電脳塵芥

四方山雑記

「トーマス・ロックリーによって『黒人奴隷は日本発祥』というデマが広がっている」というデマ

【7月27日 一部に加筆修正】

 完全フィクション歴史ゲームの「アサシンクリード・シャドウ」がここ最近ずっと炎上して遂には公式が声明まで出るに至ってて、わりと大規模な炎上が発生している。この炎上自体は「『アサシンクリードシャドウズ』が炎上する理由」などでの解説があり、(納得できるかどうかは人によるだろうが)そちらを参照してもらいたい。その炎上のさなかで5月中旬ごろにトーマス・ロックリーという人物が注目される。これは「Who Is Yasuke? Assassin’s Creed Shadows’ Black Samurai Explained」など、5月15日にIGNによって書かれた記事に彼の名前がある事などが理由と思われる。そこから彼自身の検証が始まって、例えば英語版のwikipediaのYasukeの項目を自身による学説で埋めていたとされるなど、普通にダメな行為も見て取れる。
 で、その中で変な言説を見るようになったのでそれについてだけメモしておく。


https://x.com/DOT_ueda/status/1813179401577873757


https://x.com/ksk0628ps/status/1813185236764926141


https://x.com/bam8772/status/1813921344440201236

7月16日のこれらの投稿では「「トーマス・ロックリーによって『黒人奴隷は日本発祥』」という話をしている。これを受けてか以下の様に18日に拡散が始まる。


https://x.com/TM47383445/status/1813864348009562350


https://x.com/HashimotoKotoe/status/1814016151963529390
※引用先の写真はAI生成による偽の黒人侍写真。こういったAI生成黒人侍写真が炎上の一要素としてはありそう。


https://x.com/nipponichi8/status/1814228838177489086


https://x.com/minpounokokoro3/status/1814422121793368310


https://x.com/nana0504/status/1814609151538172115


https://x.com/aTmd5pmdtgje/status/1815335678068306256

これでも割愛した方だが、ネット右派系インフルエンサーまで参戦してきておりこの話があたかも事実かの様に拡散されている事がわかる。この「黒人奴隷日本発祥」説(デマ)が生まれたのは7月16日である事はSNS上から観察できる。例えば「黒人奴隷 日本発祥 or 起源 until:2024-7-17」で検索すると以下のような結果が出てくる。

7月15日にほぼほぼ起源説に近い話は出てくるが、明確なのは16日からと言える。ちなみにだが「黒人奴隷 日本発祥 until:2024-7-17」と検索ワードをまるめると7月16日が最初の投稿となっている。そして画像を見ればわかる様にこれはyoutubeの「頼むぜ、エディタ」というアカウントがアップロードした「「日本では黒人奴隷が流行ってた」ロックリー氏ヤバイ発言をしていたが、更に酷い事実が発覚し、逃亡中....」がネタ元となる。

その動画上の「イエズス会が反対」、「奴隷が流行った」という二つの情報を合わせた結果として「黒人奴隷は日本発祥」という伝言ゲーム的変容が生まれたものだと思われる。ちなみにこの動画自体はnoteに7月15日にアップされた「トーマス・ロックリー「戦国日本では黒人奴隷が流行」」というキャプチャがある事からこれがネタ元と思え、さらにこのnote記事をみると下記の7月14日の投稿(削除済み)がネタ元であることがわかる。

上記の削除された投稿は投稿者が後に「二次情報を元にしたツイートの反響が凄すぎるので流石にこれはマズイから消すか…](https://twitter.com/minasekiyonaga/status/1812717057009721465)」と書いておりこれ自体が書籍を確認していない投稿となる。このアカウント自体が何を参照しての二次情報までかは正確には不明だが、内容自体は「白人が黒人を奴隷にしていた文化を日本になすりつけとる」という表現があることからもほぼほぼ発祥説ともいえる。なお上記はまともなアーカイブが残っていないので当時の拡散具合はわからないが、本人自体が拡散を認識し、グーグル検索による痕跡からいくつかの該当投稿への引用が見受けられることからそれなりに影響力があった投稿だと思われる。 そして該当部分について、日本版の書籍である『信長と弥助』には実際にどう書かれているかだが、これはアマゾンのサンプル版でも確認可能で、該当箇所を抜粋する。

弥助は日本を旅した最初のアフリカ人ではなかったが、これだけ高貴な人物に随行したアフリカ人は彼が最初だったにちがいない。イエズス会士は清貧の誓いを立てて奴隷制に反対しており、通常はアフリカ人を伴うことはなかったからだ。ポルトガルやアジアのほかの地域から来た貿易商たち――宣教師とは異なる行動原理を持つ外国人たち――がア フリカ人を伴うことはあったが、この当時は貿易商が九州沿岸にある港から離れることは滅多になかった。したがって弥助は内陸部に赴くたびに、大騒ぎを引き起こした。地元の名士のあいだでは、キリスト教徒だろうとなかろうと、権威の象徴としてアフリカ人奴隷を使うという流行が始まったようだ。

 ただロックリーが著作で記述している事は「地元の名士のあいだでアフリカ人奴隷を使うことが流行した*1」という様なもので「黒人奴隷は日本発祥」はあまりにも飛躍しすぎている。また「イエズス会は反対した」という部分についていえば、同書籍で次のような部分がある。

イエズス会は奴隷を認めておらず、建前上は奴隷を所有していなかった。しかし実際には、弥助のような護衛をはじめとして、従者、船員、荷運び人、通訳、また農作業を行なう人々の手を借りる必要があった。ほかの教会思想家たちは“しかるべき”奴隷についてだけ規範を定めるという方法を取った。つまり規制の対象を、奴隷の女性から生まれた者、妥当な戦争(異教徒との戦争など)での捕虜、自発的に身を売った者、極貧のため売られた子供、囚人などに限ったのである。一方、イエズス会は奴隷たちの不滅の魂を救済し、彼らを”正当に”扱うことで良心の呵責を和らげた。

イエズス会の奴隷反対は表面上のものであることがわかる。とにもかくにも『黒人奴隷は日本発祥』という言説は、ロックリーの著書を(恐らく中途半端に)読んだ人間が「~奴隷が流行った」などから感じ取ったあくまでも「感想」レベルだったものが、youtuberなどの拡散者によって書籍を読まない人間に伝わったことによってわかりやすく衝撃的な情報へと変換され、ロックリーの書籍に「書いてあった」という偽情報へと変容したものだと思われる。ちなみに黒人奴隷日本発祥説も大概だが、トンデモな変化具合では次のようなものもある。


https://x.com/shop_kakiko/status/1814079191530520643

「弥助征夷大将軍説」だが、ロックリーの文脈的には(侍という)その国の文化のトップ、という様なものだろう*2。これはこれで誤解を生む稚拙な表現とも言えるが、「弥助は征夷大将軍だった」という解釈になるのは画像を2枚見ただけの判断にしても短絡すぎと言える。
 また少し話が変わるが、発端ともいえる「頼むぜエディタ」が次のような投稿をしていた。


https://x.com/tanomuzeA/status/1816022516801888711

これを受けて「納得」しているアカウントがおり、他の場所でも画像の拡散が見られる。


https://x.com/kou_mamorukai/status/1816109535557566571


https://x.com/Bourbonheim/status/1816021484424622316

なおこの投稿を日本ネット圏で広めたのは6月6日に髙安カミユが投稿したものとなる。


https://twitter.com/martytaka777/status/1798563247022583942

髙安カミユは外国の極右系アカウントの転載アカウントであり、転載元はおそらく髙安カミユがフォローしている次のアカウントからだろう。

https://twitter.com/AsianDawn4/status/1798411219201913148

該当アカウントの「AsianDawn」はTLを見る限りは黒人への嫌悪感情を隠していないアカウントであり、アサシンクリードの件にもいくつか触れている。文面からは煽ることそのものを目的としていると思われる。悪質な「ネタ」だろう。髙安カミユがそれを「真に受けているのか」、「煽るために怪しい情報まで使用しているのか」までは不明だが、現状では少なくない人が「真に受けている(デマに踊らされている)」。黒人奴隷の話に戻るが、下記の投稿などは国家や世界単位といえる話にまで発展しており、話題の規模が果てしなくでかくなっている*3


https://x.com/itagaki_katsu/status/1814824797244924366

過剰な防御反応といえるが中心となる言説が伝言ゲームから変容した単純なデマであったりして、結構な数の人間がデマで踊らされている。多分、それなりの人が内面化したまま解消されることもなく「不信感」と「懸念」を抱えたまま時が過ぎる気がする。

■お布施用ページ
note.com

*1:「地元」がどこまでを指すかは「九州」ともとれるが、弥助が内陸部に赴くたびにという記述から弥助が訪れた先とも読み取れる。ただ少なくとも「全国」的な流行ではないだろう。

*2:次の投稿で彼が言いたい文脈が把握できる。https://x.com/252coffee/status/1815370887778156718

*3:そのほかにこういった言説に近しいものだと「黒人 慰安婦 min_retweets:1000」で検索するとかなり類似言説があるとわかる。