電脳塵芥

四方山雑記

ブラジルのカーニバルにおける原爆投下を模した山車について


https://x.com/ZMBLb7B9fV7xKpN/status/1831383088745869629


https://x.com/qsfkbwIhuWLhnjI/status/1831530241879368057

 というのがあったのだが、このカーニバルについての背景事情などについて記しておく。ただその前に「あるちゃん@ZMBLb7B9fV7xKpN」は冒頭に

黒人の子供を日本人が欲しがっているなどありもしない事実を拡散しているのも韓国人でした。

と書いているが、多くの拡散に寄与したのは5月13日にアメリカの黒人女性コメディアンTasha K によるtiktok動画と思われる。例えばX上ではその日を境にしてこの話題が増加している事がわかり、広めたのはアメリカ人であろう。付け加えて言うとghanafactによるファクトチェックによればこの話の中で韓国も黒人の子どもを欲しがっているという投稿がある事が確認でき、韓国もデマを流される側だ。Tasha Kが何を根拠としてこのデマを言ったのかは不明だが、例えばロケットーニュース24の英語版soranews24の2018年のエイプリルフールネタ「To combat declining birth rate, Japan to begin offering “Breeding Visas” to foreigners」における日本が繁殖ビザ云々という嘘が元ではないかという話もあったり現在この記事がその影響から削除されていたりするのだが、記事は2018年であるし、黒人という単語も出ていない為に実際の元ネタになっているかは不明だ。またこの動画を発端としてtiktokで拡散してはいるが、動画の反応としては当然ながら英語圏が多い。デマを広げたのが「韓国人でした」はおかしいし、そもそも「あるちゃん」自体がこのデマに反応した際の投稿に「韓国人」に対する反応は微塵も見せておらず、どこから「韓国人」が出てきたのか謎だ。
 前置きが長くなったが、本題。まずこのブラジルのカーニバルがあったのは2020年2月となる。この山車については当時日本ではネガティブな意味で話題にもなり、朝日新聞では2020年3月3日に「南米のカーニバルに原爆山車 日本人に誤解された意図」という山車の意図について説明をしている記事が書かれている。

サンパウロであったカーニバルのパレードに出場したサンバチーム「アギア・ジ・オウロ」の山車。米国の爆撃機B29を模した飛行機の下にキノコ雲が立ち上り、その後ろで炎に燃える原爆ドームが再現された。広島や長崎にルーツを持つ日系人も参加したという。
 このチームのパレードのテーマは「知識の善悪」。モノを運ぶ車輪の誕生から現代まで、知識や科学技術の進展と、それが世界に与える影響が表現された。「史上、最悪な形で知識が使われた例」として扱われたのが原爆だった。

以上の様に、原爆のモチーフが使用されたのは科学技術進展の最悪な例として描かれているものであり、使用意図を説明されればある程度の納得はするものだろう。記事にはブラジル被爆者平和協会がパレードに参加してほしいという要望については、日本での反発が予想される事などから会として協力はしないものの個人参加自体は止めず、またこのチームが優勝したこともあり結果的には前向きに評価するともある。このことから現地の日系人自体も一枚岩であったわけではなく日本からの反発は予想は出来たものだと言える。ただ根本的に「ブラジルのカーニバル」という文化に対して日本とブラジルに大きな認識の差異が存在している事も今回の件の大きな要因と言える。ブラジルのニッケイ新聞社で今回の件を受けての当時のコラム「今こそカーニバルの知的風刺精神は知られるべき」で次のような文がある。

24日朝、コラム子がツイッターを眺めていると、突然、日本の知人から連絡が入った。(略)アギア・デ・オウロが披露した「原爆によるきのこ雲」についてだった。
 コラム子はサンパウロ市カーニバルは見ていなかったが、カーニバルの性格上、これが何を意味するのかはすぐにわかったので「ああ、これは平和を求めるパレードの反戦反核のメッセージだよ」とその場で伝えると、その答えが意外であるかのような印象の返答をされた。
 その知人の例だけでなく、他の日本人のこの件での反応も見てみたのだが、悪い言い方をすれば、「享楽的な裸踊りをするブラジルのカーニバルでモラルを忘れた行動を行なった」ような解釈をした人も少なくなかったようだ。だからこそ思った。「もっとカーニバルのパレードの真意はしっかり理解されるべきだ」と。
 カーニバルが来るたびに毎年書いているような気もするが、パレードで表現されるのは、ドンちゃん騒ぎではなく、社会に対しての主張であり、尊敬すべきものへの深い敬愛の念だ。参加している女性たちの肌の露出度を見て何を想像するかは自由ではあるが、根底にある精神性を見失うと、カーニバルの根本的な理解にはつながらないものなのだ。

ブラジルにおいてカーニバルは社会や権力への批判性を持つものである、というものであって確かに日本でその様な精神があるとはほとんどの人が知らないと思われる。なので「素朴な印象」としてどんちゃん騒ぎのカーニバルにおいて原爆投下がモチーフにされた事へ反発するのは不自然とは言えないが、文化に対する理解を前提にするならば少なくともこの山車が「揶揄」でないことは理解できるはずだ。また駐日ブラジル大使館のアカウントからこの演出をしたチームのアギア・デ・オウロから背景説明が当時なされている。この意図を素直に受け止めるかどうかは個々人の自由だが、「揶揄」として受け止めた場合であっても相手の意図は把握しておいた方が良いだろう。

 さて、以上がカーニバルにおける原爆山車の背景なのだが拡散している投稿にはもう一点不可思議な点がある。それが「喜んでいたのはブラジル人らしき韓国人/ブラジルの朝鮮人」というワードだ。文字通り受け取るなら在ブラジルコリアン、という事になる。このソースはたった一つの次の投稿だ。


https://ameblo.jp/kujirin2014/entry-12577340931.html

グーグル翻訳によって出てきた文章の「効果はありました」から「喜んだ」という変換をしているのだが、この翻訳文から「喜んだ」というのは飛躍に見える。そして「韓国人」という判定だが何故そう判断氏のかは不明で、あえて言えば当時のBTSなどのkpopファンだったことは窺えるがそれ以上の情報はない様に見える。アイコンも本人ではないだろう。2023年にはなるが韓国語の勉強に何度も挫折したと思われるネタ投稿も存在する事から、「在ブラジルらしき韓国人」という推測そのものが怪しく、このアカウントのルーツはよくわからない。それとこの投稿によって日本人からリプライを貰った結果、意図を次のように説明している。


https://x.com/nynycollects/status/1231754498558832640


https://x.com/nynycollects/status/1231605598938112003
※当時からスクリーンネームなどが変わっている

自動翻訳による誤解的発展を取り扱うのに自動翻訳で申し訳ないが、つまり「喜んでいた韓国人」と推定されたanny(当時のスクリーンネーム)によれば、むしろ日本での反発に近い感想を持っているといえるのだが*1、その部分は一度も深堀されず「喜んでいた韓国人」だけが流布するに至る。むしろ日本人アカウントによる突撃からブラジルのイメージを悪化させたとしてアギア・ジ・オウロへ文句すら言っている。事程左様に自動翻訳で的外れなスケープゴートが作られた感が強い。そしてこの投稿が当時「きゅうじのブログ」の「★ブラジルでカーニバルが開催 原爆ドームを模した山車。」でも転載されたりするのだが、しかしこの時点では特にこの「韓国人」言説は拡散していない。というよりも冒頭の「あるちゃん」の投稿までその様な形跡は特にみられない。では「あるちゃん」がきゅうじのブログを今更見つけて投稿したかというとやや異なり、そもそも「あるちゃん=きゅうじ」である。これは彼のアカウントをインターネットアーカイブなどで確認すれば容易に確認できる。つまり過去のネタをリバイバル的に使って、そして今回それがバズった、という事となる。ちなみに韓国人の根拠はいまだに変わっていない。


https://x.com/ZMBLb7B9fV7xKpN/status/1831660833258270857

実際のところ消えたと言っているアカウントはスクリーンネームなどを変えただけで存在しているし、当時の投稿も存在しているのであるちゃんの調査能力は低いし、「韓国人」かどうかも不明で類推能力も低い。ただそんな事実ではない適当な投稿がバズってしまったという事になる。存在しないであろう仮想敵が作られ、それがさも事実かのように語られてしまっている。

■お布施用ページ
note.com

*1:その他の投稿としてhttps://x.com/nynycollects/status/1232423618572931078などがある。