電脳塵芥

四方山雑記

能登半島地震における不審車両デマ

 以上の様に現地と思われる場所で貼られた張り紙に不審車両情報が載っている。明確に記載されているのが「岐阜 400 ひ 86-67」と「神戸 68-36」の2台。しかし、2台とも既にSNS上でデマであると指摘されている。ただ前提として現地で詐欺と思われる案件が確認自体は北國新聞が報道しており、志賀町長がそういった発言をしている。つまりは現地において詐欺的な犯罪行為や窃盗などと思われる行為があることの理解も必要。ただしこの志賀町における「詐欺と思われる案件」が実際にどのようなものであったかまではいまだ不明である事にも留意。なお、一枚目の画像は老人ホームに貼られている紙だとのことだが、それを投稿しているアカウントは「ゴリゴリな方々が貴方がたの討伐をする ために、アップを始めました。」と暴力を示唆している。アカウントは削除済み。


https://twitter.com/0816Jimmy/status/1742828068618768412/photo/1

岐阜 400 ひ 86-67について

別ver

 まずこのナンバーが拡散されたきっかけは上記の様な画像群(他にもあるが割愛)。これがインスタグラム当たりで流布していたものがXにまで来て以下の様に紹介されて拡散される。


https://archive.is/JBtfl

志賀町と限定した一枚目の投稿を見る限り、上述した北国新聞との報道と合わせて現地でこのような情報が出回っており、そこに「岐阜県」という県外のハイエースが目撃されたことで「怪しい」となってこのような情報になったものと考えられる。しかしながら当該ハイエースに対しては下記ですでに検証済みで、通信設備復旧のために被災地入りしているイズミ通信の車両。


https://twitter.com/geo_vitya/status/1742813792919323046

また現地で実際に尋ねている人がおり、そちらでも通信機器の整備であるとしている。

Xで該当情報を広めた上記アカウントは既に謝罪済みだが、その謝罪の前段として一度、該当会社の人が通信設備のためにはいった車と指摘したところ、デマ拡散アカウントからそれなりの情報を提示してくださいという詰問があるなどひと悶着であったりと指摘アカウントはアカウント削除の憂き目に遭っている。会社などの情報を述べなかったのは匿名アカウントなだけに自身の所属会社を述べることによる身バレを気にしたと思われるが、過剰な詰問だったと言える。ちなみに何故かこの岐阜ナンバーハイエースと下記のカップラーメン1500円のぼったくり販売が紐づけられているが、何故かは不明であるし元々のカップラーメン1500円投稿をしたインスタアカウントは現在投稿を削除しているか、ストーリー削除のために内容は確認できない*1。こちらも伝聞情報の域を出ない。

神戸 68-36について

 写真などもなく何処の情報から拡散しているかまでは不明だが、ただ下記指摘アカウントの祖父母が住んでいるのが志賀町であることから、「志賀町にいる県外のハイエース」ということで「不審」だからピックアップされたと考えられる。ただ該当車両を所持しているのは祖父母の身を案じて駆けつけた車。


https://twitter.com/mika_Leone/status/1742745432575590664

該当アカウントは個人でいくつかのアカウントにリプライなどで訂正活動を行っている。該当アカウントの親戚だとおもわれるアカウントも自分の親戚の車だとも投稿、さらには知り合いの親戚の車という投稿もあり、身内や知り合いにも訂正投稿を頼んだか自発的なのかまでは不明なのものの複数の証言があります。少なくともこれらの投稿の方が真実性が高い。

マイクロバスに乗った中国人窃盗団

 これはtogetterにある「能登の被災地で「マイクロバスに乗った中国人窃盗団」というデマが拡散中。情報源の消防団長は「誤情報だった」と認める。」が詳しく、そこに基本的には依拠。これも舞台は志賀町

インスタではこのような感じの注意喚起が消防団からの情報として流れる。上記まとめにはないが1月3日21時50分時点で中国人が窃盗しているという投稿がX上になされている。


https://twitter.com/kose8pikapika/status/1742528873567555588

この後の22時25分(下記スクショはアーカイブなので時間がずれてます。)に下記の様に情報の出所が消防団であることがわかるLINEが投稿されており、これが現地の関係者に出回っていたのかもしれない。


https://archive.vn/8a2wN

LINEでは「中国人」という情報はないが、この前の投稿を見る限りは「中国人」という情報は一部で漏れ伝わっていると考えられる。また付随されている写真のハイエースは今まで見てきたようにデマであり、このLINE投稿はデマを用いたものになっている。 そして実際にデマであり、1月4日の午前2時46分、消防団長自らが確認し中国人による窃盗は誤報であったと投稿される。


https://twitter.com/FUKURA58/status/1742603448191943027

この消防団長が何故「泥棒、入られたそうです」と判断したまでかは原因が不明だが、ただ前段として事前に出回っていた「ハイエース」情報から窃盗団の情報を想起した可能性が高い。また「中国人」という情報が付記されたのもSNS上における震災以前からある外国人犯罪者像としての「中国人」からの発想と考えられる。これらから「県外のハイエース」が不審と不安からデマを生み出し、そしてそのデマがさらなるデマを生んだ一例と言える。

 以上の様に志賀町において「県外」の人間が不審者であるとされる傾向が見られる。これは以下の投稿からも見て取れる。


※この画像に対して「足立ナンバー」という情報を付加された画像も存在しているが、この情報は全く拡散はされていない。

上記画像の該当アカウントはストーリーで公開したのか、現在投稿削除済みだが上記アカウントの投稿自体もどこからの転載の可能性が高いし、写真とナンバーを書いた紙の組み合わせは別の人間がやった可能性が高い。この写真自体にはハイエースは映っていないし、遠くで写真を撮られている人間が本当に「悪いことしてるのこいつらだそうです」にあたるような人物かも不確かとしか考えられず流言の域にあると言える。また志賀町でスモークを貼った県外ナンバーのハイエースを見て注意喚起をしている投稿も存在。上記に挙げたのは結局はデマであるが、ただしそれが志賀町における集団心理状態であり、インスタグラムなどのSNSがそれを加速させて今回の様に現地以外の人間の目にも入っていると言える。

大阪の黒のハイエースについて

 これはデマとまでは確定は出来ないが、注意すべきハイエースとして大阪とされる黒のハイエースもあるのでこちらについて。この件は以下の事案の事だろうが、しかしながら作成された画像では黒のハイエースとだけあり「大阪」がどこから来たのかまでは不明。

この事案は4~5人の男性が女性を連れ去ろうとしていたという話で衝撃的だが、黒のハイエースの目撃情報、写真などは皆無であり、なんらかの確度の高い情報は現状において存在しない。つまりは伝聞情報のみで流言の域を出ない。また誘拐系の投稿で言えば「子ども達をさらう誘拐が多数発生」というものがあるが、その様な報道も現地の声も存在しないことからこちらも流言の域を出ない。

能登町鵜川のハイエース

 大きく拡散しているのは上記2台なものの、他には以下の様な投稿がインスタグラムに存在。

これは能登町の鵜川に関する投稿。文を見ればわかる様に元々は横画像だったものを、インスタ投稿で見やすいようにか縦画像にして不審車両と危険性を訴える文をさらに付け加えているし、ナンバー特定を呼びかけており「自警」の促しでもある。話はやや脱線するけれど、インスタ投稿は元画像に対して新たな文章を載せる投稿などが多い。話は戻り、ただしこの車両については持ち主がインスタに投稿している。


https://www.instagram.com/mi2noli/p/C1o4TBYSntL/

これ俺のハイエースです、自分の住んでるところから、車で10分くらいのところに住んでる母へ、もちろん石川ナンバーです、川からバケツに水を汲んでトイレや使い水にしてと、届けてるところを撮られ、SNSにあげられました、あげた本人もすぐに特定でき、訂正と削除してくれたのですが、一度上がったのは、やっぱりというか、予想以上というか、凶器持ってるかもなど、尾ひれがついて話大きくなって拡散されちゃってます。
SNSとかネットの怖さというか、ネットリテラシーの低さというか、母の部屋で、休憩してたら、窓の外が騒がしくなったので、外を覗くと、地元の青年方が、「オラ〜ッ」「出てこい!」とか言ってて、見てみたら知った顔ばかりだったので、「それ俺のハイエース」「SNS上げれたのも知ってる」っていうと、皆さんも「なんや、みつのか!」ってすぐに誤報とわかってくれました。
午後からは作業に行くのも奥さんの車で回ってるので、作業効率は落ちました。

上記の投稿を見る限り、顔見知りで無かった場合には暴力沙汰が起こっていても不思議はない状況と言える。

当たり屋グループ

 ちょっと毛色は違うが上記の画像もやや拡散している。ただこれは有名なデマ。「「他県から当たり屋グループが来ている」富山で情報拡散その全文…警察に聞いてみると」、「デマ広めないで 県警が呼びかけ 「当たり屋注意」は偽情報」などを参照のこと。

 実際に現地で窃盗などの犯罪がある可能性は高いが、その反面、今出ている不審車両は大阪の黒いハイエースなど不明なものがあるもののすべてデマといっても過言ではない。大災害による不安と不信によって「県外」、「ハイエース」などのわかりやすい符号を結びつけ、さらにインスタなどのSNSで情報共有と情報の上乗せがされる事によって半ば事実と信じる人が出てきてしまった注意喚起であり、だがしかしその中身はデマでしかなかったと言える。そしてこのデマによって標的者に危害が与えられる危険性があった。以下は現地の人間ではないがラッパーの呂布カルマの発言に近しい思想の人間が現地にもいても不思議ではないし、実際にいる可能性は高い。


https://twitter.com/Yakamashiwa/status/1741751568490484173

ただ今回の一連の流れを見ればわかる様に、そもそも確たる情報など一つもないのに「怪しい」だけが独り歩きしているのが現状であり、ただの印象で暴力が発動される危険性すらあった。外国人などの属性による偏見と先入観も無意味だ。警戒そのものは否定しようがないが、不確かな情報の下での警戒と情報の拡散は何の益にもならない。不安を下敷きにした不審の共有と増幅でしかない。その情報が人を殺す可能性がある。
 「井戸に毒」はジョークにはなりえない。



■お布施用ページ
note.com

*1:該当アカウントの投稿は0件になっている。https://www.instagram.com/manabu.hirose.126/