電脳塵芥

四方山雑記

蘇州における日本人親子刺傷事件についての背景としての中国ネット圏でのデマとヘイトスピーチ

 6月24日に中国東部・江蘇省蘇州市でバスに乗っていた日本人親子が襲撃され、そして容疑者から親子を守ろうとした勇気ある行動をした中国人女性の胡友平氏が残念ながら亡くなる事件があった。事件についての詳細はNHK記事などを参照に譲る。そして今回の容疑者の動機などは現時点では報道がなされておらず、そして今後報道されるかも不明だ。ただ気になることとして、中国ネット圏のアカウント、および記事においてこの事件に至るまでには中国現地における日本人へのデマとヘイトスピーチが背景にあるのではないかという指摘があった為に、憶測とはなってしまうがここにそれらを記録しておく。


https://weibo.com/1459358890/OkDHDp4Oj

 投稿者の破破的桥によればひとまずの発端を2022年9月26日としている。おそらくは下記の動画の事だろう。

ただこれ以外の動画として25日付でアップロードされているbilibiliの以下の動画などが目につく。


https://www.bilibili.com/video/BV1XP411J7nB/

主張としては上海の日本人学校に中国人生徒がいないというものだろう。なおこの言説自体は実際にはもう少し遡れて例えば2021年9月2日にtiktokからの引用で似たような主張の動画がアップロードされているし、その後の2022年4月ごろにも類似タイトルの動画がyoutubeにアップされていたりと起点そのものはもう少し遡れるといえるかもしれない。陰謀論的解釈として日本人学校は日本のスパイだ、中国のお金で日本人学校が作られている、中国が乗っ取られる、日本人に子どもが誘拐されたなどがあるようで*1、そういった排外主義を内包した発想が下地にあるのだろう。


https://weibo.com/2697840622/KwiAcr4Sj

ただここで言えるのは中国のネット圏において「日本人学校」という存在が徐々に注目され始めている事がわかる。

2023年のヘイト煽動目的のデマ動画

 そして2023年の旧正月に爆発的に決定的な「デマ動画」が中国で流布する。それが以下の様なものだ。

上海日本人学校において、小学生の子どもがナチス式敬礼で“上海是我们的,浙江是我们的,很快中国也是我们的(上海は我々のものであり、浙江省は我々のものである。もうすぐ中国も我々のものになるだろう。)”と宣言した、というものだ。日本人から見ればこれは運動会における選手宣誓であることは即座に理解できると思うが、どうにも中国ではかなり拡散した模様で、現地のファクトチェック団体によるチェックも行われてデマだと判定するまでに至る。そして、そもそもこの画像自体「上海日本人学校」ではなく埼玉の「西浦和小学校」であることを上記記事は調べている。もともと9月26日時点でweiboにある元となったであろう動画でも日本の小学校と紹介されているし、ヘイト目的の意図的なデマとして作られたものだろう。

つまり何から何までデマなのだが、これが破破的桥が言うところのショートビデオ、ショートドラマに繋がっていくという。それらの動画とは次の様なものだろう*2

ひとつめ。

ふたつめ。

かなりチープで真に受ける人は少ないだろうが、ただこういった画から影響を受ける人物は残念ながらいる。そして6月14日についてまたデマ動画が再び話題になる。weiboにおいて日本人小学校についてののトピックが増えていることを確認したアカウントがあり、そこではアクティブなアカウントは陰謀論的な内容を述べていた可能性が示唆されている。


https://x.com/SydneyDaddy1/status/1805454722863972536

冒頭の記事には中国のネット上における民間人による抗日配信者とでもいう様な存在も紹介されている。実際に蘇州における24日の事件の容疑者の動機は現状では不明であって、これらのデマ、ネット上のヘイトが関係しているかまでは断言はできない。ただし中国のネット圏において「日本人学校」を巡るデマ・ヘイトが渦巻いていたことは確かであるし、こういった「言説」から人が殺傷される可能性がある。また中国で語られているこれらのデマ自体、日本でもよく見る言説の域は出ていないし他人ごとではない。

■お布施用ページ
note.com

*1:https://x.com/whyyoutouzhele/status/1805904964948021608

*2:一応、こちらにフルバージョンの動画をアップロードしている投稿のリンクを貼っておく。ひとつめ。ふたつめ