電脳塵芥

四方山雑記

体育座りGHQ起源説について

 ”「体育座り」は悪影響が多い? 生徒から廃止求める意見、改めた学校も”という記事を受けて体育座りは戦後にGHQが日本人弱体化計画で導入したという話、言うなれば「体育座りGHQ起源説」の様なものがツイッターで流れてきたので、これを信じる輩はそこまではいないものの、しかしどうやら下記の様にグーグルのトレントを見てみると2020年近辺から「GHQ 体育座り」での検索数が増えているのでこの話が生まれた流れなどをメモ代わりに置いておきます。

 それと本題に入る前に一応書いておきますが、そもそも体育座りの起源は上記記事にある様に1965年の学習指導要領によって浸透したというのがおそらく定説であり、GHQは関係ないです。

島根大大学院教育学研究科の久保研二准教授(39)=体育科教育学=によると、1965年に文部省(当時)が、学習指導要領の解説書として発行した「集団行動指導の手引き」で、「腰をおろして休む姿勢」として写真付きで示されてから広まった。省スペースで手遊びがしにくく「行儀よい姿勢」という印象が浸透したという。

「体育座り=囚人座り」という認識(~2014年)

 まずこの体育座りのGHQ起源論の中にはいくつか特徴的な言葉遣いがあり、そのうちの一つが「体育座りは囚人座り」だというものです。例えば以下の様な。

上記は2021年10月21日に投稿された都市伝説紹介系youtuberによる「学校は洗脳教育のための場所だった。体育座りが使われ続ける理由がヤバい【 都市伝説 洗脳 アメリカ GHQ 】」のなかのワンシーンですが、ここで「大昔から「囚人座り」と言われており…」という記述がなされています。なおサムネイルも体育座りですが動画内でこれについて語っている時間はほんの数秒だけです。しかし再生数は27万回を超えて影響力は無視できません。

 ではこの「囚人座り」が大昔から使われていたかというと別にそうではなく、少なくとも日本のネット圏内で現在確認できる一番古い使用例は2010年10月の川邉研次氏のツイートです。

川邉氏はこれを含めて3回類似のツイートをしており、その後に別アカウントも数度「囚人座り」を含めたツイートをしていますが、そこまでの膾炙は見られません。しかし2012年2月4日、川邉氏はツイッターではなく今度はフェイスブックで類似のツイートをしています。


https://www.facebook.com/miraidentalspace/posts/336172626422464

そしてこの二日後の2012年2月6日にはさらに詳しく書いて、尚且つ画像も添付されています。


https://www.facebook.com/photo?fbid=337739122932481&set=a.212683462104715

体育座りは、日本だけの最も悪い姿勢。囚人ずわりとも言われる体育座り。こんな姿勢は、私のごともの頃でも小学校後半になってから始まった。ナチス・ドイツユダヤを平定するときに、行動が一歩遅れることを想定して創り上げたと言われる。

以上の様に「囚人座り」という名前だけではなく画像付きでどの様に悪いかを書くことによって説得力を増させています。ちなみにこの画像はその後に流布する話の中でたまに使用されることあるもので、さらにここではナチス・ドイツという単語も出てきますが、これもGHQ起源説の際につくことがある単語です。これらを考えると川邉研次氏のこれらの投稿が今の体育座りGHQ起源説の一つの原形を作ったと考えられます。なお川邉氏は2012年から今現在(2022年)までに体育座り関係の投稿をフェイスブックで30回以上はしていますが、ただ一つだけ留意する点としては、川邉氏は「体育座りGHQ起源説」は唱えていないという事です。今年3月に「実は体によくない!? 「体育座り」が教育現場に定着したワケ/毎日雑学」という記事をリンクに貼りながら「【体育座りはいつから 1965年から】」という投稿をしていますし、その領域には足を踏み入れてはなさそうです。
 そしてこの川邉氏の投稿の2年後に時間差でこの投稿を受けたブログ記事がほんの少しだけ書かれます。それが以下の二つ。

2014-4-12「姿勢!!! それ、囚人すわりじゃない?!
2014-6-12「体育座りが囚人座りと言われる理由
※ちなみにツイッターでも4月11日にやや拡散された囚人座りツイート有り

以上の他にも削除済みのブログも当時のツイートから確認でき*1、ここで「体育座り=囚人座り」の認知度が上がったことが認識できます。なお、これらのブログはいずれも川邉氏が作成したであろう画像を使用しており、ネタ元が川邉氏であることは明らかです。それと川邉氏は歯科医でして、上記ブログのうち6月の方のブログも歯科医、フェイスブックで反応している方にも歯科医が確認でき、「医者」という権威ももしかしたらここら辺の流布に関係している可能性はあります。ただし、まだこの時点ではGHQ起源説は登場していません。
 なお囚人座りとは別に「奴隷座り」というバージョンも存在しています。GHQ関連ではありませんがこの呼び名で2019年にバズったツイートは存在しており、囚人座りよりも膾炙している感もあります。


https://twitter.com/zapa/status/1092054854271303680

この奴隷座りの囚人座りと比べるとその出所は分かりませんが現在確認できるのは2011年のツイート。ただこの奴隷座りの膾炙自体は後々のブログなどで囚人の絵は使用されずに奴隷の絵が使用されることによって広まっていったものと考えられます。さて、では説そのものの出所はどこか。

体育座り=GHQ起源説の「完成」(2015年)

 GHQ起源説の出所を探っていったところ、まず2013年にそれに近い事をツイートしているアカウントは存在します。


https://twitter.com/Pharma_yoshi/status/338716951297798144

文面からGHQ起源説に近しい内容なのですが如何せんこのアカウントが何を根拠にしてツイートしているのかが不明であり、またこの周辺期に限って検索しても類似のツイートは存在しません。正直なところ検証する側にとってはかなり困るツイートで、そして究明も出来ないツイートの為にここでは例外として無視します。しかしこのツイートから2013年頃にはこのGHQ起源説が現在は削除されたであろうHPやブログか何かで生まれていた可能性があります。ただし現状から考えるとその後にそれから派生したツイートやブログがない事からかなり限定的であったと言えます。あと付け加えるならこのアカウントはこの直前に「体育座りが好き」とツイートしており、「囚人座り」的価値観とは別個のものであることが分かります。
 上記を例外にして現在確認できるGHQ起源説の本格的な登場が2015年です。それが確認できるのが2015年1月22日にyoutubeにアップロードされた「脳と心と体の専門家:田仲真治のブレイン・アップデートTV」の「歯と全身と生き方・奴隷座り」における以下の場所です。

田中氏は一般社団法人国際ブレインアップデート協会会長という方であり、この方自身が出所なのか、はたまた違う人間がソースなのかまでは不明ですが、ここで紹介されている文言は今流布されているGHQ起源説の論調とほぼ同一ものであり、この時期にGHQ起源説が「完成」していたことが分かります。また氏は「GHQ」、というよりも戦後の在り方に疑問を持つ思想と見受けられることから何らかの「アレンジ」をした可能性は考えられなくもありません。それとここの文言で「囚人座り」との融合が見られますが、この動画には春藤歯科医院の院長との対談であることから川邉氏など歯科医つながりで「囚人座り」との融合が発生した可能性もうかがえます。ただGHQ起源説が完成はしたものの、この説自体はこの時期には広まらずにある程度時間差を要しています。
 さて2015年初頭にGHQ起源説は完成していたことが確認できたものの他に出所はあるものかと探っていくと、2015年4月15日の雷人という方によるブログ記事「体育座りとスマホは鬱になる洗脳!?」において以下の様な文面があります。

確か心理カウンセラーの高石さんから聞いたんだと思うんだけど、「体育座りは、戦後GHQが日本人を鬱にするために学校でやらせてる」という話がある。

この話が本当ならば出所はこの「高石さん」となります。では心理カウンセラーの高石とは誰か。それは高石宏輔氏です。現在はHPが削除されていますが、インターネットアーカイブで確認する限りそのプロフィールはカウンセラーであると共にナンパ師であり、催眠術なども使うと自ら語る人物であり、宮台真司氏とイベントに出たり共著があったり、数冊の書籍なども出したことのある知名度がありそうな人物です。そして氏のHPには以下の様な記述があります。

いわゆる体育座りは、戦後の国家が子供たちを管理しやすくする為に教育に取り込まれた座り方です。自分自身の手で自分を縛り付け、浅い呼吸を繰り返すことになります。不自然な座り方が教育の中で自然な座り方になっていきます。牢獄を無自覚に作ることで、自分の感情が分かり辛くなり、感情 表現の乏しい状態が生み出されます。子供の頃の習慣の影響で、大人になっても残っていきます。

ここでは「戦後」と書いておりGHQとまでは書いていません。また確認できる氏のHPを漁る限りはGHQがという話はされていません。なので果たして高石氏が実際にGHQ起源説を書いたのか、それとも雷人氏が勘違いしたのかまでは分かりません。ただしこの「戦後」は「GHQ」との近さを持つであろう性質で、これの拡大解釈でGHQが付加された可能性が指摘できます。
 結局のところ誰がソースかまでは不明なものの、この時期から徐々にGHQ起源説が流布し始め、まずそれが確認できるのが2015年の5chでの以下の書き込み

578 :名無しの心子知らず@無断転載禁止:2015/12/04(金) 19:39:30.62 ID:2vDpm2Pm
体育座りは奴隷の座り方。
これを持ち込んで我々に強いたのはGHQ
この体育座りをしている人に触られただけで力が入らなくなってしまう。
 
こんなんシェアされた

以下の様なものです。ちなみにこの文の元ネタはフェイスブックであり、投稿はこちらです。ここからも「何を」根拠にしてGHQ起源説を唱えているかまでは不明ですが、これ以降は説の拡散行動が見受けられるようになっていきます。

GHQ起源説の拡散時期(2016年~)

 田中氏の時点で「思想」は十分にありましたが、2016年6月28日に「ゆるむ@ ゆるんで・今を楽しく・次の今も楽しく(#^^#)」というブログでも「何気にやってる「体育座り」の本当の意味ってなんですか?」で明確な「思想」を伴った記事が出現します。

囚人座り
この姿勢はナチス・ドイツが開発したと言われていて、日本では戦後GHQによって、学校教育に取り入れられた座り方です。(略)まさに『手も足も出せない』状態であり、体を使った洗脳政策のひとつです。海外ではこの姿勢はないようです。マーメイド座りか、手を後ろに置いて体を支える座り方です。

このブログ記事はその後にるいネットに転載されており、それを媒介してツイッター内でも多少の拡散が見られます。
 2017年には陰謀論好みの保守層の中に話題を拡散する行動に出たと思われるのが確認できます。例えば「国家非常事態対策委員会」というアカウントがyoutubeにおいて2017年7月6日に「GHQによる日本衰退戦略 「体育座りの健康への悪影響」、「水道水に含まれる塩素」、「輸血にまつわる陰謀」【ネット TV ニュース.報道】」という動画をアップロードしています。これは現在youtubeでは削除されていますがニコニコ動画では現存しておりますが、聞く限りは今までの説のトレースです。そしてツイッターでは2017年7月のブログ記事「「体育すわり」は日本人を骨抜きにする戦後GHQ戦略」が若干の拡散が見られ、「奴隷」との関連付けをするための以下の画像も使用されるようになったことが確認できます。

なおこの2017年のブログは随所の記述を見る限りは2016年の「「体育すわり」は日本人を骨抜きにする奴○と囚人の座り方」と類似性は高くパクリ記事っぽい*2
 そして2019年12月3日、おそらくこの「体育座りGHQ起源説」に決定的な影響を与えた動画あります。それがyoutubeの「自己肯定感アニキ 津田 絋彰〔つだ ひろあき〕」チャンネルにおける「【衝撃】GHQが日本に導入した体育座り。身体への影響とは」です。

www.youtube.com

この動画の再生回数は70万回にも及び、無視できる再生回数ではありません。発端ともいえる田中氏の動画が1万回であることから影響力の差も段違いと考えていいでしょう*3。グーグルトレンドにある検索推移とも符合する時期と言えるだけにこの動画が今の説に影響を与えたと考えてもそうは誤りはないと考えます。ちなみにこの動画の津田氏はブログなどを見る限りは保守層で違いはありません。そしてこの動画の後にツイッター内でもつぶやきが増加が確認でき、中には以下の様なGHQ起源説を定期的につぶやくアカウントまで登場。


参照リンク

またyoutubeでは2020年3月25日に「ウマヅラビデオ」がアップロードした「学校で植え付けられた洗脳【都市伝説】」が津田氏の再生数を上回り100万回再生を超えているのも確認できます。

www.youtube.com

冒頭で紹介したyoutube動画も含めて、都市伝説の「ネタ」として流布されそれが拡散に大きく寄与している事が伺えます。またこれらに比べれば微々たるものですが、ブログ記事などでもちらほらと出てくるような状態になっています。実際、かなり馬鹿げた話なので信じる人間は少ないでしょうが、それでもそれなりの数が信じているのもまた事実な案件になってしまっています。

 以上の様にこの「体育座りGHQ起源説」の初発自体は不明で明確にわかるのは2015年。実際には2013年ごろにはおそらく存在したと考えられます。この発端には体育座り自体が身体に良くないという前提があり、それを危惧した歯科医が「囚人座り」という言葉を流布し始め、それとは別個として存在した「戦後に生まれた体育座り」の「戦後」というキーワードが「GHQ」と結びつき、そしてさらにそれらが結びついた結果としてGHQ起源説が生まれたと推測できます。そしてそれはまずブログでの記述や陰謀論と近しい保守層の中にその言説を利用した人間が出始めましたが、当初はほそぼそとしたものでした。ただそれが徐々に膾炙し始め、それを信じたのか、若しくはウケると信じて流すyoutuberによって拡散されて一部で定着したという流れであるかなと。息の長く、時には一部をくすぐる「日本人弱体化計画」の様なものが付きながらの伝言ゲームによって生まれたのだと考えますが、それはそれとして体育座りを日本人弱体化計画でGHQ云々は信じる必要もない戯言に過ぎない。

*1:https://twitter.com/azumask/status/456320912820682752

*2:そして2016年の方はツイーターを見る限りはあまり拡散していない

*3:一応、津田氏の動画の前にも類似の動画がありますが、再生数的に言えばこの津田氏の動画の影響力がかなり大きいと考えられる。