電脳塵芥

四方山雑記

W杯(ワールドカップ)における日本人サポーターのゴミ拾い活動が始まった時期についての資料

 カタールサッカーワールドカップに関する報道で日本人サポーターによる試合終了後のゴミ拾い活動が報道されてて、なんだかもはや風物詩ってな感じになった感がありましたけど、そもそもこの活動がいつ始まったのかについてのメモ、というか資料的記録を残しとく。

ゴミ袋を持ち込むようになったのは1997年

 今回(2022年W杯)での該当話題が増えてきた際に往時を語っている方のまとめがまずあり、昔語りとしては以下を参考にするとよい。

togetter.com

このまとめの発端となっているツイートは以下の様なもの。



https://twitter.com/luntaro/status/1595984455617085440

あくまでも証言の一つだか、これが事実ならば1997年からこの行動は始まっていることになる。で、実際にこの時の事を書いてある資料としては二つあり、まず一つは日本サッカー狂会編による『日本サッカー狂会』(2007)。この資料を基にしてまとめた情報がwikipediaのウルトラス・ニッポン(サッカー日本代表のサポーター集団)の「青いポリ袋」に書いてあり、そこには下記のように書かれている。

青いポリ袋
スタンドを青く覆うことを目的に横断幕などとともにポリ袋が使用される場合がある(青いポリ袋を膨らませて手で振るというもの)。植田によれば、もともと紙吹雪を撒くことが多かったが、大量の紙吹雪が風に流されて近隣の野球の試合や高速道路に影響が出たため苦情を受けていた。1997年9月7日に行われたホームで行われた1998 FIFAワールドカップアジア最終予選ウズベキスタン代表戦で青い紙テープを使用した後、同年9月19日に敵地で行われたUAE代表の際にはじめて青いポリ袋が導入されたテレビ朝日系列(ANN)のニュースステーションUAE代表戦の模様が紹介され、番組内で応援のためポリ袋を持参するように呼び掛けたところ反響を呼び、同年9月28日にホームで行われた韓国代表戦以降、応援スタイルのひとつとして定着した。
wikipedia ウルトラス・ニッポン 2022年11月30日閲覧

ちなみに上記の行動が評判を呼び、ユネスコに表彰されたとあるがそれは報道もされたものであり、当時からサポーターによるゴミ拾いが評価されていたことがわかる。

第11回ユネスコ・日本フェアプレー賞の授賞式が15日、都内で行われた。
 最も栄誉ある特別賞に選ばれたのは、サッカーのワールドカップ・フランス大会の日本のサポーター。本来は選手が対象となる 賞だが、フェアな声援を送ったことや、試合後に客席のゴミ拾いを行ったことなどが評価され、異例の受賞となった。
(読売新聞1999年4月16日朝刊 20ページ)

 以上のように見ていくとサポーター集団「ウルトラス・ニッポン」がこの行動をはじめ、1997年9月19日がこの日本人サポーターによるゴミ拾い活動の始まりかとも考えられるが、実際にはこれよりも早く「青いごみ袋」をサポーターに持ってくるように呼び掛けて行動を起こしている集団がある*1。それがKOICHさんが始めたHP「サッカー日本代表を応援するホームページ」であり、その発祥は該当HPにある掲示板JNETとされる。ウルトラス・ニッポンのwikipediaでも注釈ではこのJNETが始まりとしている説も上げているが、実際に「サッカー日本代表を応援するホームページ」から集まった有志による青いポリ袋持参応援の方が早い。その日時は1997年6月28日のオマーンだ。残念ながらJNETの方はアーカイブにすら残っておらず、「発案」の決定的記録は残ってはいないが、該当HPでは「6・28国立大作戦」、そして「6・28国立大作戦・実行部隊報告書」からどのような行動だったかが確認可能だ。

6・28国立大作戦
『国立に青い波が乗る』
W杯一次予選突破を決定 この記念すべき日の国立を『青』一色で染めてあげようではありませんか。をつけたのは『ウェーブ』! 国立ウェーブを本当の『青い波』にするぞ!
準備:御用意して頂くのはひとつ。透明化が進んでいますが、大手スーパーやコンビニ、金物屋さんなどで入手可能です。 )入手できたら一緒に国立観戦する友達や家族にも配って協力してもらいましょう。
チャンスはその時です! 『ウェーブ』が当たったら、立ち上がって、万歳! (上のアニメ参照)
追加情報:『JUSCOで売られている、脱臭ポリ袋45リットル用(80cmX65cm)10枚入りのごみ袋の閉じられている方を両手でもってウェ~ブをすると、開き口から空気が入って、ぱ~っとふくらみます。何人かで並んでこれをやれば、日本の勝利の青い波!!です~。』(以上、読者情報です。)
注意
●ご自分の席のまわりの知らない人に『青いゴミ袋』を配る際は絶対に大作戦の強制をしないで下さい。丁重にご協力いただき、拒否された場合は笑顔で引き下げましょう強制は絶対にダメです。 ●
 
試合後は責任をもって『青いごみ袋』をお持ち帰り下さい。『ゴミ袋』が『国立のゴミ』になってはシャレにもなりません。

 以上の様に青いゴミ袋を持参してウェーブを起こそうという作戦だ。その様子は「6・28国立大作戦・実行部隊報告書」を読むと参加者からの報告メールで確認でき、参加人数も300名ほどと書いてあり成功したと判断しても良い。

なお、この参加者の中にウストラス・ニッポンの人間がいた可能性はあるが、報告の中には「ウルトラスニッポンの大応援団に飲み込まれながらも、探してみれば確かにいる青いビニール袋! 」、「ウルトラスの連中の横っちょの方で一応着ました!」という記述があることからも全体としてはウルトラス・ニッポンとは別行動として行っていたことがわかる。また「サッカー日本代表を応援するホームページ」による大作戦はその後も「9・28韓国戦 炎の国立大作戦スペシャル」をはじめとして数回この種の大作戦を開催している。ただ9月28日の韓国戦となるとすでにウルトラス・ニッポン側もこの応援手法を採用していることから、流れとしては、

【サッカー応援でのゴミ袋使用の流れ(1997年)】
6月28日
サッカー日本代表を応援するホームページ」 がオマーン戦で青いごみ袋持参で応援を始める
9月19日
ウルトラス・ニッポンがUAE戦で青いごみ袋を使用した応援を始める
9月28日
「サッカー日本代を~」、「ウルトラス・ニッポン」が韓国戦青いごみ袋応援
以降、定着化

というもの。ウルトラス側の9月19日UAE戦で始めたという話は、時期を考えればオマーン戦での作戦参加者の応援や当時サッカー情報ページとして有名だった「サッカー日本代表を応援するホームページ」でのアイディアを借用したものと思われるが、もともと「青いゴミ袋」自体が日本代表のカラーの「青」に合わせられること、紙吹雪などによるゴミが出ない事、ウェーブなどの行動がしやすい事、見た目がわかりやすい、調達のしやすさなどから「青いゴミ袋」がその後の応援に生き残って定着したと思われる。そして、ついでにゴミ袋だからゴミが拾える。この「W杯における日本サポーターのゴミ拾い活動」の発祥時、ゴミ袋持参はゴミ拾いが主ではなくあくまでも従だったと思われる。

行動が多くの人間に「認知」されたのは2014年

 ゴミ拾い行動自体は上記の様に1997年が始まりだが、日本社会で今の様な形で認知されたのは2014年のブラジル大会だと思われる*2。それはこのゴミ拾いについての報道について調べられた「試合会場ゴミ拾い小史」からもはっきりしており、1998年関連の記事が少しあった後、2014年までは報道記事が飛ぶ事からもそれが伺える。そして、2014年での報道とは以下の様なもの。

 サッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会で、日本—コートジボワール戦の観戦を終えた日本人サポーターが、客席のゴミを片づける画像が世界に広まり、各国の主要メディアから称賛されている
 ブラジルの有力紙「フォーリャ・デ・サンパウロ」(電子版)は15日、北東部レシフェで14日行われた試合の終了後に始まったゴミ拾いについて、「日本は初戦を落としたが、礼儀の面では多くのポイントを獲得した」と報道した。
 英紙インデペンデント(電子版)は16日、「日本の観衆がワールドカップの会場でゴミを集めたことは他国のサッカーファンにショックを与えた」と伝えた。
 韓国の聯合ニュースは16日、日本人サポーターについて「敗北の衝撃に包まれながらも、破壊的な行動をせず、ゴミを拾い始めた」と指摘。画像は、中国のインターネット・ニュースでも伝えられ、国営新華社通信の中国版ツイッター「微博」には、「日本のいい伝統は学ぶ価値がある」などの書き込みがあった。
 サポーターによる観客席のゴミ拾いは、日本がW杯に初出場した1998年フランス大会から行われている取り組みだという。試合中膨らませて応援する青い袋を、試合後はゴミ袋として活用した。
(読売新聞2014年6月18日朝刊 34ページ) ※試合会場ゴミ拾い小史からの孫引き

ゴミ拾い行動をする日本人サポーターが褒められるという、2022年現在の報道と同種のものである頃が理解できる。この「称賛」的な報道はネットメディアでも確認でき、例えばハフポストでは「「日本は最高!」ゴミ拾いするサポーターを世界が称賛【ワールドカップ】」という記事を書いて居たり、グーグルで検索した限りでは以下の様にトップは「日本スゴイ」系にもやや属すると言っても過言ではない形の報道がいくつかのメディアがなされている。

ちなみに2010年の南アフリカ大会について同様の検索をすると次のようになり、ゴミ拾い活動は影も形もない。ツイッター内でも同様で、ワールドカップとゴミ拾いを関連させたのは終了後の渋谷でゴミ拾いをするといった程度のもの*3

以上の様に2014年から日本人のゴミ拾い活動は日本社会で認知される様になり、報道以外にも在リオ総領事館が州政府から表彰状を受けるなど、日本社会以外でも認知される様になったと言えるかもしれない。


https://twitter.com/MofaJapan_ITPR/status/488491632413536256

 ところで報道の内容として2014年も顕著だが、その後の報道、例えば読売新聞の2018年5月30日ではいくつかのイベント後のゴミ拾いについて扱った記事である「晴れの会場でゴミ拾い ニッポンの美徳」などから、(一部の)日本人サポーターのこのゴミ拾い活動は「日本スゴイ」的な言説や「日本像」、「道徳」的なものへの吸収が伺え、1997年の開始時期に始めた当人たちにはあまりなかったであろう言説が10年以上の時間を経ることによって付加されていると言えるかもしれない。
 なくなる気配はなく、もはやサポーターの文化の一つになっている感じはするので、ワールドカップの本戦に出場できるうちは風物詩的な報道になって当分生き残りそう。



■お布施用ページ

note.com

*1:なお『サッカー狂会』のはウルトラス視点の座談会形式であること、またp.238には"ゴミ袋は一番最初、アウェイのUAE戦に持っていったのかな? それで次の韓国戦で大ブレイク"と記述。ここでは自分達が始めたと必ずしも言えない形であり、wikipediaの書き方の問題とも言える。

*2:2002年の日韓は地元開催だからともかくとして、2006、2010年の大会の時にゴミ拾い報道がなかった理由は不明。

*3:2010年12月31日までのツイッターにおける「W杯 OR ワールドカップ ゴミ拾い」の検索結果