介護施設で男女別だったトイレや更衣室が共用になったというデマについて

https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1651871128275779584

　っていう参政党支持者のツイートが拡散してて（アカウント名が長いので以下「チロ」氏と記述。）、

https://twitter.com/ganaha_masako/status/1658875945443545090

そこに我那覇真子が乗っかり、インタビューしてたことにより「介護施設でジェンダーレス更衣室＆トイレ化によって職員が辞めた」というデマが広がりました。ただ、これに対しては埼玉県の大野知事が直接否定したことにより、埼玉新聞などで記事になり以下のように記述。

拡散されている情報は、県内の高齢者介護施設にジェンダーレストイレとジェンダーレス更衣室が設置され、施設長が「埼玉県知事からお褒めのお電話を頂いている」と、抗議した男性・女性職員らに対して使用を迫り、複数の職員が退職に追い込まれたという内容。
　県の担当者が当該施設に確認したところ、そもそもジェンダーレストイレとジェンダーレス更衣室を設置しておらず、直近で複数の職員が退職した事実もなかった。担当者は「LGBT法案が衆院に提出されるタイミングで本県が狙われたのではないか」と話した。
　大野知事は「私自身電話をした覚えも、受けた覚えもなければ、当該施設と個別に接触したことはありません」と強調した。
埼玉のデマ拡散中「ジェンダーレストイレを迫られ退職」…事実確認してウソと判明　問い合わせ多く県庁迷惑

見出しに「問い合わせ多く県庁迷惑」とある様に現実世界において業務に支障が出ているともとれる強い見出しになっています。知事はフェイスブックでも否定しており、県まで巻き込んだ非常に影響の大きいデマと言えます。
　さて、ファクトチェックそのものは県の担当者が直接施設に尋ねて否定していますが、この件について公開情報からその内容を見ていきます。

語り手の信用のならなさ

　まず本題の前にですが、この発端となったチロ氏に関してはデマという報道に対して以下のように反発しています。　
https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1659372968768868352

求人をしている、それは人が辞めたからだと捉えられる内容であり、つまりは「デマだというのはデマ」だ、という事です。ただしこのツイートについては若干不自然な部分があり、チロ氏が告発した「イリーゼ戸田」と同時に何故か別施設の「イリーゼグループホーム戸田公園」という施設の求人をセットとして例示しています。

この施設はまったく別個の施設であり、「イリーゼ戸田」は蕨市、「イリーゼグループホーム戸田公園」は戸田市です。これについてチロ氏に尋ねたところ以下の様なちょっとずれた返事をいただきました。

https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1659850541810487297

これは別施設をアップロードしたことは認めたという事であり、しかしながら何故別施設を同一の施設かの様にツイートしたのかは明かしておらず、またその点について再度尋ねたところ完全に無視されました*1。かなしいね。少なくともチロ氏は「イリーゼ戸田」についての話をしていたはずで、ただ一つの施設の話をしているわけです。だのにそこに関係のない施設を紹介したという事はチロ氏が施設名をちゃんと見なかった短慮であるか、もしくは扇動のために意図的に情報を混ぜたのかの二択です。どちらの可能性もありますが、一つ言えることは「デマだというのはデマ」という話に対しての説得力としてこの例示は皆無です。そもそも介護施設での人員募集がどこまで珍しいものかという話にもなりますしね。求人情報は反論としては弱い。

共用トイレについて

　チロ氏は男女別のトイレが共用になったと言っています。まず前提として従業員用のトイレはわかりませんが、この施設は全個室にトイレがあり、また廊下にあるトイレはもともと共用です。

https://www.minnanokaigo.com/facility/010-1171400995/

https://career.hitowa.com/kaigo/saitama/warabi/107901

以上の様に個室は置いといて、2～4階の共用部に関してはトイレが各階に1つある程度のものなようです。数の問題から男女共用であるのは当然と言えます。1階に関しては食堂近くにトイレが2つあり、可能性としてここが男女別で会った可能性も無きにしも非ずですが、ただ2つという数ですと共用と考える方が自然です。となるとあとは従業員用のトイレであり、チロ氏の発言を素直に受ければ従業員のトイレや更衣室が共用になったと考えるのが自然です。しかしこれは図面に記述がないので憶測となりますが厨房の後ろの方にトイレと思しき図形があり、ここが従業員用だとも思われますが1つしかないので共用でしょう。この図面が完全にすべてのものを記述しているとも限りませんが、従業員用のトイレに関してもその数はもともと少ないことが予想できます。ちなみに動画では我那覇氏の小用と大用という発言を受けてチロ氏は従業員トイレに男性用の小用便器もあると受け取れる発言をしています（動画の9分ごろ。明確な発言はしていないが、（小便器があるけど）そこもジェンダーレスにしていいよ、的な発言）。ただ図面上だけですとそこまでのスペースがあったかは少々疑問です。
　ところで入居者用には個室にトイレがあり、各階の共用部のトイレは元から共用だったのは図面や写真を見れば理解できます。しかしながらこの施設で仕事をしていたチロ氏は動画で以下のように語っています。

我那覇：職員用がジェンダーレスなんでしょうかこの入居者の方はどんな状況なんでしょうか。
チロ：入居者も男女の表記が剥がされました。
我那覇：職員の方がトイレの世話もしなきゃいけないじゃないですか。これまではおばあちゃんは女子トイレでですよね。それがなくなるとどうするんですか。
チロ：認知のある方は男性用に行っちゃうんですよね。男性用に行っちゃから、そっちじゃないよ。今残ってる方はそういう風に勧めているらしいんですけど
※動画の19分50秒あたりを要約。要領を得ない受け答えなので正しいニュアンスを心がけていますが、それなりに省いています。*2

まずもともと入居者に関しては個室にトイレがあるのでトイレが男性用／女性用を気にする必要はほぼないはずです。各部屋での対処が基本と思われます。共用部のトイレに関してももともと男女混合のピクトグラムですからこれを剥がす意味も分かりません。さらに2階から4階ならば共用部のトイレが一つなので、女性が男性用のトイレに行くという意味が分かりません。共用トイレで一つしかないはずなのですから。それと入居者用のトイレは小便器はなく大便器しかないと思われ、性別による便器の違いはないはないはずで、ここのチロ氏の下りは図面と合わせて考えると実態とかけ離れている様に見えます。少なくとも図面などを見て常識的に考えれば入居者のトイレ話は変すぎる。

　以上の様に公開情報からだけでもチロ氏の発言は疑問符が付く内容です。また従業員用の更衣室に関しては図面のどこに当るかまでは不明であり、何らかの指摘が出来るものではありませんが、あえて言うならば動画の方では女性更衣室を潰して在庫置き場にして男性更衣室に女性更衣室にあったロッカーを持ってきたと語っています。ただこの施設の介護職員の男女比は2021年5月と少々古いデータであるとはいえ、2:8です。

潰すならば男性用の更衣室を潰す方が自然です。別に何事もその「自然」どおりになるわけではないですが、ここも違和感を抱くポイント。違和感で言うと更衣室を潰して在庫部屋にするというのもちょっと考えにくいというか、やばい施設ですし、動画では共用になってしまったから女性はトイレにいって着替えた旨を語っていますが、人数的に大丈夫なのかという疑問もついてくる。さらに言うならばこの話が本当だとして、LGBTに対する理解増進法で男女トイレをなくして共用トイレにするという発想そのものが不可思議です。入居者、もしくは従業員にトランスジェンダーがいたとするならばその当事者の意見に沿う様な形で利用方法を考えるというならば理解できますが、男女のトイレを潰すというのは理解増進法でもなんでもなく、これが現実に起こっていた場合その施設長は法案の中身もLGBTに対しての理解も特になさそうな人間といえそうです。ジェンダーフリー教育バッシングの時にあった「ジェンダーフリー教育が進むと男女同室で着替えなければならない」と当時流布した手法の焼き直しに見えるのが正直なところ。

チロ氏のサニタリーボックスに対する理解

　以上の様にチロ氏の主張は公開情報を探っていくだけで「怪しい」ところが多いのですが、これとは別に本人の意識が垣間見える例があります。それが男性用トイレに置かれたサニタリーボックスへの反応です。戸田市は男性用トイレにもサニタリーボックスを置いており、市のHPでもその意味が記述されています。

男性用個室トイレにおけるサニタリーボックス(汚物入れ）の設置について

これは前立腺がんなどの疾病によりパッドが必要な方のための施策であり、それを捨てるためのものが男性用トイレにあってもおかしくはありません。しかし、チロ氏はこのサニタリーボックスについて強い嫌悪感を抱いているのが見て取れます。

https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1612711986479132674

戸田市がサニタリーボックスを置いているのは、「生物学的には女性でも、心は男性の方がいらっしゃいますので、その配慮」ではありません。戸田市のHP、というかチロ氏の撮影しているポスターの下に何故おいてあるのかが一目瞭然で書いてあるはずです。にもかかわらず、トランスジェンダーバッシングの為にその部分を意図的に切り取ってこのようなツイートをしているわけです。またリプライでも同様の指摘があり、チロ氏はサニタリーボックスについてその設置の真の理由について知っていなければおかしいです。これが2023年の1月。であるものの、、、

https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1651609940107358211

4月末にも生理用品のゴミ箱という認識を保ったままであり、また介護施設の供用化によってサニタリーボックスが置かれた旨をツイートしています*3。そして5月17日に再度戸田図書館についてのツイート。

https://twitter.com/ChannelShihtzu/status/1658799853122777088

5月のツイートではようやく男性用トイレに置かれているサニタリーボックスの正しい用途についてのツイートをしているわけですが敵意はむき出しのままです。何故ここまでサニタリーボックスに対して嫌悪感を示しているのか不明ですが、この一連の流れでは画像の切り取りなどで情報を操作し、嘘を言う人間であることが窺えます。チロ氏は自身のyoutubeでペット動画をあげており、そこでは自身の顔もさらしています。そして施設を「イリーゼ戸田」と名指しで指摘しており、施設からはチロ氏が「誰」であるかはわかるわけです。注意された的なツイートもあります。このことからチロ氏が嘘／デマを吹聴するリスクはかなり高いわけで、そのリスクの高さが事実の担保となっていると言えます。しかしながらチロ氏が提示している情報は施設の公開情報と照らし合わせて考えると正直なところ腑に落ちない部分が多く、語られる事実は知事や県担当者による確認とデマ認定を抜きにしても怪しい部分が多い。身バレリスク的な話についても5月10日で辞職していることから法的に訴えられるとかでない限りは何処吹く風になったでしょうし*4。まあ、理解増進法への反対からくるデマだと思う。

■5月21日 14時追記
　8時ごろまではアカウントが問題なく見れていましたが、14時20分現在、チロ氏のツイッターアカウントが削除されました。削除理由は不明ですが考えられるのは施設を名指しした事、そしてそれがデマであった事と考えるのが妥当でしょう。嫌がらせが多かったからという可能性も考慮できますが、現状ではやはりデマの可能性の方が断然高いですからね。

■5月21日 19時追記

https://twitter.com/ganaha_masako/status/1660212537928081408

　我那覇氏が謝罪ツイートをしていました。それに伴い該当ツイートと動画の削除もされており、つまりデマで確定ですね。

■5月27日追記
　イリーゼを運営するHITOWAケアサービス株式会社から公式アナウンスが出ていたので引用します。

当社施設に関するSNS上の虚偽情報の流布等への対応に関するお知らせ
2023年05月26日
HITOWAケアサービス株式会社（本社：東京都港区、代表取締役社長：袴田義輝、以下当社）が運営する介護付有料老人ホーム「イリーゼ戸田」に関する虚偽情報がSNS上に掲載され、拡散していることが判明した件について、以下の通りお知らせいたします。
　 1. 対象施設：イリーゼ戸田（〒335-0005 埼玉県蕨市錦町4-7-4）
2. 事象
・2023年4月28日、匿名アカウントからイリーゼ戸田における更衣室等に関する虚偽情報がTwitterに投稿（現在はアカウントごと削除）
・同年5月18日、第3者がTwitter投稿主を取材した動画をYouTubeで公開（以下、動画を公開した第３者を「動画投稿者」と表記。現在は動画投稿者により動画は削除）
3. 経緯とこれまでの対応
・SNSで発信されている内容が虚偽情報であることを、5月18日に当該施設を監督する埼玉県に報告。5月19日に当社が所在する港区の警視庁高輪警察署に相談。
・5月20日に動画投稿者に対して内容が虚偽である旨を通知。動画投稿者より、Twitter投稿者と、当社の立ち会いの下で事実確認を行いたい旨の要請を受ける。
・当社として事実確認に応じる準備をしていたが、5月21日、動画投稿者より、Twitter投稿者によりTwitterのアカウント削除が行われたため、事実確認の要請を取り下げ、動画とツイートを削除するとともに、削除の経緯を説明した動画を速やかに公開する旨の連絡を受ける。
同日、動画投稿者が自身のSNS上で当社を含む関係者に対して謝罪するとともに動画を削除。（なお、5月26日時点で削除の経緯を説明した動画の公開は確認されていない。）
　当社では、ご入居者様、ご家族様および関係者の皆様より本件に関するお問い合わせを数多くいただいていることなどから、警察を含む関係機関に相談しながら投稿者に対して刑事、民事の両面から厳正かつ適切に対処していくことで虚偽情報の訂正と拡散防止に努めてまいる所存です。
　以上

内容は流布情報の情報の完全否定です。問い合わせの多さを記述していることから現実に業務に支障をきたすレベルであった可能性があり、また刑事、民事の両面から適切に対処という事からこの手のデマ流布の中でもう良い態度を示していると言えるでしょう。それとやはりこのリリースを読む限り流布者がアカウントを削除（鍵垢に転生、youtube、インスタはまだ存在しますが）したことや我那覇真子のお詫びや削除ツイートはHITOWAケアサービスの対応による対処と考えるのが自然でしょう。それとリリースには我那覇真子が削除の経緯を説明した動画を速やかに公開するとはありますが、27日の午前現在ではまだ公開されていません。
　ということで、この件は完全ならデマであり、またデマを流布された側が法的措置まで動くという珍しい部類になったといえます。ただ惜しむべくはこの拡散に寄与したその他のカウントは何らかの罰則も受けることはないであろうし、また拡散に比べてそれがデマであるとの拡散は弱いと考えられること。そして今回のデマは偏向した思考の「不安」に付け込むタイプのものといえますが、今回の件で反省する可能性はかなり少ないということです。正直、今回の件はデマ告発者が何故か施設名を暴露したことによりデマだとバレたわけですが、この施設名が伏せられてたら訂正もされずにまことしやかに流れていた可能性は高いという意味で非常に厄介なものでした。今度も類似のデマや「不安」を糧としたデマは流布する可能性は高い。

■お布施用ページ

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