正直、いい加減にしてほしいって気持ちがあるんだけれど、この【デマ】の経緯についてちゃんと書いたことがなかったので書いておきます。
毎日新聞のカビマスクの画像の出所は厚労省
まずですが、毎日新聞が報じた記事というのは4月21日の「虫混入、カビ付着…全戸配布用の布マスクでも不良品 政府、公表せず」であり、そして画像とは以下のもの。
さて、こちらの画像については後述しますが報じられた直後からその画像の真偽に対して疑問の声が上がりました。キャプションには「関係者提供」とあり(ちなみにこの「関係者提供」初報段階ではついておらず後から付きました)、そしてこの画像の出所が明らかでない事、そして似たようなカビマスクの報告がなかったことからなど、他の理由もあるもののそれによってこのカビマスクの画像は捏造だという声が一部で上がりました。ただ、以前にも「全戸配布用布マスク(アベノマスク)の不良品(カビ等)は毎日新聞のデマというけど、それがデマ」という記事に書きましたが、この画像の出所は厚労省です。
まず4月18日に厚労省は「妊婦に対する布製マスク配布における不良品事例の報告について」というプレスリリースを出している様に4月14日から配布された妊婦用向けマスクに不良品事例が報告されます。そして同じく4月18日、厚労省の合同マスクチーム内部文書で以下の「国から配布している布製マスクに関する問題について」というものが作成され、その文書には以下の様な記述があります。
2.【4月調達分】全戸配布【発送前段階で検知・除去】
〇4月16日時点までに、全配布用にパッキング作業を行った布製マスク200万枚のうち、問題事例が約200件、報告された。■社から納入されたものにおいて糸くずや髪の毛の混入、■社から納入されたのにおいて、カビ、虫の混入である。
というようにパッキング作業時点での布製マスクにおいてカビの混入が確認され、以下の様にその状態が例示されています。
このことからカビマスクについては以下の様にまとめられます。
【カビマスクについての時系列と状況】
・4月16日 この時点までのパッキング作業で問題のマスクが見つかる
・4月18日 厚労省が件のカビマスク画像を用いた資料を作成
・4月21日 毎日新聞が資料を手に入れて記事化する
以上の様な流れです。毎日新聞の記事を受けての反応の中には袋の中に全世帯向け配布マスク用を示すリーフレットがないことへの疑義を呈している方もいましたが、件のマスクが見つかったのはそれらのパッキング作業中であろうでリーフレットがないのは当然です。カビマスクレベルのものならばリーフレットを入れる段階で気づく不良品ですのでここで弾かれ、そして不良品事例として資料が作成されたというのはなんら不思議ではありません。そもそも厚労省に渡る前の検品で弾かれていないといけないレベルのもので、当該納入企業の検品状態がおざなりであった事が伺えます。なお厚労省はこれらの不良品を受けて納入企業に対して検品の強化を要請しています。
それと毎日新聞の件の記事には以下の様な記述があります。
政府の対策班に配られた内部文書によると、18日時点で妊婦向け以外の全戸配布用に包装を始めた200万枚のうちでも、虫や髪の毛、糸くずの混入、カビの付着など200件の異物混入などの問題事例を確認。これについては公表しなかった。
この内部文書が「国から配布している布製マスクに関する問題について」であり、そして現時点においても公表はされていません。しかしこの記述そのものはなんら誤ってもおらず、写真も厚労省の文書内にあるものであり、「捏造」という指摘そのものがデマといえるでしょう。毎日新聞が厚労省内への取材で明るみに出た記事でって、ジャーナリズムとして褒められる事があったとしても、捏造という誹りを受ける謂われだけは絶対にない事例です。
捏造というデマ生まれ、広がるに至った経緯
ここからはツイッターまとめの様なものです。この報道に対して疑義を呈しているなかである程度拡散されているツイートを貼っていきます。
まず毎日新聞の記事がWebに出たのは「2020/4/21 18:57」。当初の反応はその画像のインパクトなどからも単純に驚きというものでした。ただ記事の公開数時間後にちょっとした疑問「一度開け、チラシが無い」ことへの疑念が呈されます。
・4月21日 22:54
ただこの疑問に関しては記事をちゃんと読めてません。記事では「配布されたマスク」でなく「包装を始めた(マスク)」と記述されており、チラシが入っているはずはありません。
・4月21日 22:56
「カビマスクが届いた人」云々という反応も見られますが、これも同様に配送前に判明した事例なので、目視レベルで分かるものは除外されています。
・4月21日 23:07
こっちは根拠不明に「デマだとしたら」とツイート。
・4月22日 2:20
そして4月22日からカビマスク捏造論に対しての論理「的」根拠が述べられていきます。
・4月22日 2:58
またデマとまで入ってはいないものの、なぜこの捏造論に拍車がかかったのかが理解しやすいツイートとしては以下のものがあります。RT数も1000を超えて記事に対しての不信が徐々に増えていっている事が分かります。またこの方は何故か記事のキャプションについて疑義を呈していますが、記事を読めば匿名の読者からの情報提供ではあり得ないことが分かります。記事を読んでいないのか、記事を読んでも理解できないのか、意図的にスルーしているのか分かりませんが、なんにせよ記事に出所が類推できるのにそれを無視して妄想をしている時点であり得ません。
・4月22日 3:58
更なる論理付けがなされていき、1800件を超えるRT。そして、
・4月22日 5:25
4月22日の午前5時の下記ツイートが1.9万RTされており、相当の拡散がなされます。この時点でカビマスク捏造論が根付いたと言えるかもしれません。
・4月22日 7:22
拡散としてはそこまでではありませんが以下の様な分かりやすいまとめツイートも現れ、4月22日にはShare News Japanが「【話題】『問題の“カビマスク”と“アベノマスク”… これ、自作自演の可能性あるべ』」というものでまとめ記事化。現在この記事は削除されていますがアーカイブで確認可能で、これまた現在削除された4月21日時点のツイートが載っています。RT状況などが分からず痛し痒しですが……。
またまとめ記事に関しては4月23日にtogetterに「出処はどこ? 毎日新聞記事のカビ付着マスク写真にフェイクを疑う声多数」というものもありますが、こちらも同じく現在は削除済み。こちらはアーカイブでも見られないのでどの様な内容であったかは不明です。また「【自作自演】アベノマスクのカビ騒動はデマだった!毎日新聞記者は逮捕の可能性も!?」という記事も。少なくともこれらのまとめ記事によって捏造認識がさらに加速したことは想像に難くありません。
さて、ここからは日時の部分は記載なしで進めます。ほぼほぼ完全なツイッターまとめ。
※喜多野土竜氏のツイートツリーは長くなるので割愛
※引用先がないので下は割愛。RT数は100程度
※遠子先輩のツリーは長いので割愛
ここまでが報道のあった4月21日からほぼほぼ一週間のツイートの中で毎日新聞の報道に対して疑念を呈したアカウントの一部です。数十RTレベルの拡散でさえこのレベルの量であり、それよりも少ないつぶやきを含めればかなりの量がツイートされたことは確かであり、また現在削除やアカウントの鍵付きにより不可視化されたツイートを除いてさえこの状況。見ている人間がそれなりに被っている事を鑑みたとしてもまとめ記事と併せて相当数の人間が「カビマスクは毎日新聞のデマ」という認識に触れているであろうことが分かります。またもう一つの特徴としては記事を受けての単純な反応、政権批判ツイートは1,2日で終わりますが、この「毎日新聞によるデマ」は1週間ほど続けられ、またツイートによる種々の論理付けが行われている事です。長さと事実とは異なるものの論理「的」なツイートによって捏造論が一部の人の中で事実化している事が伺えます。
ここからは5月以降のツイートですが、勢いは衰えたもののそれでもまだ時折拡散されている事が分かります。なお、しつこくなるので数十RTレベルのものはなるべく排除しています。
※内部資料って記事に書いてある……
※記事を見れば配達前のマスクってわかるんですけどね
※長くなるので下削除。300RT程度
※長くなるので下削除。120RT程度
※長くなるので下削除。600RT程度
ってな感じで今に至ります。拡散していないものを調べればもっとあるのは確実です。それと見ればわかる様に同じアカウントが複数回つぶやき、嘘を繰り返すことによって事実化しているとさえいえる行動をしています。またカビの付き方みたいな疑問はともかくとして画像の出所は記事を読めば類推可能であり、厚労省が把握している問題だというのが分かります。正直騒いでいる人間のうちどれくらいが本当に記事の内容を理解しているのかさえ不明。またこれによって配達が遅れたとありますが、該当資料にはその影響は不明とありますし、検品の強化による納入の遅れが果たしてどれくらいであったかも不明なので、この件については言及は不可能です。ただしかし、これは毎日新聞の報道前からの厚労省の作業によって明らかになった問題であり報道前に検品強化を要請している時点で仮に遅れたとしても毎日新聞の報道の影響ではなく、企業側の問題です。
もともとこのデマは報道不信、特に朝日、毎日嫌い、左翼嫌いからくるネガティブ感情がおそらく前提にあり、そこに記事の読解力の低い事から端を発する飛躍、事実とは異なっていた論理「的」な肉付け、そして何よりもエコーチェンバーでもたこつぼでもインナーサークルでも何でもいいですが緩いながらも似通った政治傾向、問題意識を持つアカウント群による記事が明るみになった直後の短期的なカウンター的拡散と長期的投稿による問題意識の定着と普及が見受けられます。ただ何度デマを吐こうが、いくら論理的な説明をしようとしようが、根拠不明の断言をしようが、それはどこまでいってもデマだ。嘘だ。不誠実だ。
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