ほとんど把握できていない」が3分の2を占めたことからも分かるように、被害状況を正確に把握できていないのが実状である。
レジ袋有料化義務化によるスーパーマーケットへの影響 実態調査

上記の調査は正確に把握できないのが実情とは言っているものの、「増えた」とも答えている部分が約3割あることからこの調査のみでは万引きは増えたと考えられなくもありません。しかしこの調査は「正確に把握」が0%であり、「おおよそで把握」が34%、「ほとんど把握できていない」が66%と考えると印象論での把握の可能性もぬぐえずに、やはり業界全体を考えるならば正確な把握ができていないが実情と言えるでしょう。
 では警察庁の把握している数字はどうか。犯罪統計をもとにして2018年~2021年、ついでに2021年1~3月と2022年1~3月の万引きの認知件数、検挙件数、検挙人員を表にすると以下の様になります。

上記を見れば一目瞭然ですが、万引きの認知件数は常に減少傾向となっています。このことから「全体」を通じてみれば万引きが増加したという事実はありません。万引きが増えたというネット記事などがあることから個別店舗で増加した店舗がある事を否定はしませんが、全体を鑑みれば「レジ袋有料化によって万引きが増加した」は一般化することは些か難しいと言うしかありません。

レジ袋は焼却時の補助燃料となる説

 レジ袋有料化時の反対論の中にゴミ焼却時にレジ袋は燃料になるのにそれがなくなるとその分の重油を使わなくてはいけない為に逆にエコではない、という話が流布しました。以下の様に。


https://twitter.com/pixie10ole/status/1268329601098346498


https://twitter.com/ExcellencyRozen/status/1268424244314009600


https://twitter.com/kAssy0121/status/1336991247827750912

今現在確認できる当時バズったツイートはここら辺で、これらを含めて当時ソースとして使用されていたのが以下の二つだと考えられます。

自治体によってはサーマルリサイクルし、ごみ焼却燃料になり、重油燃料の使用量がその分減少し、無駄とならない。総二酸化炭素排出量は、サーマルリサイクルしても、そうしない場合と大差ない。
清水化学工業「脱プラ、脱ポリ、紙袋へ 切り替えをご検討のお客様へ

 

プラスチック製の袋は、薄くて発熱量が高く、エネルギー回収も効率的に行うことができる。実はプラスチックは焼却炉の餌になるのである。生ゴミだけ燃やすには、余計に原油が必要となり、逆に資源のムダ使いになるのである。
第6回高校生地球環境論文賞の入賞作品
受賞論文【優秀賞】「レジ袋削減は本当に必要か」

確かにレジ袋というか、プラごみが燃料となるというのはそうではあるのでその部分については特に異論はありません。ただ、この話が流布の過程でかなり過大に評価されているきらいがあります。例示すれば以下の様に*2


https://twitter.com/kAssy0121/status/1445233481269743620


https://twitter.com/ifeelin7/status/1369258538007031810


https://twitter.com/8000000_392/status/1276385976504348672

つまりはレジ袋有料化によって焼却炉の燃料が足りずに有料化後に余計な燃料が使用されている、という考えです。ちなみにこの論理に近しいものは2022年4月6日参議院決算委員会で自民党小野田紀美が次のような形で使用しています。

ごみ焼却場でごみを燃やす時にプラスチックごみがあるとええように燃えるんですよ。熱をちゃんと出していけるんです。ある程度高熱でごみを焼かないとダイオキシンの問題もあるので、その焼却炉してカロリー欲しいんですね。プラスチックごみが減ったことによってカロリーが減ってしまって結局高熱出せなくなったから重油買ってきて燃やします、ってならそれまた本末転倒じゃないかって(以下略)

ここではレジ袋ではなくプラスチックごみというくくりで言っていますが、論理そのものは同様です。なおこの質疑に関して今現在普及している焼却量では重油などによる助熱は必要はなく、ただし地方の小規模なクリーンセンターでは実情を伺って必要な検証を行っていきたいという答えをしています。つまりはこのレジ袋減少による補助燃料としての重油追加説は基本的にはその指摘は真の意味で当たらず、小規模な自治体に限ってその実態が不明というものになるかと考えます。
 さて、では実際にこの補助燃料についてデータ上はどうかというとのをいくつかのデータから見ていきます。まずは東京二十三区清掃一部事務組合のデータから。まず該当組合のデータを見るとそもそも補助燃料として重油を使っていません


出典:平成23年 清掃工場など作業年報

このように2002年度を最後に重油を燃料としては使っておらず、使用しているの都市ガスとなります。その都市ガスの使用量も2020年には減少しています。


出典:令和2年度 清掃工場など作業年報

どうも調べていくと現在の焼却炉は形式によりますが補助燃料としての重油を使用しなくても大丈夫なものが多くあります。例えば横浜市の金沢工場では重油だけではなくガスも使用しないと記述されています。

例えば、「生ごみばかりだと水分が多くて、そのままだと燃えないため、重油などをかけて無理やり燃やしている」「燃やすごみの中にプラスチック類が混じっていた方がよく燃えるため、燃やすごみの中に適当に混ぜて出したほうがよい」などです。皆さんの中にも、似たような話を聞いたことがある方がいるのではないでしょうか。
 これらの話は完全な誤解と言ってよいでしょう。(略)現在の焼却工場は、焼却炉の 内部が非常に高温のため、運転中は重油やガスなどの燃料を使わなくても生ごみは乾燥し、自然発火して燃えてしまいます。
recycle design no.258

日本の焼却炉の約7割を占めるストーカ式*3の特徴としては資料などを見ると他の方式よりも化石燃料の使用量は少ないものです*4。それと岩手や島根で清掃処理業務を受注してる会社の資料を読む限りは2019年度から2020年度にかけて重油の使用量は減少しており、ある程度の規模の自治体の場合は重油の使用量が増加したという事はないように見受けられます*5
 そもそもレジ袋のゴミに占める割合は廃プラスチックの2%程度とされており*6、これを2019年に当てはめると850万トンの2%で17万トン、それを日ごとに割り、各自治体ごとに割っていけば1回あたりの焼却時のレジ袋はかなり少ない量と推測でき、果たしてその量が減少したところで補助燃料が必要なほどにレジ袋が減少したかどうかは疑問な所です。思えばその削減量の少なさから有料化政策に「効果が薄い」という反論もあるわけで。なんにせよ、小規模な自治体まではその実態は不明ですが、この「レジ袋有料化によって重油使用量が増えた」系の話はかなり眉唾なものだと考えます。

 レジ袋有料化批判ツイートは定期的にバズる印象ですが、とはいえ有料化からもうすぐ2年。流石にいつまでもこのネタで引っ張れるとは思えないのでこのネタもあともっても数年でしょうかね。

*1:おそらく四捨五入をしているため合計値にズレが生じている

*2:一つ愚痴ると、レジ袋が減ったから重油使用料が増えた的な返事をツイッターの方でもらいました。

*3:出典: http://www.env.go.jp/recycle/waste_tech/ippan/r2/data/disposal.pdf

*4:出典:https://www.city.itoigawa.lg.jp/secure/10947/03-03.pdf

*5:岩手第2クリーンセンターアースサポート株式会社を参照。なおこれらの企業の場合、重油使用量が焼却炉に限定して記述しているかまでは不明

*6:出典:https://www.soumu.go.jp/kouchoi/substance/chosei/rejibukuro.html#:~:text=%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8B%E3%82%89%E6%AF%8E%E5%B9%B4%E6%8E%92%E5%87%BA%E3%81%95%E3%82%8C,%E3%81%B0%E3%81%94%E3%81%8F%E5%83%85%E3%81%8B%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8B%E3%80%82