電脳塵芥

四方山雑記

難民申請者における「毎月34万円の給付金」について


https://x.com/shop_kakiko/status/1799722151861444913

 上記の「kakikoSHOP@shop_kakiko」は以前は「難民に認定された人の月収は37万5千円」という投稿をしていて、そっちについては過去に指摘した。しかしそう考えると数か月前には「難民に認定されると月収37万5千円」という主張が「子ども二人で毎月34万円の給付金」という主張としてはグレードダウンしている。ただそもそもkakikoSHOP氏が以前の投稿を記憶しているかも疑問だが。脇道だがこのkakikoSHOP氏は30年ほど自衛隊に勤めた元自衛官アカウント。過去に「元自衛官のツイッター体験記」を運営していたものの記事は10個程度しかなく、所謂まとめサイトでもない。昨今の商業的ともいえるまとめサイト関連アカウントではなく普通の一個人のアカウントと思われる。
 さて、そしてこの「34万円の給付金」だが、彼のソースは以下の投稿となる。


https://x.com/hr1f8nhk0622/status/1799660256768958908

本題に行く前にこの投稿者は「川口貴族」という言葉を使用し、kakikoSHOP氏も同様の単語を使用して若干の反応を得て入るようだが、これはおそらく川口市在住の「まこちん」による造語であり、このアカウント以前に現在の文脈で使用されている様な状況は少なくともX上においては見られない。「34万円」で貴族か、って思わなくもないが、それはともかくその本題の「毎月34万円」だが、この数値自体は以下の表からの発想だろう。

これは表の下部にある様に「桃色メガホン」というアカウントが作成した表であり、これを使用した投稿が過去にバズっているのも観測できる。なおこの表自体には大きな誤りはなく、例えば難民支援協会も下記の様に同様の説明を行っている。

2024年4月から12歳以上の対象者は1日2400円の生活費、そして家族ならば住居費は6万円を上限に支給される。つまり「毎月34万円」という数値は(12歳以上の)一人当たりの一日の支給額2400円×4人×30日で28万8千円、そこに住居費の6万円をプラスしての34万円となる。「子ども」と書いているが、この数値では12歳未満の方は採用しておらず多く見える数値を採用しているともとれるし、逆に難民支援協会は12歳以上の子どもを採用していない為に「生活費:月当たり21万6千円 住居費:6万円」という数値を採用しているという指摘も可能とはなる。ここら辺の「どの数値を採用するか」という事による印象の変化というテクニックによる差異はあるが、とはいえこの保護費の数値自体に大きな誤りがあるとは言えない。
 ただし注意が必要なのがこの保護費の申請には適用までに数か月から半年ほどの時間が存在すること、保護費以外の収入を原則認められていないこと、保護費受給者は原則初回の難民申請者であることなどの問題点が指摘されている*1。また難民支援協会が述べている様にこの「保護費」とは就労許可が得られるまでのセーフティーネット的な性格を持っており、大抵の難民申請者は就労許可が得られれば労働による賃金確保を選ぶと思われる。

難民支援協会の図によれば申請手続きの平均4年ほどの間の一時期に支給されるという認識をもった方がよい。なお「まこちん」氏は「毎月34万円以上働かなくても9年間もらえます」と書いているが、実態としてはあったとしてもかなりのレアケースだろう。そもそもこの「9年間」という数字の根拠はよくわからないのだが、まこちん氏は結構この9年間という数字を使用している形跡がある。この数字についてだが、おそらくは「難民申請に平均3年かかり、3回まで申請できる=9年間」という発想によるものだと思われる。


https://x.com/hr1f8nhk0622/status/1772580909273018529

かなり単純化された数値なのだが、これは改正出入国管理法の施行によって3回目以降の申請はおそらく難しくなることが予想される。そして難民申請者とされる人がすべて保護費を貰ってるわけではない。以下は難民支援協会の表だが2022年度時点では3772人の申請者に対して受給者は204人であり、保護費支給額は9千万円。一人あたりに換算すると一年に50万円にも満たない支給額といえる。またそもそもで言えば保護費の申請数自体が難民申請者数と大きく乖離している。2022年度の難民申請者数は3772人だが保護費申請者数は221人で受給者数は204人となり、難民申請者のうち保護費を貰っている数は近年は一割にも満たない。つまり難民申請者の多くは保護費申請をしていないし、受給もしていない*2

これらを見ていくと、冒頭の難民申請は「毎月34万円の給付金」というのは制度の数値的な事実としては必ずしも間違っていない。とはいえ「実際は仕事をしているから経済的に豊かな上級市民」という反応に対しては保護費受給時の原則収入不可を考えれば普通にデマの部類と言えるし、もしも就労などによる支給がバレればその分の保護費は減ると思われる。また全員がこの保護費を受け取れるわけでもない。冒頭の番組の出演者は10年以上滞在している事を鑑みれば保護費ではなく就労などの手段によって金銭を得ていると考えた方が良いだろう。最後に少し脇道だが、「クルド人問題」に対してよく投稿をしているジャーナリストの石井孝明氏はこの情報に関して次のような反応を示していた。


https://x.com/ishiitakaaki/status/1800314429403484586

基本は否定の論量にはなっている。そして難民手当は1回目の申請までというのは難民支援協会も指摘しているしこの部分は良いだろう。ただそのあとの1日1000円の食費(生活費)は間違っている。改定前ですら1600円だ。月4万円程度の住居費は「単身」ならば合っているが家族ならば間違っている。不法就労疑惑、税金不払いは現状は何とも言えないなので触れないが(とはいえ論拠はないのに「疑惑」を提起しているのは不当と言えるが)、基礎的な情報がおかしい。雑。

■お布施用ページ
note.com

*1:難民支援協会「難民申請者はどう生きてゆくのか?ー公的支援「保護費」の課題と生存権

*2:難民支援協会はこの数の乖離について、そもそも難民申請者が保護費の存在を知らない可能性を指摘している。なので難民申請者の多くが保護費を必要としていないというわけではない。