電脳塵芥

四方山雑記

【開示請求】東京2020オリンピックの延長・中止についての内閣府資料

 東京2020オリンピックが閉会して久しいですが、説明するまでもなくこの2020東京オリンピックは2021年に1年延期しています。で、この1年延期の論議の際には2年延期論もされていたという*1。そして2021年の本大会が始まる前には新型コロナの感染拡大によって世間では中止論が盛り上がっていました。ただ外部側では内部で延期と中止についてどのような議論がなされていたのか、少なくとも資料上でもいいのでどうだったのかは不透明なところでしたので開示請求してみました。

開示請求の文面

 開示した時期はオリンピック開会直前の7月19日。そして内容は以下の通り。

東京五輪開催について、新型コロナの影響によって2020年から1年延期となっていたが、報道によれば2年延期があったとされる。また2021年の開催直前になっても中止という世論も存在した。この延期と中止について、東京五輪の延期を「1年」とした事についての意思決定過程が分かる行政文書②中止という選択肢は政府として存在したのか、そして存在したならば東京五輪中止の目安は何であったのかが記載されている文書、以上2つの資料について請求する。

つまりは去年の延期決定時についての資料及び、開催前の中止について資料(あれば)というもの。で、開示されたのは次の通り。

■令和2年3月24日 安倍総理大臣とバッハ国際オリンピック委員会会長との電話会

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 延期についての当時の安倍首相とバッハオリンピック委員会会長との電話会談についての要約資料であり、左上を見るとこれらは記者クラブで張り出された情報であることが伺えます。これが開示された資料上で一番早い時期のものです。内容については以下の様なもの。

1.大会中止は選択肢にない
2.年内(2020)の開催は不可能、延期の意見一致
3.遅くとも2021年夏実施に向けて具体的に検討していく

以上の様にこの電話会談で2021年夏実施が決定しています。ただ延期論自体は3月11日の大会組織委員会の高橋治之理事の2年延期論などがあり、3月上旬から水面下では話し合っていたという話もあります。そう考えると当然ながらこの電話会談資料は水面下で話し合っていた後の内容であり、それらの「水面下」が開示請求で表に出ることはないという事でしょう。なので2年延期論がどれほど政府内で説得力があったのかは謎です。ただ1年延期に関しては以下の産経記事の様に当時の安倍首相の意向と捉えていいでしょう。

新たな日程案として「今秋」「来春」「1年後」「2年後」などさまざまな案があったが、「1年延期」で決着したのは、中止を回避するためワクチン開発の見通しも計算に入れた安倍晋三首相の周到な根回しがあった。
東京五輪「1年延期」にこだわった安倍首相 ワクチン開発の時期も計算

■令和2年3月26日 議事メモ

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 東京都、国、組織委という日本の組織内での議事内容についてのメモ。電話会談などを受けての初めての実務的な話し合いのものと思われます。内容は春開催と夏開催についてのメリット、デメリット比較です。ここでは夏の暑さ、台風についても認識されているのが「スポーツに適した温暖な気候」を思うとあのプレゼンは本当に欺瞞だったなと思わざるを得ません。

■令和2年3月27日 議事メモ

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 IOCを交えての議事メモ。IOC側に春と夏のメリット、デメリットを説明したというもの。IOC側からは夏推し、春推しなどの声もあったが最終的な結論はIOC,東京サイドを尊重。協議の結果、夏のデメリットの暑さ、台風は2020年夏の開催でも想定、対処方法を検討済みであるが、春は十分な対応は不確定。これらを前提にハイレベルな協議にあげるというもの。

■令和2年3月30日 議事メモ

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 バッハ会長、小池都知事、橋本大臣、森会長などが出席した会議の議事メモ。その内容として当時の森会長が以下の様な事を発言。

1.遅くとも2021年夏までの期間で検討ならば1年程度の延期で2021年夏
2.夏休みにかかった方が望ましく、2020の競技日程フォーマットを流用可能。コロナウィルスの状況などを勘案すると1年延期の夏開催が望ましい
3.暑さ、台風は2020年でも想定、対策、備えは万全を期す

それに対してバッハ会長は提案日程に同意、そして小池都知事は「コロナウイルスに打ち克つ、その姿をオリンピックで見せたい」と発言というものです。基本的には26日からの議事メモ内容を特に反論もなく許容したという事でしょう。

 これで開示請求で開示された資料は以上です。いずれも2020年の延期に関する資料のみであり、2021年の本大会中にまで存在した中止論についての行政資料は不開示などの連絡もありませんでしたので、行政資料そのものが存在していないと考えられます。これは例えば安倍-バッハ会談前にあった水面下であった動きが開示資料にないように、中止論についても存在したとしてもあくまで水面下での話のみであったという事でしょう。ということは少なくとも菅政権として「正式」に中止論について話し合ったという可能性はほぼほぼないといえるかもしれません。あれば議事メモくらいは存在するはずですから。