電脳塵芥

四方山雑記

【デマ】「長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動」は北京五輪の時の長野での聖火リレーの話の伝言ゲーム

 住民投票に法的拘束力はなく、また武蔵野市について言えば住民投票案の発議案は「投票資格者の4分の1以上」で現時点でさえ約32,000件の署名が必要。つまりはそういった「乗っ取り」という悪意を持った中国人がその為の住民投票を発議するためには数万人規模の移住を武蔵野市に、それも最低でも3か月以上前から準備しなければならない。この時点で実現可能性も、そしてたとえその署名で発議を実現させたとしても住民投票過半数を上回る事を考えた場合、そんな提案に存在するのかが疑問視される「悪意」を持った中国人以外に賛成する人間なんてほぼほぼ存在しえず、過半数を狙うならばそれこそ10万単位の移住が必要となるはず。はっきり言って住民投票で中国に乗っ取られるはそれを成り立たせるための前提が荒唐無稽すぎて現実にあり得ないわけですが、あの層は排外感情(愛国心)を訴えられれば良いのでそういう部分は無視できるんでしょう。あと除外規定として「住民投票に付することが適当でないことが明らかな事項は、住民投票の対象から除外します」というのが当然ながらあるのでそんな提案、除外規定に抵触してそもそも無理だと思う。どうやって乗っ取るんですかね。
 武蔵野市住民投票については武蔵野市HPの「住民投票制度について」が詳しく、ちなみにそこでは無作為抽出によるアンケートをおこない、下記の様に賛成7割越え、反対は2割となっています。

反対派の中にも今回のネット上の反対派とほぼほぼ同じスタンスでいる人、なんとなくの違和感で反対している人も多いでしょうから何とも言えませんが、ただこう見ると反対派は無作為抽出なら2割しかいない。

中には今の反対コア層と同じ意見もありますが。反対派の意見も全て載っているので、その手のものを見てみたい方には参考になるかなと。
 ちょっと長い前振り終了。

長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動の件

 「長野五輪で5千人の中国人が集合し暴動になったことを忘れてはならない。」ですが、ある程度の過去を覚えている人間ならばそんな事実はないことが明らかであって、そして元ネタはこちらです(あえて産経新聞ソース)。

中国人の来日目的が観光から「敢行」に変わる日 2015/3/2
中国は平和の祭典・北京五輪を前に、長野市での聖火リレーで、チベット人大虐殺に対する世界の人々の抗議を嫌い、留学生ら3000~5000人(1万人説アリ)を大動員。「聖火護衛」と抗議ムードを薄め歓迎ムードを盛り上げる「サクラ」に仕立てた。国防動員法施行前の08年でこの動員力。

この流言のネタ元は2008年04月26日に行われた北京五輪聖火リレーが長野県長野市で行われた際の事。時事通信では以下の様に紹介されています。

時事通信
聖火リレーのために、日本全国から集まってきた中国人留学生ら。チベットへの弾圧で、聖火リレーの妨害が世界的に広まったことを受け、数千人の在日中国人が沿道で五星紅旗を振った(長野県長野市)(2008年04月26日)

というようにこれ自体は異様な空気感と言えます。なお暴動、というか妨害自体はafpによれば日本人が発端ですし、朝日新聞の記事によれば日本人5人、台湾人1人が関与。

騒然長野聖火リレー 投げ込み・乱入など6人逮捕 2008年4月27日
長野県警はゴール近くなどでも3人を逮捕。リレー中の逮捕者は計6人となった。
 調べによると、同日正午ごろ、走者にトマトを投げたとして愛知県の自営業の男(63)を暴行容疑で、走者に向かって飛び出したとして東京都の会社員の男(38)を威力業務妨害容疑で、それぞれ現行犯逮捕した。また、沿道から火のついていない発煙筒と抗議ビラを投げ込んだ神奈川県の会社員の男(33)を暴行と道交法違反の容疑で逮捕した。6人はいずれも容疑を認めている。

ちなみに公安調査庁によれば「北京五輪聖火リレーをめぐり、右翼団体チベット支援団体が、「北京五輪開催反対」「チベット弾圧反対」などを主張する抗議活動を実施(長野)。」とあります。逮捕された人間がそれに属するまでかは不明ですが、この件を漁る限り、スタート地点の善光寺1日数十件の電話という情報があったり、当時の動きが垣間見えます。またこの件に関しては当時の福田首相が中国人を逮捕するなといった発言も一部で流布されていますが、胡乱すぎるので無視します。
 これら一連の動きは2022年の北京五輪と同様の論理でしょうし、中国における人権問題、チベット問題もあるのは確かです。それを発端とした小競り合いがあったことも事実でしょう*1。これが右派的なスタンスから見れば「暴動」として語られること自体に事実としてどうかはともかく違和感はありません。またこれ自体は百田尚樹と石平の対談本『「カエルの楽園」が地獄と化す日』において「長野県聖火リレー事件」として語られており、一つの懸念を示すための材料になっている事も理解できます。
 とはいえ、これが起こったのは長野五輪ではない

長野五輪で暴動がおこったという誤解

 要は伝言ゲームで、「北京五輪の世界リレーが長野市で逮捕者」がまぜこぜになって「長野五輪で暴動」へとなったわけですが。ツイッターで遡る限り2010年にはもう誤解が見られます。

元から情報が似通っていて伝言ゲーム的になりやすいとはいえ2年経過時点でもう長野五輪でのこととなっています。そしておそらく2010年7月には中国で国防動員法が施行され、その際に以下の様なメールマガジン宮崎正弘氏によって配布されます。

宮崎正弘の国際ニュース・早読み(中国、本日、国防動員法を施行
7月1日より「国防動員法」が中国で施行された。 つまり国家非常事態における国民総動員を法律によって規定し「合法化」したシロモノで、外国に住む中国人も適用を受ける。百万近い在日中国人も、長野五輪紅旗動員事件のように、強制動員が可能となる

拡散というほどではないですが、これがちょっとだけ反応を得ます。この時点で最早デマですし、田母神氏のツイートに至る道が確定したと言えるかもしれません。

2013年には非公式引用スタイルとは言え、以下のツイートが少し拡散。

2013年ごろには既に「長野五輪」という認識のツイートが散見されるようになっており、根付いてきている事が分かります。そして2014年。

まとめ記事である「これは国民の命がかかる選挙である。長野五輪を五星紅旗で制圧した四千人の中国人「留学生」はどこから来たか? 東京ではないか!」が拡散。この出典は「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」の2014年1月10日の西村真悟氏のコラムをまとめた記事です。そしてこの中に以下の様な記述があります。

▼首都東京から「脱戦後」へ!
 二月九日に投票が想定されている東京都知事選挙の枠組みと歴史的意義を述べておきたい。
 結論;自衛隊航空幕僚長であった田母神俊雄の立候補によって、必然的に「戦後を脱却する」か「否」かの選挙になった。

そう、この時期に都知事選があり田母神氏が立候補しています。記事内では「北京オリンピック聖火リレーが行われた長野市」と書かれているもののタイトルに「長野五輪」とも書いており、容易に誤解を生む内容。そしてこの記事は複数人がツイートしているものの、かなり拡散したというわけではないようですが以下の様な反応もあり、

田母神氏の応援層にこういった認識がある程度とはいえあったことが分かります。これらの支持者の声を受けて田母神氏が「長野五輪で暴動」という認識を得たかどうかまでは分かりませんが、かなりこのデマに近づいた時期であることだけは確かです。まあ、氏の事ですからこれがなくても自ら近づいていた可能性も否定できませんけど。
 なおその後にも拡散はさほどされずもツイートは継続的に続き、有名どころのアカウントでは以下の様なものがあり。

というようにネット右派界隈で最早事実化している人間がいることが伺えます。そして、田母神ツイートに至る、と。

 流石に何かを語るときには最低限の事実確認くらいはしよう。  

■お布施用ページ

note.com

*1:逮捕者が出るレベルのものではなかったのでしょうが、それらの人間が逮捕されないから逮捕しては駄目という話が生まれたの可能性もある。なお、youtubeで調べれな右派系の動画がヒットしますが、これはリンクしません。