電脳塵芥

四方山雑記

日本における近年の女性の投票率について

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 というツイートについて。引用先にある総務省の表では最後にある平成26年衆議院選挙では男性投票率53.66%、女性投票率51.72%となりやや男性の投票率が高めです。ただ2%程度の差を”「日本人女性の皆さん、もっと気合い入れなよ」”と言えるほどの差であるかはやや疑問です。なお表にある様に(白枠で囲まれている方が投票率が多い)昭和44年から平成17年までは女性の投票率の方が多く、男性の投票が上回るようになったのは平成21年から。ここから見ても別に女性の投票意識が男性より総じて低いというわけではない事が受けとれます。参院選の方でも近年男性の方がやや多い傾向なのは変わりませんが何れもそこまで女性の投票率云々(逆に男性の投票率云々)を言えるほどの大きな差はないかなと。それと本題とは別に引用されているグラフは「目で見る投票率(平成29年版)」ですが、「目で見る投票率(平成31年版)」があるのでそちらを使用したほうが良かったですね。平成29年衆議院選挙は男性投票率54.08%、女性投票率53.31%となり、男性の方が高いとはいえ使用するなら最新のデータを使用したほうが宜しいでしょう。

各年齢別にみた投票率について

 さて、そもそもグラフの男女別投票率は全年齢を合わせた投票率です*1。そこで各年例別の男女別投票率はどうだったかを見ていきます。データは総務省の「平成29年10月22日執行 衆議院議員総選挙・最高裁判所裁判官国民審査 速報資料」にある「6.年齢別投票状況について」から。

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各年代別をグラフ化すると以上の様になり、見てわかる様に65歳以上の高年齢層以外の年齢ではすべて女性の投票率の方が男性を上回っています。ただその後に女性の投票率がみるみる減少しているのを見てみると女性の投票率が男性よりも低いのはこの高年齢者層によるものでしょう。この女性高年齢者層の投票率減少がなぜ発生しているか、また以前からそうであったかまではデータがありませんので触れませんが、平成21年からの男女の投票率減少はこの高年齢者層の比重の増加ではないかなと考えます。

f:id:nou_yunyun:20210206211707p:plain 出典:令和2年版高齢社会白書より

データ上でも高年齢者層が増加している時期でもあり、それ以外の理由を見るけることは難しいかなと。
 ちなみに先ほどの総務省のデータを見るとこの高年齢者層か否かで区切った投票率は以下の様になります。

【18~64歳】
男性投票率:50.80%
女性投票率:53.53%

【65歳以上】
男性投票率:69.97%
女性投票率:60.29%

【全年齢投票率
男性投票率:56.65%
女性投票率:56.07%
総務省の公開している男女別投票率は抽出調査であり全数調査ではない為に「目で見る投票率」のグラフとは割合にずれが生じています。

さらに65歳以上の男女別投票率の差を見ていくと以下の通り。

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これを見る限り高年齢者層(特に70歳代以降)になると女性の投票が男性より顕著に低い傾向が見受けられます*2。むしろ逆にとらえて高年齢層の男性は女性よりも投票に行く動機があるといえるかもしれません。この事象そのものを調べたわけではなくまた2005年の調査とやや古くなりますが、以下の様な指摘がありその理由の一端を感じさせます。

男性の場合は家族の主権者・家計責任者、地域運営の主権者・主体者、組織団体の主権者・主体者としての必要性から、選挙や選挙の行方に関心を持っていた。さらに伝統主義的政治文化・参加文化、行政末端補完機能組織・団体においても男性は役職に就いたり、上位に位置しやすい。男性には性役割から、より主体者・主権者として選挙や選挙の行方に関心を持ち、関心を高める構造があるのである。しかし未婚・地域組織の弱い居住地の住民、支持政党がない、組織・団体未加入者は関心も投票参加も低かった。
石田 好江 真野 昌子
女性の投票行動とジェンダーっくられた選挙への低い関心と高い投票参加

また情勢の投票率が高いことに関して以下の様な指摘もあります。

「男性より僅かに高い投票参加」という行動は、女性が投票することを「性役割義務を付加した投票役割」として認識し、「男性」という集団・男性中心主義・男性優位政治体制からの同調・動員圧力に応え、投票義務感やコミットメントから、まじめに投票参加する構造からつくられていたのである。
(略)
55年体制崩壊後も「男性より低い政治性」「男性より高い投票参加」という現象が続いているのは、現在も「投票・投票行動のジェンダー化」に疑問を持たない女性層が動員に応えて最も投票に参加し、「男性」「男性中心主義」「男性優位政治体制」が女性票を取り込み、利用する構造が存在しているからである。
同上

これは15年以上前の話であり、現在では投票行動の質的転換が起こっている可能性もありますが高年齢者女性の投票率低下を考える一助になるのではないかなと。

*1:全数調査ではなく抽出調査なのに留意

*2:ただ80歳以上に関しては単純に生存者の数に左右している面もありえます。この年齢層になると抽出されている有権者数が2倍近く異なり女性の有権者は多いですが、それと共に平均寿命などを鑑みれば女性の方が高年齢者数そのものも多い可能性があり、単純に投票に行けるかどうかなども勘案する必要があるかもしれません。約18%の差というのは流石に大きすぎですし、そういった肉体的限界故の投票率低下はあり得るのではないかと。