電脳塵芥

四方山雑記

GHQに抹消された「そしじ」という造語漢字の出所


https://x.com/hopi369/status/1820992539329229248

 まず初めに書くが「そしじ」という漢字はそもそも存在しない造語となる。というか、該当投稿が貼っている画像にも「造語」って書いてある。それはともかくとしてこの造語漢字は以前、「和多志、弥栄、氣、神運字……、スピリチュアル言霊(漢字)運動について」という記事を書いたが、これもそれに類するものと言ってよい。例えばわかりやすい例としては本物研究所の長博信という人物は2024年5月19日に次に様に書いている。

消されてしまった「神運字」とは
私ども舩井グループは今月初めよりオフィスを移転しました。新オフィスの廊下には舩井幸雄の額縁写真が飾られているのですが、実はその横にもうひとつ「額」が飾ってあります。そこには1文字が書かれているのですが、検索しても出てこない、消されてしまった文字だと言われています。
それが「そしじ」という字です。(※文字変換ができないので画像を参照)「うかんむり」に、「示す」「申す」、「主」がひとつになった文字で、「そしじ」と読みます。「愛・感謝・調和が一体となり、宇宙とつながっている」という意味で、この文字自体から高い波動が出ていて、身につければ最強のお守りになるといわれています。
(略)
それまで日本で独自に使われてきた「漢字」は、「神運字」と呼ばれ、文字自体に、その本来の意味やエネルギーが宿っていたのですが、こうした不思議なパワーを持ち、日本人の精神性を高める「神運字」はGHQによって抹消されてしまったそうです。それ以外にも旧字体の漢字も戦後はその文字に込められた本来の意味までも変えられて「当用漢字」にされてしまいました。
例えば、「氣」という文字はエネルギーが八方に拡がる意味をもつ文字でしたが、「気」に変えられたことでエネルギーが閉じる「〆」に変えられましたし、宴会の席で使う「乾杯(かんぱい)」は、それまで「弥栄(いやさか)」と言っていましたが、「完敗」という音霊が宿った「乾杯=乾いた杯=何もない」に変えられました。「私」という字も、本来は神運字で「和多志」と書いており、「多くの志が融合して調和が取れている人」という意味をもつのが「わたし」だったのです。

そして、この「そしじ」についてだがライターの雨宮純が2023年に、そしじ.comというサイトが2024年に検証をしており、いずれも文字の出所については次の様な流れとなっている。

■ネット上で確認できる最古は2006年の「直観アーティスト.com」という書家のブログ
 このブログはプロフィール名「飲氷」、書家としての名前は「英隆」という人間によるものだが、2006年時点でブログ上で「まあ、この字は実在する文字ではありません。」と率直に語っているし、無派閥書道ネットにおける英隆の作品HP上では「これは造字であります」と明言している。なお、この後に続く言葉として、「文字自体がパワーが在りますので、これを飾 ることで部屋、家全体の気が変わります。特に仕掛けがしてありますので、そのパワーは絶大です。」とあり、現在とほぼ同等の意味としてこの造語漢字が使用されている。ちなみに「直観アーティスト」という肩書だが、これはスピリチュアル界隈で同様の肩書をしている人間が他にも幾人か見られるため、英隆氏自身は当初からスピリチュアル系としての活動をしていたと思われる。なお今現在、氏の活動は2008年ごろに止まっている模様であるし、彼が結局何者であるかはよくわからず不明なものの、2024年のネット上では彼が最初期とはいえる。

■2010年のにんげんクラブ上での船井勝仁による記事
 船井勝仁は冒頭に引用した「神運字」についての記事が書かれた船井幸雄.comの「船井幸雄」の息子となる人物となる。その彼によれば佐藤政二に次の様に言われたと述懐している。

生体エネルギーの佐藤政二先生に「勝仁君はまだ“そしじ”(宗、主、神を合わせた造語で個の持っている存在意義、人間なら生まれてきた役割や天命、企業なら創業原点や企業理念等にあたる一番大事な概念)ができていない」と言われていました。

さて、このカッコ内の「造語」は果たして船井勝仁による感想なのか、佐藤の言葉なのかまでは不明ではあるが、いずれにしても造語であると明言している。またサイト内に貼られた写真から佐藤がこの「そしじ」という造語漢字を重要視している事が理解できる。なお「船井幸雄」という人物だが、この人物は様々なスピリチュアル系の商品などを多く手掛けている人物であり、その活動歴も長く、確固たる組織も存在する*1。また佐藤についても生体システム実践研究会という場所で「生体エネルギー」なるものを取り扱い90年代半ばごろから勢力伸ばしてきた人物となる。船井と佐藤は幾度となく会っている人物なので、もともと「そしじ」はこれら組織と伝播力のある人物の間で使用され、彼らシンパ、そしてネット上のスピリチュアル界隈に広まっていったのだろう。
 以上が二つの記事によって解き明かされた出所だが、実際にはネット上でももう少し遡れるし、紙媒体からその発生時期もほぼほぼ確定できる。

「そしじ」という造語漢字を作ったのは佐藤政二

 結論から言ってしまえば、この「そしじ」という造語漢字を生み出したのは生体システム実践研究会の佐藤政二となる。この「そしじ」とは佐藤の提唱する「想造量子宇宙論」という理論を表した漢字と言える。現在の会のHPにある「生体システム実践研究会とは」には「そしじ」という造語漢字は存在しないが、アーカイブ上に残っている2005年8月の説明には次のようにある。

生体システム実践研究会は、1985年4月20日、新しい概念を主軸とした学問を学び、それを実践することで真正な社会に貢献することを目的に佐藤政ニ氏を代表として発足しました。当会で学ぶ学問は、生体エネルギー研究所の指導によるものであり、その内容は「生体エネルギー」の本質と「そしじ(引用者注:HP上ではここは漢字で書かれている)」を中心とした「想造量子宇宙論」です。

「想造量子宇宙論」自体の説明はなされていないがここでは「そしじ」という漢字が重要であろう事が書かれている(引用部分は2024年現在とそこまで文章は変わらないのでなぜ今現在「そしじ」が用いられていないのかは不明。ただし会の関連企業と思われる企業のHPには旧バージョンの文が残っている)。また当時の会のHPのトップには次の様に「そしじ」の使用が見えることから生体システム実践研究会がこの造語漢字を重要な漢字としている事が理解できる。

ここまでがネット上で確認できる最古のものとなる。次に紙面上での確認だが生体システム実践研究会は「風のたより (1995~1997)」、「真和(1998~現在)」という会報誌を出版しており、そこでこの「そしじ」という単語の初出が何時かを調べる。まず「そしじ」は「想造量子宇宙論」という理論を説明するための概念なのだろうが、こちらの単語は少なくとも1998年には出現を確認できた。しかしそこでは理論の説明というほどのものはされておらず、ちゃんとした説明となると1999年8・9合併号が初めてのものだと思われる。

今、人類が知り得ている事象がどれだけ自然を捉えているのだろう。唯物論存在論、観念的存在論、あらゆる存在論が現象、哲学的に語られてきた。電磁波的説、波動説(波形、干渉、回析)等と人類の存在論も含めて先人達のすばらしき哲学造形に成り立つ「想造量子宇宙論広辞苑による「宇宙論敵証明(原文ママ)」を基礎と捉えて全て存在は情報であり、初生量子(情報)は無形、有形、参宗動をつくる。(以下略。ページをまたぐ量の説明が行わる。)

このページは合併号の表紙をめくった1頁目に存在するものであり、「想造量子宇宙論」を説明した記事だと思われる。ただこの場では「そしじ」という単語は使用されていない。また「想造量子宇宙論」だが、後述する記事では2000年時点で「5年目を迎えた」とあり1995年に出来たような文章もあれば、2004年1月号の年間テーマ発表の際に綴られた文章の中には平成4年(1992年)に想造量子宇宙論を広く一般に公開することとなったという文書もあり時期にブレがある。なお1995年に『生体エネルギー農業革命』という生体システム実践研究会を扱った書籍も出ているが、こちらでもその様な単語は出ていない。この理論そのものが正確にいつ生まれたのかは分からないが、ただおそらく会報上では1999年の記事がページを割いて初めて大々的に扱っただと思われる。故に理論の説明をこの場で行ったのだろう。そして次に「想造量子宇宙論」が大々的に会報誌に出るのが2000年9月号となる。これは会の秋季セミナーで佐藤が語った部分を要約した記事だが、その記事には「想造量子宇宙論 完結編」とある。

しかし記事を見ればわかる様にそこに「そしじ」という漢字は影も形も存在しない。むしろこの時点では四字熟語風の5つのテーマの方が「想造量子宇宙論」を表していたのかもしれない。その裏付けとしては会報誌の裏表紙にこれら四字熟語風の五つのワードを並べた会報誌が存在していた。ただし下段の方に「神、主、宗という関連をつくり」とある様に「そしじ」を構成する漢字要素についての言及もあり造語漢字への萌芽が見られる。そして次に「想造量子宇宙論」が大きく取り上げられているが2001年12月号における勉強会(12月ごろに締めくくりの勉強会を行う模様)における佐藤による2001年のテーマ「外宗結宇真」に対する説明となる。しかしここでも「そしじ」についての言及はない。あえて言うならば2000年9月号とほぼ被っているが、関連という意味では次の部分だろう。

そこで想造量子宇宙論の一番の根幹に、宗主神という絶対の場があります。

そしてついに紙面上に「そしじ」という漢字が掲載されるのが2002年12月号となる。

これは2002年に行われた勉強会でのレポートであり、佐藤の年間テーマについての説明上で「そしじ」が使用されたことがわかる。見ればわかる様に「そしじ」の漢字が大きく使用されており、おそらくはこの漢字を始めてみた人間にわかりやすいようにこのようにしたのだろう。そして翌年の2003年の年間テーマでは次のように「そしじ」が大きく用いられている。

つまり、「そしじ」が想造量子宇宙論、ひいては生体システム実践研究会によって大きく扱われ始めたの2002年末からの話であり、このころから会として「そしじ」を使用する様になり、会のメンバーやその周辺にも膾炙していったものだと思われる。ただしこれはあくまでも紙面上だけの登場の話であり、実際には2002年9月に行われた会の秋季セミナーで「そしじ」という単語を披露している事がのちの会報誌(2003年6月号)のセミナーの書き起こし連載でわかる。

≪そしじ≫は、宗主神という3つの意味の言葉の格であり、その個というものには必ず法則・則・決まりが存在しています。

以上の様に「そしじ」は佐藤が提唱する想造量子宇宙論の説明のために用いられた造語であるが、その登場自体は理論よりも数年後に発生している。佐藤、および会自身は「造語」であるとは明言していないが、何処からか発見した単語、例えばGHQが抹消した漢字であるよりも佐藤の周辺が作り出した造語漢字であると認識して良いだろう。そもそも佐藤はGHQとこの単語を絡めていないが。ちなみにだがこういった造語漢字と思われる漢字は「そしじ」以外にも存在している。


※上二つは2005年2月号、下は4月号。ともに2004年秋季セミナーでの講演録

「そしじ」以前はこのような傾向はおそらく見られなかったので、「そしじ」がウケたのか、若しくは佐藤自身が造語漢字という手法をこの時期に好んで造語漢字を使ったものと思われる。ただこれらの漢字の存在からも「そしじ」が造語漢字であることの傍証と言える。
 そしてこの佐藤政二や会の活動、またこの会にも関わっていた船井幸雄によりスピリチュアル界隈にも広まっていき、冒頭の直観アーティストなどにもつながっていったのだろう。

GHQ云々への繋がり

 ここからはGHQ云々への繋がりだが、雨宮の検証によれば2021年3月にyoutubeにアップロードされた動画「令和3年 保江邦夫×中澤弘幸『京都文化対決!』」を一つのきっかけとしている。この動画は現在削除済みだが、転載動画は生き残っている。ただここで中澤は掛け軸を見ながら「そしじ」を語り、昔の辞書には載っていた程度のものを語るのみでGHQ云々は出ていない。影響力という意味ではX上における「そしじ」は2021年3月ごろに2つほどだが見られるし*2、noteにも動画を受けての記事が存在する。やはりこの時期に新たな層への膾炙が見られたものと思われる。とはいえ、2017年に掛け軸の写真と共に投稿しているアカウントもあるので21年以前にも当然ながら言及している人間はいる。そもそも中澤が掛け軸を手にしている時点で既に商品として出回っていることがわかる。なお動画の中澤氏がどこで「そしじ」を知ったのかまでは不明ではあるがご多分に漏れずスピリチュアル関連(神道)の人物ではあるようなので*3、その活動の中で知ったのだろう。ただ言葉を生み出した佐藤政二との相違点として「愛、感謝、調和」を表す漢字という別の意味が付加されている。この「そしじは「愛、感謝、調和」を表す」という発想をしたのが誰かまでは不明だが、少なくとも2012年には存在したであろう認識だ。


https://x.com/alfred0307/status/232757257916542977

投稿アカウントの「alfred@alfred0307」は投稿数自体が少なく、このほかにスピリチュアル系の投稿が多いわけではない。また「もろはしだいかん」だがこれは最大規模の漢和辞典である「諸橋大漢和」のことだろう。しかしながらこの大漢和の索引を調べる限り「そしじ」の項目は存在しない。

正直なところ、かなり謎な投稿であるが内容的に偶然の一致はあり得ないであろう事から2012年には「そしじ」と「愛、感謝、調和」が絡められていることが理解できる。この「愛、感謝、調和」が何処から来たのかを直接的に示すことは無理だが、ただこのワードは2005年の個人ブログによれば1995年に船井幸雄が著した『エゴ(EGOH)からエヴァ(EVAH)へ 地球が変わる・人類が変わる』において船井が足立郁朗という人物から伝えられたワード(概念)であることがわかる。また「愛、感謝、調和」というワードはスピリチュアル界隈で使用されている単語であり、これらがあって「そしじ」と2010年代に繋がったのだろう。この概念の変化は誰が発端かは不明だが、佐藤の使用方法から離れて意味が一般にわかりやすく、スピリチュアル的にも受容しやすい変化をしたといえる。そのかいもあってか2021年3月以降と直接的にこの「そしじ」概念が増加しているのが観測できる。目立つところで言えば2022年2月の「愛と平和の奉仕団ミラクルズ」という団体の団長UKYOUの記事においても同様の触れられ方をしている。中澤動画を受けての発言かは不明だが、ネット上において21年以降に徐々に増加していることは明白だ。
 そしてGHQ説だが2022年12月に「えこちん湘南徒然らいふ」というHP上の「【そしじ とは】1文字なのに意味深い難読漢字、その文字がもたらすものとは?」において、

1つの説として、この文字は『GHQによって消された文字』とも言われているようです。

この様に挙げている事が確認できる。ただしこのHP主が何故GHQ説を出したかは不明であり、オリジナルであるのか、それとも誰かの受け売りであるかは不明となる。そして明確にこの「GHQ抹消説」が出てきたのが2023年3月における「神社メシButler 2nd」という登録者数30万人越えのyoutuberの動画「抹消された漢字のパワーがヤヴァイ」だろう。

X上ではこの動画を発端としてGHQと絡めた投稿が初確認できる。


https://x.com/search?q=%22%E3%81%9D%E3%81%97%E3%81%98%22%E3%80%80GHQ%E3%80%80until%3A2023-12-31&src=typed_query&f=live

またGHQと絡めなくてもこの動画を起点としてX上では「そしじ」に関する投稿が増え始める*4。また再生数で言えば2023年4月25日の下記の動画は53万回視聴となり影響力は馬鹿にできないだろう。

そしてX上では下記の様にバズ投稿も増えているし、


※本人が投稿削除済み。画像は雨宮純の投稿から一部加工。なお画像の出典は上述したミラクルズのUKYOUのブログと思われる。


https://x.com/Kazu503zz/status/1650412695127228416


https://x.com/oohithukuookami/status/1813796727872487722

youtubeもそうであるし、

tiktokも同様だ。

この「そしじ」への言及は2023年から始まったムーブメントといえ、その勢いは2024年になってさらに増しているように思われる。たとえばそしじTシャツなどのグッズ販売をする人間も出てきており、ここ数か月間にアップされたブログ系記事、動画などが多数存在し、一種のスピリチュアル界隈でのブームといえる。しかし当然ながらGHQはこんな造語漢字は抹消などしていないし、ただのスピリチュアル的な要素が絡む人間が創作した漢字にしかすぎない。

■お布施用ページ
note.com

*1:詳しくはとりあえずwikipediaあたりを参照で良いかなと。

*2:例えばhttps://x.com/uzuray/status/1368234647658717184https://x.com/tantake0205/status/1367533919520759809

*3:例えばhttps://quasimoto5.exblog.jp/30142522/https://ameblo.jp/japanspiritual/entry-12208149841.htmlなどの記事を見る限りはその界隈に通じている人物であると予想できる。

*4:例えば2023年3月20日までの「そしじ」を含む投稿をみると15日以前はほぼない(アカウント名「そしじ」が目につくが投稿内容に「そしじ」を含む投稿は少ない)。