電脳塵芥

四方山雑記

ショボい給食写真について

 ショボい給食ネタは日本で流行るもので、例えば上記の写真はよく見るショボい給食写真集みたいなもんです。これは9月末ごろからよく見るようになったわけですが*1、ただ、そもそもこれって何時の写真かって話でもあり。ってことで探っていきましょう。

大阪

これは2019年11月の大阪市の給食。出典は大阪市HP、もしくはcookpadで公開されているレシピからです。たしかにこの給食はおかずが正直寂しいですが、現在の大阪市の給食を見る限りハズレの日という感じと思った方が良いかも。


大阪市 献立の写真7月

名古屋

これは2019年12月10日の名古屋市の給食の見本でTwitterで投稿されたものが出典です。小学校がどこかまでは不明ですが、写真の構成や食器などの共通点からおそらくは上社小学校の可能性が高いです。この給食はさかなのフリッターが小さく、それがこの給食のショボさを象徴していると言えます。逆にこのメインのおかず次第で印象は結構変わるもの。


2023年10月11日の給食


2023年10月10日の給食

これらはおそらくネットで「ショボい給食」という文脈で今アップロードしても多分バズらないでしょう。遡ってある程度ショボそうな写真を探すとすれば以下の様な写真も存在しますが、やはり数ある給食の中でハズレと見える写真がピックアップされたと言えるかもしれません*2


2023年9月29日の給食

埼玉

出典は鳩山町立今宿小学校の2022年4月12日の給食。この写真の頃から給食の写真自体はあまりアップロードされなくなります。写真の給食はやはり他と比較してもショボいものの、ほかにもショボい給食自体は見受けられます。ただ鳩山町の小学校での給食は町の公式HPでも提供されており、例えば最近の給食は次のようなものです。


2023年10月5日の給食


2023年9月29日の給食

以上の様に見栄えの良い写真もあるものの、次のように今出回っている写真くらいにショボい写真も変わらずに存在はします。


2023年10月4日の給食

やはりメインのおかずが「個数」の場合、どうしてもショボく見えがち。ちなみに鳩山町は2023年9月から小中学校の給食は無償化するとのことです*3

横浜

2017年の横浜市の給食。この個別写真は探してないので2017年のいつの給食かは不明ですが、そもそもこの給食自体、当時から問題視されてる可能性はあります。

これは横浜市教育委員会が作成した資料であり、2017年12月19日の新横浜新聞「<横浜の小学校給食>食材高騰で献立に見劣り、来年9月から月600円の値上げ案」などで紹介されています。記事の見出しの通り、食材高騰による献立の見劣りを補うための値上げ案の話であり、横浜市教育委員会などが問題視していたことが窺えます。そして2023年現在の給食費はこの時の値上げによって月額4600円となっています。では今の横浜市の給食はというと、例として横浜市荏田南小学校の給食を見ていきます(横浜市の給食区分だとCD)。


2023年10月11日の給食


2023年10月10日の給食


2023年10月6日の給食

11日の親子丼の写真とかは写真映りが良くないなとか思いますが、これらをみると値上げの成果もあった感はあるのかなと。

仙台

 これは2007年ごろに流布した写真で元ネタは5chの「仙台の小学校の給食」というスレッドです*4。小学校は岩切小学校という学校ですが、このスレッドで祭り的に盛り上がった結果、小学校が「給食室だより」という当時給食をアップしていた写真を削除しており*5アーカイブも残っていない為にこれが何月何日の給食の写真かまでは不明です。それとこの給食の写真に対しては新1年生に給食を慣れさせるための「ならし給食」ではないかという話も出ていますが、それに対してはページも削除されているために証拠はありません。ただ下記の写真に関してはおそらくならし給食の可能性は高い、かも。

一年生の給食が始まりました。これは昨日の初めての献立です。
給食のお当番の仕事も喜んでしていました。
みんなおいしそうに食べていました。(ちょっと足りなかったかな?)
来週の献立も楽しみですね。
※URLはすでに死んでいるので割愛

現在の岩切小は上記のトラウマがあるのか毎日の給食の写真をアップしなくなったようですが、例えば2022年の6年生のお楽しみ給食は次のようなもので十分と言えるボリューム。

岩切小ブログ 2月25日(金)

だたこれは特別日だけという可能性はありなので、他を探してみると以下の様な写真群が存在します。


岩切小学校 給食」による検索

これらは児童が実際に食べている給食の写真で結構貴重かもしれません。問題ない給食の日だからアップできる、という邪推も成り立ちますが、それはともかくとして少なくともこれらの写真を見てショボいと思う人は少ないかなと。

徳島

出典は2012年1月28日のニュースポストセブン「徳島市の給食メニューでおかずがウインナー1本だけだった件」の記事が出典で、記事の下記部分を読むとこの給食の写真は実際の給食の写真ではなく再現したものです。故に牛乳にラベルがないわけです。

『変な給食』『もっと変な給食』(ブックマン社)を上梓した栄養士の幕内秀夫氏。日々、全国の学校献立に目を通す幕内氏が再現した「変な給食」のひとつとして、徳島県徳島市の給食を紹介する。

つまりはこの写真は2012年1月21日に発売された『もっと変な給食』の宣伝的な意味合いを含む記事と言えて、その中からウケそうなものを持ってきたと考えられます。ちなみにこの給食は『もっと変な給食』のp.126に掲載されており、それによれば徳島市の2010年9月3日の給食でその内容は「あげぱん、ポールウインナー、コーンスープ、牛乳」。ただ実際にどのような給食が提供されたかは不明です。『もっと変な給食』は給食献立表に書いてある栄養基準が果たして守られているかなどの話などは今でも通用する考え方とは言えますが、やはり表題の通りに煽り的な要素を含むものではあるので、あまりにもこの書籍に依拠するのは危ういと言えます。というより、10年以上前の本ですし、これらの給食の画像は役に立たないです。あくまでも「再現」ですし。で、今の徳島市の給食ですが……。


10月1週目の徳島市の小学校給食から抜粋

人によっては物足りないと見えるかもしれませんが、とはいえこれくらいのものでしょう。9月の給食とか見ればショボ給食として判断される給食がありはしますが、とはいえ今流布している画像とは全く異なります。

 さて、以上見てきたように大阪や埼玉などある程度は妥当な範囲の写真と言えるものもありますが、横浜は過去に問題の写真などの給食が問題視されて給食費が上がった経緯を踏まえる必要がありますし、仙台は2007年ごろと10年以上前の写真で今の写真を見る限りは不当の部類、徳島に至っては10年以上前というのもありますが再現写真であって比較としてあまりにも不適当です。上三列はともかくとして、下三列は扇情目的と捉えられても仕方ないし、もしそれらで「日本の給食」を語るのは不適当と判断できます。そもそもの話、「日本の給食」という括りで語ること自体が無理があります。給食は自治体によって単価が異なり(小学生なら1食200円台前半から後半くらい、中学生ならそこから50円程度単価が上昇。)、自校方式なのか給食センター方式なのかでも違います。たまに自分の子どもの時とは違うという感想もいますが、同時代でも別地域ならば給食が全然異なるなんてザラなのでもしも自分の時代の給食と比較するならば自分の育った地域の学校の給食の写真を見た方が良いでしょう。それと給食写真でバズる写真は大抵「点」ですが給食の問題点を語るならば「線」での理解は必要なのかなと。
 それと少し前にバズったショボ給食投稿でこんなのがありました。


https://twitter.com/nothing_001/status/1706567010015174882
※給食は英田南小学校から(既にHP上からリンクなし)

まあ、ショボく見えます。特にベーコンポテトの少なさとパン1枚という感じなので。ちなみに同じ給食を提供している別の小学校では次のような写真で、ちょっと印象が違ってきます。多分。


出典:成和小学校9月26日の給食

光の加減だったり、ベーコンポテトの量、そしてパンの枚数から印象が異なるものとなるでしょう。ところで今まで複数の給食写真を見てきて思う人はいるかもしれませんが、日本の学校などがアップする給食の写真は写真映えをほぼ意識していないのがほとんどです。例えば米子市は明らかに意識してHPに給食写真をアップしていますが、こいうのは希少な部類。

出典:米子市 毎日の給食から

また給食の写真の中で量が少ないおかずなどの場合などですが、その給食が実際に提供される量かも不明です。給食には「検食」や「保存食」などの決まりがあり、子どもたちが実際に食べるものと大きな齟齬はないでしょうが少なめに映っている可能性も存在します。そもそも給食の配膳次第で量はかなり変わるものも多いですが……。それと学校給食にはカロリー基準が存在します。


出典:日本栄養士会

これはあくまで基準ではあるものの小学校の給食の献立表を見ると700キロカロリーを超えることは少ないです。後述しますが、韓国の給食写真を貼っていてその豪華さをアピールする場合がありますが、カロリー基準的には超えている場合があってそのまま日本に適応できるかというと難しい場合もあるでしょう。

韓国の給食との比較について

 日本ではショボい給食がバズることがありますが、その時に出てくる事があるのが韓国との給食比較です。最近だと以下の様な投稿があったりしました。


https://twitter.com/nyanboss/status/1707157684917768587

まあ、韓国の給食の方がおいしそうですよね。ところで、このアカウントはこの投稿の後に写真のソース的な記事として2015年11月のハフポスト記事の「日本と韓国の給食をのぞいたら、「格差」の問題が見えてきた」というのを貼っています。で、記事にある日本の給食は次の通り。

これは北九州市の尾倉中学校の給食写真で確かにショボいんですが(2023年現在の給食内容は割愛)、この記事にある給食の写真は次のようなもの。

確かにこの韓国の給食内容を見る限り、日本の給食よりボリュームありそうだとは思いはします。ただニャンボスなるアカウントは何故かこの写真を無視して、次の写真を比較に選んでいます。


出典:写真で見る韓国の学校の食事

つまりは恣意的により「格差」を感じる写真を選んで誘導していると言えるわけです。個人的に言わせてもらえば不誠実な人だなとはちょっと思う。この韓国の給食はカレーライス、クロワッサン、2本の手羽元とかなり豪華ですが、カロリー基準などを超えてそうだし*6単価を考えるとどうやってるのかちょっと気になるものがありますが、それは置いといて。この韓国の給食写真の出典ですが上述の「写真で見る韓国の学校の食事」以上はちょっと探れませんでした。韓国の学校HPは日本以上に学校給食をあげていることが多いので、そこからなのかもしくはアプリ経由です。韓国は「I am School」というアプリによって学校給食が公開される仕組みがあるようです。個人的には情報公開という意味でもよい取り組みだと思いますが、ただその反面他学校の給食格差とか見えたりする可能性もあるし、みたいな事を思いつつ。で、こういう仕組みがあるからなのか韓国の給食写真は実際よりも盛られる場合があります

上記は2022年4月28日に報道されたインターネット公開された給食写真と実際に提供された給食が異なるという報道です。また今年の3月にも似たような報道があり、写真と実際に提供される給食が異なることを示しています。

これらは写真と「著しく」異なる故に報道になっている極端な事例なわけであり、通常の学校ではここまでの写真詐欺はないとは思われます。ただし、報道にならないレベルでも写真と実際は違うという事は下記アカウント群の投稿からも窺えます。


https://twitter.com/oyuumul/status/1706877995389206910


https://twitter.com/kogumayu/status/1709773453220630643

ところでなんで韓国では給食の写真がアップされるかというとアップロードすることが決まっているからです。

2016年に上記の「不良給食(부실급식)」写真がアップロードされたことで議論が起こったようで、その後に教育部が学校に対して履行事項として通達していると言います。これを守らなければ給食運営評価で減点が行われるようなので大抵の学校は守ってアップしているという事でしょう*7。韓国のネット圏ではおそらく高校生と思われる生徒が実際に食べている給食の写真がいくつも確認可能でピンからキリまで確認できます。すべてが写真詐欺なわけはありませんが、中には普通に日本でそれが出されたらバズりそうなショボい給食は結構あります。なので韓国の「豪華な給食写真」をそのまま真に受けるのは少々控えた方が良い部分はあるのかなと。
 それとその他で細かいことを言えばカロリー基準はほぼ日本で似たようなものですが日本ではあまり見ない800キロカロリーを超える献立なども時折あって*8、日本よりもやや緩い可能性はあります。あと食文化としてキムチなどの副菜が充実しているのが見て取れることから品数が多くなって見栄えも良くなるのが日本と異なると言えるかもしれません。品数は彩り。それと給食単価ですが2022年の記事だと全国平均で小学校は2561ウォン(約280円)で日本基準で考えると高い部類と言えます。ただ韓国も当然給食単価に地域差があるので給食の地位格差の様なものもあるかもしれません。
 韓国の事例を見ていると「給食」という存在が社会の関心を引く存在である事は窺え、それが質の向上や無償化へと繋がっているのかもしれません。翻って日本ではそこまでの社会問題的な扱いはあまりされないという差はある*9。なんにせよ隣の芝生は青く見えるけど、それは青く見える様に整えてる部分もあるしで正直あんま意味ない気はします。韓国との写真比較。

 最後に日本の話題に戻りますが、今年の1月に公表された令和3年度学校給食実施状況等調査によれば全国の小学校の給食費の月額は4477円(給食単価は約255円)であり、2023年現在の物価高や賃金上昇を考えればこの額からの上昇は避けられないでしょう。その上昇分が受益者の負担になるのか、それとも全体の負担になるのかは不明ですが。昨今は給食無償化を実施する自治体が増えており、教育行財政研究所によれば無償化を実施する自治体は全国1741の自治体のうち260*10赤旗によれば491だとしています*11赤旗は期間限定で実施する自治体も対象としているので数の差異が生まれていると思われますが「給食無償化」を行う自治体は増えてきていると言えます。この流れが続くといいと考えますが、そうなるかは市民側の要望も必要になるんでしょうねと。それが続けば国として無償化という流れになる可能性も無きにしも非ず、かも。
 バズる写真もあくまでも「点」で全体の問題は映してない。でもやんややんやとSNSでは話題の肴にだけはなる。今年、来年もバズショボ給食写真はやまないんだろうな。



■お布施用ページ

note.com

*1:例えば9月26日の投稿https://twitter.com/shingTWIT/status/1706616632834167197

*2:実際、この写真をあげた投稿者が別の日の写真をあげていますが、そこまでショボくはない。

*3:鳩山町 議会だより No.161

*4:わかりやすいの参照先としては痛いニュース仙台の小学校の給食」。及び、裏口で待ってる「仙台市の学校給食について

*5:名残としては2006年10月のアーカイブには「給食だより」が存在する

*6:韓国と日本のカロリー基準はそこまでの大差はありません。参照はソウル特別市教育長保険安全振興院

*7:参考記事 2016.6.30「부실급식 대책 될까…“학교 급식 사진 홈페이지 공개해야”」や2016.6.30「학교 '급식 사진' 홈페이지 공개해야…위반시 학교에 불이익

*8:参照: 온남초등학교の献立

*9:給食会社のホーユー倒産は社会問題ですが、これも倒産だからこそニュースになり、「給食の献立」的なものではニュースにはならない事がほぼほぼ

*10:東京新聞 2023.2.4「<社説>小中学校の給食 無償化、全国で進めたい

*11:赤旗 2023.8.18「給食無償化 自治体491